アインゼッツェンとアンゼッツェン

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David Wilken氏のウェブサイトより、

記事「Einsetzen and Ansetzen Embouchoures」の翻訳を行いました。。

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アインゼッツェンとアンゼッツェン
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「アインゼッツェン」と「アンゼッツェン」に関する議論というのは、これはもはや過去の歴史に関する議論に属するとわたしは考えているが、

・この用語と概念に関するわたしの印象
・現代の金管楽器教育にどう関係するか(もしくはしないか)

について述べたいと思う。

おそらく多くのひとと同じく、わたしが最初に「アインゼッツェン」「アンゼッツェン」という語を知ったのは、フィリップ・ファーカスのフレンチホルン演奏技法(The Art of French Horn Playing)においてであった。

この本でファーカスは19世紀のホルン奏者 オスカー・フランツ の次のような言葉を引用している。

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「演奏するとき、マウスピースは上唇の上に、そして下唇の内側に置かれるべきだ。ドイツ語ではこれを『アインゼッツェン=内側に置く』と呼ぶ。

対照的に、マウスピースを下唇の内側に置かずに下唇の淵に当てるような当て方を『アンゼッツェン=当て置く』と呼ぶ。

音を生み出すためのこの二つのやり方については、注意深く考慮する必要がある。

ひとつめの『アインゼッツェン=内側に置く』で発音する方式は、スムーズで優しい音色になり、注意深く練習すれば高い音域から低い音域への移行、その反対の移行がともに容易に習得される。(ただし、高音域への移行の方がいくぶん音を出すのが難しい)

反対に、ふたつめの『アンゼッツェン=当て置く』では高音域の反応がより容易になる。しかしながら、高音域から低音域への移行においてこの奏法はしばしば多様な困難を見せるし、それに加えて原則としては音質の素敵さにおいて劣り、硬くなる。

当然ながら、一切の困難を抱えない例外的な奏者は、いかなる奏法においても存在する。

アンゼッツェン=当て置く方式の奏者が低音域へと進んで行くとき、アインゼッツェン=内側に置く当て方に唇のポジションを変えることはさけられない。

(–Farkas, The Art of French Horn Playing, 22)
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【下唇をめくり出す】

もしわたしの理解が正しければ、ここで言うアインゼッツェン=下唇の内側にマウスピースの淵を置く当て方というのは、写真にように下唇をめくり出してマウスピースを唇の裏側に置くようなやり方のことだ。

“下唇へのアインゼッツェン=内側に置く”
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一部のトランペット奏法論においては、ペダルトーンを演奏するときにこのやり方を採用するよう奨励している。(わたしとしてはどちらかというとこれを避けるようにしている。わたしにはこのやり方でペダルトーンを練習することでトランペット奏者が得られる恩恵というのは、通常時の演奏とつながらない奏法にしてしまわなくても済む、もっと他の練習方法で得られると思うからだ)

ひとまずこの写真からは、マウスピースを唇の内側に置くためにわたしが下唇をめくり出しているということを見て頂きたい。

一部の高音金管楽器奏者にとっては、このようにマウスピースを唇の内側に入れることが超低音域の演奏を可能にしている場合がある。しかし先述の通り、通常の音域の演奏全般に対して良い働きをしないので、この奏法を低音域の奏法として頼るべきではないと考えている。

【上唇の内側に置く】

先に引用したフランツの「アインゼッツェン」の定義には合致しないが、上唇の内側にマウスピースのリムを置くこともできる。

“上唇へのアインゼッツェン”
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下唇へのアインゼッツェン、上唇へのアインゼッツェン、どちらの写真においても、マウスピースの中の上下の唇の割合が普段のわたしの当て方となるべく同じになるようにした。

わたしの場合、どの金管楽器を演奏する場合も、下唇の割合が優る当て方をしている。

そのような当て方というのは、大半の奏者にとっていちばんじょうずに演奏できる当て方と逆なのであるが、わたしにとってはこれが最善だ。

【デニス・ブレインやブルーノ・シュナイダーの場合】

なぜ、このように上下の唇の割合のことを持ち出しているかというと、わたしの演奏を見て、わたしのアンブシュアが「アインゼッツェン=
内側に当てる」と誤解してしまう人がいるからだ。

フランツそしてファーカスの定義に従えば、わたしのアンブシュアは「アンゼッツェン=当て置く」方式ということになるはずだ。

“わたしの普段のアンブシュア=アンゼッツェン=当て置くアンブシュア”
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デニス・ブレインやブルーノ・シュナイダーの奏法も(ふたりとも、わたしの奏法によく似ている)、マウスピースのリムが上唇に当たっているためにアインゼッツェンだとしている人の意見も読んだことがあるが。

デニス・ブレインの演奏動画

ブルーノ・シュナイダーの演奏動画

上唇または下唇をめくり出して唇の内側にマウスピースのリムを置くやり方は、わたしの普段のやり方とは見た目も機能も大きく異なるため、わたしのアンブシュアも、ブレインのアンブシュアもシュナイダーのアンブシュアも正確に「アインゼッツェンである」とラベルを貼ることはできないと思う。

【それは本当にアインゼッツェン?】

マウスピースのリムが上唇または下唇に触れるような当て方をしているからといって、それを以って単純にそのアンブシュアがアインゼッツェンであるとは言えない。特に、唇の赤い部分が分厚いひとにとってはそうだ。

アインゼッツェンとは、唇がめくり出され、その唇の内側にマウスピースのリムが置かれているアンブシュアを指す。

トランペットかホルンで超低音域を演奏する場合を例外として、現代において楽器の音域全体をアインゼッツェンのアンブシュアで演奏している奏者に会うことはかなり稀だ。

たしかに、わたしもわたしの活動している地域で仕事をしているホルン奏者でひとり、どの音域を演奏するときもマウスピースのリムが唇の内側に置かれている奏者を知っている。しかしながら全体的には、通常の演奏音域においていくつかの困難なことが起きがちなので、わたしこのアインゼッツェンの吹き方を原則として推奨しない。

【もはや有用でない用語】

ただし、そもそもオスカー・フランツの言う「唇の内側」というのが、わたしが述べてきたような「めくり出した内側」ではなく、単純に唇の赤い部分を指している可能性もある。

「アインゼッツェン」と「アンゼッツェン」という言葉は、わたしたち金管楽器奏者のアンブシュアを研究するような者にとっては歴史的な意味での関心はあるが、現代の演奏者たちのアンブシュアや奏法を説明するうえではもはやあまり有用な言葉ではない。

もう、このような言葉を用いることそのものを止める時期に来ているのではないだろうか。そして、例えば『金管楽器奏法の3つの基本アンブシュアタイプ』にあるように、もっと現実に記述・説明可能な用語を用いていくべきではないだろうか。

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