「舌で切る!!」その1 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の論文です。
原文→http://eastop.net/?p=265
(この論文は1997年夏に、「ホルン・マガジン」第5巻No.2で最初に出版されました)

 タンギングの質が、大きい音から小さい音まで、ゆっくりなフレーズから速いフレーズまで、安定してきれいではっきりしている人は、この論文は少ししか役に立たないだろう。どうぞ、ページをめくって、この論文はとばしていたただければよい。

 それ以外の人たちは、一定速度以内ならはっきりした良い発音で繰り返しアーティキュレーションできるのに、それより速くなると演奏全体が粗く不透明になってくるのはなぜだろと悩んでいる人もいるのではないだろうか。私自身、何年もこの問題に混乱させられ、分からなかった。だが、今になって説明と、もっと良い事に解決策まで見つけたと考えている。もちろん、無料である。

 まず最初に、問題をはっきりさせるために、誰もが知っているモーツァルトのホルン協奏曲第4番のロンド楽章の最初の小説を取り上げてみよう。Bb管であr、F管であれ、Ebナチュラルホルンであれ、同じところに問題が起きる。指定の速度でフォルテで演奏したときに、6つやや粗いアタックがならんでしまう。そこで、ゆっくりやってみると、きれいなアーティキュレーションになる。当然のこととして、場合によっては何日もゆっくり練習するが、いざ速度を速めてやってみると、改善はほとんどなかう、粗っぽい音が鳴ってしまう。…………一体、どうなっているのだろうか!?

 ここまで述べてきた症状に当てはまるひとは、解決策になるかもしれない事が実は目と鼻の先に有るかもしれない事をお見せしたいと思う。だが、まずは問題を良く理解し浮かび上がらせる必要があるので、次の指示に注意深く従ってみてほしい:

 メトロノームを?.=126のテンポに設定し、ロンドの最初の小節を取り上げてみて欲しい。その小節を、メゾフォルテ程度の音量で、何回も繰り返し続けてみる。ちゃんとスタッカートにして、音と音の間に無音の瞬間がはっきり聴こえるようにしよう。

 次が少し難しいので、注意深く取り組み、できるようになるまで頑張ってほしい。正しくできているか分からないときは、誰かに聴いていてもらうとよいだろう。音と音の間の無音の時間を、長くしていってみる。音と音がどんどん離れて行き、次第にテンポが?.=45までいくようにしてみよう。音符自体が長くはなってしまわないように気をつけよう。それをやりつつ、自分のしている他の全ての事に注目していてほしい。特に、腹筋群と喉でなにをやっているか。音の変化が速度だけであるように、注意する。やり方は変えないように。

 次に、?.=45まできて、音と音の間の無音を維持しながら、意図的に音の長さを伸ばしていこう。ここでもまた、音の長さ以外は何も変えないように。♪=76くらいになるまで、さらにゆっくりにしていく。

 この時点できっと、あなたの奏している音は、大きく醜く四角い音になっているだろう。各音がタンギングで開始し、舌によって止められる。それによって、音の長さと無音の長さがだいたい同じくらいになっている。もしそうなっていなければ、根気づよく、そうなるまでチャレンジしてほしい。理由はこれから明確にしたいと思うが、あることが原因でこれをとても難しく感じる方達もいるに違いない。

 この練習でわたしがみなさんに示したかったことは、実は耳の顕微鏡のような働きをしていて、速いスタッカートをしているときは、各音を舌で止めているとういうことだ。スタッカートの効果を生む、音と音の間の無音の瞬間を得るには、他にやりようがない。だから、速いタンギングのときに、舌で音を止めるのは全く問題ないのだ。もしこれまでもこれをやっていたことに気付いたことのある人は、現代のホルン演奏技術の基本的な原則である「音を舌で止めるのは絶対イケない!!」というルールを破っているのである。私は、それに対し、「よくやった!」と言いたい。だって、かなり馬鹿げたルールですから。とりあえずここまで、嫌にならずに付いて来て下さった方には、ここで分かったことに基づき、まだいくつかやることがある。一つ目は、なぜこんなルールが存在し、ホルン界でここまで蔓延しているのかを考える事。次に,少なくとも時には音を舌で止める事があるということを認めたうえで、この発見からどういうことを発展させるかということ。

 では、ほんとうになぜ、こんなルールがあるのか?第一に、未熟なホルン奏者が音を粗っぽくぶつ切りにする(簡単にできること)のをやめさせ、その代わりに音をやフレーズの終わりを、音楽的に消え入るように納める(とても難しい)のを練習させるためである。

 音やフレーズの終わりの、この「古典的な」形作り方(終わりに限らず、アタックについてもそうであるが)の起源を探ることは、興味深いかもしれない。伝統的には、ホルンの音とは幾分「唐突にパッと」始まり、すぐに最も響いた状態に入り、無音まで徐々に漸減していくべきもの、とされている。私たちの音楽の文化の中で、この梨形のような音の形が(特に他の指示がなければ)私たちがいつもやる形になった理由はいくつもあるだろう。私が考えつくものでいちばん説得力ある理由は、金管楽器の場合、教会の音響効果ではこの梨形の音形が最も適している、ということだ。良く響く大きな建物の中では、手を短く叩いた音でさえ、反響により、梨形の音形として感知されるより長い音に変容される。音の終わりがなめらかに消えて行くのだ。

 そのような音の形を反響の少ない環境で作るのは、人間の声では簡単なことだが、ホルン奏者の唇と息にとってははるかに難しいことだ。ホルン演奏の核心だが高いレベルで発展させるのはとても難しいような、複雑な技術的能力を必要とする。丸い発音となめらかに消えて行く音の終わり方がまだできない、まだ経験の浅い奏者たちは、音をハズさずにすんだとしても、四角い音の始まりと終わり方で技術不足を露呈してしまう。だから、「舌で音をとめてはいけない」というルールは、少なくとも元々は防止的な意味での教える手段だったのかもしれない。だが、時間は過ぎて行くものであって、成長した奏者に柔軟性を保ち、自由を与えるには、ルールは破られるか、少なくともときには曲げられる必要があす。

その2へつづく

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