楽器を教えることはできない。教えることができるのは、自分で自分を教える方法だけだ。

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今回の記事は、ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の教授法について、当時イーストップ氏の生徒であった、トーマス・アラード氏が解説したものです。

原文は1998年7月11日に最初に発表されています。http://eastop.net/?p=490

アラード氏は現在、イギリス国内で現代音楽やスタジオ録音の現場でホルン奏者とそて活動されています。

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「ホルン・テニス」
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 「ホルンを教えるなんて不可能だ。できるのは、生徒に、自分自身をどう教えるか、その教え方を教えることだけだ」

 これが、ピップ・イーストップの基本の哲学である。この3年間で、だんだんそれに納得できるようになってきた。この哲学の主な根拠は、音を作り出すときの物理的なプロセスを完全に正しく描写することは、仮に不可能ではなくても、非常に難しいことに依る。さらに言うと、教授が自分のやっていることを仮に正確に述べる事ができたとしても、生徒が同じ事ができるというわけではない。単純に、人によって、口の中の物理的なつくりや条件が異なるという事実があるからだ。

 この問題に取り組むために、私の先生(イーストップ氏のこと)は、生徒自身が理想的な音と演奏技術を身につける方法を発見し、演奏技術の全ての側面について自分で取り組めるように手助けするための、実践方法論を作った。生徒たちが、楽器の技術的な制約に負けずに、音楽的に自分自身を表現できるようになれば、と願う。イーストップ氏は、このメソッドを、「ワークアウト」と名付けている。これは、自分用にデザインされた、濃密な練習パターンのことで、次の5つから成る。

ワークアウト・練習パターン

1.ホルンの全ての音域にまたがる、様々な音量の、ブレスコントロールとタンギングのエクササイズ
2.様々な音程間隔のスラーの練習
3.ダブルタンギングとトリプルタンギング
4.リップトリル
5.高音の発音

これらの練習の重点は、

①自分が何を演奏しているかに関して非常に高い気付きを持つ事
②全て完璧に演奏できるレベルだけで練習をすること

に置かれている。

このレベルを、急いで頑張って通過しようとすることは、あなたの向上に役立たない。しかしながら、毎日々々、自分が完璧にできる事だけを演奏していると、次第に、これができるレベルが高まっていくのが分かってくる。

やるべきこと・努力・取り組みの「ワークアウト」のやり方が一旦分かれば、生徒はいついかなるときでも、その時の特定の必要に応じた面白く益しアティングな練習方法を自分で新しく作ってゆける。

 しかしもちろん、なかなか上達できない技術上の分野に行き当たることもあるだろう。それには、それまで使っていた練習方法がいまひとつ問題に合致していないとか、あるいは、どのような結果(どんな音が出したいかとか、どんな発音をしたいかとか)を目標にしているのか、自分の中ではっきりしていない、というような理由があるかもしれない。この問題を克服するにあたって、イーストップ教授は、教える方も教わる方も、言葉で描写する事より、聴覚で感知する事に重きを置いた教え方の方法論を作り出した。

 それは「ホルン・テニス」とよばれ、教える方と教わる方が互いにベルを向け合って、お互いにできるだけ明確に聴こえるように座る。次に、教える方は、生徒が自分自身の問題について説明したことに基づき、なにかちょっと演奏する。

普段は、例の「ワークアウト」エクササイズのなかのどれかであることが多い。それを、生徒は精確に真似してみるのだ。生徒がこれをできなければ、先生はもっと易しく、生徒が完璧に真似できることをやってみる。そうやって先生は、段々と難易度を上げて、真似のし合いの繰り返しで、生徒がどこまで向上するか見ていく。もちろん、完璧にできないことは、一切させないようにしながら。

 私は、この教え方の恩恵をいくつも目にした。

第一に、練習のやり方が間違っていたときに、私はすぐにそれをピンポイトでぽいと止めて修正できた。「自分にできること」をゆっくり作り上げて、次第にできるようになるのを待つ根気が欠けていたことに気付くこともおおかった。ほかにも、気付いている意識レベルが十分でなく、知らぬ間に誤りが起き始めることに気付く事も多かった。

 さらに言うと、問題に対して、先生や私から新たなアプローチについての提案が出た場合、それは先生のためにも生徒のためにもなるような、新しい練習方法の発見につながった

 目標がはっきりしてなかったが故にどん詰まりなったときは、「ホルン・テニス」が簡単な解決策になった。なぜなら、これを通して教授が「音についてどう考えているか」が分かったし、それをゆっくりと自分自身に浸透させていくことができたからだ。

 最後に、そしておそらく最も重要な事に、「ホルン・テニス」は自分の先生がどうやって練習しているかについて、価値ある洞察を与えてくれた。これだけでも、自分の演奏を軌道に戻せることが多かった。その練習が、先生をあれほどまでに育てたのなら、私も同じ事をやればあれぐらい上手になれるかもしれないのだから!!

おわり

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