「自分で自分を教える」その3 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の論文です。
原文→http://eastop.net/?p=485

私が生徒とと繊細な問題を調べていくとき、わたしは生徒に、「解決策を見つけるために、自ら分析し、分析に続いて実験をする」というプロセスにできる限り関わってもらうようにしている。まず最初のステップは、問題を「見て」「聞いて」「感じる」もらうことだ。これは意外と難しいことがある。つまり、「見る」「聞く」「感じる」そのやり方に、根強い習慣があるときもあり、自己欺瞞にすらなっていることもある。録音で自分の声を聴いたとき、びっくりしなかっただろうか?歩く、話す、あるいは楽器を演奏するといった複雑な行為を実行しながら自分で観察していることは、後で客観的に振り返って観察することは、かなり異なることがあるのだ。それなら、自身の演奏のビデオや録音を使うことが解決策になりそうなものだが、時折役に立つことはあっても、普通は頼ることはできない。貴重な練習時間を割くことになるだけでなく、ホルン演奏において最も重要なスキルのひとつである、リアルタイムで正確な自己観察をするという技術を育てないからだ。当然、きめこまかく設定された自分自身の感覚を用いて、ホルンを演奏している最中に、音を精確に聴き取ることを学んだほうが良いに決まっている。この技術の会得は、苦痛を伴うプロセスであることもある。真実はときに痛い思いをさせるからだ。

生徒が、自分がどのように演奏しているかに関して正確な印象を得るには、聴覚でも視覚でも両方でできるだけ精確なフィードバックを必要とする。視覚的情報という側面は、このコンテクストではかなり重要である。なぜなら、あらゆる音楽演奏家にとって、姿勢の悪い習慣が気付かれなければ、結果としての音や音楽に有害な結果を引き起こす可能性があるからだ。このことに関して私は、生徒が少なくとも表面的には演奏に関わる筋肉動作をどのようにやっているか見て気付けるように、鏡を生徒の前に立てることもある。あるいは、鏡で見る事で、「演奏に関わらない」はずの筋肉が干渉していることにも気付いてもらるかもしれない。そして、意識を集中して音が聴けるように、複雑でない、簡単なたった一つの音だけのエクササイズを与えたりする。

こういったフィードバックが積み上げられなければ、ホルン奏者たちの想像力は、自身が出そうとしている理想の音と、現実に出ている音との明らかなギャップを、「自分がやっていると思っていること」の想像図を作って埋めてしまう傾向がある。こういった幻想はかなり不正確である場合があり、練習を深化させようとしたり、あるいは他人に教えようとしたときに、悲惨なことになってしまうことがある。

この具体例を挙げてみよう。金管奏者のあいだで広く信じられていることに、音をはっきりと発音するための、「舌で口蓋に触れる」動作が、打楽器を叩いたりハンマーを振るような動作と類似している、という考えがある。だが実際には舌は、ハンマーではなくバルブのような働きをしているのだ。舌は、息が流れるようにバルブを開いたり、息の流れが止まるようにバルブを開いたりするような働きをしているのだ。このような力学的な働きの誤解に基づいて作られた舌の動きをトレーニングするエクササイズが、最も効率的な練習方法ではないことは、明白だろう。よりよいフィードバックがあれば、こういうふうに誤摩化されてしまったりしないで済むのだ。

幻想や想像からくる誤摩化しは、奏者が自身の演奏技術を力学的にどのように「やっているか」という理解に関してだけでなく、演奏の結果をどのように受け取るかーつまり「どうやって聴くか」にまで及ぶ。どうやら、これには二つの形があるようだ。ひとつめは、音楽を構成する一つ一つの音、ふたつめは音楽的フレーズだ。「単語の発音」と「文章の意味」の関係と同じだ。個々の音の質は、「意図した音」というインプットと、「実際に鳴ったまさにその音」というアウトプットを、洗練された意識を用いて注意深く比較することで観察されるべきである。練習室では、こうなってないことが多いが….。練習室の音響が良い事は役に立つが、上記の観察に要求される条件は、コンサートホールの豊かな反響とは逆だと言えるかもしれない。私は、意図的にレッスン室を「乾いた」響かない部屋にしている。音を分析的に詳細にディテールまで聴くことができるからだ。こういった条件は、大半のホルン奏者が「モロに聴こえる」と言うような状態で、それは豊かい響くところでは隠されてしまうような、ほんの小さな音の不完全さまで聴き取ることができるからである。もちろん、良く響くところでは音に豊かさが加わって、奏者にとっては気持ちの良いものだが、結果として、本当に楽器から現れる音からは目を逸らされてしまうのだ。明確な聴覚的なフィードバックなしでは、本当に美しい個々の音を作って行く事は非常に難しくなる。

その4へ続く

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