アンブシュア「を」ではなくアンブシュア「が」

先日、管楽器奏者の顎や首を引く癖について、実際にあったトロンボーン奏者とのレッスンから分かったことを書きました(内容はこちら)。きょうはその続編です。

この顎や首を引く癖がポイントとなったレッスンではもうひとつとても興味深い事柄が浮上しました。このレッスンをやっていたときはグループレッスンで、ホルンやフルートなど他の管楽器奏者も参加していたのですが、彼らの興味を惹き付けたのは実はむしろこちらでした。

それは、よく言われている「アンブシュアを引かないように」という考え方。

まずこれの考え方の私なりの解説をしますと、次のようになります。

なぜ「アンブシュアを引いてしまわないように気をつけよう」ということを多くの奏者が考えるかと言うと、それは経験的にアンブシュアを引くとなんだか吹きづらいのを知っているからです。つまりこれは経験的には事実と言えます。

しかし私はちょっと異なる角度からちょっと異なる言葉で考えています。それは、この話のポイントは本当は「望ましく吹きやすいアンブシュアの使い方は何か」にあるということです。それを考えるには、管楽器を吹くとき基本となるのは「上下の唇を触れ合わせるということが音を鳴らすのに必要」ということです。(フルートは異なります)

金管楽器の場合
金管楽器は、発音するために上下の唇を触れ合わせ、閉じています。発音するために使う息によって、それは開かれアパチュアが形成されます。閉じ具合を調整することが、音を変えることに作用しています。閉じ具合の調整は、第1に閉じる作業の強さややりざまによって。第2に逆に口を開く筋肉たちによる拮抗する働きによって(ただしこれはアンブシュア全体の安定を実現する意味がより大きい)行われます。

リード楽器の場合
リードへの圧力を調整するうえで、唇と顎の「閉じる力」を調節しています。金管楽器より顎の力の関与が大きいですが、「閉じるということをやり続けている」という点では同じです。

フルートの場合
フルートは金管と異なって両唇は開いたままです。能動的にアパシュアを作ります。アパチュアの大きさや形を作るうえで「唇を能動的に動かす」ことは大事な一部です。閉じ切ず、先端を触れ合わせはしませんが、「上下の唇を近づける」動きや、「アパチュアの形や大きさを絞る唇の動き」はやっています。

というわけで、程度の差はあれど「唇を触れ合わせる/口を閉じる」動きは管楽器に共通します。そのやり方に大まかにいうと二つの方法があります。

1:唇をほお骨や顎の方に貼付けるようにして、後ろや横に引っ張ると、上下の唇は近づきます。
2:唇を上下の歯から離れるような動き(すぼめるような動き)をすると、つまり前に動かすと上下の唇は重なります。

どちらも、「触れ合わせる/閉じる」という点においては等しく有効です。しかし、管楽器で音を鳴らすということになると、1と2で吹きやすさや音が変わってきます。結論から言うと、2の方が効果的なのです。

それは

A:共鳴
・唇を骨や歯に貼付けると(後方向)、骨の振動を止める。
・それに対して唇を前方向に使う骨に対する圧力が相対的に少なく骨が振動しやすい。共鳴が得られる。

B:唇とマウスピースの圧力
・唇を後ろ方向に引くと、唇とマウスピースの圧力が減る
→それを補うためマウスピースを唇にプレスすることになるので、消耗する
・唇を前方向に使うと、唇とマウスピースの接触が増える
→その分プレスしなくてすむので、消耗せずまた接着も安定するのでアンブシュアの支えを浪費しない

というふたつの側面があるためです。

従って「アンブシュアは前方向に使いたい」なのです。前方向に使いたいのであって、「引きたくない」あるいは「引かないように気をつけたい」と考えるより「アンブシュアは前方向(マウスピース/リードの方)へ」と思った方が実行しやすいです。

さて、長くなりましたがここまでは前置き。

件のレッスンでは、このトロンボーン奏者は「アンブシュアをどうしても引いてしまう」という悩みがあったのです。引かないようにしようといくらしても、高音に映るとどうしてもピッと引いてしまう。

そう、ここに先日書いた「首を引く癖」が深く関係していたのです(内容はこちら)。

実は、

彼は「アンブシュア引いていた」わけではなかった

のです。実態は、

首によってアンブシュア引っ張られていた」

のです。

そのため、先日書いたように、頭を傾け手首で楽器の角度を自由に調節する方法が代わりに見つかったことで首を引く癖がなくなると、アンブシュアも引っ張られなくなって、ちゃんと思い通りに前方向に使えるようになったのです。

そう、「が」と考えるのか「を」と考えるのかで、全く展開がちがってしまうのです。

こういう「が or を」問題は、アンブシュアにもタンギングにも呼吸に関してもよくあります。そこが入れ替わっているせいでなかなか意図している通りに直らないことがあるのですね。

そういうときに、頭の動きと身体全体の動きの関係を視野に入れると非常に効果的になります。可能ならば実際にBodyChanceメソッドのレッスンを受けてみるのをおすすめしますが、困ったときは困っている「場所」の外側に目を向けてみる、という発想を使ってみるとよいでしょう。

ぜひ、試してみてください。

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アンブシュア「を」ではなくアンブシュア「が」」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 管楽器奏者の首や顎を引く癖 | バジル・クリッツァーのブログ

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