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わたしのアレクサンダー・テクニークの師匠のうちのひとりに、教師歴40年で世界的に著名なトミー・トンプソン先生という方がいます。
あるときの授業で、トミー・トンプソン先生は繰り返しこう仰っていました。
「『あるべき・なるべきと思い込んでいる自分』になるための労力を散逸させ、『いつもそこにあった、もっと真実の自分』を経験するための筋道がアレクサンダー・テクニークである」
詩的で、なかなかパッと見では難しい表現かもしれませんが、わたしは自分の経験からも深く納得できました。
わたし自身、
「自分はホルン奏者として成功せなばならない」
と信じ込んで努力していたときは、実に5年間、練習量に比して全く成長や上達が感じられませんでした。
逆に、「プロのホルン奏者になる」ことへの見栄や拘りを手放し、「プロのホルン奏者になれない」ということに対する恐怖に向き合い受け入れたときから、毎日確実に「うまくなっていく」という変化が起きました。
プロになろうがなれまいが、関係なく自分は練習して上達することに興味があることをはっきりと理解したときからです。それが、トミーさんの言う、「あるべき・なるべきと思い込んでいる自分」ではない、『もっと真実の自分』ということなのだと思います。
トンプソン先生の授業を2日間通訳していて、
「音楽や楽器演奏に真剣に取り組めば取り組むほど、『ウマいかヘタか』という価値観に取り囲まれ、そういう価値観が内心では嫌でも、進んで染まっていってしまう」
のだなということに行き当たりました。
どれだけ「オンリーワン」でいいんだ、と言われても思ってもどうしても、
「でもヘタじゃ全然意味がない….」
という思考がよぎってしまいませんか?
できないことがある。
ヘタな演奏をしてしまう。
失敗をしてしまう。
そうすると、周りからも「あいつはヘタだ」という判断をされていると、ひしひしと感じてしまいますよね。
「周り」が悪いというわけではありません。
でも「自分」が悪いわけでもありません。
ただ、自分も周りもみんな、「そういう見方」を植え付けられていってしまうというか、「それ以外の見方」が稀で変わったものであることを早い段階から感じ取り、自分の中でも他人に対しても抹殺していってしまうのではないか、と思ったりします。
アレクサンダー・テクニークのレッスンの場は、そこが全くちがっていたのが、自分にとっては振り返ってみると大切なことでした。
アレクサンダー・テクニークのレッスンを受けていると、すごくウマくなりますし、色んな問題が解決されていきます。
わたし自身、それだからやっていますし、いろいろな音楽教育の現場に招聘して頂いているわけです。
しかしそこには「ウマい/ヘタ」の判断がありません。
「ウマくならなきゃいけない」という価値観もありません。
なぜなら、アレクサンダー・テクニークでは、人は誰でも物凄い能力を持っており、歌唱や楽器演奏のような高度な活動・技術でも、必ずできるという前提に立つからです。
その能力を引き出すのがアレクサンダー・テクニークです。
「引き出す」ということは、「あなたにはそれがある」という事です。
つまりそれは「あなたは潜在的にはすでに信じられないほどウマい」のであり、「本質的にヘタなひとなんて誰もいない」ということなのです。
アレクサンダー・テクニークは、自分のことを好きになりながら音楽、演奏、練習、努力に取り組むことができるようになる、そういうメソッドだとも言えますね。
Basil Kritzer
P.S.アレクサンダー・テクニークについてもっと詳しくはこちら
森岡尚之先生(トロンボーン)に不定期ですが、ATのレッスンを受けている服部と申します。
一昨日の演奏会で、かなりのミスをして落ち込んでいる私の心に、染み込んでくる様なブログのコメントでした。
コメント載せて下さって有難うございました。
服部さま
コメントありがとうございます。
森岡先生とのレッスンをぜひこれからも続けて、幸せな音楽生活を送ってください (^^)
Basil