楽器・歌の練習のモチベーションを心の底から高める5つの方法

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「どうすれば練習するモチベーションを上げられますか?」

という質問をよくいただきます。

わたし自身はいま、仕事はほとんどレッスンやそれに関係することばかりです。

ですから、ホルンの練習はある意味、別にしてもしなくてもいい。演奏の仕事は年に1度か2度くらいなので

しかし、ほとんど毎日練習しています。

なぜか?

練習したいという気持ちがほとんど毎日あるからです。

練習したくないなあ、やる気しないなあ、という日は稀です。

すごく大きな仕事をやった直後とか、長くて遠い出張から帰ってきたあとの休日ぐらいにしか、「練習したくない」と感じることがありません。

【苦しんだ末に見つけた根本的なモチベーション】

そんなわたしも、中学生の頃から音大生時代のはじめの1年間が終わるまで、練習することがすごくプレッシャーに感じていました。

けっこう長時間頑張って練習をしてはいたものの、実際には練習したくない、練習しなきゃいけないのが辛いと苦しんでいました。

それが変わったのは大学2年のときです。

当時、自分をあまりに追い込みすぎて背中や腰がひどく痛むようになりました。

また歯をくいしばるようにして、ときには食事を抜いてまで時間を作ってでも頑張って練習していた割にはまったく上達が実感できず、気持ちや心もギリギリ持ちこたえているような状態でした。

そのあまりの辛さに、ある日ホルンをやめる決断をしました。

本気で一度、ギブアップし、やめました。

……しかし……

奇妙なことに、やめたはずのその日のうちに、すごくホルンが吹きたくなりました。

こんどは、吹きたい気持ちがとめどなく溢れるように湧いてきて、どうしてもホルンに触りたくなり、音を出したくなりました。

それで吹いてみると….。

不思議なことに、背中も腰もまったく痛くなく、音がすごく素敵に響きました。

5分か10分吹いただけなのにその間に上達の手応えがとてもたくさんありました。

楽器を演奏することの身体感覚もとてもはっきり、そして快適い感じられ、気分はとても晴れやかに幸福感に満ちていました。

さっきまであんなにプレッシャーと痛みに苦しい思いをしていたはずなのに、練習することで本当に幸せになり、気持ちがよく、自分の生きている意味・生きることの芯を見つけられたような感覚がありました。

そのとき、わたしはこう直観しました。

練習は自分が自分のためだけにやるもの。
学校が大変だったり、人からどれだけひどいことを言われても、自分が自分のために練習すること。
それで自分にとって人間として生きる価値を実感できる。
自分は音楽を続けたい。
練習を続けよう。
これがいまの自分が前向きに生きるための力だ。

と決心しました。

いまからもう10年以上前なのですが、この日以来、モチベーションが途絶えたことは一度もありません

疲れていても、「やる気」をそんなに感じていなくても、多少面倒くさい気がしていても、「でもやっぱりホルンが練習したいな」と思うことができるし感じことができるのです。

いちど全てを手放した経験が大きかったのだと思います。

余計なものが全部取り払われたあとに残っていた、「ホルンを吹きたい」という気持ち。

それに触れることができたのが、いまもモチベーションが続く決定的な理由だと思います。

【やらねば!のプレッシャーを取る】

さて、ここまではあくまでわたし個人のストーリーです。

ここからは、どうすればあなたがあなたのモチベーションを見つけ、アップさせられるか、いろいろと探ってみましょう。

〜不要なプレッシャーから自由になるためのヒント〜

わたしにとっては、プレッシャーが取り払われたというのが重要なポイントでした。
これはきっと、わたし以外の誰かにも通じる体験だと思います。
あなたも、練習することや演奏することに対するプレッシャーをどんどん減らしていくことを模索してみるのはいかがでしょうか?

プレッシャー例1:「みんな頑張っているのに自分だけ休むわけにはいかないから、練習しなきゃ」

◎本当に「みんな」が全員、毎日欠かさず練習しているでしょうか?

◎あなたが練習を休むと本当にみんな全員に迷惑がかかりますか?

◎あなたが正直休みたいと感じているなら、思い切って休んでみると、休んだ翌日にあなたの心のモチベーションがどうなるか実験してみませんか?

プレッシャー例2:「将来のために毎日必死に練習しなきゃ」

◎本当にきょうの演奏や練習があなたの将来を左右しているでしょうか?

◎きょう我慢して苦しんで練習することは、あなたの将来に対して果たしてプラスに働くのでしょうか?

◎きょう、いまの楽しさや幸せを感じられるような曲や練習内容、練習時間を選択してみませんか?

例3:「演奏会に間に合わせるために、無理してでもやらなきゃ」

◎その無理は、果たしてあなたの演奏を伸ばしているでしょうか、それとも緊張や硬さを生み出し逆効果になっていないでしょうか?

◎演奏会に間に合わせるために、ひたすら繰り返したり通したりすることは、よりよい演奏のためには、実際のところどれぐらい役立っているでしょうか?

◎たとえば、きょうは譜読みとイメージトレーニングだけにしてみてはどうでしょうか?楽器に触れるのは、また明日にしてみるのです。

◎あるいは、演奏会前でピリピリしているからこそ、きょうは別の曲やエチュードだけにしてみませんか?きょうの気分に合った曲や練習題材だけを練習した翌日、演奏会で演奏する曲に取り組んでみるのはいかがでしょう?

これらのプレッシャーのパターンはあくまで一例であり、プレッシャから自由になるためにまた提案しアイディアも、無限にあり得る選択肢のほんの一部にすぎません。

重要なのは、

1:プレッシャーを感じて硬くなっている自分をケアせずに、その状態を放置あるいは無視したまま本番や練習に臨むのはあなたの演奏や練習にマイナスになっているかもしれないということ。

2:なんとなくプレッシャーを感じているとすれば、自分が何を考え、どんなプレッシャーを感じているか、その正体や根っこを探ること

3:ゆっくり考える時間を取ったり、向き合ったり、思考の毒抜きをしたりして、積極的にプレッシャーの軽減や解消に努めること

です。

自分の心をプレッシャーから自由にしていく作業を、練習・上達の一環として重要視することを、わたしはわたし個人の実体験、そしてこれまでレッスンしてきた範囲の体験からではありますが提案したいと思います。

そうすることでモチベーションが上がるのか、変わらないのか、下がるのか。ぜひ実験してみてください。

【音楽的練習は楽しい】

音楽が嫌い、というひとは滅多にいません。

時折、過去の体験からそう思っているひともいますが、それは音楽自体が嫌いなのではなく音楽にまつわる出来事や人間関係に嫌なことがあったのです。

なのに、練習のモチベーションが上がらないときのわたしたちは、音楽や音楽をすることに対して億劫になっています。

これは少し不思議なことです。

体調や気分が原因でモチベーションが上がらないというのであればそれは一時的ですし、長期化しても「体調」という原因がはっきりしていますから、モチベーションそのものの心配はあまりありません。

問題なのは、音楽のための練習のはずなのに、練習の中身や考え方が非音楽的で、機械的、身体訓練的、根性論的なものになっていることが原因でモチベーションが上がらなくなっているときです。

なぜなら、自分の練習のやり方そのものがモチベーションを下げている。つまり、自分の責任で起きてしまっているからです。

機械的・根性論的で非音楽的な練習を続けていると、それはもう、やる気がなくなったり気持ちが辛くなっても不思議ではありません。不自然で不健康だからです。

代わりに、その日・そのとき・いまこの瞬間にあなたが奏でたい音や音楽を奏でることの連続を練習の中身にしてみるとどうなるでしょうか?

その練習の具体的なやり方は『マンガとイラストでよく分かる!音楽演奏と音楽指導のためのアレクサンダー・テクニーク入門』で詳細に解説していますからぜひそちらを参照していただきたいのですが、

モチベーションを上げるために、ふだんの練習のときからもっと

・あなた自身の気持ちに目を向け
・どんな音や音楽を奏でたいと思っているのかを感じ取り、
・それに従って音を奏で練習するみる

ということをやってみましょう。

ついつい、

「曲の練習は基礎ができるようになってからでないとやってはいけない!」

というような発想に陥りがちです。そういう考え方に支配されてしまうと、興味も手応えもないのにいつまでも単調で機械的で成長に結びついていない練習のやり方に固執してしまうのです。

「何かを得るには何かを我慢しなければいけない」という考え方は、幸せに音楽を演奏することや、長期的に成長を続けられるようにすることに関しては、マイナスに働きがちだとわたしは思います。

もっと素直に、気軽に、

「じぶんも音楽を奏でていいんだ」

ということにしてみませんか?

そうしてみたときに、あなたのモチベーションはどうなるでしょうか?

そして実際そうして音楽を奏でたときの手応えはどんなものになるでしょうか?

実験してみてください。

【練習したほうが気分がいい場合】

中学生1年生のころ、夏休みに学校も部活も休みだったのですが、学校の楽器を家に持って帰る許可をもらいました。

夏休みは最高に幸せではありますが、なんだかんだいってすぐダレて飽きてしまっていました。

でもそんなある日、ふとホルンを練習してみました。

すると、数十分ほど練習したあと、とても充実した気持ちを感じました。 とても生き生きした気分になり、自分のことを誇らしくも感じられました。

そのあと友達と遊ぶのがさらに楽しくなったし、なんと夏休みの宿題をやろうという気持ちにまでなってしまいました!

楽器を吹く。音を奏でる。音楽を演奏する。
その行為自体が、身も心も元気にスッキリさせてくれたのです。

あなたも、気分を良くすること自体を目的に練習してみるのはいかがでしょうか?

運動や趣味な活動をすることに似ていますね。プレッシャーや自分追い込むような感じがそこには無いのです。

【自分について情報収集する】

なんだかやる気が湧かないなあ…と悶々するときってありますよね。

そういうときは、前述のようにプレッシャーが原因のときもありますし、また何か別のことが心にひかかっていたり、なんらかの理由で体調がイマイチ良くないからだったりもします。

そうやって原因もわからずに悶々したまま練習を始める前に、少し時間を取って「自分についての情報収集タイム」を設けてみましょう。

5分でも構いませんし、10分あれば素晴らしいです。もっと長くても構いません。

自分は誰だろう?
▪年齢
▪性別
▪家族の中の役割
▪集団の中の役割
etc…

自分はいままで何をしていただろう?
▪きょう直前にしていたこと
▪昨日のスケジュール
▪睡眠時間
▪食事内容
▪これまでの人生で取り組んできたこと
etc…

自分の身の回りに何があるだろう?
▪人
▪環境
▪物
▪状況
etc…

自分は何がしたいだろう?
▪きょう
▪明日
▪今年
▪人生
etc…

自分は何が好きだろう、大切だろう?
▪人
▪もの
▪生活スタイル
▪価値観
etc…

自分にとって音楽ってなんだろう?練習ってなんだろう?
▪好きなところ
▪大切なところ
▪なくてもいいところ
etc…

こうやってじっくりと情報収集することによって、自分のいま現在のありのまま・等身大を把握できます。

もしかしたら、

「そりゃきょうは疲れているにきまっている。やる気にならなくても無理ないな!」

と気づくことがあるかもしれません。

そんなときはそんなときで、

「でも練習したいから練習しよう」と思えることもあれば
「よし、きょうは休もう」と吹っ切れることもあるでしょう。

どちらにしても、プレッシャーや、もやもやから自由になれて、スッキリとした選択ができますね。

また、この「自分自身についての情報収集タイム」を習慣づけることで、どんなことがあってもビクともしない、あなたにとってとても深くて大事な「音楽をする理由、練習したい気持ち」が見つかることもあります。

いずれにせよ、自分のことを理解することで、モチベーションは見つかったり上がったりすることがとても多いので、ぜひ取り入れてみてほしいことです。

【10分練習したら20分思いっきり好きなことをする】

最後に、これはちょっとした工夫ですが、練習時間を細かく分割するのも効果的なことがあります。

単純に、練習が長すぎて疲れてきているることがモチベーションが下がってしまう理由になっていることだってあるのです。

そういうときは、状況的に可能であれば、1回の練習を短めに設定します。

そして、練習していた時間より長い「休憩」を設けます。その休憩時間は楽しいこと、好きなことをします。

そうすると、休憩が楽しみで練習に気合が入るし、また休憩が楽しいから「さあ、そろそろ練習に戻るか!」という前向きな気持ちになることだってあります。

合奏、分奏、パート・セクション練習、個人練習。どのような練習の場合でも、いちどにたくさん・長くやり過ぎて効率が悪くなっていることがよくあります。そうすると、疲れが溜まってモチベーションも下がり、悪循環になりがちです。

練習の効率というのは、時間を効率的に使うことではありせん。

練習の効率は、たくさん練習できたか、限られた時間にうまく詰めたか、もっと言えば集中できていたかどうかですら測るべきものではありません。

練習の効率は、

・楽しく、幸せだったか
・上達や成長の手応えを得られているか

で測るべきなのです。

以上、

1:プレッシャーと向き合って解消する
2:音楽的な練習にする
3:運動・趣味感覚で練習する
4:自分自身について情報収集する
5:休憩を活用する

という、練習のモチベーションを高める5つの方法を提案しました。

使ってみて、やってみて、どうだったか。どんなことが起きたり感じたりしたか。あるいは、どんな疑問や戸惑いが生まれたか。

ぜひ、教えてください。メールをお待ちしております。basilblog@bodychance.jp

Basil Kritzer

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楽器・歌の練習のモチベーションを心の底から高める5つの方法」への5件のフィードバック

  1. ピンバック: 周りと自分を比べて自分の長所が分からない….どうやったら自信がついて楽しく演奏できるようになりますか?Q&A | バジル・クリッツァーのブログ

  2. アドルフ・ハーセスが残したコメントに
    Do not practice. Always perform.
    と言うのがあります。
    また、楽器の種類を超えていろんなトッププロの人からよく聞くのは
    Exaggeration
    旋律的なエチュードをよく練習しろ

    いろいろ共通点ばかりだなあ、と。

    • じゅにさん

      トッププロのひとたち多くが語る言葉は、その多くが、とても優しく・音楽的ですよね。
      そして語っている内容を原理原則として、本当にやり続けた(できる、できないの話ではなく、やる・やらないの話)
      のがトッププロの凄さなんだろうとわたしも思います。

      Basil

  3. このブログを読んで涙が出ました。
    最近ギターの弾き語りを練習していて、歌を歌いたいのにギターを持つことで自由に歌えなくなっていました。どうしてこんなに辛いのにギターを練習しているのだろうと悩んでいたところでした。音楽を歌うことをやめることすら考えました。

    バジル先生の体験談と一致する部分が多く、驚きました。私は誰かのために歌おうとしていたんだと。でも歌いたいのは私であって周りの誰かに歌えと言われたわけでも無い。そうしたら、すごく楽になり、歌いたい気持ちがとても強くなりました。周りには感謝の気持ちを持てばいいと。

    早速ギターを手に取り練習しました。楽しかったです。そしてギターが上達したらもっと歌も音楽も自由になるはずだという思いが湧きました。

    これからこのブログ記事はわたしのバイブルになりそうです。出会えて感謝しています。ありがとうございます。

    • yuki さん

      お返事遅くなってしまいましたが、コメント有難うございました。

      誰かか何かのために歌いたい、という自分自身の想いがあるから歌うのですよね。

      他者のためという想いが内側から湧いてくる人、そしてそれが力になる人間というものの不思議さを思わずにはいられません。

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