アンブシュアその③〜口唇の周りの筋肉の形とはたらき〜

新訳:Singing on the Wind です。前回はこちら

唇の筋肉が効率的に働くためには、そのはたらきを助けてくれるような環境を作る必要があります。

〜口角〜

アンブシュアを形成するとき、口角は演奏中に安定していられるようにしっかり締めるべきです。(ただし、窮屈にはならないように)

口がリラックスしているときの口角の位置を観察しましょう。

そうしたら、リラックスしている状況より唇の横幅を広げる(スマイルの状態)ことも、狭める(すぼめた状態)にもせずに、口角を固定した状態にしましょう。

この口角の固定状態は、唇の筋肉が効率的に働く補助をするような枠を作ってくれます。

この枠が安定して保持されることが重要です。

口角が引っ張られて、保持状態より横に長くすると(これは高音を演奏するときにやりたくなってしまいがち)、唇の筋肉は不必要に伸ばされて音がキツくなってしまいます。

その逆に、口角が保持状態から押し込められると、アンブシュアが「すぼまって」音がモーっとして焦点のぼやけたものになってしまいます。

〜下唇と顎先の筋肉〜

上・下両唇のうち、普通は下唇の方が音程を決めることに関しては忙しくなります。

マウスピースの中の両唇の開き(=アパチュア)は大まかには楕円形になっています。高い音程の方がその開きは小さく、低い音程ではおおきくなります。

下唇は、マウスピースの中で下唇を押し上げ・張りを強くすること、下唇を引っ張り下げ・緩めることで両唇の間の開きの大きさを決めています。その間、楕円の形はずっと保ちます。

そんな下唇の効率的なはたらきは、顎先の筋肉に補助された口角によって支えられています。

顎先の筋肉はアゴに対して平らに保持されるべきです。

こうすると、唇の下側の筋肉が下向きに引っ張られているように見えますし、ある程度はたしかにそうだと言える面もあるのですが、あくまでマウスピースの中で下唇が柔軟に働くためのサポートをしてくれる範囲で、というべきでしょう。あまり強く顎先の筋肉を引っ張り下げてしまうと、下唇をマウスピースから引っ張り出してしまいますから。

顎先を平らにすることは、下唇が邪魔されずに働くことができるような安定した土台を作るためであるべきなのです。

〜上唇〜

上唇の動きは、アパチュアを形成するときのマウスピースの中の下唇の動きを反映するものです。

上唇の筋肉は、マウスピースの中でアパチュアを形成する筋肉が柔軟であれるように安定性を与えます。

上唇の動きは見た目には少ないものであるべきでしょう。

しかし何事もそうですが、ルールには例外というものが存在します。

顎先を平らにしない素晴らしい奏者がたくさんいるのです。

マウスピースの中の下唇はそれでも同じ原理に基づいてはたらきます。

しかしながら高音域においては、下唇の筋肉をサポートするために顎先の筋肉を上方向に押すことでより小さいアパチュアを得ることができます。

もしこれでうまくいくなら、それでOKです。

危険があるとしたら、下唇に対して顎先の筋肉からの十分な強さがない場合、アンブシュアが不安定になることです。この不安定性はマウスピースをより強くアンブシュアに押すことで補うことができるかもしれませんが、代わりにそれは耐朽性と柔軟性に問題を作ることになります。

また、ここまで説明してきたようなものとは反対のアンブシュアの機能の仕方をする優れた奏者たちもいます。アパチュアを小さくするうえで上唇が能動的に働き、下唇が補助的な役割をするというものです。

このような例はより例外的なものと言えるでしょう。

時折、奏者によっては歯と顎先の筋肉の間に空気が入り込むようにしていることがあり、これは空気によって筋肉が押し出されるようにすることで安定感をもたらしています。

このような空気ポケットや、頰に空気を入れることは筋肉が怠けている兆しであり、やめるべきでしょう。

最後に、繰り返しになりますが口角と顎先の筋肉はアンブシュアに安定性と支えを与えています。

「安定性」とは「固定されている」ということではありません。

唇が効率的に働くには、一定の柔軟性が必要であり、特に低音域においてはこれが顕著になります。

– – –
つづく
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アンブシュアその③〜口唇の周りの筋肉の形とはたらき〜」への15件のフィードバック

  1. こんにちは。
    いつも先生のブログを拝見させていただいています。
    わたしは現在高2でユーフォニアムを
    吹いています。
    去年の夏頃から音が小さいということで
    何度も注意されて、最近になって前よりも音量が出てきたかなと感じています。
    (周りに言われた訳ではなく自分がそう実感しているだけなので少し不安ですが)
    それに伴ってなのですが、
    息の量や圧が変わってきたのか
    以前よりも押し付け気味に吹いている気がします。
    先生のこのブログの文章にもあるように
    高音になるにつれて
    口角が引っ張られてゆき、だんだん横に広がり唇全体が平らで固くなってしまいます。
    もちろん吹いてて痛いですし、音も出なくなっていきます。(口の端からプスプス息が漏れてくるような…)
    何か改善策はありますでしょうか?
    唇の負担が大きく辛いです。

    長文失礼いたしました。

      • 以前にもアンブシュアで悩んだことがあり、
        この記事を拝見させていただいたのですが
        超高位置タイプだったのが
        最近では中高位置タイプになっている気がします。
        知り合いの方に下唇はマッピの中に入れないほうがいいと言われたので超高位置で吹いていたのだと思います。

        口は、
        音が上がるにつれて上がり
        音が下がるにつれて下がっていました

          • マウスピースは、あまり変わってないように感じましたが、
            上の音の時は上に、下の音の時は下に本当にかすかに変化してる気はしました。

            • 高倉さん

              オクターブのスラー跳躍やってみるともっと変化が見えるかもしれません

              Basil

  2. バジル先生こんにちは。
    高校一年生でトランペットを吹いている者です。
    私は中学生の時から吹奏楽部でトランペットを続けてきたのですが、かなり酷い粘膜奏法でバテも早く、毎回前歯の痛みが伴っていたので高校生になってからアンブシュアを自力で矯正しました。
    そのせいか、吹くたびに唇がもの凄く力んでしまいます。
    低い音ではそんなことはないのですが、基礎練習だけでマウスピースの跡がついてしまうのです。
    私が吹ける音域はチューニングB♭より上のE♭が精一杯で、音も詰まるし、Fだとかなりくちびるが力んでしまってどうにも出来ません。
    矯正してからもう少しで一年です。
    元のアンブシュアもあまり覚えていないのでどうすれば良いのか…
    アンブシュアモーションなど試してみましたが、力みのせいでうまくいきません。
    何か解決策がありましたら教えてくださると嬉しいです。

    • 西さん

      どのようなアンブシュア矯正をし、
      いまどのような吹き方をしているのか?
      アンブシュアモーションはどのようなものか?

      を書いていただいていないので、分かりません。

      アンブシュアセッティングの手順、という記事を読んでみるといいかな、というくらいです。

      Basil

  3. すみません、見返したらあまりに漠然とした質問でした。申し訳ないです。

    もともとは、
    ・上唇の3分の2はマウスピースからはみ出しており、下唇の割合が多い
    ・高い音ではマウスピースの位置をを下にずらし、低い音では上にずらす
    ・粘膜奏法
    このように低位置タイプでした。

    今は、中高位置タイプです。
    高い音に行くにつれてマウスピースの位置が下がり、低い音では位置が上がります。

    矯正するにあたって教則本やプロの方のアンブシュアを参考に、鏡を見ながら上唇をリムの中に収めることを意識してきました。
    矯正を始めた当時は出来るだけロートーンのロングトーンを中心にチューニングB♭以下の音域を、pやmpで吹いていました。
    矯正をし始めたばかりのときは、
    「力んだりプレスをするのは吹き慣れていないからしょうがない」と思い、
    そこまで気にしてはいませんでした。
    矯正して半年ほど経つと以前より音は安定して出せるようになりましたが、高音は苦手でプレスや唇の力みは抜けませんでした。
    そして約一年経った現在、テスト期間でほぼ楽器に触れられなかったこともあり吹き方が変わったのか、以前より力むようになりました。
    チューニングB♭でも口をすぼめてしまって、唇に頼って吹くしかない状況です。
    https://iwiz-chie.c.yimg.jp/im_siggK237WLMGOw5jAY5QUWBmKA—x320-y320-exp5m-n1/d/iwiz-chie/reply-1013742374
    ↑画像を貼っておきます。一ヶ月ほど前の高音を吹く時のアンブシュアです。

    どうすれば脱力できるのでしょうか…
    高音を吹く時に唇を締めるのはダメだとわかっていても、力まないと吹けないです。

    長文失礼しました。

    • 西さん

      中高タイプか低位置タイプかはどうやって見極めていますか?
      外から見た位置では分からないのは理解されていますか?

      >>高音を吹く時に唇を締めるのはダメだ

      ダメじゃないですね…
      上下の唇を押し付けあって圧縮することで高い音にしています。

      あと、テスト期間でお休みを挟んだわけですし、
      まずは数日くらいは「テスト前の感じ」に戻るまでかかってもいいからゆっくりやろうということでいいと思いますよ。

      粘膜奏法についてはこのへんを読んでください:
      http://basilkritzer.jp/archives/5030.html
      http://basilkritzer.jp/archives/7113.html
      http://basilkritzer.jp/archives/6952.html
      http://basilkritzer.jp/archives/6297.html
      Basil

      • 返信ありがとうございます!
        透明のマウスピースを持っていなかったので、外見で判断していました( ; ; )
        今度買ってみようと思います。
        締め付けるのは今までダメだと思っていました。もしかしたら力の入れ方が悪いのかもしれませんね。
        焦らずゆっくり頑張ります!

  4. オクターブのスラー跳躍やってみました。
    B♭からチューニングB♭のオクターブで
    上がっていったのですが、
    上の音に上がる時にマウスピースが
    右寄りの上に上がっていました。
    下に下がる時はすごく下がります。
    鏡で見てやってみたら、下に下がる時に
    顎がしゃくれる(?)様な、上がったときには
    顎を引いてる様な感じだったのですが
    これは普通なのでしょうか?

    • ということは、超高位置タイプですね。

      音を下がるときに、左下に引っ張ってみてください。どんな感じがしますかね?

      顎のことは、普通の例の一つで、心配ないと思います。

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