数年ぶりに感じたアンブシュアのフィット感

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前回の記事まで、わたしがドイツでの学生時代に学んだホルンとアレクサンダー・テクニークの先生たちとのエピソードをお話ししました。

・いったいどうやったら継続的に『上達』できるのか
・危険で陰鬱な洞窟の歩き方を知っている人が懐中電灯を持って現れた
・脳みそが『なるほど』と実感するレッスン

今回からは、ドイツの学校をを卒業して後、日本でアレクサンダー・テクニーク教師養成学校で専門的に学ぶようになった中で出会い、いまでも現在進行形で教えを受けている先生たちとのエピソードをお話ししたいと思います。

【考えさせる授業】

私がアレクサンダー・テクニークの教師になる学びのために選んだ場所は、BodyChanceというスクールです。

ドイツの大学に在学中の段階で、卒業後は日本に戻ってアレクサンダー・テクニークの先生になるための勉強をしようということは決めていましたから、ではどのスクールで勉強しようかと考えていました。

日本にもおよそ5校ほど異なるアレクサンダーテクニーク教師養成スクールがあります。

そこで、大学の夏休みで日本にいる時期を利用していくつか見学に行き、各スクールの代表者に実際にレッスンを受けたり話を聞きに行ったり、感触を得るべく行動していました。

そのうちの一つが、BodyChanceです。

まず実際の授業の見学に行きました。行ってみると意外だったのはとても「頭を使う」授業だったことです。

けっこう動いたり身体を使ったりなんかするのかな、と思っていましたが、実際に行ってみるとその日のテーマは「観察すること」でした。

ちょっと遅れて行ったのですでに授業が始まっていたのですが、みんな円形に椅子に座って、先生を中心に何やら話し込んでいるのです。

その日の授業を教えていたのは、BodyChanceの校長先生でもあるジェレミー・チャンス先生。

彼が参加者に問いかけました。

「観察することに、自分自身の在り方はどんな役割や影響を持っていると思う?グループで話し合ってみよう」

漠然とした、「考えさせる」ことを目的とした問いかけでした。

ある人が

「気分や体調によって、自分が観察できることも変わるかも」

と言ったら、

ジェレミー先生は

「そうだね。それならば、観察する対象は実は自分自身をも含んでこそ、より完全であてになる情報が得られる、と考えられないかな?」

とまた問いかけました。

そんな感じで、哲学的にも感じた「思考する時間」がある授業でした。
私はそういうことを考えるのが好きでしたから、とてもしっくり来ました。

後半は、ジェレミー先生が実際にアレクサンダー・テクニークのレッスンをします。

希望者が、どんなことでもアレクサンダー・テクニークを使ってみたいことがあれば、それに応用するレッスンを受けます。

訓練生は、そうやって実際にレッスンを受け、経験と理解を重ねます。

また、目の前で色々な人との色々なレッスンを目にし続けます。それによりレッスンの仕組みややり方を覚えていくのです。

もちろん、必要に応じて、レッスン中どのようなことを先生は観察し、どういう考えに基づいてどのような選択の下にレッスンをし、何が起きたかなどの解説もあります。

【手首の動きひとつで吹き心地が一変】

後日、ホルンの演奏をジェレミー先生に見てもらうことにしました。

曲はシュトラウスのホルン協奏曲一番第一楽章。

「まずそれ、吹いてみて」と言われました。

ちなみにジェレミー先生は「それ、なんて楽器?」と聞きました。
そう、ジェレミー先生は音楽家では無く楽器の名前も詳しくない。

ですがこのあと、すばらしいレッスンが始まりました。
実際にちょっと吹いてみました。

ひとフレーズ吹いたところで、「ではそこで一旦とまって」と言われました。

「楽器の持って来るそのやり方なんだけど…。」

ジェレミー先生は続けます。

「手首が動けること、知っているかい?」

と言いながら手首にほんの軽く手を触れられ、動きを促されました。

….衝撃でした。その瞬間、自分がホルンを構える時に手首をいつもがっちり固定しっぱなしにしていたことに気付いたのです。

手首が動けるようにしてあげながら、楽器を構えてみると、構え心地が全く変わりました。

実はアンブシュアの動きにマウスピースの角度を随時柔軟に対応させることに手首の可動性が決定的なポイントだったことに気付きました。

手首が動けるようにしておいてあげると、持つのも構えるのも吹くのも、グッとラクになりました。

【アンブシュアのフィット感】

さらに凄かったのは、

アンブシュアがなんだか「フィットした」ような感覚が生まれた

ことです。

すごくしっくり来たのです。数年ぶりの感覚でした。

必要な微妙な角度の調整がまず手首の可動性のおかげで可能になり、その緊張の解放が頭の動きも自由にして、より柔軟で連綿とつながったアンブシュアの動きに変わったのだと思います。

音大に入って、プロになるために必要な技術を身につけるべく、色々考えながら数年間練習と努力を重ねていました。そのなかで、奏法が「人為的」「人工的」なものになっていたのでしょう。ジェレミー先生との初ホルン&アレクサンダーレッスンは、「自然に吹く事ができるんだ」という強い実感を与えてくれました。

【学ぶということ自体がテーマとなるレッスン】

それから4年間、BodyChanceの教師養成コースを卒業するまで現在進行形でジェレミー先生のレッスンを頻繁に受けました。

ホルンの演奏以外にも、もっと広汎なことをこちらからも質問し、教えてもらっていますが、いつも

・自分のやっていることに気が付けば、
・それをやめることができ、
・やめる為に必要な「新しいやり方」の理解が得られ、
・癖が戻って来てもその都度「やめて、新しいやり方に方向付ける」

というプロセスを一緒に辿ってくれました。

気づくこと、学ぶこと、成長すること自体がレッスンのメインテーマになっているんだな、といつも感じさせられます。

それはジェレミー先生が「学び成長する」ことにかけては抜群の経験を持っているからだと思います。

ちょっと尋常でない好奇心と知識欲を持っている人なので、身に付く過程や理解する過程を、学びの中で生じる混乱までも含めて、クリアに見通している先生です。

その姿勢と教え方には、日々レッスン活動をしているわたしにとっていまでも大切な模範となっています。

Basil Kritzer

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