ドナルド・S・ラインハルトの教育法〜9つのアンブシュアタイプ〜

David Wilken氏(以下、ウィルケン)のウェブサイトの翻訳に取り組んでいます。 http://www.wilktone.com

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今回翻訳するのは、アメリカ人トロンボーン奏者のドナルド・S・ラインハルトの奏法論と教育法に関する記事です。

原文こちら:

An Introduction to the Pedagogy of Donald S. Reinhardt http://www.wilktone.com/?p=5148

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ドナルド・S・ラインハルトの教育法

以下の記事は、2003年にオンライン・トロンボーン・ジャーナルに「ドナルド・S・ラインハルトのピボットシステム」という題で掲載されたものを書き直したものである。

オンライン・トロンボーン・ジャーナルがもう更新されておらず、コードが古くなって記事へのアクセスができないため、良い機会だと捉えて、ラインハルトの教えに興味がある方々に、細かいディテールで圧倒させてしまわずに、みなさんの演奏や指導に活かせるようにしようと思う。


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ドナルド・S・ラインハルト氏(1908~1989)は、アメリカのトロンボーン奏者であり音楽指導者であった。


若いとき、彼は非常にたくさん練習し、何人もの経験豊かな指導者に師事したにも関わらず自分が技術的になかなか進歩しないことにフラストレーションを溜めていた。

そんなある日、事故により彼のトロンボーンのチューニングスライドが損傷してしまった。修理から戻ってきた楽器は、修理担当者の不注意により重心が左にずれてしまっていた。


ラインハルトがその楽器で演奏しようとしたところ、重さのバランスの変化によりいつもよりずいぶんベルが下がる角度で演奏することになったのだが、なんとそれが彼にとってはよい結果をもたらした。

楽器の角度の変化による見た目上新しいアンブシュアが、彼の知っていた身の回りの金管楽器奏者たちのアンブシュアと著しく異なっていたため、ラインハルトは他の奏者たちの奏法に興味を持って研究するようになった。


それから時間をかけて、彼は何千人もの奏者のアンブシュア、タンギング、呼吸やその他の金管奏法におけるメカニカルな側面を分析し、分類していった。

1939年、ラインハルトが当時所属していた劇場オーケストラが解散になったため、彼はしばらく休職して妻と米国全土を旅した。この旅の途中、彼はカンザス州で若いトロンボーンの学生と会い、短時間レッスンをしてあげた。

この生徒を手助けしたことが、金管奏者が楽器演奏の技術的習熟をより良く行えるように教えるというラインハルトの興味につながった。

その後数年間、彼は無料で金管楽器のレッスンを行い、自らのアイデアを検証した。そして1954年になってから、フィラデルフィアにレッスン・スタジオを開設することとなった。


ラインハルトは自らの金管教育アプローチを「ピボット・システム」と名付けたのだが、のちに彼はそのことを後悔した。ピボット(旋回運動)という言葉が、彼が奏者たちに楽器を演奏中あちこちに動かし回させるよう教えている、という印象を金管奏者たちにもたらし、「システム」という言葉はあらゆる金管奏者が従うべき普遍的アプローチがあると示唆してしまうからだ。

実際には、彼の教育法の目標とするところは、ひとりひとりの生徒が、その生徒自身の解剖学的、生物学的構造に沿って前進できるような身体的そして精神的手順を見つけることにあった。


彼はこう書いていている。

「ピボット・システム」は科学的、実用的であり、音域・音量・耐久力・柔軟性に最大限のものを生み出すことが証明されたメソッドだ。トランペット、トロンボーンその他カップ状のマウスピースを用いる金管楽器に使える。40年に亘る調査と実験が実際の演奏、指導、著述、講演を何千人ものプロ奏者、セミプロ奏者、指導者、教育者、学生などに対して行うなかで生まれたものである。また、個人仕様のマウスピースを設計・製作し、代表的な金管楽器メーカーの顧問として楽器の設計に携わってきた経験も関わっている。

このシステムは試行され検証された原則に基づき、まず第一に奏者の備える身体的条件を分析・診断し、つぎに唇・歯・歯茎・顎そして全般的にその奏者が元々から備えた身体的要素を最大限の効率で以って活用できるような具体的・個別的な原則と手順を与えるものである。


(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973 page XI)


これで分かるように、ラインハルト氏の教え方は生徒個々に最適化されたものであった。そのため、彼の教育法の概要を提示するのは非常に難しい。


彼自身は、呼吸・タンギング・アンブシュアという3要素に分割して演奏の仕組みについての対話を行った。生徒個々の必要としていることに応じて、それらの要素のうちのどれかを他の要素より強調し、その生徒の改善を助けるようなルーティーンを個々の生徒に特化して発達させた。



【呼吸】

ラインハルトの呼吸に関しての教えは、他の多くの金管指導者たちがそれまで長く主張してきたことを反映している。彼は良い呼吸の基礎は良い姿勢に始まり、それは座奏においても立奏においても共通すると感じていた。しかし、「呼吸のための時間を取る」「口角から吸う」というふたつのアプローチは他の指導者いくらか異なっていた。


ラインハルトは、いつも目一杯吸うのではなく、そのフレーズを快適に演奏できる量だけ吸って、それ以上は吸うべきでないと信じていた。吸いすぎは特に高音域の演奏時でめまいや力みなどの問題を引き起こすと感じていた。一方で吸いの不足は音が薄くなりタンギングとアンブシュアの協調がうまくいかないと考えた。生徒には、次のフレーズに間に合わせようとなるべく急いで速く吸うのではなく、可能なときはゆっくりと呼吸するよう練習することを求めた。


口角から息を吸う、という彼のアドバイスはもっと珍しいものだった。ラインハルトは、多くの金管奏者の問題が、息継ぎをするときに唇をマウスピースから引き離し遠ざけるようなことをしているが故に起きていると感じていた。この傾向に対抗するため、彼は生徒たちに、マウスピースの位置を保ち、口角から息を吸うよう指示した。彼は口の真ん中部分を「排出弁」、口角を「摂取弁」というイメージになぞらえた。息を吸い終わったら口角を閉じて口をすぐに前方の演奏ポジションへと持って行き、ためわらずに吹き始めるように、と教えた。

(訳者よりひとこと:著名なホルン奏者のラデク・バボラク氏はまさにこのように演奏している)



【タンギング】

ラインハルトのタンギングに関する指示は生徒の口腔容積、舌の長さ、下唇の下顎の歯の関係そしてその他の解剖学的・状況的な条件に応じて非常に細かく、また非常に多様(生徒により大きく異なる)なものであった。しかしながら、彼は金管楽器のタンギングの仕組みを次のように分解して説明した。


ピボット・システムにおいて、舌は主に三つの役割を担っている。

 

1:舌のアーチの高さは音域のコントロールする要素のひとつである。

2:舌を後ろに引く距離は空気の量とスピードを決める要素のひとつである。

3:舌を(訳注:歯や唇に対して)つける高さは円錐状の空気柱の大きさを方向付け、管理する。空気柱が、望む音程が演奏できるように唇が振動するよう圧縮されたアンブシュアの裏側に当たることができるようにしているのだ。

(– Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, page 82.)


彼はほとんどすべての生徒たちに対して、舌が唇に当てて発音することをやめさせるようにしていた。彼はこう書いている。


「奏者が舌を歯と唇の間に進入させるとき、実際には奏者は歯と唇を能動的に開けている。舌先が間に入るようにするためだ。これをすると、唇が振動するようにするために唇が近づきあい閉じ合うようにすることを反射作用が行うタイミングに、奏者は潜在意識的に頼ることとなる。一部の奏者たちは何年もこのやり方でやっていけるのだが、年齢が進んで反射作用が遅くなるにつれて演奏上の真の困難が始まるようになる」

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, pp. 100-101.)


ラインハルトのタンギングタイプに関する情報をもっと読みたい方は こちら「金管楽器奏者の8つのタンギングタイプ」をご覧頂きたい



【アンブシュア】

ラインハルトの教えが金管教育に最も貢献するのはおそらくアンブシュアに関することである。アンブシュアの異なるタイプについて言及し指導において重要な部分としたのは、金管演奏にかんする著述者たちのなかでおそらく彼が初めてである。彼のアンブシュアに関する意見については、今日においてもまだ議論の余地があるが、彼が記したアンブシュアタイプはのちの指導者や研究者たちによって別個に発見されており、それを理解して指導に活用する意志がある金管指導者たちにとっては強力なツールであることは間違いない。


ラインハルトのアンブシュアタイプを理解するには、まずすべての金管奏者のアンブシュアが備えている2つの基本的な特徴を誓いすることが必要である。奏者自身がそれを自覚しているかどうかは別だが、その二つとは ①息の流れの方向②アンブシュアの動き である。ラインハルトはアンブシュアの動きのことを初めは「ピボット」と呼んでいた。


〜息の流れる方向〜

1:下方流方向の奏者

下方流方向のアンブシュア

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多くの金管奏者は息の流れの方向を楽器のベルの向き・角度、によるものだと考えているが、透明なマウスピースを用いた検証によって、息の流れの方向を主に決定づけるのはマウスピースの中の上唇と下唇の割合であることが明らかになっている。


金管奏者が上唇が下唇よりたくさんマウスピースのカップの中に入るようなセッティングを行うと、上唇が息の流れに対して優勢になり、息の流れは下向きの角度で振動する唇を通過する。

このような下方流方向の奏者が高音域を演奏するとき、息の流れの方向はさらに下向きにされる。一方で、下方流方向の奏者が低音域で演奏するとき息の流れの方向はマウスピースのシャンクにまっすぐ息を吹き込むような角度に近づく。


2:上方流方向の奏者

上方流方向のアンブシュア

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上方流方向の奏者はちょうど真逆だ。この奏者たちはマウスピースのカップのなかで下唇の割合が優るようなセッティングを行い、息の流れは上方向へ向かって唇の間を通過するように吹かれる。

これらの奏者たちが高音域を演奏するとき、息の流れはさらに上方向に唇を通過し、低音域ではより真っ直ぐ角度に近づいて吹かれるように見える。


金管演奏のアンブシュアと息の流れの方向についてより詳しくはそれについての記事があるので こちら「息の流れの方向と金管楽器のアンブシュアをご覧頂きたい。



〜ピボット〜

金管奏者のアンブシュアを分類するのにラインハルトが用いたもう一つのアンブシュア特徴は、彼が「ピボット」と名付けた現象である。ラインハルトは年月のなかでこの言葉の定義を修正していっており、のちに彼の教育法の名称となってしまったことを公開した。


指導を始めた初期の頃、彼はピボットを次のように定義した。


ピボットは、上唇・下唇の使用切り替えのなかで行われる圧力の移し替えのことである…. 音のいちばん開放的なツボを捉えるために楽器がわずかに傾けられる。

(-Reinhardt, Pivot System Manual for Trombone, 1942, p. 23.)


この定義はピボットにおいて楽器を傾ける動作が重要な事柄であることを示唆することになり、それがラインハルトが音域を変えるために楽器をあちこち上下に動かすことを主張しているのではないかという金管奏者からの誤った推測を誘発してしまった。


もっと後になってから、彼はよりピボット現象のより正確な定義を述べるようになった。


ピボットは歯の上(表面)でマウスピースのリムが接触した唇を押し上げたり引き下げたりすることによってコントロールされている。アンブシュアの表層….とマウスピースは垂直に動き(ひとによっては若干右か左に傾いた軸上になるが)、これは目には見えないがアンブシュアの内側の垂直的軌道と一体である…しかしながら、アンブシュアの表面でのマウスピースの位置は変えられたはならない。

(– Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, p. 194.)


ピボット動作1類

奏者によっては音域を上がるにつれてマウスピースと唇を一体的に鼻の方へと挙上していく一方で、


ピボット動作2類

他の奏者は音域を上がるためにマウスピースと唇を顎先の方へと引き下げる。


また、多くの奏者は完全に垂直な上下ではなく、角度のついた軌道上を動いた演奏がうまくいく。楽器のベルの角度はそうすることで正しく変えられる(訳注:演奏中動くということ)が、角度の変化量は奏者個人ごとに異なるかもしれない。

ラインハルトがピボットと呼んだアンブシュアの動きについてより詳しくはこちら「金管楽器のアンブシュア動作」ご覧いただきたい。



【アンブシュアタイプ】

このようにして奏者ごとの息の流れの方向、ピボットの方向、そして何もしないときの顎の位置・演奏中の顎の位置を指標にしてラインハルトは四つの主なアンブシュアタイプと5種類の副次的タイプに分類した。


しかし、これらのタイプのいくつかは演奏中、同じように機能するため、ラインハルトに師事した奏者たちは自らが教えるときは金管奏者のアンブシュアを3つもしくは4つにのみ分類する。


ラインハルトのアンブシュアタイプについて知る前に、彼自身はアンブシュアタイプは生徒の備える解剖学的特徴によって決まっており、教師や生徒が任意で選んだり変えたりできるものではないと感じていたことを分かっておくのが大切だ。

ラインハルトは長期的な上達と演奏がうまくいくためには生徒の解剖学的構造にマッチしたアンブシュアタイプを選択してやっていくことが最善であり、タイプをあれこれ使い分けたり生徒の構造に合わないタイプをやらせるよりよいと感じていた。


アンブシュアタイプはそれぞれごとの一般的な特徴があり、それはそのタイプごとに対応したルーティーンやエクササイズが有用である可能性があり、それはタイプ間で互いに非常に異なる場合がある。何年も注意深く実験していくなかで、ラインハルトは異なるアンブシュアタイプの奏者たちがそれぞれに最善の上達ができるようなタイプごとの練習ルーティーンとエクササイズを整備していった。



アンブシュアタイプ:1&1A

タイプ1の歯の構造

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タイプ1とタイプ1Aは他のアンブシュアタイプに比べて稀である。このタイプの奏者の上下の歯は、顎をなにもしていない状態で揃う。奇妙なことに、この歯と顎の構造の場合、マウスピースは必ずかなり高い位置(これは「タイプ1:下方流方向」)か、非常に低い位置(これは「タイプ1A:上方流方向」)のどちらかにでないと効率的に機能しないようだ。

タイプ1のアンブシュアは、演奏中はタイプ3Aかタイプ3Bと同じであり、タイプ1Aのアンブシュアはタイプ4と同じである。そのため、タイプ1と1Aに関してはここでは詳細に解説する必要がない。

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, p. 205).


アンブシュアタイプ:2&2A

タイプ2と2Aは、上下の歯の自然な位置(なにもしていないときの位置)によって区別される点において先のタイプ1,1Aに似ている。

このタイプは珍しく、このタイプの奏者は顎を何もしていない状態で上の歯より前に下の歯が出ている。この歯と顎の位置により、この特徴を備えた個人はほとんどいつも上方流方向に息が流れるアンブシュアで演奏することになり、それでマウスピースカップ内での下唇の割合を多くすることを必要になる。

顎を何もしていない状態での歯の位置関係を除き、このタイプ2はタイプ4と実質上同じである。

タイプ2Aはタイプ4Aと演奏中のアンブシュアが非常に似ている。この類似性により、ここでは詳細の説明を必要としない。

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, pp. 206-207).


アンブシュアタイプ:3

タイプ3、3A、3Bはここまで解説した1,1A,2,2Aに比べるとずいぶんと一般的なタイプだ。

このタイプの奏者の下の歯は、顎を何もしていない状態では自然と上の歯より後ろにある。このタイプの奏者は上下の歯が揃う位置よりさらに前に顎を出すことは稀であり、3,3A,3Bはいずれもマウスピースカップ内で上唇の割合が優るようなマウスピースの置き方になる。


ただし、ラインハルト式のアンブシュアタイプ3は、「ジャムサンド」と形容されることがあり、上唇の割合が優るといえでもそれは少しだけである。

しかしながら上唇の割合が上回っているため、息の流れはマウスピースのカップ内では下向きに方向づけられている。

タイプ3は顎が上の歯より後ろにあるため、楽器のベルの向きは下向きに傾いていることが多く、かなり極端に下向きに見えることもしばしばだ。

顎が後ろにあることに加え、このアンブシュアタイプ3を他と区別する特徴は、奏者の下唇の膜組織部分が下の歯に少し被さる、または巻き込まれているところだ。このタイプの奏者は、音域を上がるにつれこの下唇の巻き込みが顕著になる。

タイプ3のアンブシュアの動きは、普通は音域を上がるにつれて顎先に引っ張られ、音域を下がるにつれて押し上げられる。


より稀なケースではタイプ3の奏者も逆の動きを行う場合がある。音域を上行するに唇とマウスピースを鼻方向に挙上し、下行するにつれ顎先へ引っ張り下げるのだ。

多くの場合、タイプ3は極端な高音域に困難を経験し、FからハイBbの間のどこかからタイプを変えて演奏している。(訳注:トロンボーンだけなのか、他の金管楽器も当てはまるかは不明)これはトランペット奏者において特に頻繁に見られ、それはマウスピースの小ささとより速い唇の振動の必要性によるものだ。

このような場合に、ラインハルトをタイプ3Aもしく3Bと再分類した。3Aか3Bかは極端な高音域にどんなアンブシュアタイプになっているかで判断した。

真正のタイプ3奏者は、タイプ3Aか3Bのように演奏するために必要なほど顎を前に出すことができない構造のひとたちだ。

(Sheetz, PivoTalk Newsletter, Vol. 2, #3, p. 3).


タイプ3,3A,3Bいずれにも共通する演奏上の困難は、顎が後ろにあるがゆえにベルを下向きにせざるを得ないことにある。この問題を抱えている奏者たちは、(訳注:ベルを上げようとして?)頭を後ろに持って行きすぎて首に不要な負担をかけ喉を制限してしまわないように注意が必要で有る。

(Sheetz, Quirks of the Types).


アンブシュアタイプ:3A

タイプ3Aのアンブシュア

IIIA

タイプ3Aのアンブシュアはマウスピースをかなり高めに置く傾向があり、トロンボーン奏者の場合は鼻の真下にくることが多い。これらの奏者の典型として、真正タイプ3よりは顎を前に出すことが多いが、下の歯を上の歯の前まで押し出すことは一切ない。なお、顎が前に進出した位置で演奏するときは、楽器の角度はほぼ水平か場合によってはそれより上向きになることすらある。

この奏者たちは上唇がマウスピースのカップ内での割合が下唇に優るため、下方流方向奏者と分類される。

タイプ3A奏者のピボット動作1類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを鼻方向へ一体的に押し上げ、音域を下がるときは顎先へ引っ張り下げる)を用いることになる。

タイプ3系の奏者がピボット動作2類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを一体的に顎先へ引っ張り下げ、音域を下がるときは鼻方向に押し上げる)の方がうまくいく場合、ラインハルトはその奏者たちをタイプ3Bと分類した。

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, pp. 208-209).


ラインハルト式のアンブシュアタイプ3Aに属する奏者は多くの場合、息を吸うときに楽器の角度を上げる傾向がある。その後マウスピースのリムを唇に戻して当てるとき、マウスピースのリムを唇にぶつけがちで、これが腫れを引き起こし持久力を損ねてしまう。トロンボーンなど大きいマウスピースを用いる楽器奏者のタイプ3A奏者は音を上行するときのピボット動作(1類)行うときに鼻が邪魔になることがあり、その場合はピボット動作だけに頼るのでなく唇の厚み(パッカー)を増す練習が必要とされる。


アンブシュアタイプ:3B

タイプ3Bのアンブシュア

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アンブシュアタイプ3Bはおそらくもっとも数が多いタイプであり、特にオーケストラ金管楽器奏者においてはそうだ。そのため、ひとつのタイプのアンブシュアしか勧めないような金管楽器指導書や理論書で最も頻繁に記述されているのもこのタイプだ。

このタイプの奏者たちは、タイプ3Aの奏者たちほど高いマウスピースのセッティング位置は用いないし、真正タイプ3ほど低くもない。上唇はこのタイプでもまだ下唇に対してカップ内での割合が優り、そのため下方流方向の奏者に分類される。

下の歯は上の歯より後退しており、ふつうは楽器の角度が3Aより下がっている。


タイプ3B奏者たちは必ずピボット動作2類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを一体的に顎先へ引っ張り下げ、音域を下がるときは鼻方向に押し上げる)を用いている。タイプ3Bのはずでもピボット動作1類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを鼻方向へ一体的に押し上げ、音域を下がるときは顎先へ引っ張り下げる)の方がうまくいく場合、その奏者はタイプ3Aと分類されるべきだ。

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, p. 209).


タイプ3Bの奏者たちはフレキシビリティーに富み、暗めの音質で演奏することの方がラクだが、中音域と低音域の音の太さにこだわりすぎてアパチュアが開きすぎた状態で演奏してしまいがちである。これはハイBbの上のD以上の音域の演奏に困難をきたしてしまう。

このタイプはピボット動作2類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを一体的に顎先へ引っ張り下げ、音域を下がるときは鼻方向に押し上げる)を用いているため、マウスピースのリムで上唇をえぐってしまっていることが多い。これも腫れを引き起こし、持久力に問題をもたらす。

(Sheetz, Quirks of the Types).


アンブシュアタイプ4&4A

アンブシュアタイプ4,4Aは、顎がなにもしていない状態で下の歯が上の歯より後退しているのだが、マウスピースを低く当てて下唇の割合が上唇よりカップ内で優るため、楽器の角度に関わらず息がマウスピース内で上方向に流されている。


タイプ4のアンブシュア

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ラインハルト式のアンブシュアタイプ4は、マウスピースを当てる位置が唇の低めな場所であることに加え、下の歯が上の歯より前にいくほどかなり顎を前に出して演奏する。顎をなにもしない状態では下の歯は後退しているにもかかわらず、だ。

演奏中のアンブシュアとしては、このタイプ4はラインハルト式タイプ2と同じである。


演奏中、顎が前に出ているため、楽器の角度はかなり高く、水平以上になることもある。

タイプ4奏者はほとんどいつもピボット動作2類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを一体的に顎先へ引っ張り下げ、音域を下がるときは鼻方向に押し上げる)を用いている。


しかし例外もある。その場合、多くのケースではマウスピースの位置が低すぎているとラインハルトは考え、本当は異なるアンブシュアタイプを用いるべきだと考えた。

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, p. 210).


タイプ4奏者においては、息を吸うときに楽器の角度を変えることが多く、息を吸った後の発音のときにマウスピースのリムを唇にぶつけてしまっていることがある。これはタイプ3Bに似たパターンだ。

(Sheetz, Quirks of the Types).


タイプ4Aのアンブシュア

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タイプ4Aのアンブシュアはいくつかの例外点を除いてタイプ4と同じである。

タイプ4と同じくタイプ4Aの奏者たちはマウスピースを低めに当て、カップ内の下唇の割合が上唇より多くなる。そのため、マウスピース内の息の流れは上方向になる。

タイプ4と異なるのは、タイプ4Aの奏者たちが演奏中も顎を下の歯が上より後退している位置のまま演奏していることであり、そのため楽器のベルの角度を下がっている。


タイプ4Aのアンブシュアタイプではふつうはピボット動作2類(音域を上がるためにアンブシュアとマウスピースを一体的に顎先へ引っ張り下げ、音域を下がるときは鼻方向に押し上げる)を用いるが、この法則に乗っ取らないこともある

(Reinhardt, Encyclopedia of the Pivot System, 1973, pp. 210-211).


タイプ4Aのアンブシュアはとても楽器を初めて初期の頃は非常デリケートなことがあり、もしかしたらそれが、これほど多くの金管楽器メソッド書がこのアンブシュアタイプを積極的に否定する理由かもしれない。

タイプ4Aのマウスピースを当てる位置が少しズレていると、アンブシュアの機能をまるっきり損ねてしまうことが多い。タイプ3Bに似て、タイプ4Aもマウスピースのリムで上唇をえぐってしまうことがあり、過剰な腫れを引き起こすことがある。

(Sheetz, Quirks of the Types).




【さらに探求を深めるには】

ラインハルトの教育法を学ぶ最良の方法は、彼に師事したひとに習うこと、とくに彼の指導者向けクリニックに参加していたひとに習うことである。

ラインハルトに師事した奏者の大部分は、ラインハルトが提供したその奏者個人のための取り組み方を学んだだけであり、ラインハルトのように他の奏者のためにタイプを分類し効果的なルーティーンを作り上げていく術を深く知っているとは限らない。


こんにちにおいては、ラインハルトに師事しその教えを自分の指導法に組み込んだ第2世代に習った経験者の方が多い。

ラインハルトの教えを受け継ぐに価する者にレッスンを受けるのが最善なのは変わらないが、参考になる最も詳細な書物は ラインハルトの著した「The Encyclopedia of the Pivot System」である。

ラインハルトがこの労作において意図したところは、彼に直接習っていた生徒を手助けすることにあった。生のレッスンでよく質問されるトピックごとに構成されているので、系統立った構成にする努力はあまりなされていないのだ。

文体はとき非常にテクニカルで、ラインハルトの教育法の導入としてベストではないが、ピボットシステムに真剣に取り組む者はやはりこの本を欲するだろう。


「Pivot System for Trumpet/Trombone, A Complete Manual With Studies」はさらにもっと古い本で、前述の「The Encyclopedia of the Pivot System」の存在と比較すると内容が古すぎるきらいがある。しかしながら、ラインハルトが彼の生徒たちの呼吸、タンギング、アーティキュレーション、アンブシュアの発達、音域、音量などを助けるためのエクササイズがたくさん載っている。

Encyclopedia of the Pivot System」と同じく、ラインハルトが他に書き残したこれらのものは、ラインハルトの教えを経験し生徒それぞれのアンブシュアそしてタンギングのタイプに応じたルーティーンを作りあげることができる教師のガイドのもとに用いられるべきである。



訳者の所感❇

 

  • ラインハルトの観察した、音域を上げるときにマウスピースと唇を一体的に動かす方向が、ひとにより鼻方向(上方向)の場合と顎先方向(下方向)の場合とがあるという点は、金管楽器の世界でよく言われる「顎を張れ」という教えについて実際うまくいかなかった経験、それではうまくいかないというひとが一定数いるという事実を踏まえた私が書いた『顎を張りなさい、の真実』に関連した説明をもたらしたように感じる。訳してみて、わたしの記事で解説したのは鼻方向(上方向)に動かすやり方に該当するものなのかもしれない、と思った。実際そうなのかは確かなことは言えないが、わたしの記事は「鼻方向(上方向)奏者」にとってはサポートになる一方で、「顎先方向(下方向)奏者」には当てはまらないかもしれない可能性を感じた。もしわたしの記事を読んで、混乱したり試した結果しっくりこなかったという方がいたら、ぜひ今回の訳した記事を参考に、顎先方向(下方向)へ引っ張るというやり方も試してみていただきたい。

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引用文献:

Elliott, D. (1998). Ten questions with Doug Elliott, The Online Trombone Journal [Online]
Everett, T. (1974). An Interview with Dr. Donald S. Reinhardt, The Brass World, Vol. 9, No. 2, 93-97.

Reinhardt, D. S. (1973). The Encyclopedia of the Pivot System of the pivot system for all cupped mouthpiece brass instruments, a scientific text. New York: Charles Colin.

Reinhardt, D. S. (1942). Pivot System for Trombone, A Complete Manual With Studies. Bryn Mawr, PA: Elkan-Vogel, Inc.

Reinhardt, D. S. (1942). Pivot System for Trumpet, A Complete Manual With Studies. Bryn Mawr, PA: Elkan-Vogel, Inc.

Sheetz, David H. Gone But Still Important, PivoTalk on the Web [Online] Unavailable

Sheetz, David H. Quirks of the Type, PivoTalk on the Web [Online] Unavailable

Wilken, D. (2000). The correlation between Doug Elliott’s embouchure types and playing and selected physical characteristics among trombonists. D.A. diss., Ball State University.

 

 

その他の参考文献:

Trumpet Herald Donald S. Reinhardt Forum

An online forum devoted to discussing Reinhardt’s teaching and the Pivot System. Discussion here is actively moderated to restrict content to things written or spoken by Reinhardt exclusively.

Donald Reinhardt Facebook Discussion Group

A Facebook group for discussing the pedagogy and life of Donald Reinhardt.

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The Facebook page of the Donald S. Reinhardt Foundation.






8 thoughts on “ドナルド・S・ラインハルトの教育法〜9つのアンブシュアタイプ〜

  1. バジル先生
    こんばんは
    この項目を、読まさせていただきました。
    自分が、どのタイプに当てはまるか?です。
    タイプ3(タイプ4Aかもです・・)なのに、マウスピースの位置が低い。確に高音になると、下唇の巻き込んでました。
    それから、巻き込まないようにする事を気にしながら、練習してるとタイプ4になってるような感じがします。下唇を巻き込まないように、逆に下唇を前に出す感じ(顎を下に張る感じ!?)になってるんですが、その時って下の歯が前に出てるって事だと思います。
    以前に比べると高音は、対応できるようにはなってきましたが、更に向上するにはどうしていけば良いでしょうか?
    そして、今の流れは間違ってないでしょうか?

    • 顎が前に出ないならタイプ3か4Aで、マウスピースの位置が低いなら4Aですよね、この分類法によれば。
      でも顎が前に出るなら、4ってことになりますよね。

      下唇を巻き込まないようにっていうのはどこから来た話ですか?この分類法ではないですよね?

      でも、わたしはこの分類法の専門家ではないし、詳しいことは直接見ないとアドバイスできません。すみません。

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