演奏技術の問題を、放っておくという知恵

楽器演奏や歌唱に真剣に取り組み始めて数年すると、演奏のための基本的な技術は身に付いてきます。

一方で、どんなに頑張っても、あの手この手を試しても改善しないように見える「問題」や「苦手分野」も慢性化することがこの時期から始まることが多いのではないでしょうか?

前々から漠然と認識してはいたものの、最近言語化できるようになってきたことがあります。

それは

「演奏技術上の特定の問題や苦手に感じることは、多くの場合時間が解決してくれる」

ということです。

別の言い方をすると、

「問題や苦手分野であるからこそ、そこを集中的に『直そう』とはせず置いておくことが『知恵』である」

とも言えます。

きっとあなたにもあるのではないでしょうか?

以前は難しかったりできなかったことが、そういえばできるようになっている

ということが。

わたしは、ホルンを始めて17年が経ちました。

ホルンや金管楽器の演奏指導を始めてからは6年になります。

そして、BodyChanceメソッドを使って様々な楽器のプレイヤーのみなさんをお手伝いする仕事をし始めて2年を過ぎました。

このそれなりに長いとも、短いとも言える時間の中でのわたしの経験上、実は

ほんとうに「問題=直さないといけないもの」を抱えているプレイヤーはとても少ない

ように思えます。

むしろ、

奏法上や演奏上の「問題」見なされているものの多くは、上達や成熟により時間がかかるだけで、いつものように演奏に取り組んでいるうちに自然とクリアできるようになる

と思えるのです。

したがって、わたしたちは全般的に言って、

問題を直そうと(無駄に)もがく、もぐらたたきのような作業に時間を費やし過ぎ

な傾向が顕著であり、

冷静に考えてみると、その作業が問題解決や技術の向上につながっていない

ことが多いことに思い当たるのではないでしょうか?

そこで、こう考えてみてはどうでしょうか?

『演奏技術や演奏能力には、より短時間で変化や向上が起きるものもあれば、もっと長期間の取り組みを経て向上していく性質のものもある』

と。

演奏技術のどういったものがより短時間で、どれが長期間を経てこそ獲得されていくものかは、もしかしたら客観的な分類ができるのかもしれませんが、現時点では本当に誰にでも当てはまるような分類に接したことは、わたしはありません。

ですので、いまは

「自分にはひとより短時間でできるようになることもあれば、ひとより長期間を要することもある」

と捉えておくようにしましょう。

何かができない、ということは、「問題」ではないのです。

「直す」べき「欠点」ではないのです。

むしろ、「いつか必ずできるようになる」ことなのです。

もっと言えば、「いつも通り練習に取り組んでいくことでいつか段々と、自然にできるようになること」であれば、直しにかかってはいけないのです。

このことは本当によくよく考えて頂きたいと思います。

欠点扱いして直しにかかっていたことなかで、いったいどれぐらい実際に良くすることができたでしょうか?

心身ともに疲れてきて、諦めたことが多いのではないでしょうか?

そういった事柄の多くが、その後、いつの間にかマシになってはいないでしょうか?

もしくは、いま現在進行中でもがき苦しんでいることがあるかもしれません。

問題、欠点だと決めつけていませんか?

冷静になれば、もしかしたら「長期間」(長時間、練習量という意味ではなく、日数や月数あるいは年数がかかるという意味)でみていけば良くなるであろうことのように思えませんか?

ある意味、わたしたちは自分の成長するスピードやタイミングをコントロールできないと思うのです。

自分にできることは、いま演奏に取り組みたいなら、演奏に取り組むだけです。その結果そのつどそのつど起きる少しづつの向上、あるいはときに飛躍的に起きる向上が、「起きるに任せる」ことだけです。

向上は、「演奏がしたいから演奏するというプロセスの副産物」なのではないでしょうか。

苦しみや悩みの多くは、実際に問題があるというよりは、「いまできない」ということに対しての不安や不満、焦りが実体であることがとても多いように思います。

大切なのは、自分なりの成長のスピード(これも時期により一定でない。飛躍的なときもあるだろう)やタイミングを「受け入れる」ことです。

「欠点を直す」「猛練習」「ねじ伏せる」ような作業をそれに被せてしまわないようにしましょう。

自分なりの成長は、それがそのまま自分にできるベストなのです。

もしかしたら、「自分なりのベスト」を、他者と比較したり、入試やオーディションなどの外部的な評価と比べて、このままではダメだ、これでは足りないと判断してしまうことが、わたしたちの抱える緊張の大きな原因になっているのかもしれません。

できないことがある。それは確かにショッキングです。

しかし、「自分なりのベスト」と本当に仲良くなれれば、そのときから成長に手応えを感じ始めることでしょう。そして音楽はもっと楽しく自然になってくるはずです。

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演奏技術の問題を、放っておくという知恵」への2件のフィードバック

  1. 20年ぶりに楽器を始めた者です。特に先生に今まで習ったことはなく、高校大学の吹奏楽部にいました。先輩から習ったとおりにやってみたり、本を学んでもあまりうまくはならなかったのですが、今はいい意味でも悪い意味でも癖などがなくなっているので、一から学びたいと思っていたところバジルさんのブログに出会いました。疑問に思っていたけれど、そんなことはないはず、ということが長年を経て解決したような気がします。それで、口を普通に閉じて吹く、ということについてお聞きしたいのですが、私はユーフォニウムですが、低い音は、普通の口に閉じて吹くと、うまく音がでなかったりします。低音は頬も片方だけ(右側)膨らみます。
    また、唇だけ振動させると右口角は上がって、左は下がっているのですが、こういう場合も特に意識せずに練習していて大丈夫なんでしょうか。

    • ははさま

      コメントありがとうございます。

      もしかしたら、口を閉じる際、全ての音域で同じようなとじ具合を想定されているのかもしれません。

      もしそうであれば、口を閉じる仕事の量ややり具合は音ごと、音量ごと、フレーズの前後関係ごとに応じて変化させてよいことを認識すると、改善するかもしれません。

      頬の膨らみや口の働きの左右非対称は直接的に問題視する必要はありません。

      もしかしたら、マウスピースと口の隙間を密封することを意識してみるとよいかもしれません。

      もしかしたら、思っているより顔の右斜側面または左斜側面もっとぴったりくっつけてあげるとよいかめしれません。その際、楽器とともに顔や首も動かすとぴったりくっつく関係性をラクに作れます。

      なお音域によって密着面は移動する可能性が高いです。

      Basil Kritzer

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