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2013年ごろから、わたしは
・音楽
・技術
・練習/訓練
・演奏/本番
という、音楽活動の根本的でありながら葛藤したり対立したりしがちな側面が、ひとつの地平のうえで統一的・一体的なものになるような考え方・取り組み方を探求しています。
(その探求から書いた記事については、代表的なものをいくつか文末に例示しておきます)
その探求は、わたしのアレクサンダーテクニークの恩師であるキャシー・マデン先生(ワンシントン州立大演劇学部首席教員)に刺激されて始まったもので、いまも継続的に相談したりレッスンを受けたりしています。
そんなキャシー先生との最近のレッスンから見えてきたのが、
『その技術を使うのにマッチしたストーリーを考え、そのストーリーを語ることを通じて技術に取り組む』
というやり方です。
この着眼点には、音楽から出発しても技術から出発しても、やることが同じになるという点でとても可能性を感じています。
わたしが最近このやり方でひとつ上達を実感できた場面を具体例としてお話しします。
このときは、アンブシュア動作(✳︎詳しくはこちらをご覧ください✳︎)という技術を特に確認し訓練したかったのですが、それに適した技術的設定として、『3オクターブにまたがるスラーの音階』を演奏することにしました。
その3オクターブの間、マウスピースの位置が上下に移動するのですが、その移動は歯と顎から成る骨格的な構造の上で行われます。わたしの骨格的な構造の個人的形状の関係で、3オクターブの中で2度ほど、マウスピースが当たる骨格的構造の面の角度が相対的に大きく変わるところがあります。
この、
『骨格に沿わせて上手にマウスピースとアンブシュアを動かす』
という技術的チャレンジが、3オクターブにわたる音階をスラーで一息でスムーズに演奏するという結果が得られるように実践するうえでキーポイントになるわけです。
さて、
・自分の骨格がどうなっていて
・いつ角度が変わって
・いかにしてマウスピースとアンブシュアを動かすか
etc
といったことは、「技術的」と分類されるところです。こういったことに着目し実際取り組むわけですから、非常に技術的な練習と言えるでしょう。
そういう作業にこそ、音楽(ストーリー)を介在させるというのがミソです。
どうするか。
わたしの場合で言えば、
・ 選択した調で、
・ 3オクターブにわたるスラーで、
・ 先述の2度の角度変化を確かに実行する
という「作業」に見合うストーリーを考えるのです。
わたしは、
『あるマンガのキャラクターが、地球の上をひた走りに走って一周する!』
というシーンを、この3オクターブ音階で表現することにしました。
そして、2度の技術的難関と言える角度変化のところは、
『そのキャラクターが、特別高い山を「おっとっとっ!」と乗り越える』
というディテールであることにしました。自分の現時点での技術的課題や内心感じている困難、苦手意識にも音楽的/ストーリー的な意味を与えたのです。
こうすると、困難や苦手意識を無視する必要も、抑圧する必要も、ダイレクトにポジティブ思考をぶつけて対応する必要も無くなることに気づいたのです。
そうやって
・技術的なポイント
・演奏のための全体的な音楽的メッセージ・ストーリー
・ピンポイントなディテールにも音楽的メッセージ・ストーリー
をすべて用意しして演奏してみると、
いままでになく3オクターブがスムーズに・確実につながり、最高音域がしっかり鳴りました。
しかも、苦手意識すらも音楽的楽しさの一部になりました!技術的課題や苦手意識から来る怖さや緊張感とどう向き合っていけばいいのか、ひとつ大きな手ごたえが得られて、それからこの記事を書いている今までの数日間、練習の心理的負担に対して音楽的欲求や好奇心がより大きな支えになるのを感じています。
【音楽から出発しても技術から出発しても互いにつながる】
①取り組みたい技術があれば
②それにふさわしい技術的課題を設定し、
③その技術を実行するのにふさわしい音楽的ストーリーを用意する
このプロセスは、音楽的表現への欲求や関心から始まっても同じものになります。
①表現したいことがあれば
②それにふさわしい音楽的ストーリーを用意し
③そのストーリーを演奏するのに必要な技術を割り出し
④そしてその技術に取り組むののふさわしい技術的課題を設定する
音楽に取り組むのでも、技術に取り組むのでも、双方に互いが含まれ意識的に設定・確認されるわけです。
こういう取り組み方に気付けて、わたしはまた一歩、「音楽と技術の葛藤/対立」が解消されたのを感じています。
なにより、どちらから出発しても等しくクリエイティブで楽しく効果的なのが気に入っています。
これを読んでいるあなたもぜひ、ご自身なりに取り入れてやってみてくださいね♪
Basil Kritzer
参考記事: