「呼吸の出入りの、ちょっとした話」 その2 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の論文です。
原文→http://eastop.net/?p=476

肋骨(胸郭)のなかの肺

 すでに述べたように、肋骨の内側の高い位置に胚がある。とても重要なのは、吸気時(息を吸うとき)に空気は肺に引き込まれるのであり、肺だけに入ることである。言い換えれば,空気は胸部の高いところには入っていくが、横隔膜より下には行かない。

 肺は、薄い膜で外側を包まれた、伸縮性のスポンジのようなものが集まってできたようなものである。この膜と胸郭(横隔膜の上側の表面を含む)の内側の面のあいだには、気密シールのような働きをするフィルム状の液体があり、それゆえ二つの面のあいだは、密着している。この密着性の効果は、肺の膨らみが、肋骨の拡大と収縮に直接即座に従う、ということがある。肺は、空気が入るには膨らむ必要があるし、空気を吐き出すにはしぼむ必要があす。

 これをするために、肺はふたつのやり方で大きさを変えられるようにできている。
 
 ①横隔膜が下がる事で、下向きに引っ張られる
      ことと
 ②肋骨の拡大で、外向きと上向きに引っ張られること。

 これから述べるが、横隔膜が自分でこれをやれてしまうのである。

胸郭は、柔軟でバネがある、カゴ状の構造をしている。後ろで脊椎との関節と、前で胸骨との関節とつながっている左右両側の肋骨でできている。一番下の、遊離している4本の肋骨を除いて、全ての肋骨はそれぞれが個々に見事な形をしており、胸郭の拡大を可能にするような、ゆったりとしたカーブを描いている。このおかげで、胸郭全体がひとつのまとまりとして、三次元の全ての方向に広がることができる。前後左右上下の全てに向かって広がることができるのである。横隔膜が胸郭を支えてくれるおかげで、下方向だけでなく、上や横にも胸郭が広がって肺が膨らむ事ができるのである。

 肋骨に対する横隔膜の作用に加えて、他にも胸郭の拡大と縮小に関わる筋肉がある。ただし、これらには肺を下向きに膨らませる働きは一切ない。横隔膜だけが肺を下向きにも引っ張れるのである。

 収縮することで肋骨を引き上げる作用のある筋肉は、つまり肺を膨らませる作用をもつ筋肉は、吸気(息を吸うこと)を助ける。横隔膜以外で吸気を助ける筋肉には、斜角筋(一番上の肋骨のペアを、首のかなり上部から引き上げる筋肉)と外肋間筋(肋骨の間にある、上向きに引っ張る筋肉)がある。
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より強制的に息を吸うときは、もっと色々な筋肉が参加する。肋骨を上にひき上げるものならば、背中の筋肉すらも関わるのである。

逆に、胸郭を引き下げる筋肉は、呼気(息を吐く事)を助ける。これには内肋間筋(肋骨を下向きに引っ張る肋骨間の筋肉)が関わり、腹壁の何層かの筋肉も関わる。

強制的な呼気時、たとえばフォルテッシモの伸ばしでは、腕と背中の筋肉である広背筋 (latissimus dorsi)まで息を肺から押し出すのに使われる。

その3へつづく

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