「ホルン談義 ピップ・イーストップの考え」その2 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆この記事の原文は、昨年発売されたロンドン・ホルン・サウンズ第二弾「Give It One」のオフィシャルサイトに掲載されています→http://www.giveitone.com/horn-talk/41-horn-talk/67-thoughts-pip-eastop

 ジャズの即興演奏にはまだ取り組み始めて日が浅かったので、レコーディングのそのときまで待って、その場でソロを即興で考える(本業のジャズ奏者ならそうすることになっている)のは出来ない気がした。だからその代わり、十分前もってスケッチをもらうことにしたのだ。一ヶ月くらい前もっともらっておいた。それから、考えておいて練習しておくことにした。実は、書き出しさえしておいたし、そうしておいてよかった。もし、そうしなかったらきっとヘタクソな出来になっていただろう。グウィリム作曲の「Blues For Hughie」で与えられたソロは、分かりやすいブルースだったので、レコーディングのその日まで置いておいて、即興でやってみることにした。出来上がりには、けっこう自信がある。全然悪くない。奇妙な事に、吹いていたときのことは、1音も覚えていない。神経生理学者の友人がいるのだが、彼によると、そういう記憶喪失は極度の恐怖の古典的な症状らしい!!まあ、たしかに怖かったものなあ….だって、ホルン吹きがたくさん、私のやろうとしている事に聴き入っており、しかも録音の残り時間はあまりなかったから、空っぽになった頭から何か良いものを引き出さなきゃと、すごくプレッシャーを感じた。1、2の、3、スタート!でやらなきゃいけなかった。キツかった….

 演奏した高い音のフレーズに関して何か書いてくれと言われている。どうやったらあんなに高い音が鳴るのか、と。まず第一に、ホルンのあの音域で演奏するのは何も恐ろしいことではないし、誰にでもできることだと考えている。マウスピースの設計上、ホルンより少しは簡単だとしても、トランペット奏者はしょっちゅやっている。たぶん慣習的なものではないだろうか、トランペットは高い音を演奏し、ホルンはやらない、というのは。 ホルンの高音域に限界は無いのだが、多くの奏者は実音ハイF(記譜で五線より上のド)まで行けば、なにか天井があるかのように止めてしまう。ホルンはとても広い音域を持っており、大半の奏者は真ん中から始めて、そこから上向きと下向きに音域を拡げて行こうとする。私のやり方は少し異なる。ホルン人生の割りと初めのほうで、高い音域に慣れてしまってから、音域を下に拡げていった方がたぶん良い、と気付いたからだ。言い換えると、目を引ん剥くような大変な高音域に問題があるよりかは、中音域にあった方がマシだ、ということだ。たぶん、アラン・シビルだったと思うが、誰かが一度私にこう言った。「高音域で金が稼げる」、と。もちろん、これはまったく正しくないことが分かったが、そう考える事は、少なくとも私に高音域へのモチベーションをくれた。

 だから、高音域の演奏は、私が注意深くかつ頻繁に練習しつづけてきた事なのだ。私は、弓道やアーチェリーの的を狙う練習のようにそれを扱ってきた。必要なのは、正確性・強さ・自信である。私の「アーチェリー」方式は、まず正確さからスタートし、正確さに気を配って練習するうちにゆっくりとアンブシュアの筋肉に強さが生まれ、ミスをしなくなるから自信が育つ、というわけである。目標は、高い音を吹こうとして、それができると分かる、そんな状態である。その逆の、「ミスすると分かる感じ」はけっこうアテになるのだから。正直に言うと、思いっきり吹いた高音を外すことほど酷いものはないだろう。悲惨だ。みんな気を使って目を見てくれなくなる。もちろん、みんな「気付かなかったよ」と言ってくれるが、そんなハズないのも明らかだ。音を外すのではないかという恐怖は、完全に自信が無いときに襲ってくるものである。そして、実際に音を外したときに、その自信の欠如は大きくなる。だから、コツは、絶対ミスしないように練習して、100%の正確性を得る事だ。ただそれだけの事だ。本当に、そんなに難しいことではないが、忍耐強く入念に秩序だてて練習する必要がある。正しい種類の継続的な練習で、誰にでもできるようになると、私は確信している。

おわり

問い合わせ
basilk1@hotmail.com
basil.horn@ezweb.ne.jp

フリーランス・ホルン奏者。
現在、BODY CHANCEにてアレクサンダー・テクニーク教師養成課程履修中。通訳兼務。
2010年 ボディ・シンキング・コーチ資格取得予定
2012年 アレクサンダー・テクニーク講師資格取得予定

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