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【身体への指令】
あなたがどんな言葉、ニュアンス、意味で自分の身体のことを考えているか。これはすなわち身体への指令になります。
演奏の具体的な例で見ていきましょう。演奏をするとき、きっと次のようなことを一つは考えていると思います。
ピアノ演奏
・背スジを伸ばそう
・骨盤を立てよう
・肘を張ろう
・指の角度を保とう
歌唱
・おなかに息を入れよう
・頭に声を響かせよう
・胸を張ろう
・しっかり重心を落とそう
管楽器演奏
・アパチュアをコンパクトに保とう
・顎を張ろう
・マウスパイプをまっすぐ保とう
・アンブシュアを前方向に保とう
これはいずれもれっきとした『指令』です。誰でも細かくこうして身体や動作のための『指令』を出しています。
さてここで『指令』の出し方について大事なコツが三つあります。
【『指令』の出し方、三つのポイント】
1:パーツより先に、頭と身体全体に対して役立つ『指令』を送る
2:『指令』は、身体の現実にマッチしている必要がある
3:『指令』は、肯定文である必要がある
ひとつひとつ見ていきましょう。
【パーツより先に、頭と身体全体に対して役立つ『指令』を送る】
「頭を動けるようにしてあげる」ということが全身をうまくいかせてくれます(詳しくはこちら)。
アレクサンダーテクニークのレッスンを体験された方は実感された方も多いでしょうが、頭が動けるようになって、その結果身体全体が動きやすくなるということが起きるだけで、苦手だったはずのテクニックがあっさりと上手に演奏できたり、痛かったはずの肩こりが一瞬でラクになっていたりということが頻繁に起ります。
ですので、息のことやフィンガリングのことなど、音楽演奏に特有の専門技術的なパーツのことを考える一歩前にちょっとでもいいから「頭を動けるようにしてあげて身体全体がそれによって動けるよう」とにしてあげてください。
【『指令』は、身体の現実にマッチしている必要がある】
身体のことをちょっとでも考えるとき、考えている中身が実際の身体となるべく一致している方がうまくいきます。
私たちの身体は動ける場所や範囲、方向などが構造的に決まっています。それと矛盾することをやろうとすると、身体はその『指令』を理解できず緊張しますし、もちろん痛みやケガにつながるときもあります。
ピアノ演奏や弦楽器演奏の例:
手首は回転できません。
でも、多くのひとが手首を回そうとします。それで手首だけでなく指や肩も痛めてしまっていることがあります。
手の回転は、実は肘のところで起きています。
歌や管楽器の例:
息はお腹に入りません。
肺に入ります。肺は胴体のかなり上のほうにあります。肋骨の中です。
お腹に入れようするあまり、肋骨を動かさず、腰をグッと曲げて窮屈な呼吸になっていることが多いです。
【『指令』は、肯定文で】
身体の動きの『指令』は実際の運動や演奏においては、肯定文でないと通じにくいです。
人間には当然、否定形で考えることも肯定形で考えることもできます。抽象的な思考もできます。しかし否定文というのは言語的には理解される考え方ではあっても、運動を行うにあたっては否定形を理解しにくく、否定文に含まれる「NO」の意味ばかり聞いてしまって、動きを固めてしまいやすいのです。
運動は実は視覚イメージを利用すると便利です。例えばコップをテーブルに置く時、その『指令』は「コップをテーブルに動かす」という映像イメージで行われている面があります。
とすると、否定文の運動指令は、とてもややこしいことになってしまいます。
例えば、「コップをテーブルに置かない」と考えてみましょう。考えれば考えるほど、実はまず最初にコップをテーブルに置くイメージが浮かび上がっているのに気付きますか?
そして、ちょっと無理してコップがそっちに行かないようにしていることに気付きますか?考えるだけでもある種の緊張があるのが分かりますか?
「Aしない」
という考えを持つと、まず最初に必然的に「Aする」ことを思い浮かべるのです。「Aする」という指令をまず身体に送ってから、なんとしてでもそれが起きないようにするという漠然としたでも強い指令が出ます。
結局わたしたちの心身はそれをうまく理解出来ず、身体は混乱し緊張します。
「Aしないように」と考えると、「Aする」動き+「Aができないようにする」動きを同時発生させてしまい、身体システムに矛盾と葛藤を運でしまうのです。
ということは、「Aをしないように」したいのなら、Aとは別に「Bをしよう」という指令にうまく置き換えてあげる必要があるのです。
このうまく置き換える指令をその人やその時々にピッタリ合ったものを探し当てるのがアレクサンダーテクニークを教える先生たちのスキルであり、腕の見せ所です。
そしてレッスンを何度か受けるにつれて、自分流でうまい置き換えの肯定形の指令を見出すのもとても楽しく実りある作業になってくるでしょう。
音楽演奏時の具体例で言えば、
「このフレーズが急いでしまわないようにしよう」
と考えるのが普通です。
しかしこれでは身体はまず先に「フレーズが急いでしまうような」動きをしようとします。望んでいることと逆効果なのです。
ではどう置き換えましょうか?
「ここのフレーズのこの辺りはこれくらいのスピードと音の感じで、次のこの辺りはこういう感じで演奏しよう」
とやりたいことを詳しく具体的に考えるとそれが身体への指令になり、身体はその通りに動きやすくなります。
【まとめ】
1:パーツより先に、頭と身体全体に対して役立つ『指令』を送る
2:『指令』は、身体の現実にマッチしている必要がある
3:『指令』は、肯定文である必要がある
ぜひ、試してみて下さい。
Basil Kritzer
P.S. レッスン力を鍛えるレッスンはこちら
家庭での躾や学校教育、様々な分野での指導など
「○○しちゃいけません」
「××するな!」
というフレーズが今でもよく聞かれます。
それが逆効果であったり、
さらに物事を悪化させたりしますよね。
今回のブログでアレクサンダーテクニークが
色々なジャンル、様々な領域で活用できると
改めて思いました。
そして私がこれから進むべき道に
また確信をもつことができました。
ありがとうございます。
川島大和さん
こんにちは。コメントありがとうございます。
「?するな」という躾や教育は、「考えさせる」という繊細で文化的な目的を持っていれば機能しますが(言語野の働きを促します)、すぐに何か分からせたいときや行動を変えさせたいときに強く否定形を言っていては、緊張させるだけで何にもなりません (>_<) 4月からお会い出来ますこと、楽しみにしております!
どうも。とてもわかりやすくまとめられているね。しばらく前のこの投稿なんだけど、下記の下りが示されている参照文献とか論文なのかなを教えてもらえるとうれしいんだけどね。”運動野は否定形を理解できない”という部分が特に知りたいところなんだよね。
“人間には当然、否定形で考えることも肯定形で考えることもできます。抽象的な思考もできます。しかし否定文というのは脳の言語野では理解される考え方ではあっても、運動野は否定形を理解できないのです。
身体の動きは、脳の運動野によって司られていますが、運動の指令は実は視覚イメージとの結びつきが強いことが分かっています。例えばコップをテーブルに置く時、その『指令』は「コップをテーブルに動かす」という映像イメージで行われているようなのです。”
青木紀和さん
こんにちは。
これはキャシー先生もジェレミー先生もよく言っていることで、「なるほど!」と思っておりましたが、科学的にはどういう研究があるんでしょうね。
二人とも脳科学で分かって来ていること、と言っていたので、参照できる論文などを尋ねてみます!
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