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音楽を演奏すること、練習することそのものの中には、怖いこと・苦しいこと・嫌なことはひとつも存在しません。
でも、わたしたちは音楽をしていて
・自信がなくなってしまう
・緊張してしまう
・落ち込んでしまう
ような状態になり、苦しんでいることがとても多いですよね。
この三つの状態につながる原因のひとつとして共通しているのが、
『ほかのひとが自分の演奏のことをどう思っているかが気になる』
という悩みです。
【実は音楽の悩みではなく、対人関係の悩み】
これは、音楽それ自体の問題ではなく、自分とほかのひと(聴衆、共演者、先生 etc….)との「関係」の中にある問題です。
そういう意味では、対人関係の悩みであり、自意識にまつわる苦しみです。そのようなことには心理カウンセリングやその他心理的・メンタル的な技法が大きな助けになる可能性があります。
【どう演奏するか、を見直すことで乗り越える】
しかしながら、そういった治療的アプローチだけでなく、自分自身の演奏や練習に対するやり方・態度を見直して建設的なものに置き換えていくようなアプローチも役立つ可能性があります。
また、ひとによってはそちらの方が大切になる可能性もあるでしょう。
『ほかのひとが自分の演奏のことをどう思っているかが気になる』状態にはまり込むと、それは
・奏法
・演奏時の身体の状態
・人前に立って演奏する際の自分自身の在りよう
にまで悪影響を及ぼし揺るがせ始めます。
そこで、
『どう音楽を演奏し、またどう音楽のための練習をするか』
ということを考えることを通じて、この悩みを乗り越えていく道筋を探っていきましょう。
【他人の頭の中はコントロールできない】
まずはじめにはっきりと認識しなければいけないのは、
『他人が何をどう思うかを、自分自身は一切コントロールできない』
ということです。
他人が何を思っているかを心配している時点で、どうしようもないこと、コントロール不可能なことにエネルギーを割いてしまっています。この時点でもう、損をしています。
【その場にいるひとを無視するのも逆効果】
とはいってもどうしても気にしてしまうんだ…. という反論ももちろんあるでしょう。
気にしても仕方がないことを気にしてしまうことがよくないと分かると、次にやりがちなのが、
『他者や相手の存在を無視すること』
です。
ついつい、その場にいるひとのことを、いないことにしてしまうんですね。なるべく見ないようにしたり、いなくなってくれないかなと思ってしまったり。
「他人」という存在を、集中を妨げる妨害要因だと誤解してしまって、積極的に他者の存在を排除しようとしたり、無視しようとしたりすることもあります。
いずれにせよこれも、うまくいきません。
その場に存在する他者を「いないこと」にすると緊張を悪化させます。
そして、他者=聴くひとは、音楽の欠かせない要素であるため、他者を無視・排除しながら練習や演奏をしようとすることは本質的に音楽の練習と演奏に関しては誤っているとわたしは考えています。
【すべてのひとを音楽の対象に】
ほかのひとが自分の演奏のことをどう思っているかがすごく気になってしまって緊張したり、うまく演奏できなくなってしまったりして悩んでいるひとたちにとっては、
『その場にいる他者を、演奏と音楽の大切な存在と認識する』
ことが悩みの解決へと至る力になります。
たとえ非常に苦手なひとでも、あなたに対して批判的なひとでも、その場に存在してあなたの音楽を聴いているかぎりは、聴衆です。
彼らを無視したり、彼らの考えを操作しようとしたりしても、骨折り損のくたびれもうけです。あなたの心と身体は緊張し、演奏の妨げになります。
他者の存在があなたの妨げになっているのではなく、他者を無視したり、他者がどう思っているかを心配したりするあなたがあなたの演奏を妨げるのです。
あなたが演奏もしくは練習する場に、だれか他人がいるとき、あなたが演奏もしくは練習している音楽は、その場にいるすべてのひとに向けられ捧げられるものなのです。
いわゆる基礎練習でも同じです。音階やロングトーン、アルペジオも音楽です
しかも、その場にいるひとがあなたの演奏をまったく聴いていなくても、演奏・練習するあなたはたとえ聴いていないひとにもあなたはあなたの演奏・練習する音楽を向けましょう。
批判する気しかないひとがその場にいても、同じです。
その方が、あなたは悪い緊張に飲み込まれず、力を失わず、意味と手ごたえのある演奏・練習ができる可能性がぐっと高まります。
【あなたはあなたの音楽で何をする?】
その場にいるすべてのひとに向けて演奏・練習するうえで、これから奏でる曲・フレーズ・音階・ロングトーンに
▪ストーリー
▪意味
▪メッセージ
を持たせましょう。
あなたがこれからやることは、その場に存在するひとを、あなたが奏でる音楽のストーリー、意味またはメッセージに招き入れ、旅に連れ出すことなのです。
仮にその場に辛口で意地悪な苦手なひとがいても、です。むしろそういうひとをこそ、招き入れましょう。
この作業はひとりで練習するときからやってみることができます。苦手な他人のことは、思い出したくなくても思い出せますよね。
ぜひウォーミングアップの段階から苦手なひとを意識して、そのひとに対して、あなたが音を奏でることで創り出すストーリーまたは意味・メッセージを語る気でやってみてください。
もちろんイメージの中に聴衆がたくさんいるなら、それ以外のすべてのひともふ組めましょう。
そうすると、苦手な他人ですら、あなたの音楽の一部であり、欠かせない存在であり、パワーにすらなるのです!
日常からこういう意識で練習したり、リハーサルなどをこなしていれば、実際の本番やステージ上でやることはもっと簡単になります。
なぜなら本番にやることは、練習してきたことと同じになるからです。それは、その場に存在するひとを、あなたが奏でる音楽のストーリー、意味またはメッセージに招き入れ、旅に連れ出すこと。
練習と本番のちがいは、他者が目の前に実際いることです。いままでイメージしてきたものが、実在する。その分、イメージをしなくて済んでむしろ楽になるくらいです。
ぜひ試して、取り組んでみてください。そして、やってみて感じたこと、気づいたこと、あるいは生まれた疑問などをぜひ教えてください。basilblog@bodychance.jp
Basil Kritzer
P.S.この記事で書いたことは、ワシントン州立大学演劇学部首席教員でアレクサンダー・テクニーク教師のキャシー・マデン先生から学んだことが大きく反映されています。40年以上の舞台歴と俳優の育成の経験において確立され、多くのパフォーマーに貢献している考え方です。
こんにちは!
いつも参考にさせて頂いています。ありがとうございます。
明日の シオン北海道苫小牧講演、とても楽しみにしています。
私の娘はバリトンサックスを持参して行くそうです。
私は市民吹奏楽団員ですが、去年久しぶりに復帰をしたので先生のブログにいつも勇気づけられています。
これからもご活躍お祈りしています。
長瀬様
おはようございます!
どんな時間になるか、わくわくしております。
きょうはどうぞよろしくお願い致します。
Basil
初めまして。高2でトランペットをやっている者です。
新しく入って来たホルンの1年生が低い音が苦手だそうで、高い音は得意なので高い音ばかり練習して低い音を練習してくれない、と同級生のホルンの子が相談してきました。同級生はその後輩に、低い音もちゃんと練習してと注意しなきゃと言っていました…
実は私も高い音が全くでなくて、先輩に「なんで高い音の練習をしてくれないのか」と言われた事があります。高い音が出なくてずっと悩んで苦しんでいるのにそんな事を言われてとてもショックだったんです。
同級生のホルンの子は後輩に注意すると言っていたのですが、その後輩も私のようにショックを受けるんじゃないかと思って心配です。
そういう後輩がいたら、注意するべきなのでしょうか?
長文すみませんでした!
いつもブログを見て励まされてます!ありがとうございます☺️
津崎さん
いろんなことが考えられますね。
・実は、高音が上手い後輩に先輩は嫉妬している
→そういう面があると、「ちゃんと低音を練習して」というのは後輩の上達を助けるものではない
・後輩は、高音専門プレイヤーとして育てられるかもしれない
→そうすればホルンの高音が大変な極で助けてもらえるし、そういう曲をバンドとして選びやすくもなる。「ちゃんと低音を練習して」というのは本当に後輩のため、みんなのためになるのか?
・低い音の練習はほんのすこしでいい
→高音が得意なひとのなかには、あまり低音を練習すると調子が悪くなるひともいます。後輩おもしかしたらそういうタイプかも
・低い音の効果的で楽しい練習の仕方は?
→低い音に限らずですが、後輩を注意するだけだと先輩としてはあまり有能ではないですよね。後輩が低音にも取り組んでみたくなるような雰囲気作りとか、声かけを工夫できないでしょうかね。
・低い音の吹き方を、正しく教えられる?
→後輩がもし、低い音の吹き方がわからないのなら、先輩は正しくそのやり方を教える知識や技術を持っているでしょうか?持っていないのなら、「ちゃんと練習しろ」というだけだと説得力ないですよね。
….
などなど、いろんなふうに状況を捉えることができます。
Basil