ゼロからの「やり直し」ではない

  • アンブシュアを変えるとき。
  • 呼吸法を変えるとき。
  • 新しい楽器を始めるとき。

あるいは

・新たなメソッドや新しい先生から学ぶとき。

 

わたしたちはこういうとき、「ゼロからの再スタート」のつもりでやろうとして、それが原因で期せずして不調や不要な困難を招いて苦しんでしまうことがあります。

 

わたしたちはたとえ全く新しいことを学ぶときでも、ゼロから学んでいるのではなく、いままで学んだことや身につけたことを否定してゼロからやり直しているのでもなく、その新しい学びをする時点までの努力、学び、技術、獲得してきた能力を土台にして「積み上げる形」で学んでいるのです。

 

 

よくあるケースが、

・新たな環境で、
・新たな先生に付いて学び始め、
・新たな考え方や技術を獲得していこうとする

という場面でこれまでの自分の努力・能力・スタイルを全否定することが学びの正しい形・より良い形・唯一の形だとどこかで思い込んでしまっているケースです。

 

ですがそういう全否定を用いて学ぼうとすると、残念ながら不調や混乱、憂鬱、自信喪失に陥ってしまいかねません。

 

 

まず事実として、あなたはこの新たな学びのチャンスを、自力で獲得しました。この新たな場・メソッド・師にたどり着いたのは、それまでのあなたの行動・努力・取り組み・経験があったおかげです。

 

ここまでのあなたの努力・能力・技術・スタイル・経験は、これから新たなことを学び、さらに変化し成長しようとするあなたにとっての欠くことのできない土台であり基礎なのです。

 

この土台、基礎を全否定したり、捨て去ろうとすることは、あなたを弱くし、あなたが新たに学んで変化して成長することを妨害してしまいます。

 

たとえあなた自身、あるいは新たな師やメソッド・考え方が、あなたのこれまでのやり方や在り方を嫌ったり消し去ろうとしたりしても、それは決してできないのです。

 

ゼロからやり直しているのでも、再スタートしているのでもなく、これまでの獲得し経験してきたことを全てふまえ、活かして、新たなことを学んで吸収し、これまでのものと新たなものを融合させて深く身につけていくのです。

 

 

何も知らない、経験していないまっさらな状態で身につけた技術より、新たな技術とは異なる・矛盾するものであっても「いままでの努力により得られた尊く立派ないままでのやり方」を経験しているうえで学び発揮できるようになった「新しいやり方」の方が、はるかに深く、意識的に理解された価値ある技術になるのです。

 

そうやって身につけた新しいやり方・知識・考え方・能力は、他者を教え導く場面でも他者をより深く理解し共感できる在り方として身についているし(教えるのが上手になる)、また何か調子が悪いときでも原因や打つ手をより早く的確に突き止めることができるような在り方(強固・強靭・しなやかである)で吸収しています。

 

 

わたし自身は、音楽大学に進学した際に、先生からアンブシュアを変えるべきだと言われました。

 

納得して受け入れたのですが、勝手に、アンブシュアを変えるということはゼロからのやり直しであり、長い時間がかかり、非常に苦労すると決めつけ思い込んでいたためわざわざ上達のプロセスを複雑で苦しく遅いものにしてしまっていたことが今振り返るとわかります。

 

自分の過去の全否定をしていなければ、よっぽどスムーズに早く新しいアンブシュアで吹けるようになっていたことでしょう。非常に骨の折れる、精神的ダメージと後遺症の大きい体験をわざわざ自分で招いてしまっていました。

 

もっとも、そんな自分自身を理解して受け入れたからこそ、いまこういう仕事ができていて、教えることやいまの練習には非常に活きているわけで、これすら否定すべきではない「経験」ではあるのですが!

 

それもあって最近は、トランペットをトランペットのアンブシュアで吹くこと、ホルンをホルンのアンブシュアで吹くことの切り替えに違和感や戸惑いなく両方の楽器で音を鳴らすことができます。「常識的」ではありませんが、意外に多くのプレイヤーがこういうことが現実としてできます。アンブシュアが崩れる、ということがないのです。(トランペットアンブシュアとホルンアンブシュアを上手に切り替える方法はここでは書けませんが、レッスンではお伝えできますので興味がある方はぜひ!)

 

 

少し脱線しましたが、新たなことを学ぶときに、過去や癖、考え方を含めた「いままでのやり方の否定」は学ぶ力を阻害するものだということは、指導者の方々にもぜひ注目していただきたいことです。

 

・自分の中に相手のやり方や過去を否定する気持ちがないか
・よく聞くと、否定になるような言い方伝え方をしていないか
・生徒がそのように受け取っていないかどうか
・生徒自身がそのように考えていないか

をチェックし、もし該当するなら、「いままでのやり方が新しいやり方をどのように助け、支え、つながるか」を探求・観察・考察・実験していくようにしてみましょう。

 

レッスンがすごく腑に落ちる、つじつまが合う、先生も生徒もとても励まされハッピーになれるような瞬間がもっともっと増えてくるはずです。

 

学びや成長って、そういう体験ですからね、本当は。
苦しみ、傷つき、ショックを受け、ひたすら耐えることではないはずです。

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