音大生の指導法

音大生を指導する際に、指導者としていちばん気をつけなければならないのは、

敗者・落伍者という自己イメージを持たせてしまう

ということです。

【勝者でも「もらっている」仕事】

管楽器の場合、「演奏家」という職業を大学卒業後に選択肢し、それで食べていくためにはほとんどの場合オーケストラ入団もしくはフリーランス演奏家として複数の演奏仕事の口を獲得する必要があります。

これは基本的に、自分の演奏家としての「技能」を、誰か他の人や組織に「使ってもらう」対価として給与や報酬を受け取るという形です。

つまり、自分以外の存在が生み出した「仕事」です。その仕事をもらうわけです。その仕事の数は限られているため、音大生の演奏の力量上位わずか数%だけがその仕事を「もらう」ことになります。

その結果、その仕事を「もらえない」90%以上の音大生が生み出されるわけです。極端な競争になってしまうわけです。

*仕事を「もらう」ということや、上位数%に入る事に関してネガティブな意味で述べているわけでは一切ありません。

【競争の勝者であることがプロ演奏家の必要要件ではない】

ここで音大の指導者も、音大で学ぶ音大生も犯しがちな 大きな大きな間違い は、仕事がもらえる上位数%に入れなかった者のことを 「プロでない」「敗者」と捉えてしまうこと です

まず、上位数%に入って仕事を「もらう」ことができたひとだけが「プロ」なのではありません。その上位数%から漏れたひとでも、プロになる力を持っています。

ただ、いまの現状では演奏の対価にお金をもらうような仕組みや場作りを、演奏者でない別の誰かや組織に頼っていることがほとんどなので、上位数%だけがプロのように見えてしまうのです。

実際には、上位数%に入っておらず、仕事をもらっていなくても、マーケティングやセルフプロデュースの知識とスキルを持っていれば、自分で演奏をお金に変える様々な術を開発することができ、演奏をすることで生計を立てる=プロになることができます。

クラシックの音楽家を育てる教育機関は、欧米でも日本でもそういった教育をしていないが故に、そういった発想を持つ人はなかなか現れません。

しかしアメリカでは音大や総合大学の音楽学部にポピューラーミュージックの学部があり、そこでは例えば「インディーズバンドとしてレコーディング会社のエージェントを自分たちのライブに呼ぶ戦略的方法」とか「ライブを1年かけて満員にするメルマガ構築方法」といったセミナーを行っており、学生たちはみな真剣に学んでいます。

クラシック音楽の市場は、ポップミュージックやロックとは異なりますが、クラシックミュージシャンとして、セルフプロデュースしマーケティングを成功させることができるはずなのです。

したがって、オーケストラ入団に代表されるような「形」での成功を得られなかったからといって、それはプロとしての資質を何ら下げているものではないのです。

しかし残念ながら音大では、「オーケストラに入団できなかったひとは負け組」というような雰囲気がどこか漂っていたりしますし、それに毒され自信を失い成長が阻まれてしまう音大生が多いのです。

それを未然に防ぎ、「上位数%」という極端な競争の勝者になろうとする不健康なプレッシャーから精神的に守ってあげることが、音大生の実力を最大限に健全に伸ばしていくうえで重要です。

【専門家/音楽家としての自意識】

この極端な競争の状況と、そこから生み出される不自然な「勝者と敗者」の意識の問題とも関連するのですが、 音大を卒業した者は、みな専門家であり音楽家である という事実を、当の音大卒業者自身が見落としがちです。

生計を立てる手段として音楽を選択するかしないかと、あなたが音楽家であるかどうかは、一切関係ありません。

4年間またはそれ以上、正規の大学教育において音楽を専門的に学んだということは、それはあなたが 「音楽の専門家」である ことを意味します。

そのことに、誇りを持ちましょう。

卒業後に音楽の演奏により生計を立てられていなくても、あなたが音楽家であること、音楽の専門家であることは揺るぎないことなのです。

音大で音大生の指導にあたる指導者としては、教え子たちにその自覚と自信を持たせることが大切です。

現状では、音大に行って、極端な競争に勝てなかった/勝てそうにないというだけで自信を失い、指導者からのサポートがなく、時にはもっと叩きのめされるだけで精神的に潰れてしまう音大生が多過ぎます。

現代社会ではクラシック音楽家として生計を立てるのは確かに難易度が高く、またオーケストラ入団というような分かりやすい成果はさらに難しいものです。しかしだからといって音大で学ぶ音大生の専門家になっていくその尊さを、音大の指導者はもっともっと大切に扱わなければなりません。

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