金管楽器を演奏するひとのための、アンブシュアに関するヒント

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このブログで昨年(2015年)からいくつも翻訳を通じて、アメリカのトロンボーン奏者 David Wilken 氏らが行っている金管楽器奏者のアンブシュアに関する研究とそこから得られている知見を紹介しています。

その代表的なものがこれです。
金管楽器の3つの基本アンブシュアタイプ



また、これ以外にもいくつもとても有益で、興味深い記事を翻訳しておりますので、一覧よりお読み下さい。
David Wilken氏の研究関連の記事一覧



【わたしの問題点は低音の奏法にあった】

この1年これらの翻訳に取り組み、金管楽器のアンブシュアに関してわたしの知る限り最も信頼おける研究と理論を学んで、この理論に照らし合わせて、わたしはまず、わたし自身の奏法をまず観察しました。

その際には、Wilken氏本人に動画を送り所見も伺いました。

すると、わたしの奏法的な欠陥といいますか問題点は実のところ低音の奏法にあることがわかってきました。

これは、わたしにとっては当初は少し信じ難いことでした。

というのも、わたしはドイツの音大に入学した直後から、「アンブシュアを直す」ということをやることになったのですが、その結果、自分の意識としては

「高音が苦手で、低音が得意。自分は下吹き、低音奏者だ」

というアイデンティティーを作り強化していたからです。

それが、実際にはどうやら、わたしのアンブシュアタイプはまず高音が発達しやすく一方で低音に上達により注意と時間が必要であるとのことでした。

わたしは、『超高位置タイプ』です。どのようなタイプがあり、それぞれどのような分類に基づき、どのような傾向や特徴があるかは、冒頭に紹介した記事をご覧ください。

この超高位置タイプの特徴通り、わたしは大学時代の後半から、高音域が出るようになってきました。アイデンティティーや苦手意識にもかかわらず、です。

年数が経つにつれ、高音域はどんどん広がり、いまはダブルハイEやFを鳴らすことに取り組むところまで来ています。

….にも関わらず、アンブシュアを直せと言われたショックや、大学時代の様々なトラウマティックな体験を引きずり、高音域への苦手意識や、奇妙な不安定感は払拭できずにいました。

その原因がどうやら、得意と思っていた低音の奏法にあったようなのです。



【唇の緩めすぎに起因する、タイプの逸脱】

超高位置タイプに典型的らしいのですが、低音域を演奏するときに、アンブシュアのモード・システムを変えたり、唇を緩めすぎたりしていました。

アンブシュアのシステム・モードを変えるというのは、3つに分類されるアンブシュアタイプのうち、自分が該当するタイプの基本的な機能の仕方・動き方を外れて、他のタイプの機能の仕方・動き方と同じようなことをやり始めることを指します。

わたしの場合、具体的には、口から外に流れ出す息に関し、常に下方向に流れ続けるはずの息を、低音域に際して上方向に逆転させていたのです。

これはおそらく、低音域に下るにつれて、必要以上に唇を緩めていった結果、それ以上同じようなやり方でアパチュアを開くことができなくなって、唇のセッティングをガラッと入れ替えることで更なる開きの余地を作り出していたのでしょう。

で、これが高音域の不安定性を作り出していたのです。

厄介なことに、低音域の奏法がそのような影響をもたらしていたなんて、高音域を演奏しているときに直接感じることはありませんでした。実感がないのです。

実感がないのにどうして、こういった分析ができて問題に気付くことができたのでしょうか?

それはひとえに、Wilken氏の研究の説得力と、その研究から導きだされる予測の精度の高さ故でした。

このブログでもすでに10以上の記事を翻訳し紹介しているその研究内容は、従来の、理論で説明されないケースを「間違い」あるいは「例外」として片付けてしまい演奏の向上に寄与しようとする姿勢が薄い多くの理論やメソッドとちがって、金管楽器奏者のアンブシュアの多様性をまず前提にし、そこに隠れている法則性を見出そうとするものです。

そのため、どんな奏者でも「あぶれる」ことが無いのです。少数派のタイプにはそのタイプなりのしっかりした機能の仕方を見出しています。

この姿勢にピンときて、懐疑的な考えで目を曇らせることなく、少し理解に時間と労力を要するその研究内容と理論を読み込むことができました。

それで、自分の奏法の問題点を、当初は実感はなくても頭で理解することができたのです。



【低音域の奏法の修正が高音域に安定と強さをもたらした】

わたしの低音奏法の修正ポイントは主に2点。

① 音を下がるとき、その音を下がるために必要な唇の緩め量を調べ直すこと
唇の外に流れる息はずっと下向きに保たれるようにしながら低音域へ下がっていくこと(=アンブシュアタイプに一貫性を持たせること)

唇を思いっきり緩め、息の向きもひっくり返して低音域を演奏することに慣れていましたから、はじめは上記のような修正は窮屈で不自由に感じました。


ではなぜ、その不自由さに対して嫌になったり不安に負けたりせずに取り組むことができたのか?

それは、『必要であればいままでの奏法はいつでもできる』ということを意識しておいたことに加え、身体的な窮屈または不自由な感覚に反して、アンブシュアそのものにはすぐに良い張りを感じ始めたこと、そして、修正した奏法で出す低音が、実は音程や響きがむしろ以前より安定させられそうな感覚がすぐに感じられたからです。


ただ、以前の吹き方に頭も身も心も圧倒的に慣れていますから、修正した吹き方を継続するのはとても大変です。

身体的にというより、とにかく頭。すごく集中力が必要でした。

そこで、Wilken氏からのアドバイスもあって、低音域の練習を、非常に短時間に限定することにしてみました。

そうすることで、望ましい奏法「だけ」で演奏をし、以前の奏法で音を奏でる体験をなるべく自分に与えないように工夫してみたのです。

結果的にはこれが大変効果的でした。

数日間、低音の練習時間を、新しい奏法に集中しコントロールできる5分程度の時間に完全に制限してみたところ、驚いたことにアンブシュアに安定とパワーを感じられるようになり、高音域が安定しはじめたのです。

このときに、非常に興味深いことなのですが、これまでの低音奏法が自分のアンブシュアにストレスを悪影響を与えていたことを『間接的』に気付くことができました。



【移動軸と耐久力】

詳しくはWilken氏の書いた記事の翻訳をご覧いただくとして、Wileken氏の研究からは、

『金管楽器の演奏において、マウスピースとアンブシュアは一体的に動く』

ということが分かっています。

まずこの一事をもってしても、「アンブシュアが動いてはいけない」「マウスピースが動いてはいけない」という表現や指導は、不正確またはリスキーな面があることが分かります。

動き方は、まず3つの基本タイプごとにちがいがあり、さらには個人差でもちがいが生じます。

基本タイプとして超高位置タイプであるわたしの場合は、

高音域にいくにつれマウスピースが上方向に動き
低音域にいくにつれマウスピースが下方向に動く

という機能の仕方をします。

この上、下というのは「ざっくりと見れば」です。

ざっくりと上、下というのがわかっただけでも、わたしの場合は低音域に向かうにつれ途中まではちゃんと下方向にマウスピースが動いていたのが、あるところから突然上方向にシフトしていました。それに伴い、息の方向も下向きから上向きへと逆転していました。

最初の方にも書いた、「アンブシュアのモードを変える」ということをやっていたのです。

これを、低音域にいくにつれマウスピースの動きがなるべく下方向への移動で一貫するように努力しました。それは先に書いた

・音を下がるとき、その音を下がるために必要な唇の緩め量を調べ直すこと
唇の外に流れる息はずっと下向きに保たれるようにしながら低音域へ下がっていくこと

と表裏一体といいますか、セットになっています。

その取り組みが、間接的に高音域のためのアンブシュアの安定、張り、パワーの回復につながったことは先述のとおりです。


低音域の奏法の修正の意味とやり方がより理解できるようになり、その効果もよく分かってくるにつれて、こんどは高音域の奏法そのものにも目が向くようになりました。

まずは、「ざっくりと見た」上、下のところに着手しました。

Wilken氏の理論に基づく予測では、わたしのような超高位置アンブシュアタイプの奏者は、高い音にいくにつれてマウスピースの位置が上(鼻の方)に動きます。

で、鏡やビデオで確認してみると、確かにほんとうにそうなっていました。

そこで、次のステップとしてそれを意識的に行うようにしてみました。

それは、何も考えずにとりあえず包丁で食材をざっくざっく切っていたのを、包丁の使い方を意識しながら食材を切るようになるのと同じことだと思います。

アンブシュアに関して意識することを、怖がるひとや、それが悪いことだというひとはたくさんいます。

その気持ちは、わたしはよーーーーーくわかります。わたしもそうでしたから。

でも、包丁の使い方を意識することを誰も怖がりませんよね?
それって、包丁の使い方に関しては、アンブシュアのそれに比べて客観的な理解が進んでいるからだと思うのです。

言い換えると、アンブシュアに関する情報や指導法の中には、誤りや、一部のひとにしか通用しないことを全員に当てはめるようなミスがあまりにも多い、ということです。

だから、間違ったことを意識して悪影響を被るよりは、意識しないでいた方が安全だということになるわけです。これは確かにその通りです。

でも、意識するポイントや内容が、信頼できるもので確かめられているものならば、それを意識することは、アンブシュアの技術を意識化し洗練させていく=手応えのある上達のプロセスとなります。

で、実際わたしにとっては「とりあえず、ざっくりと、高音域にいくにつれてマウスピースを上方向に移動させるよう心がける」ことは、即座に高音域の演奏に改善をもたらしました。

とくに、跳躍がしやすくなりました。

それまでは、跳躍に際してのマウスピースの移動が不十分だったのだと思います。


やがて、「ざっくりと上」が、もっと具体的なものに変わっていきました。

つい2ヶ月ほど前にはっきり気がついたのですが、わたしの場合は、「若干、右上」が自分の移動軸であったことが分かりました。

高音域にいくにつれマウスピースが右上方向に動き
低音域にいくにつれマウスピースが左下方向に動く

これがわたしの「個人差」を反映したマウスピースとアンブシュアの運動の軸でした。

じゃあ、どれぐらい右上⇄左下で、その移動軸は顔面のどこを通っているのか(ど真ん中、中心とは限らないのです)は、目下さらに詳細に調べています。

こういう細かい個人差は、理論でカバーできることではなく、本人がよく調べて自分のケースを理解し実践していくべき範囲です。

ともかく、この右上⇄左下軸に気がついてからは、この軸に沿って移動を行うことを意識しています。そうすると必然の結果として、マウスピースとアンブシュアの運動技術は洗練されていっています。技術は意識的な練習を通じて身につき、さらには向上していくのです。

これで起きた大きな変化は、

『バテたと感じても、唇が痛くても、高音域が鳴らせるようになってきた』

ということです。

わたしは長年、これはもうホルンを始めたそのときから、

「やたらバテる」

ということに悩んでいました。

音大に入っても、高音域が鳴るようになってきても、いくら鍛えようにも、これはまったく変わりませんでした。

あまりにどうしようもないので、

「自分は不幸な運命を背負ったんだ。でもそれに負けずに、いろいろ苦労しているひとたちの気持ちを理解できるようになって指導に活かそう」

と自分を納得させて、正直言えば解決を諦めてすらいました。

それが、移動軸を見出してそこに沿わせていくことをやり始めたら、バテ感が減り、バテても移動軸に沿ってウォーミングアップをしなおせばまた高い音が鳴らせるようになってきました。ここ2ヶ月ばかりでの変化です。

30歳を超えても、そんなことってあるんですね….。

延々吹き続けられるひと、バテた〜とか言いながらも全然高い音もバリバリならせてるひと。

こういうひとたちはきっと、この移動軸がずれていないんだろうな….という気がしています。


高音域のパワーや耐久に関しては、まだまだ問題点や改善すべき点がわたしにはあります。

しかしながら、高音域そのものの発達は10年間ずっと同じペースで続いており、最近はダブルハイEにアプローチできるようになってきました。

ですから、今回の移動軸の理解と練習により耐久力問題に関してブレイクスルーが見えてきたように、きっとこれからも勉強と観察と実験を通じて新たなブレイクスルーを見出すことができると信じて、毎日練習しています。



【レッスンでも活かされる】

さて、ここまではわたし自身が奏者として、Wilken氏の研究の知見から実体験しことをお話しました。

しかし、日々のレッスン活動でも非常に役立っています。

Wilken氏の金管アンブシュアに関する研究と理論、理論から予測されることは、この研究の翻訳に取り組み始めて数ヶ月してわたしが理論をよく理解し始めたころから日々出会う多くの生徒さんのサポートに非常に役立っています。

そこでここからは、ブログをお読みのみなさんとも文字で簡潔に書き表せる範囲でそれを共有したいと思います。

理論の詳細は、Wilken氏自身のウェブサイトか、わたしの翻訳をご覧ください。

David Wilken氏のウェブサイト
Wilken氏の翻訳記事一覧



〜あなたも調べてみよう、やってみよう〜

ここでは、あえてWilken氏の研究にで使われるアンブシュアのタイプ名や全容は述べずに、できる限り実践的な内容にとどめたいと思います。


<<ステップ① マウスピースは、どちらに動いていますか?>>

あなたが演奏しているとき、マウスピースはどのように動いているでしょうか?

マウスピースの動きには二つのタイプがあります。

音を上がるにつれてマウスピースが上がり、音を下がるにつれてマウスピースが下がっていくタイプ
音を上がるにつれてマウスピースが下がり、音を下がるにつれてマウスピースが上がっていくタイプ

この上がる・下がるというのは、角度のことではありません。位置のことです。

よく見ていれば、高音域と低音域とではマウスピースの位置が変わっているはずです。

見ていて分からない場合は、次のようにしてみましょう。

あなたにとって極端でない音域において、

・音を上がること
・音を下がること

のどちらの方が得意ですか?

音を上がることか下がることか、うまくいっている方をサンプルにします。

動きを見やすくするには、リップスラーを用いるのが便利です。リップスラーを使って、音を上がるか下がるか、どちらかうまくいく方をやってください。

さて、そのとき、マウスピースはどちらに動いているでしょう?

音を上がるときに、マウスピースが上がりますか?それとも下がりますか?
音を下がるときに、マウスピースが上がりますか?それとも下がりますか?


◎音を上がるのがうまくいっているときに…

→マウスピースが上がっているのが見えるひとは、音を下がるときにマウスピースが下がるはずです。
→マウスピースが下がっているのが見えるひとは、音を下がるときにマウスピースが上がるはずです。



◎音を下がるのがうまくいっているときに….

→マウスピースが下がっているのが見えるひとは、音を上がるときにマウスピースが下がるはずです。
→マウスピースが上がっているのが見えるひとは、音を上がるときにマウスピースが下がるはずです。


うまくいっていない方は、マウスピースの動きがはっきり見えないかもしれません。

ですかた、うまくいっているときの動きの「反対方向」の動きが、なんらかの理由で阻害されている、と考えることができるのです。



<<ステップ② うまくいっている方で、マウスピースを「わざと」そちらに動かしてみましょう。>>

普通の音域において、音を上がること、下がること、あなたはどちらが得意ですか?


音を上がるのが得意なひと:

→音を上がるときにマウスピースが上がるひとは、音を上がるにつれて「わざと」マウスピースを上げるようにしてみましょう。
→音を上がるときにマウスピースが下がるひとは、音を上がるにつれて「わざと」マウスピースを下げるようにしてみましょう。


音を下がるのが得意なひと:

→音を下がるときにマウスピースが下がるひとは、音を下がるにつれて「わざと」マウスピースを下げるようにしてみましょう。
→音を上がるときにマウスピースが下がるひとは、音を下がるにつれて「わざと」マウスピースを上げるようにしてみましょう。


とくに高音域にいくにつれて、あるいは上行音型のリップスラーや跳躍を行うときに、わざとらしいくらい「わざと」動かしてみてください。



<<ステップ③ うまくいかない方で、マウスピースを「わざと」反対方向に動かしてみましょう。>>

普通の音域において、音を上がること、下がること、あなたはどちらが苦手ですか?


音を上がるのが苦手なひと:

→音を下がるときにマウスピースが下がるひとは、音を上がるにつれて「わざと」マウスピースを上げるようにしてみましょう。
→音を下がるときにマウスピースが上がるひとは、音を上がるにつれて「わざと」マウスピースを下げるようにしてみましょう。


音を下がるのが苦手なひと:

→音を上がるときにマウスピースが上がるひとは、音を下がるにつれて「わざと」マウスピースを下げるようにしてみましょう。
→音を上がるときにマウスピースが下がるひとは、音を下がるにつれて「わざと」マウスピースを上げるようにしてみましょう。


とくに高音域にいくにつれて、あるいは上行音型のリップスラーや跳躍を行うときに、わざとらしいくらい「わざと」動かしてみてください。



<<ステップ④ 「自分の移動軸」に詳しくなろう>>

ステップ③までは、「ざっくり、上か下か」を調べて練習しているだけです。

これだけでも、大きな効果を感じるひとはたくさんいるでしょう。

慣れてきたら、あなた自身の「個人差」の部分に詳しくなりましょう


・マウスピースが上がるとき、それはどれぐらい
→真上ですか?
→右上ですか?
→左上ですか?


・マウスピースが下がるとき、それはどれぐらい
→真下ですか?
→右下ですか?
→左下ですか?


ここでもやはり、特徴がはっきり見える方を利用して、よく分からない方の動きの動きを「予測」してみるとよいでしょう。

右上に上がるひとは、左下に下がるはずだし、
左上に上がるひとは、右下に下がるはずです。


自分の移動軸の

位置:顔の真ん中とは限らない。顔に対してのマウスピースの位置やアパチュアの位置から観察してみましょう。

角度:どれぐらい垂直に近いか?あるいはどれぐらい水平方向に倒れているか?観察してみましょう。



<<ステップ⑤ 構えの技術>>

こうして、自分の移動軸がわかってきたら、「わざと」その軸にマウスピースを沿わせるようにしましょう。

マウスピースの移動のコントロールは、その多くが「構えの技術」に属する領域です。

マウスピースを当てたいところに当てたいように当てる。
マウスピースを移動させたいように移動させる。

これは構えの技術なのです。

トランペットやホルンはその多く腕でやることになるでしょう。
ただし、首の回転(顔の向きを変える)も、沿わす技術をよりスムーズにするために大きな助けになります。

トロンボーンやユーフォニアムくらい大きく、重くなってくると、腕だけでやるのは難しい面があるかもしれません。
その場合、首を傾けたり胴体をひねったりすることが大切な技術になるのではないか、といまのところ推測しています。

チューバの場合は、楽器が膝や座面に固定されていますから、そもそものセッティングの高さの工夫が大切になるでしょう。また股関節から胴体を動かすことや楽器を腕や楽器を挟んでいる脚で操作するのも大切な技術になります。


以上です。

さあ、やってみましょう!



【ヒント】

最後に、Wilken氏の研究からある程度分かってきているヒントを三つ共有したいと思います。


① アンブシュアもマウスピースも動く

すでに上で少し言及しているのですが、「マウスピースやアンブシュアは不動であるべき」という見方や考え方より、「マウスピースとアンブシュアは動く」という見立ての方が現実にはるかに近いでしょう。

Wilken氏のアンブシュア分類は

「マウスピースとアンブシュアの一体的な動きの方向」

がひとつの指標ですから、そもそも動くという前提なのです。ゆえに、どちらに、どれくらい動かせばいいのかを学び、身につけていくという発想がとても有益だと思います。

さて、「マウスピースとアンブシュアの一体的な動きの方向」という発想から考えると、この記事でここまで「ざっくりと」書いてあることを試してみてもうまくいかないひとは、もしかしたら

・アンブシュアの動きが足りないか
・マウスピースの動きが足りないか


の状況になっている可能性があります。

アンブシュアの動きが足りないと、そもそも音を生み出したり変えたりするのに必要な動作や力が十分に生み出されません。

一方、マウスピースの動きが足りないとそれをアンブシュアで補うことになります。それはアンブシュアに対してストレスになり、また効率的な動きを阻害します。

えいっ!とアンブシュアやマウスピース、あるいは両方をしっかり動かすことがブレイクスルーになることはかなりよくあります。


② 下唇の割合が多いことは間違っていない

やはり詳しくは下記の二つの記事をご覧いただきたいのですが

金管楽器の3つの基本アンブシュアタイプ
下唇の割合が多いアンブシュアタイプ

金管奏者の中には、その顔面などの解剖学的特徴から、「マウスピースのなかでの下唇の割合が上唇より多くなる」タイプは相対的少数派ながら一定の割合で存在します。

そういうひとにとっては、そういう当て方が一番良く、上唇の割合を増やそうとすることはアンブシュアに対し大きなストレスになったり、機能をひどく乱しがちであるとのことです。

金管楽器の世界では、「上唇2対下唇1」の割合が良いとか、正しい、という話が世界的にもまだまだ信じられています。

しかし、Wilken氏の研究によると、それは「そういう割合が合っている人が比較的多い」というだけで、それが正しいということではなさそうなのです。

ですから、自分自身に関しても、ほかのひとに関しても、「マウスピースのなかの下唇の割合が上唇より多いほうがよいひとが存在する」ということをどうか頭においておいてください。


③タイプ別の効果的な練習パターン

これはWilken氏もまだ研究中のテーマで定かではないことであり、わたしのレッスン経験もふまえての話となりますが、どうもアンブシュアのタイプごとに相性のよい練習方法というものが大まかに存在するようです。

アンブシュアタイプの詳細は、この記事でもう何度も紹介しているWilken氏の翻訳記事をご覧ください。


超高位置タイプ:
・どうも音階、半音階、リップスラーなら自然倍音列をひとつひとつ順番に移動していくような練習が向いているようだ。
・その反面、跳躍系の練習は苦手かもしれない。
・低音の練習をするときは、すこし高めの音から発音し、高い音がちゃんと鳴るアンブシュアを意識しながら、それをなるべくキープしながら低音域に下がってくるようにするのが良さそう。

中高位置タイプ:
・どうも、ジグザグ系のリップスラーや、跳躍の練習が向いているようだ。順番に上がったり下がったりするのではなく、上がったら下がって、下がったら上がってという感じ。ドミソシド〜とやるより、ドソミシソド〜とやったほうが、しかもけっこう思い切って速くやるのがよさそう。
・かなり速い、短いはっきりしたタンギングを用いたアルペジオも相性が良さそう。

低位置タイプ(=下唇の割合がマウスピースの中で多い):
・わたし(バジル)にとっては一番対照的なタイプで自分自身の練習の過程から言えることは少なく、また相対的な少数派でもあるのでいまのところわたしには情報が少ない。
・ただ、一定の割合でこのタイプは存在するので、レッスンの中で出会っている。そういう方々とのレッスン経験が徐々に増えていくなかで、このタイプのひとたちにとって役立つやり方のなんらかの傾向やパターンは見えてくるはずだと思っている。
・Wilken氏自身は低位置タイプであり、ウェブサイトのなかで時々練習のやり方に言及している箇所がある。わたし自身の不肖のためそういった記述をしっかり集積・理解できていないのが現状である。が、Wilken氏はいろいろと理解やアイデアを実体験からもレッスン活動からもお持ちであることは確かなので、徐々にこのブログで紹介したいと思っている。
・伝聞なので不確かではあるが、低位置タイプとみられる奏者たちのうち何人かが、どうやら「単音の発音の練習」を自身の奏法の中心に据えているらしいことを把握している。


今回の記事は、これにて終わります。

あなたの役に立ちますように!


Basil Kritzer


P.S.アンブシュアに関して役立つかもしれない他の記事を一部最後にまとめて記します。

金管楽器の3つの基本アンブシュアタイプ
金管楽器のアンブシュア動作
下唇の割合が多いアンブシュアタイプ
顎を張れなくて悩んでいるひとへ
顎先のくしゃっとなった状態を避ける
金管楽器のアンブシュア恐怖症その1〜わたしのアンブシュア遍歴〜
金管楽器のアンブシュア恐怖症その2〜こういうふうに考えてみよう〜
ホルンのアンブシュアについて〜アンブシュアタイプが異なれば機能も感覚も異なる〜
アインゼッツェンとアンゼッツェン












4 thoughts on “金管楽器を演奏するひとのための、アンブシュアに関するヒント

  1. 素晴らしい研究ですね
    私はフリーのホルン奏者で、51歳ですが、たくさんの小学生から高校生を長年見てきましたし、自分の奏法への関心も強いので、バジルさんの記事いつもはとても参考にしています。
    ホルンは一つの楽器で上から下の音まで吹かないといけないにも関わらず、ダブルアンブシュアの問題は重要問題なのに、あまり語られる事がないですよね

    私自身低音が苦手なこともありずっと疑問に思ってきましたし、そういったことって音大で聞けない雰囲気みたいのってあると思うんですよ、とても高名な先生方には聞けませんでした「低音てどうやって出すのですか?」
    自分で研究もしていますし、このサイトにもたくさん助けて頂きました。

    もっと理論を教えられる人が増えないといけませんよね

    特に今回の記事はホルン奏者にとっては究極の一文だと思いました、これからも注目していきたいです。

    この文は名古屋で行なわれる、全日本吹奏楽コンクール会場に行く新幹線にて書いています。

    聴きに行ってきます。

    • 根岸さま

      コメントありがとうございます。

      この研究はすごいです。
      これだけの研究をしていた人がいて、それを見つけることができてわたしは幸運です。

      この研究以前に、真に信頼性と普遍性のある金管のアンブシュア理論は存在していなかったと思います。

      高名な指導者の理論(ファーカス氏やペンツェル氏など)ですら、この研究が示す普遍性と有用性には遠く及ばないくらいので、この研究が存在しこうして公表されている時代に生きていてよかった….と感じる次第です。

      見た目や当て方の「少数派」を例外あるいは間違いと断じるのではなく、「運動法則」として規則的なのか例外的なのかを見ることができる研究です。

      最近、この研究を理解するにつれて、見た目が珍しいアンブシュアでも、機能の仕方として実はちっとも例外的だったり珍しかったりするわけではないことがわかってきて、「変わったアンブシュアだな」と思うことがほとんどなくなってきました。

      「変わってる」という印象が、いかに「自分が見てきたもの」という主観に左右されていたか痛感します。


      ふだんのレッスンや講座では、中学生でも高校生でも理解できる平易さでこの研究を説明できるようになってきました。
      アンブシュアに関し非常に無用な混乱と苦労をしてきた自分の中学生〜大学時代を振り返って、これからの若い人たちはそういう回り道をせずにもっとまっすぐに自身の技能を伸ばしていけるように手助けしていきたいと思っています。

      これからも、当ブログをどうぞよろしくお願い致します。

      Basil

  2. Pingback: 演奏家のアンブシュアタイプ分析 〜ホルン編その2〜 | バジル・クリッツァーのブログ

  3. Pingback: 金管楽器の高音上達のための記事集 | バジル・クリッツァーのブログ

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