金管楽器奏者の8つのタンギング・タイプ

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この記事は、アメリカのトロンボーン奏者 David Wilken 氏のウェブサイトより「Donald Reinhardt On Tongue Position and Brass Playing」を翻訳しました。

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金管楽器奏者の8つのタンギング・タイプ
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アメリカのトロンボーン奏者で金管楽器の指導者として大きな足跡を残したドナルド・ラインハルト

この記事ではラインハルトがタンギングに関してどのような指導を行ったかを解説する。

わたし(注:David Wilken氏のこと)はラインハルトの教育法を、彼が生徒一人一人の持っている解剖学的構造や特徴がどのように生徒一人一人に対し個別に異なる指導を行う必要を生じさせるかということについて非常に緻密に研究していたことから強く興味を持っている。

わたし自身はラインハルトに直接師事したことはなく、ラインハルトに師事していたダグラス・エリオットからラインハルトの著作を紹介されたことがきっかけだ。



【音程と舌のアーチの高さ】

ラインハルトによる、任意の音程を保つためにその音程に対応する舌のアーチの高さに関する考察は、今日広く見受けられるものである。

金管楽器の場合、そのとき演奏している音域にしたがって奏者が舌のアーチの高さを変えているのだということは、一般的に受け入れられている。

しばしば、シラブル(注:音節のこと)が舌の位置を描写するために使われており、これは金管楽器の演奏を学ぶひとがまず試していくとっかかりとしてよいガイドとなる場合がある。

なるだろう。”aw”と発声するかのように。

そこから音程が高くなるにつれて、口の中の舌のアーチの高さは高くなっていく。

中音域の音は、”oh”あるいは”ah”と発声するときのような状態に近いかもしれない。

とても高い音になるとそれが”ee”あるいは”eh”というようになる。


これらは当然、大まかな次元での表現であり、奏者が実際にどのようにして舌の高さを操作するかについては多様なやり方が存在するのではある。

しかしながらこのことについては Joseph Meidt 氏が彼の研究

「金管楽器演奏の諸側面のための口腔内調整運動の透視撮影による調査」
(A Cinefluorographic Investigation of Oral Adjustments for Various Aspects of Brass Instrument Performance)

において撮影しているビデオで実際に観ることができる。

Joseph Meidt XRAY-Movies of Trumpet and Horn player




【舌の高さのメカニズムに関する仮説】

なぜ、音程と舌の高さがこのように関係しているかということはある程度議論の対象であるが、いまのところ有力な仮説は2つある。

ひとつは、舌のアーチは唇に対する空気の圧力を増すことに寄与しているというもの。

もうひとつは、そのとき演奏している音程に合った口腔内の共鳴空間を作ることに寄与しているというもの。

どちらもそれを裏付ける証拠がある程度存在するので、もしかしたらどちらもいくらか起きているのかもしれない。



【8種類の異なるタンギングのタイプ】

金管楽器奏者のアンブシュアに関してもそうなのだが、わたしは金管楽器奏者たちが演奏のために用いる舌の使い方に存在する多様性に非常に感心する。

ドナルド・ラインハルトは、それを8種類の異なるタンギングのタイプに分類した。

ラインハルトは、生徒一人一人の各自の解剖学的構造によって、ひとりひとり、8つのタイプのいずれかがそのひとにとって最もうまく機能する、と感じていた。

全体としては、この8タイプのいずれもが、“tah”(または”tee”,あるいは”toh”など音域や舌のアーチの高さの必要による)と発声するかのように、舌の先端を上の歯もしくはもっと高い位置から後ろへ離すようにして発音している。


〜タンギングタイプ①〜

「高音域に特に専門として演奏している金管楽器奏者たちは、多くの場合この「タンギングタイプ①」を用いている。

このタンギングタイプにおいては、舌は広がり、舌先が上の歯から離れた直後から舌の横側は上の歯の内側に触った状態で保たれている。

このような位置にある舌は、空気柱を強制的に細くすることになり、それが唇の非常に速い振動を生み出すことを助ける。」


このタンギングタイプはあまり一般的ではない。

聞いた話では、口の天井が高い奏者に一番うまくいくとのことである。また、歯の両側の内側にまで広がるだけの幅広い舌の持ち主である必要がある。

このタイプの舌の位置が非常に高いことを考慮すると、たとえばビッグバンドのリードトランペット奏者などのように高音域に特化する奏者にこのタンギングタイプが助けになっているが分かるであろう。

ラインハルトは、このタンギングタイプ①の短所は低音域にあり、奏者によっては低音域を演奏するときには異なるタンギングタイプを用いることもあるだろう、と感じていた。


〜タンギングタイプ②〜

最も一般的なのが、このラインハルトの分類による、タンギングタイプ②である。

このタンギングタイプは、多くの金管教本やメソッドにおいても推奨されている方式であり、舌が上の歯の裏を突くこと、そしてその後に演奏している音域に応じて口のなかで宙を浮くようにしてアーチを作ることにおいて特徴付けられる」


このタンギングのやり方は、おそらくもっともよく見られるやり方だ。

ラインハルトは自身の著書「Encyclopedia of the Pivot System」において、このタンギングのやり方はときに奏者によっては顎が後ろに行きすぎる状況につながってしまうことがあり、そういう場合においてはこれから述べる、舌先が下の歯の裏側かつ下方に固定される他のタンギングタイプのなかのいずれかを採用することを勧めることもあるとしている。


〜タンギングタイプ③〜

「ラインハルトの分類によるタンギングタイプ③を用いる奏者は、少数派である。

ラインハルトは彼の生徒たちに、舌が決しては上下の歯の間に入り込まないよう強く勧告したが、奏者によっては下の歯が短くかつ長く分厚い下唇を持っていて、その組み合わせにより舌が歯の間に入り込むタイプの者がいる。

このような奏者たちは、舌が上の歯または歯茎の裏側を突いたらすぐ、舌が跳ね戻って下唇のところに戻る。

その後舌先は、このタイプの奏者の場合は、音を保つときもスラーするときも、下唇の上に置かれたままとなる。」


ラインハルトの分類によるこのタンギングタイプ3は、指導者によっては「タング・コントロール・アンブシュ」呼ぶものに近い。

わたし(Wilken)は、このやり方はかなり稀なものであり、音を保ったりスラーする間に意図的に舌先を下唇に当てておく奏者たちにおいても大抵は他のタンギングタイプを採用したほうが長い目で見るとうまくいだろうとするラインハルトの見解と同じ意見である。


〜タンギングタイプ④〜

「このタンギングタイプタイプは、舌先が突くのが上の歯か歯茎の裏でなく下唇を突くことになる以外は、タンギングタイプ③と同じである。

つまり、下唇を突いたあと、そのまま舌は音を保つ間とスラーする間、下唇に当てたまま置かれるということだ」


タンギングタイプ③と同じく、このタンギングタイプ④に関してもラインハルト、これを行うには十分な下唇の長さと短い下の歯が必要であると感じていた。舌が下唇を突くときもそのあと当てたままになっているときも唇の振動の邪魔にならないようにするためだ。

わたしは、生徒一人一人のアンブシュアタイプに合わせて、あるいは関連付けてタンギングタイプを勧めたような話は聞いたことがない。

舌先が下唇に当ててあるということからすると、ラインハルトの分類によるタンギングタイプ③と④は、もしかしたら上唇の方が優位に働く「下方流方向奏者」(詳しくはこちら)により向いているのだろうか、と思うところもある。


〜タンギングタイプ⑤〜

「このタンギングタイプ⑤は、タイプ②とともに比較的一般的なタンギングのやり方のひとつである。

舌が上の歯か歯茎の裏側を突いたあと、舌先は下へ突き出され、下の歯の歯茎が口の底に出会うあたりの場所と接触する。

このタンギングタイプは、音を上がっていくにつれて舌がより高いアーチを作るにあたって上記の触れている場所において顎を前方に押すため、顎への支えを生む。

このタンギングタイプを用いるには、舌が口の底から離れてしまうことなく前方に押す力をかけ続けることを可能にする十分な舌の長さを必要とする。

舌先が顎に対して押しているため、奏者によってはこのタンギングタイプが顎の位置を前に保つことの助けになると感じていることもある(そういう顎の位置がその奏者にとって望ましいとして)」


タンギングタイプ②の解説でも言及したが、顎が意志に反して引っ込みすぎて困っている奏者たちにとっては、このタンギングタイプ⑤に変更することから益するかもしれない。


〜タンギングタイプ⑥〜

「このタンギング⑥は実質的にはタイプ⑤と同じなのだが、タンギングタイプ⑤の奏者たちのような長い舌を持っていない点が異なる。

このタンギングタイプ⑥の奏者たちは、上の歯か歯茎の裏を舌先で突き、それに続いて舌先が下の歯の歯茎と口の底が出会うところに落ちる。

タンギングタイプ⑤とはちがって、音を上るための舌のアーチの挙上は、舌先を口腔内へ引き込むことで作られる。その間、舌先は口の底に触れ続けている。

音を下がるときには、このタンギングタイプ⑥の奏者たちは舌先を下の歯茎と口底の出会う場所の方へと前方に押し出し、舌を平たくする」


このタンギングタイプに属する奏者たちはタンギングタイプ⑤の奏者たちとは異なるやり方で舌の高さを変えるので、タイプ⑤のような顎への支えの感覚は感じないことになる。


〜タンギングタイプ⑦〜

「このタイプの奏者たちは、タンギングタイプ⑤の奏者たちと同じように音をスラーしたり保ったりする。

ちがいは、発音するときに舌先で下の歯か歯茎の裏側を突くことだ。

このタンギングタイプ⑦は、非常に顎が出ている奏者たちよって使われているときがある」


このタンギングタイプは非常に稀なようだ。わたし(Wilken)の場合、このタンギングのやり方の真似すらうまくできない。

顎が非常に前に出ているということが、このタンギングタイプを可能にしていることがあるのだろう。

しかしながら、発音時の舌先の位置を除いては、ラインハルトの分類によるところのタンギングタイプ⑤と同じである。


〜タンギングタイプ⑧〜

「タンギングタイプ⑧の奏者たちは、発音時に舌先で下の歯か歯茎の裏を突いたあと、舌は下の歯茎の付け根か口底に移動する。

音を上るとき、舌のアーチの高さは、舌先を下の歯茎の付け根または口底と接触させたまま、舌を後ろに引き込むことで挙上される。

音を下がるときは、舌のアーチの高さを、舌先を口底と接触させたまま、下の歯茎の付け根の方へ前方へと押して下げている」


このタンギングタイプはタイプ⑥と⑦の組み合わせである。

このタイ⑧では、発音においてはタイプ⑦と同じく下の歯か歯茎に対して行い、タイプ⑥と同じように下の高さを変えている。

このタイプもまた、かなり稀なようだ。



【ラインハルトの方式を改善させる余地】

ひとつ、ラインハルトが「Encyclopedia of the Pivot System」においてあまり書かなかったことがある。それは、この8つの各タイプ内におけるバリーエションである。

例えば、タイプ⑤の奏者は舌先を下の歯の裏側の付け根の下に当てた状態で、顎を舌で押しながらスラーをしたり音を保ったりする。

このバリエーションとして例えば、舌先は同じように下の歯茎の付け根に置いておきながらも、舌の中央部を前方に動かして上の歯の裏か口の天井に対してアタックするというような奏者もいる。

ラインハルトは使わなかった用語だが、一部のひとはこれを「アンカータンギング」あるいは「Kタンギング修正版」というような呼び方をする。

原則的には、わたし(Wilken)はできる限り常に一貫した奏法で演奏することを心がけるし、ほかの奏者に対してもタンギングタイプは基本的にひとつだけを使って音域によってタイプを変えないように勧める。

とはいいつつも、タンギングタイプの複数使用は、アンブシュアタイプの複数使用ほどは演奏技術に悪影響をもたらさないようだ。

ラインハルトの観察し分類したタンギングタイプに関する詳細な内容をわたしはとても素晴らしく思い非常に興味を感じ、指導するうえでは理解するのは良いと思うが、ラインハルトの方式そのままよりも、正しくタンギングのやり方を教えるうえで良い方法がないだろうかと考えている。

もしかしたら、ラインハルトの分類をより簡潔にする術があるかもしれない。アンブシュアの分類においてそうであったように。


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=参照:アンブシュアタイプの分類=
ラインハルトの9分類法
・上記ラインハルト式の発展・簡略版としてのダグ・エリオットによる3分類法
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現時点では、わたしはタンギングを

1:音をアタックするときに舌の先端はどこにあるか

2:音をスラーしたり保ったりしているときに舌の先端がどこにあるか


のふたつの観点から分類することを考えている。

そうなると、舌のアーチを作るやり方のちがいという要素が抜けてしまうのだが、これを込みに考えることは一体どれくらい有益かすこし疑問だ。


なにはともあれ、読者のあなたはどう考えるだろうか?
タンギングを描写するもっと良い方法はあるだろうか?
あなた個人は、どのタイプを使っているだろうか?


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4 thoughts on “金管楽器奏者の8つのタンギング・タイプ

  1. Pingback: もともと持ってるものを活かして楽器を吹く。それが1番の上達への近道な気がしてならない - GONLOG ホルン吹き権左勇一のブログ

  2. Pingback: ドナルド・S・ラインハルトの教育法〜9つのアンブシュアタイプ〜 | バジル・クリッツァーのブログ

  3. バジルさん、こんにちは。

    金管楽器でタンギングしていて、発音を変えたり振動の鳴り方を変えてみたりすると「あれっ!?今の動きめっちゃ舌早く突いてる!けど実用的には使いにくいなぁー……」と感じるときがあります。

    もしかしたら、タンギングにもタイプ分類があるから、実用になってないだけで、工夫したり研究したりしたらそのタンギングを使いこなす術になるのかな!と思いました。
    参考にしてみますー……

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