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2016年9月、ちょっとした不注意から、左顎を痛めました。
日常生活では、ちょっと痛いかな?
ちょっと開け閉めしづらいかな?
ものを噛むのがちょっとやりづらいかな?
その程度のものでした。
. . . .
でも、ホルンの演奏には大きな悪影響がありました。
まず最初に起きたのは、特に中音域やや低めの音で、顎が左右にガクガク揺れるという現象。
こんなの初めてでした。
焦りました。
ただ、顎を痛めたとは分かっていたので、様子見しながら、無理せず顎を直していけば、そのうち良くなるだろうと思ってはいられました。
10日もすると、顎はほとんど痛くなくなり、左右の揺れもほとんど無くなりました。
でも、中音域で音が揺れたり、音が「スッ」とかすれてしまうような感じがありました。
それに対して、口の周りを「顎を張るようにして」ガッチリ固定しておけば、まあカバーできました。
でもそうすると息がやたらしんどく、また発音が舌依存する感じで、そういう吹き方があるにはあるだろうけれど、やっぱりなんかおかしい。
体力が日に日に削がれて、演奏のしんどさは増えていくような感じがありました。
どうしたものかと悩みながらも、いろいろ試行錯誤しました。
一時、感覚的にちょっと見つけたポイントがあって、めっちゃくちゃ調子が良くなりました。
でも、感覚的だった分、なぜそれをそう意識するのか、どう意識するのかといったことが薄れてしまい、徐々にまたしっくり来なくなってしまいました。
11月半ば、オーケストラで活躍している友人にフィードバックをもらいに行きました。正直なフィードバックのおかげで、
「これは、自分ひとりではもう迷宮入りだ」。
そう、踏ん切りが付きました。
不安もひどくて、夜中に汗びっしょりで叫んで起きるということが何日か続き始めていました。
そこで、1年以上前から強い関心を持ち、翻訳を中心として勉強を進めていたアメリカの
・ドナルド・ラインハルト
・ダグ・エリオット
・デイヴィッド・ウィルケン
さんたちのアンブシュアに関する研究を、いよいよもっと本格的に自分の演奏に取り入れるときがきた、この知見とメソッドに頼るときがきた、と思い立ちました。
そんなこんなで、11月19日に1回目の本格的なレッスンをスカイプ(むこうはアメリカ、こちらは日本なので)受けることにしました。
結果的には、この決断をしてとてもよかったです。
言われたことに取り組み始めたらすぐに、不安は大きく減りました。
また、自分の技術の欠陥やその原因を本当に客観的に把握し、論理的に的確にそれに対して取り組む道筋を見出すことができました。
レッスン2回を経て、顎のことや中低音域の問題も確実に改善に向かっています。
レッスンの中身は、実に細かく緻密です。
実は私、子供の頃から「身体を使った細かい作業」がとても苦手でした。
折り紙、裁縫、はさみを使って紙を切ること。
あるいは鉄棒や器械体操のようなものも。
それと深く関係していると思うのですが、そういう作業の積み重ねの要素がとても大きい楽器演奏の技術習得も、とても苦労しました。
そういう身体技術の伝授の場であるレッスンにおいては、先生たちの言うことを理解できなかったり、苦しくて取り入れることができなかったり。
そういうハンデを乗り越えることに、アレクサンダーテクニークは非常に有益でしたが。
しかし、アンブシュアに関して「放っておいた」きていたことが、偶発的に痛めた顎の問題がきっかけになって、習得しぞびれつつもアレクサンダーテクニークでうまく補ってカバーしていたことの問題点や欠陥が表面化したのだろうと思います。
そんな中、1年以上前からとても納得できてるアンブシュアの理論と実践の体系の存在を知っていたのは、いま考えると実に幸運だったかもしれません。
この不調の体験をきっかけに、人生でたぶん初めて、「身体技術」を、着実に我慢強く他者に習い・学ぶ心のあり方になることができました。
自分の個性・癖が故に、これまでそういう学び方・受け取り方ができずにいたために、いままで学んできた師匠たちに対しては申し訳なく感じています。楽器のレッスンの根幹だと思うので。
師匠たちには感謝しています。いままで教わってきたことの意味を、やっともっと深く理解し具現化することができる気がしています。
アレクサンダー・テクニークの先生たちを除いて初めて、『やっと、言うことをそのまま聞いて、言われた通りにやってみようと思える楽器演奏に関する師匠』を見つけて、自分を預けることができた。
これは誰への当てつけや批判でもなく、心からの安堵として感じました。
ドナルド・ラインハルトを端緒とするアンブシュアに関する奏法研究と、レッスンや練習のノウハウは本当に膨大かつ緻密です。
そういったところを吸収していくためにも、エリオットさんにはこれから何年も学ぼうと思っています。
そして、そのレッスンのメモは、このブログに記録していこうと思います。
いつかは、ラインハルトの著書を翻訳・出版したり、日本の金管楽器奏者のみなさまにとって役立つ本を書いたりすることを夢見ながら。
Basil Kritzer