息のパワーの作り方

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きょうは管楽器を演奏するひとにとって興味や疑問が尽きず、また悩みの種でもある

「息のパワー」



について、お話しします。


【息のパワーの作り方】

管楽器を演奏するとき、唇あるいはリードを振動させ続けるために一定時間強い勢いで息が口から流れ出続ける必要があります。

肺から気管を通って口から出て行く息の流れ出る強さや量をどうたくさん得るのか。

そういう意味での「息のパワー」を高める方法を探っていきましょう。


【舌】

舌は、息の通り道にあります。
そしてとても自由かつ強靭に動かせる部位です。そのため、息の通り道の形を大きく変えることが出来ます。
そうすることで、吐く息の流れ方にいろんな影響を与えることができます。

そのため、管楽器演奏教育の歴史上、いくつかの時代や流派で「舌の操作」「舌の技術」に重点を置くメソッドが存在しています。とくにトランペット奏法においては重要度が高くなります。

ただし、舌は「息の通り道の形状」操作はできるものの、息自体を出せるわけではありません。

そのため、望んでいる圧力や流れ方を持続するためには息が「流れ出て続ける」必要があるわけですが、そこに舌は関与しないわけです。

息を出し続ける主役は、胴体の力です!


【胴体(=お腹+胸郭)】

管楽器演奏において「息を流しだす主役」は、お腹です。

息を吸うとき、横隔膜といって、肋骨や胸骨の縁に付いている(位置的には肺や心臓の下)にある筋肉が働き、収縮して下方に動きます。

その後息を吐いている間、横隔膜はいずれはまた緩んで上方に戻ります。

しかし、筋肉はいったん働いたあと、自力で緩んだりもとの位置にもどったりすることはできません。
他の筋肉や動きによって「戻してもらう」必要があるのです。


それをやってくれているのが、

「腹筋」と「骨盤底の筋肉」と「肋骨につながる筋肉」

です。


腹筋は、肋骨と骨盤の間のスペース(腹腔)をぐるりと取り囲んでいます。前も、横も、後ろも。
骨盤底は、文字通りに胴体の「底」にあたります。
肋骨は、ふつう思っているより上にも横にも後ろにもあります。触ってチェックしてみましょう。


力がかかる方向は、

腹筋:胴体の前、横、後のあらゆる方向からお腹の内側へ
骨盤底:胴体の下からお腹の内側へ上方向に
肋骨:肺から息を絞り出すように背骨に向かって体の内側へ

です。


すると、胴体の力で空気が上へ上へ、口に向かって押し出されて行くのです。
この仕組みこそが、息のパワーの主役です。

・息を出すこと自体に直接関る仕組みであり
・非常に強い

です。


管楽器演奏は「息の力仕事」を必要とします。
管楽器演奏には「パワーが要る」のは間違いありません。


そのパワーとはここでは息を吐き出すのパワーのことを指していますが、パワーの源としては胴体の力が最適なのです。



【息のパワーを作るコツを実感できるクササイズ】

A,B,Cの三つのやり方を比較して体感することで、いちばん使い易いもの(C)のやり方をモノにできます。


〜A方式〜

1:口の30センチ前あたりに手のひらを顔側に向けて手を掲げます。

2:フーッ!とただ思いっきり息を吐きます。

3:どれくらいの強さ、スピード、範囲で息がてのひらに当たっているか感じて下さい。

4:首、肩や胴体はどんな感じでしたか?どんな感じで動いたり動こかなかったりしたか様子を見ましょう。


〜B方式〜

1:口の30センチ前あたりに手のひらを顔側に向けて手を掲げます。

2:こんどはみぞおちのあたりをグッと落として、顔を少し前に出すようにしてフーッと息を吐きます。「楽器に息を吹き込む」ような意識です。力のかぎりを尽くしてください。

3:どれくらいの強さ、スピード、範囲で息がてのひらに当たっているか感じて下さい。

4:首、肩や胴体はどんな感じでしたか?どんな感じで動いたり動こかなかったりしたか様子を見ましょう。


〜C方式〜

1:姿勢を元に戻します。

2:口の30センチ前あたりに手のひらを顔側に向けて手を掲げます。

3:口の天井の硬い部分を舐めてみてください。口の天井の硬い部分の位置、形、範囲を感じてなんとなくイメージします。

4:この口の天井を目がけて息を思いっきり吐きます。息は前や下に吹き込むのではなく、口の天井を目がけて吐くのです。

5:お腹を内側にどんどん押す・絞るようにしてみましょう。お腹の前も後ろも、脇腹も。胴体の底からも息を押し上げるつもりで。

6:胸も動いてOKです。息を吸う前の位置よりさらに内側へと肋骨を動かす/絞るようなつもりで。

7:この間ずっと、息は口の天井を目がけて。少し遠くの、高くも低くもない場所やものを見続けながらやると効果的です。

8:どれくらいの強さ、スピード、範囲で息がてのひらに当たっているか感じて下さい。

9:首、肩や胴体はどんな感じでしたか?どんな感じで動いたり動こかなかったりしたか様子を見ましょう。



【強くて速くて太い息】

比較してやってみると、

「C方式が、強くて速くて太い息を出すことに役立つ方法である」

ということがわかってきます。


興味深いのは、B方式でも圧力やスピードは確保できているのに、息が当たる範囲は狭く、場合に寄よっては散漫になっているということです。

B方式は、フォルテになると音が薄っぺらくなったり汚くなったりするのです。


A方式は、すでに自然と良い奏法を身につけているひとは結果的にC方式と同じになります。

息の吐き方や構え方に損な癖や、そのひとにとってもうあまり役立っていない体や奏法に関する考え方の影響下にあればB方式やそれに似た別の損な吹き方になります。

A方式はある意味、自分にすでに定着している息の吐き方はどんなものかを発見するリトマス紙です。


C方式の息の吐き方は、「お腹を使って吹く」ことの感覚を体験できるものです。
使っている息の量自体も多いので、吸い方もダイナミックで良いものにつながってきます。



A方式/B方式/C方式それぞれの息の吐き方が分かったら、試しに実際に楽器を付けて音を鳴らし、三方式それぞれの音のちがいを確認してみましょう。

C方式が断然音が、大きく・豊かで・太い音になるのでビックリすると思います。


ご自身で試して効果があった場合は、生徒さんやお友達にも教えてあげてください。
教えている本人が実感できていれば、うまく相手にも伝わります。


Basil Kritzer


P.S.実際やってみてどうだったか、どんな変化や学びがあったか、あるいはどんな疑問が生まれたか、ぜひ教えてください。basil@bodychance.jp



27 thoughts on “息のパワーの作り方

  1. 分かりやすい~~!! 私は楽器はやらないのですが、呼吸に興味を持っています。
    ABCの実験やってみました。ほんとだ~。明快~~。
    しかも先生の助けなしで自分で理解出来たのもうれしいです~~。
    楽器演奏しない人にとっても、楽しいブログなのがいいですね!

  2. >自発的にお腹を絞るようなイメージ

    私は、息の通り道はフリーにして、腹筋は勝手に力が「入っちゃった」ようなイメージで吹いているのですが、この「自発的」というのは、自分自身で腹筋に力を入れて(絞って)息を出す、という風に取れるのですが…

    あと、横隔膜は一応「随意筋」ですが、これをコントロールしている、という実感が全くありません。

    単純に呼吸に携わる箇所を「解放」して、腹筋が「動いたくれている」ぐらいの意識で良いのでしょうか?
    もしくは横隔膜をコントロールをする必要があるならば、それに関するエクササイズをご教授して頂けると幸いです。

    PS 何日か前から肋骨の下あたりから息を上に向かって、と意識「だけ」したら、音質も良くなった気がしますし、確実に高音域が当たりやすくなりました。これも先生のおかげです。ありがとうございます!

    • だあ!さん

      「自発的」は「力を入れる」というよりは「動かすつもりで」という感じでしょうか。

      「勝手に入る」より積極的にやってみることをこの記事では推奨しています。実感を得るために。うまくいっているのならば、「勝手に入る」という感じでよいのですが、実際にレッスンをしていると、大抵は「より積極的にやる」ことを体感してもらってそれが好結果につながり、本人も「思っている以上にお腹でやるんだ」という感想をよく聞くので、この記事では積極的に「やる」ことを勧めています。

      横隔膜ですが、横隔膜の「感覚」って全然ありません。学者によっては「不随意」と言います。「呼吸をしよう」としたら動きますから、「呼吸」が随意運動であるとしたら随意筋と言えますが、「横隔膜を動かそう」としても動かせません。そういう意味では、「呼吸運動」は随意でも「横隔膜は不随意」と捉えてさしつかえないかと思います。私自身、横隔膜自体をコントロールする方法を知りません。

      • なるほど!より積極的に、ですね。凄くスッキリしました!!

        横隔膜の件も疑問が解けたので良かったです。ありがとうございます。

  3. 当方、Hr吹き5年目です。
    大学のオーケストラ部に入ってから楽器を始めて、先生に習う機会もあまりなく自分自身で研究して練習していることが多いです。

    最近気がついたのですが、高音域やフォルテッシモでなんでしんどくなるかというと
    明確な目標がない⇒とりあえず、闇雲に力んで音を出す⇒しんどい、金切り声のような音が出る⇒高音域はしんどいって思い込むっていう無限ループに落ち込んでいるように思います。金切り声のような音だとやる気も出ないですし(^^ゞ
    C方式やってみると確かに音ではなくて、実際に聴覚以外で自覚できるのでより明確な目標になるのでちょっと練習前にやってみます。個人的には「腹式呼吸とは何か」って色々教わるよりもまずはこんな分かりやすい説明をしてもらえるとすぐにうまくなれたんだろうなと。具体的にどこの筋肉を使うのか、どこを意識して吹くのかが明確化しますので。

    またこれも踏まえると、リンク先の呼吸エクササイズもより理解が深まる気がしますね。

    • デュラさま

      はじめまして。コメントありがとうございます。
      的確な分析素晴らしいですね。

      私もまた、世に言う「腹式呼吸」が全く理解できず、「どゆーことやねん」と探求してきたのがいまにつながる一面となっています。

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  10. ホルンを吹いています。最近、高めの音がどうしても薄っぺらく荒い音になっていて練習意欲がごっそり削がれていたのですがこの記事にたどり着いてABCとやってみたところ、自分はいままでBで吹いていることがわかり、Cにしてみたところ人が変わったかのように音が豊かに明瞭になりました。あと息が楽器に素直に入っていく感じがして吹いてて気持ちよかったです。

    B方式で吹くと、お腹を使うとか意識しなくても勝手にお腹を使って吹ける感じがしました。いままでお腹を使うということが漠然としてたのですがハッキリわかりました!(言葉では説明しづらいですが。
    )あとBで吹いているときに、意外と胸骨の辺りが動くのを実感しました。

    息の通り道を意識するだけでこんなに音が変わるんですね。いままで真っ直ぐ息を入れたほうがいいとずっと思っていました!わたしも友達や後輩に教えようと思います。ありがとうございます。

    • たぶん、C方式かな?
      いずれにせよ、役立って嬉しいです。

      胸骨の動きは、お腹からの押し上げと、「息の支え=息を吐きながらも息を吸う筋肉が使われ続けている」が働いているのだろうと想像します。きっとよいことです。

      フェスティバルバリエーション、めちゃうまいっすね!

      Basil

      • すみません、C方式でした!訂正ありがとうございます。

        動画聞かれたのですね笑まだまだこれからなので頑張ります。ありがとうございます!

  11.  テナーサックスを吹いていますが,高音域で音程が下がることになやんでいます。先輩から腹圧が低いから下がるんだと言われますが,この『息のパワーの作り方」=腹圧の作り方と考えてよいのでしょうか。それとも別物なのでしょうか?

    • みのださま

      深く関係はしますが、イコールではありません。

      ここでいう「息のパワー」は、息を吐く力のことです。

      「圧」はそれだけでなく、「吐いている息が出て行かないようにする力」が働く必要があります。
      端的に言えばそれは、息を吐くときも、息を吸うときに使う力(外肋間筋、横隔膜ほか)を使い続けることが必要です。

      この記事の「パワー」はそちらではなく、純粋に「吐く力」のことです。

      では「圧」の方は??
      下記の記事をご参照ください。

      ・http://basilkritzer.jp/archives/5025.html
      ・http://basilkritzer.jp/archives/1470.html

      Basil

  12. Pingback: 合奏で言われるホルンが言われる「もっと太い音で吹いて」というアドバイスの意味と罠 - GONLOG ホルン吹き権左勇一のブログ

  13. チューバを吹いているのですが、口の天井に息をあてるというのがうまくできないです。
    私は息をマウスピースの下のほうに向けるアンブシェアで今までやってきたのですが関係ありますか??

    • 川さん

      基本的には、口の天井に誰でも必ず当たっています。
      通り道だからです。

      だから、口の天井をなめて、確認して、そこに息を当てると意識して、吹く。
      それでどんなふうに音や吹き心地に変化があるか?です。

      うまくできない、と判断することが本当はできないはず。
      何をもって、うまくできないと感じていますか?

      マウスピースの下の方に息を向けるアンブシュアというのは、
      超高位置か中高位置のアンブシュアですね。
      (詳細:http://basilkritzer.jp/archives/4855.html)
      それがあなたに合っているなら問題ありません。

      マウスピースの下に息を向けるか、マウスピースの上に向けるか。
      これは口から外に息が流れるときの方向の話であり、口の天井に向かわせるというのはその前の体内の息の流れの話ですから、関係ありません。

  14. 先生や先輩から、息のスピードが遅いと言われすごく気にしていた時にこのブログを拝見しました!
    とてもわかり易かったです!

    • ゆうなさん

      それはよかった!
      これからもこのブログをどうぞよろしくお願い致します(^^)/

      Basil

  15. こんにちは
    A方式ではただただ息を吐いて口全体の抵抗は受けているものの、たくさんの息を吐くことができましたが、どこに向かって吐く、などの目標物がなかったので、まとまらずにただ大量の息を吐いている、という結果になりました
    B方式では、楽器に息を入れるように、ということから、丁寧に息を作ろうとはしましたが、勢いや圧が小さくなったように感じました
    C方式は、口の天井という抵抗に息を流すことで、息が少しまとまった状態で口から出たように感じました!
    AよりもCの方が、抵抗が1つ増えることで口から出る息の量は、少し減りましたが(この考えは合っているでしょうか?)
    まとまりのある息にはなりました
    音もすっきりして、友達に試してもらったところ音の実が濃くなったように感じました。
    ありがとうございました!
    これまでの私の考えでもし何か間違っている考えなどが見られたら教えていただきたいです。

    • うみさん

      こんにちは。

      Cで、口の天井に息を流すから抵抗が増える、ということではないと思います。
      というのも、口の天井に当たっているのはおそらくA,B,C全部共通だからです。

      でも、AよりCの方が意図があるので、口やベロや吐き方などに操作が加えられ何かが変化した結果、
      抵抗感や息の流れる量が変わっているということは、十分考えられます。

      このエクササイズは、あくまで「楽器に息を吹き込もうとするときに引き起こされがちな悪癖」を抑制して、
      代わりにお腹の力を使う感覚を体験できるようにする確率を高めることを意図して設計しています。

      ですので、効果さえあれば、よし。
      そしてあまり、「どういう意味か」「理解は合っているか」を気にするより、書いてある通りに比較してやってみると
      「どうなるか?」というところでとどめてよいものだと思います。

      その点、うみさんの体験とお友達の体験はきっと良いものだったようですから、
      安心して大丈夫だと思います。

      Basil

  16. 長年Trpを吹いています。フィリップファーカスの本に縛られていたわけではないのですが、マウスピースには息をまっすぐ入れるものとの思っており吹いていましたが、高音で息を入れるとアパチュアを意識してすぼめて高音を吹いていました。当然音がきつく貧弱になっていました。息を上に(口の天井向けて)吹くを実践した瞬間に全く別世界の音質・音量・音域になりびっくりしています。ただそうすると下唇が出てくる(息を上に向ける)感じですが、この感覚が正しいのか、やりすぎなのか加減が分かりません。耳で判断しようとは思っていますが、適正なところに関しアドバイスが頂ければ嬉しいです。

    • たかさん

      こちらの記事「息の流れの方向と金管のアンブシュア」を読んで頂けると分かりますが、
      唇から外に向かう息の流れに関しては、必ずひとによって上方向か下方向に分かれ、決まっていることが実験により確かめられているようです。

      まっすぐマウスピースに向かうものではなく、もし向かっているとそれはむしろアンブシュアの機能と乱れとして現れているようです。
      指導法として、「まっすぐマウスピースに向かって息を入れて」というのは、潜在的にリスクがあることを私はこの研究から学びました。

      一方、今回コメントして頂いた記事「息のパワーの作り方」において扱っている「息の方向」は、体内の中の流れのことを指しており、
      それはだれでも上むき、かつ口の天井に向かってやや斜め前になっていますね。


      下顎が出てきて息が上向きになってきた、というのは、これは体内の流れではなく唇から外への流れ方のことですね。

      吹きやすく、テクニックが機能しやすくて、音が良いなら、たかさんにとってその新たに体験した吹き方が合っている可能性は高いと言えるでしょう。
      息が上むきに口から外へ流れるひとは、相対的には少数ですが、まちがいなく存在するタイプのひとつです。

      「低位置タイプ」と呼ばれます。詳しくは下記の記事郡をご参照ください。
      金管楽器の3つの基本アンブシュアタイプ
      低位置タイプに関係する記事一覧

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