わたしたちが練習するモチベーションとは何なのでしょうか?
それを考えるうえで役に立つかもしれないのが、
「嫌い」/「好きじゃない」ことでも「やりたい」と思えることはある
ということを知っておくことです。
練習は、やるのが面倒でも、やるのが嫌でも、「やりたい」と思うことができるのです。
それは家事に似ています。
稀に家事全般もしくは家事の一部が「好き」なひともいますが、ほとんどのひとはほとんどの場合、家事をするのは好きではありません。面倒ですものね。
しかし、家事を「したくない」わけではないのです。
なぜなら、家事をするということは、自分もしくは家族を「養う」行為だからです。
・清潔な食器を使いたいから、洗い物をする。そのとき洗い物をわたしたちは「したい」のです。
・次の日ちゃんとしった格好をしたいから、洗濯機をかける。そのとき洗濯を「したくて」やっています。
・来客に気持ちよく過ごしてほしいから、部屋を掃除します。そのときわたしたちは掃除が「したい」のです。
やっている間も、必ずしも家事は楽しくはないかもしれません。かなり「嫌な気持ち」で行っていることもあるでしょう。
それでも、わたしたちは日常をきちんと過ごすために、「家事がしたいから」家事をしています。
楽器の練習も、そういうことがあります。
もっと寝ていたい。
遊んでいたい。
面倒くさい。
体調がイマイチすぐれない。
練習が正直好きでない。
色々な理由で、練習するということにポジティブな気持ちや気分になれていないことがあるでしょう。
しかし、大事なのはそういった気分や感情ではなく、「自分はきょう・いま、練習がしたいかどうか」という意欲・欲求の部分なのです。
練習する前に、「自分はきょう・いま練習したいかな?」と意識的に問いかけてみましょう。
そのときに練習を「したい」か「したくない=他のことがしたい/休みたい」で練習するかどうかを決めましょう。
練習をするべきだから
練習をしなければならない
練習をしないと怒られるから
そういった「気持ち」から練習をし始めることも多いわたしたちですが、これでは練習がしたいのかしたくない(他のことがしたい)のかという「自分の意志」が曖昧になっています。
それで、練習しする前も、最中も、せっかくし終えた後も、なんだかモヤモヤしてしまうのです。
自分の意志は、好きか嫌いかや気分はあまり関係ありません。
きょう・いま、練習したいのか別のことがしたいのか
だけなのです。
指導者としては、生徒を脅したり、プレッシャーをかけたりすることで練習をさせるのは、生徒自身の意志を冒すことが多いので、あまり得策ではないのです。
たとえば今朝、わたしは「練習してから仕事に行けたらいいな」と思っていました。
しかし、昨日までの出張の疲れがありました。
自分に問いかけました。
「きょう・いま、出勤前に練習していこうかな?」
そうすると、こんなふうな考えが浮かび上がりました。
「練習するのもいいだろう。でも、君はいま肉体的に疲れていて、楽器演奏に必要な身体的なパワーやエネルギーがあまり出せない。そういう状態で練習してもあまりよい練習にならないだろう」
そこでわたしは、
「よし、それなら余裕を持って家を出て、落ち着いて出勤して、仕事にフレッシュに取り組みたい」
と思いました。そして、その意志に基づき今朝の行動を選択しました。「練習する代わりに、余裕を持って早めに家を出て仕事に向かう」という選択です。
練習のモチベーションとは、「きょう・いま練習がしたい」という意欲・意志です。
それを妨げたり、曖昧にさせてしまう主犯格が、「やらなければならない」という自分から自分への、あるいは他人から自分への脅迫です。
家事でも勉強でも、「やらなきゃ」と思っているときほど、なかなか手につきませんよね。
自分に対しても、他人に対しても、「やらなきゃいけない」という安易なプレッシャをかけないよう、気を付けましょう。ロクなことがありません。
「きょう・いま練習がしたい」という意欲や意志を見出すうえで、あるいは、実はちがうことがしたいのだと理解するうえでは、自分の望みや情熱の探求が非常に役立ちます。
それについては、拙著『管楽器がうまくなるメンタルガイドブック』(きゃたりうむ出版)に、ワークシートを用いたセルフエクササイズを多数紹介してあります。
ぜひ本をお取りになって、探求を深めてください。