本番で力を出せるような練習のやり方

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これからお話することは

緊張の乗り越え方
本番で実力を出す方法
練習に比例して上達する方法

共通するものです。

ぜひじっくりお読みいただいて、書いてあることを実際に試してみてください。

そして、それがあなたにとってどんなふうに役立ったか、あるいは新たな疑問を生んだか、ぜひ教えてください。

【練習のすべてが音楽に】

・音楽の演奏が上手になるための練習方法
・本番で実力を出すための練習方法
・本番でのあがり症や緊張を乗り越えるための練習方法

は、実は基本的にすべて同じです。

それらはいずれも、

『音楽を奏でることと練習することがイコールになっていれば』
(そこが矛盾なくつながっていれば)

実現できます。

わたしたちの普段の練習のやり方が音楽の性質、本質、構造に沿って行われていれば、音楽を演奏することが上手くなっていくし、本番で実力を出せるし、あがり症や緊張も乗り越えられるはずなのです。

【音楽の中には問題も怖さもない】

音楽そのものには、

・わたしたちを緊張させる要素も、
・怖い要素も、
・不健康な要素も、
・不幸せな要素もない

はずだということ。これが出発点としてとっても大切です。

音楽は100%、わたしたちを幸せにしてくれます。
わたしは、そう信じています。

わたしの大切な師匠のひとりは、

「芸術は生きることの恐怖を受け止め、発散し、幸福に気付かせ、生命の神秘を思い出させるものだ」

と言っていました。

ですから、音楽を演奏していて緊張する、あがってしまってダメになってしまう、アンハッピーになってしまうのは、音楽の中に問題があるのではなく、

『他者と自分との関係』か『自分と自分の関係』またはその両方において起きている問題からの影響である

と、わたしは考えています。

音楽が原因なのでも音楽との関係の問題でもなく、自分と他人もしくは自分と自分との間にあるのだと思うのです。

ということは、本当の意味で『音楽の練習』をしていれば、

下手になったり、問題を抱えたりするはずがないし、必ず上達し続けられる

と思うのです。

では、『音楽の練習』とはなんなのでしょうか?

そして、音楽の練習と技術的練習、基礎練習はどのような関係性になっているのでしょうか?

そのあたりのことを考えていきましょう。

【音楽の4要素】

わたしは、音楽が4つの要素から成り立っているとか考えています。

① 演奏者
② 作品
③ 聴衆
④ 演奏空間

です。

この4つに優劣や優先順位はありません。
どれかひとつを欠いても音楽は成立しません。
完全に対等です。

この順番で書いてあるのは、

「ぞんざいに扱うとその影響が即座かつ深刻に出る順」 であり、同時に「犠牲にしがちな順番」でもあるからです。

この4つの要素を無視してしまう考え方(それはつまり、練習の効果が無かったり、逆に調子が悪くなってしまうようなやり方)の例はたとえばこんなもの。

演奏者を犠牲にする考え方:
「お前の意見や感じ方や表現なんて、この偉大なる作曲家のこの最高の作品を正しく演奏することに比べたら何の意味もない!」

作品を犠牲にする考え方:
「音楽性なんて100年早い、お前みたいな下手くそなんかは演奏する価値がないんだ」

聴衆を犠牲にする考え方:
「お客さんなんかカボチャと思え」

演奏空間を犠牲にする考え方:
「ホールを意識するな、いつも(合奏)と同じようなつもりで演奏しろ」

こんなことを、生徒さんやあるいは自分自身に対して言っていませんか?

いずれも、音楽が成り立つうえで欠かせない4つの要素のうちのどれかを犠牲にした考え方です。

こういう考え方に基づいた練習は、それが音楽の成り立ちを無視したものである以上、上達につながらなかったり、あるいは本番で良い演奏ができない状態を生み出すものになるのではないかと思います。

これら『音楽の4要素を対等に調和させ、調和させることですべてを高め幸せに演奏すること』がわたしがこれから提案する練習のやり方の基本的な価値観になっています。重要な観点になります。

【4要素その1:演奏者】

音楽は、演奏者なくしては存在できません。
だから、演奏者はとても大切です。

・作曲家は演奏者を下に見てはいけません。

・聴衆は演奏者を居心地悪くさせてはいけません。

・共演者は演奏者を緊張させてはいけません。

・演奏者は自分自身を雑に扱ったり攻撃したりしてはいけません。

よりよい音楽のためには、演奏者がよりよい状態で、より自分自身の力を発揮できる必要があります。

アレクサンダー・テクニーク:

演奏者がよりよく在れることにとても役立つことのひとつが、アレクサンダー・テクニークです。

アレクサンダー・テクニークは、

演奏者が(自分自身が)その実力を100%発揮できるような状態に向かっているか、実力を阻害するような方向に向かっているかを自分自身で確認することができ、演奏者が自分自身の実力を100%発揮できるような方向へと持って行くことができる方法で

ポイントは、演奏をしようとしているそのとき、体の一番上に乗っている頭がどうなっていて、それに応じて身体全体がどんな状態になっているかにあります。

頭が過度に固定され、背骨の方に押し付けたり引き込んだりいると、身体全体が連鎖的に硬くなりうまく機能できなくなります。

これが、実力が阻害されていく状態。

反対に、頭を動けるようにしてあげて、そうすることで身体全体がついてこれるようになっているときは実力がより100%に近く発揮しやすい状態になっています。

アレクサンダー・テクニークは、頭と身体全体がどうなっているかを把握してそれをよりうまく機能する状態へと持って行くことができる方法なのです。

以下の2つの記事をお読み頂いて、ひとまずアレクサンダー・テクニークを使い始めてください。

そうすれば、これがどれくらい、演奏者が力を発揮できるかどうかに関して大事な鍵を握っているかを段々実感して頂けると思います。

記事1:ひとりでやってみるアレクサンダーテクニーク
記事2:合奏にアレクサンダー・テクニークを取り入れる

このアレクサンダー・テクニークを練習のいちばんの基礎に取り入れていく方法は、後述します。

【4要素その2:作品】

音楽には、必ず

ストーリー
風景・印象
メッセージ
意味

のうちの少なくともひとつがあります。

ですから、たとえ非常に技術的な取り組みをしているとしても、とてもシンプルなロングトーンの1音だけでも、あるいはウォーミングアップの段階だとしても、奏でる音には必ずストーリー、風景、印象、メッセ、意味のどれかひとつは持たせる必要があります。

それが無い練習は、いざ音楽を演奏するというときに役に立たなかったり、せっかく技術的にできることが増えたはずなのに曲や本番で全く活かせなかったりします。

もしまったく創造性や音楽性のない、まったくもっと機械的で非人間的な練習やれば、それは演奏と表現と上達において無価値もしくは有害なのです。

ウォーミングアップで出す音も、その音を奏でる音楽的な目的を持つようにしましょう。

ウォーミングアップで奏でる音を使って、

何かを語ってみましょう….
▪ 好きな映画の名シーンのBGMのつもりで
▪ 大切なひとに感謝を述べるつもりで
▪ なにかセリフを言うようなつもりで

語るストーリー、伝えるメッセージはなんでも構いません。毎日変えてもいいし、しばらくひとつのことを語る練習をしてもいいし、音を出すたびにいちいち変えても構いません。

何かを生み出してみましょう….
▪ 宇宙を思わせるような雰囲気を
▪ フランスの風景を連想させるような音を
▪ 人生に意味があると思えるような空気を

音を使って描きましょう、生み出しましょう、創り出しましょう。これも中身はなんでもいいし、どのように変えていっても続けていってもかまいません。

音楽の意味、メッセージ、意義はそのいちばんの根底において必ず

▪ 生きることを肯定し
▪ 平和を望み
▪ 愛を伝える

そんな人間に普遍的で肯定的なものであるとわたしは確信しています。

だから、すべての練習を(ウォーミングアップも含めて)必ずそこの音楽を介在させることは、根本的に愛と優しさに裏打ちされていることになるのです

そうすると、練習は必ずうまくいきます。うまくいかないわけないはいかないのです。それが音楽の力です。

【4要素その3:聴衆】

練習のときに陥りがちな罠が、聴衆を切り離すような、あるいは聴衆の存在を忘れているか無視しているかのような練習の仕方です。

音楽の練習をするとき、練習中に奏でている音楽を聴いている聴衆がどうしてもその環境にはいないケースが多いでしょう。

しかし、本番では必ず聴衆がいます。

なのに、聴衆がいないという環境に適応してしまい、聴衆がいないということが前提の練習や音楽作りばかりやってしまいます。

その結果、本番になると聴衆の存在に対してパニックになったり聴衆を恐れたり、あるいは聴衆に対して敵対的になって演奏をやろうとしてしまうのです。

練習中、聴衆を用意しましょう。

その聴衆は、実際に存在していることがベストですが、イメージを活用することもできます。

練習を始める時点で、もっと言えば楽器を構えるその動き、姿、ウォーミングアップの時点で、それら全てを共有する聴衆がいる前提で練習をしましょう。

イメージの力を使って、あなたにとって最高の聴衆の前で練習することも、毎日異なる聴衆の前で練習することもできます。

あなたはきょう、どんな聴衆をあなたの練習に迎え入れてみたいですか?

▪ 数人の家族
▪ 地元の後輩達が数百人
▪ あなたの熱狂的なファンが数千人
▪ 音楽界のリーダーたちばかり数十人
etc….

イメージの力を使えば、いろんなタイプの聴衆を想定することができ、また聴衆のタイプにより気持ちも演奏の方向性も変わることを普段から実感することができます。

これが、本番で実際に聴衆の前に立ったときにとても支えになるのです。

なぜなら、聴衆がいることも、聴衆の前に立つことも、聴衆と向かい合うと自分の心や体が高まることもすべて想定内であり、練習してあることだからです。

✳︎重要事項その1✳︎ 自分が聴衆になってはいけない:

ひとりで練習するときも聴衆を用意すること。

これをやらないでいると、困ったことがもうひとつ起きます。

それは、演奏者である自分自身が、自分自身の聴衆の役割を担ってしまうことです。

演奏者は演奏中、100%演奏者でなければいけません。演奏が仕事だからです。

なのに途中で聴衆としての作業も同時にやり始めてしまうと、演奏はやりづらくなり、あなたの力は阻害されてしまいます。

自分自身の演奏を聴衆目線で聴くのは、録音をしておいて、演奏をまったくやっていないときに完全に別の作業として行いましょう。

演奏中(=練習中)は、100%演奏だけをやりましょう。

演奏しながら聴衆にもなってしまうと、あまり聴き取れなかったり、あるいは過度に批判的になってしまったりして、質の良い聴衆にはなりえません。

これは、自分の音に耳を澄ます、自分の音をよく聴くということ矛盾しません。

自分の音に耳を澄ましよく聴いているのはそれは演奏者として演奏の技術の一部としての「聴く」だからです。

決して聴衆になっているわけではないのです。

イメージの力を使って聴衆を用意すると、ひとりで練習しているときに陥る「演奏者と聴衆の同時負担」という罠を回避することができます。それも練習が上達と実力発揮につながるポイントのひとつです。

✳︎重要事項その2✳︎ 共演者は聴衆ではない:

聴衆が実際にいない環境や、聴衆を意識していない状況で練習することが続くと陥りがちなもうひとつの罠が、共演者を聴衆として意識してしまうことです。

共演者は、演奏者です。一緒に能動的に音楽を生み出す存在です。

共演者は聴衆の役割を持っていません。

共演者を聴衆にしてしまうと、共演者を恐れたり、無駄に気を遣ってしまってうまくいかなくなったり、敵対的になってしまったりします。

あなた自身も、共演者に対して聴衆の役割を演奏中にやらないよう気を付けましょう。それはあなた自身の演奏者としての力も、共演者の演奏者としての力も、聴衆の聴衆としての力も全部邪魔してしまうのです。

共演者は一緒に演奏する100%演奏者なのです。

✳︎重要事項その3✳︎ 聴衆を無視してはいけない:

ときどき、聴衆を無視し拒絶する技術に長けたひとがいます。

演奏中、聴衆をカボチャだと思うことができたり、想像上の箱を作ってその中で演奏しているつもりになれたりするのです。

すると、緊張しないので、ミスが減らせます。

でも、これは非常に失礼なことであり、またどれだけミスはなくても音楽的には大変に残念な演奏です。

まかりまちがっても、聴衆とカボチャと思わないように!また、絶対そのような指導はしないでください。音楽を不幸なものにしてしまっています。

✳︎重要事項その4✳︎聴衆を歓迎する

演奏者は、聴衆の存在を歓迎する必要があります。聴衆は音楽の一部だからです。

サッカーの試合で、熱烈なサポーターを持つ弱小チームが、ホームゲームでは格上のチームをしばしば倒す、というようなことがあります。

サポーター(観衆)は本当に選手に力を与え、実力以上の奇跡を引き起こすのです。

聴衆は、演奏者のサポーターです。聴衆は、音楽の成立に不可欠かつよりよい音楽を生み出す力の源でもあります。

だから実は、会場の雰囲気を悪くしたり、演奏者に無用なプレッシャーをかけたり、演奏者の失敗を願うような聴衆は、聴衆失格です。聴衆も音楽の一部であり、音楽に責任があり、その責任を果たしていないからです。

聴衆の存在を歓迎できるようになりましょう。そのためには、日々の練習で奏でるすべての音が、本物の、あるいはイメージ上の聴衆の存在の中であるようにしましょう。

もし聴衆との関係で何か潜在的に問題を抱えていれば(目線が怖い、対人恐怖、ナメられたくない etc…)、それを練習の段階で早期発見することができます。

それは自分と自分の関係、あるいは他者と自分の関係において抱えている問題であり、音楽の中の問題ではありません。

音楽の練習は心配せず続けながら、自分と自分、あるいは他者と自分の関係において抱えている問題をちゃんとケアしていきましょう。

じっくり向き合うこと、心のケアに関する書籍などを読んで書いてあることを根気よく実践すること、心理カウンセリングやセラピーを受けることなど役立ちそうなことはどんどんやっていきましょう。

【4要素その4:演奏空間】

演奏者空間に関しては、陥りがちな罠も、あるべき練習法も基本は同じです。

いつの間にか「ふだん」の環境を前提にすべてを考えてしまい、本番の状況を怖がったりパニックになったり拒絶してしまっていたりするのです。

イメージの力をフル活用しましょう。

あなたはきょう、どんな演奏空間で音を奏でたいですか?

▪ いまいるこの場所
▪ 本番の会場
▪ いままで一番素敵に感じた演奏会場
▪ 憧れのウィーン楽友協会ホール
▪ 武道館
etc….

いま実際にいる空間を大切にしながら、その空間に最適な音量や音色を探ることを意識しなが練習するのもとてもよいことです。

また、イメージ上で本番の会場を意識しておくと、実際にステージに立ったとき、その時点ですでにどこか勝手知ったるところがあり、余裕が生まれます。

いままで演奏したことがない素敵な空間をイメージすると、やる気が湧いてきたり、楽しくなったり、新たな音楽的発想や音色イメージが出てきたりします。

【練習のやり方】

音を奏でるたびに毎回この作業をやるのです。

ロングトーン1音1音に対して。
ウォーミングアップの最初の音も。
すべての音階ごとに。
曲の1フレーズ毎に。
1曲通す前にも

ぜんぶつなげるとこうなります。

頭を動けるようにしてあげて、そうすることで身体全体がついてこれるようにしてあげながら

自分に問いかける

きょう、いま、ここで
誰のために、
どんな場所で、
どんなメッセージを、
どんなストーリーを、
どんな風景を
どんな意味を
どんな音で
奏でたいだろうか?

その答えであるイメージ、発想、インスピレーションに基づいて

頭を動けるようにしてあげて、そうすることで身体全体がついてこれるようにしてあげながら

立ち、
息をして、
楽器を構えて
音を奏でる

. . . .

これの繰り返しです。そうすれば、必ず上達します。
必ず幸せに本番で演奏できます。

上達することは、人間に備わったメカニズムだからです。
音楽は、人間にとって幸せなものでしかないからです。

【助けを得ること厭わないで】

こうやって練習を重ね、演奏をしていくなかで、音楽の師がいることが大きな助けになるかもしれません。

音楽の楽しさ、素晴らしさ、深さをもっと感じさせてくれるあなたの音楽の師に助けてもらうことを躊躇しないでください。

自己否定、自己嫌悪、対人恐怖、過去の悪い経験などからくる問題に向き合うことを避けないでください。

そういった分野や心のケアに関する書籍を読み実践しましょう。カウンセラー、セラピストの助けを得ることを厭わないでください。

身体の使い方や、楽器の構造などに起因する身体的問題をクリアするためのサポートもどんどん受けましょう。

医療、マッサージ、整体、フィジカルトレーニング、アレクサンダー・テクニークのレッスン、様々なボディワーク、ヨガなど様々なものがあなたにとって助けになりえます。

必要に応じてそういった助けを得ることは、あなたの普段の練習をもっとシンプルに音楽のための音楽的で楽しいプロセスであらせ続けることを可能にします。

なにもかも自分で抱え込んで、複雑化させても、あまり意味はありません。

すっきりと幸せな音楽生活を続けるために、どんどん助けてもらい、自分自身に投資しましょう。

Basil Kritzer

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本番で力を出せるような練習のやり方」への5件のフィードバック

  1. ピンバック: 練習では起きない本番中のミスについて考える | バジル・クリッツァーのブログ

  2. クラシックの場合、『作曲家の意図を尊重することが先決。演奏者は作曲家の意図に合わせ、演奏者自身の考えは邪道でしかない』との考え方が主流で、演奏者がいくら窮屈な演奏になっても、あまり配慮されません。
    こういうのは、どのように解決できるでしょうか?

    • その考え方が芸術の為、芸術業界の為、人々の為になっているかのアセスメントがなされ、為になっていないから変える必要があると考える人が増える以外に今のところ思い浮かびません。

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