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癖は悪者ではなく、立派な獲得技術なのです
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自分自身や生徒さんの歌唱・演奏における「癖」について、あまり誰も実践していないけれどとても大事で効果的で有益な考え方をお話しします。
・癖をやめよう・やらないようしようとしてもあまりうまくいきません。
・正しいことやろうとしても、疲れてしまいます。
・自分をいじめず、優しさをベースに癖を解消しましょう。
【癖は消せない】
癖は、消すのでも、直すのでも、抑えつけるのでもありません。
どうするかといえば、
・癖を使わなくて済むような状況を用意し
・癖の代わりにより望ましい別なやり方を実行する
のです。
【自動的という共通性】
癖が「考えなくても勝手にやってしまう」ものだとすれば、実は「技術」も同じだということに気がつくでしょうか?
技術は、意識しなくてもできるようになった物事のことを指します。
癖と同じでしょう?
では、癖と技術はどう違うのか?
結果的に起きていることが、
・自分の目的に役立っている=技術
・自分のやりたいことの邪魔になっている=癖
だと考えることができます。
大事なのは、癖=悪者という考え方をちょっと変えてみること。
代わりに、癖=立派な獲得技術と理解してみてはどうでしょうか。
【癖に感謝しよう】
いまは「癖だ」と思って邪魔者扱いし、消そう直そう抑えようとしていることでも、じつは立派で大切な獲得技術であったとしたら、それは何らかのタイミングや状況で役立っていたか、いまでも役立っているはずです。
例えば、高音を演奏すると、ガチガチに身体を固めてしまうという癖。
これは、今となっては自分にマイナスに働いている癖ですが、昔、いつかどこかで、しっかり役目を果たしていただろうと考えることができます。
というのも、高音の演奏にはもちろん、エネルギーや力が必要です。これは歌、管楽器、そして弦楽器に共通して言えることです。
だから、昔その高音にチャレンジしたときは、エネルギーや力の出し方がまだまだ荒削りで、全身を思いっきり使わないと出せなかったのです。あるいは、高音は大変なものだ、全身を力ませて出すものだ、と直接間接に教わったり思ったりしてそれが「方法」だと思って頑張ってやっていたかもしれません。
そうやって努力しているうちに、段々音が出せるようになってきた。そのあたりまでは、全身を力ませる吹き方も、やりたいことをやるなかでしっかり役目を果たしてくれる、立派な技術だったのです。
ところが、本当ならその技術はもっと精度の良いものに置き換えられて行くはずだったのに、何らかの理由で使い続けてしまっており、そのためにすでにもっとラクに確実に無理なく演奏できる技術を持っているのに、いまでは邪魔になってしまっているわけです。
【これから望むものを意識する】
そこでこれから必要になる作業は、
「自分の望むようなやり方を意図的に選択し直す」
ことです。
①高音を出そうとすると
②全身を力ませる癖が現れるとします
③それに気付いたら、ちょっと立ち止まって、「力まずに演奏しよう」と意図し
④音を出す前に一旦リセットして力みを解除し
⑤高音を出そうとしてみる
というようなプロセスです。
なお、「力まずに演奏する」と言っても、人や場合によって色々な状況があります。
力まずに演奏しようと意図するだけである程度力みを解消できる人なら、力みが現れたらそこで立ち止まって「力まず演奏しよう」と意図をし直し、リセットしてから再度演奏するだけでよいでしょう。
反対に、力まずに演奏しよう、と思っても一切力が抜けない。常に力みっぱなしだというひともいます。その場合は、具体的に何をやっていて力につながっているかを知り、力んでいない演奏をするために必要な手順を知り、その手順に意識的に従って演奏することが必要でしょう。
たとえば、高音を出そうとするとどうしても首の後ろに力が入ってしまって硬くなり首や肩が痛くなるというトランペット奏者がいるとします。
もし、このひとが高音を出そうとするにあたって、首の後ろに力を入れず、首をラクにしたまま高音へ向かって行ってみよう」と意図してそれだけで力みが改善したらよいのですが、もしかしたらそれでも一向に高音を出そうとすると首の後ろを硬く力ませてしまうということもあるかもしれません。わかっていても、止められないというケースです。
その場合、どうして首の後ろを力ませているのかを理解する必要があります。
観察しているうちに次のようなことが分かってくるかもしれません。
・なるべくプレスしないように、という意識を持っている
・そのため高音にいくにつれてマウスピースを口から引き離している
・実際には高音にはプレスが必要なので
・意図せず無自覚に顔をマウスピースのほうに持って行っている
・その動きが首の後ろを力ませ硬くしてしまうようなものである
首の後ろの力みは、マウスピースと口の必要な密着を作る過程で避け難くおきていたことなのです。癖に感謝しようとはまさにこういうことです。
原因は、「なるべくプレスしない」という奏法でした。
ですからこれから必要なのは「高音を演奏するとき、しっかりマウスピースを口のほうに引き寄せ密着させるようにする」という意図を持つことです。これが新たに身につけていきたい奏法・技術なのです。
(以上の例はあくまで一例であり、一般論ではありません)
【新しい選択を練習する】
癖はなんらかの技術です。これは繰り返しを通して身に付けた立派な獲得技術です。
同様に、力まない奏法もまた技術です。これを身につけるにも繰り返しが必要です。「力まずに演奏しよう、代わりにこうやって演奏しよう」という意識的な選択の実行を繰り返すのです。
感謝すべき存在である癖が、発動する必要がないような、新しいプラン・思考・アイデア・やり方・動きを探りましょう。
これが演奏の技術を向上する、重要なカギです。
お試しあれ!
Basil Kritzer
はじめまして。
素晴らしい考察ありがとうございます。
はじめてコメントさせていただきます。
私はフルートを吹いているのですが
「演奏時、体幹部が緊張して固まり、肩が上がっ?て唇に震えがくる」
というクセに悩まされていて
この前、それを無理におさえ込まず
「唇まわりと軸をぶらさず、重心や体幹部を動かす」
ことをしながら演奏したら、びっくりするぐらい
緊張が緩和されたんですが・・・
これは
”緊張して固まり、肩が上がって唇に震えがくる”
技術を
”重心や体幹部を動かし、インナーマッスルを使う”
技術に置き換えることに成功した”
ととらえればいいのですね。
まさに、目からウロコです。感謝!
田原さま
はじめました。
嬉しいコメント有り難うございます。
まさに仰る通り、田原さんの考え付かれた実験アイデアは、
技術の置き換えの素晴らしい例です。
軸に注目した点でも、素晴らしいですね。
軸の良い状態をうながすと、手足や唇などの先端部は
考えなくても自然と改善することが多いです。
ご自身でここまで考えられた田原さんに、敬服です。
はじめまして!
都内の音大でホルンを専攻している者です。
私は演奏している時に無意識に首が前に出てしまっていて、肩と首の後ろ辺りが物凄く固くなっているような感覚に襲われるのが悩みです。
ふとした瞬間に力が抜けると、楽器が楽に吹けてとても楽しいのですが、突然また力が入ってしまって、自分でコントロールが出来ず、本番がある度にまた力が入ってしまったらどうしよう・・・と不安に感じています。
私のホルンの先生からアレクサンダーテクニークのお話を聞いて、調べていくうちにバジルさんのこのブログを発見し、読んでいたのですが、私に当てはまることばかりでとてもびっくりしました。
そして長年の悩みを解決出来る光が見えた気がして、とても感動しました。
バジルさんのレッスンやワークショップにとても行きたいのですが、アレクサンダーテクニークのホームページを見てみたのですが、今も目黒スタジオでバジルさんのレッスンを受けることは出来るのでしょうか?
長文になってしまい、すみません。
宜しくお願いします。
えみさん
こんばんは。はじめまして。
首が前に出るのは、ホルン吹きには多いですね。
ラクで楽しい瞬間があるのは、素晴らしいことです。
どうぞそこにもっと気持ちを向けてあげて下さい。
ワークショップですが、私のものは今年度はいまのところ2月25日のワークショップしか企画していません….3月に1度どこかでやるとは思いますが。4月から本格的にスタジオでレギュラー講師メンバーとして活動を始めます。
詳しくはこちらどうぞ
http://www.alexandertechnique.co.jp/modules/contents/index.php?content_id=435
しかし、個人レッスンは合間の時間に単発的に行う事はできます。
ひとまずメール待ってます (^^)/
basil@bodychance.jp