管楽器奏者の首や顎を引く癖

先日、あるトロンボーン奏者とのレッスンであったこと。レッスンの際、テーマとして浮上してきたのが

「高い音に跳躍するとき、首を引く(伸ばす)という動きが起きている」

ということでした。本人に尋ねると、それは自覚していなかったとのこと。

この首を引く(伸ばす)という動作、体全体を少しぶれさせ、気道を揺らしていましたから、必然的に息のコントロールにずれ/不正確さを生んでいました。

しかし、ポイントはそれでもやっているということ。ここは重要なところで、不正確さを生んで邪魔をしているのに、それでもやっているのはそれ相応の理由があるのです。そう、どんな癖でも何らかの必要性を満たそうとして起っているものなのです。

このトロンボーン奏者の場合は、本当にやりたかったことは何だったのか。それは、

「マウスピースとアンブシュアの角度の調整」

でした。

音域が変わるとき、アンブシュアが変わります。そのため息を吹き込む角度も変わります。その角度を作るために、首を引いていたのです。実際に、望む角度自体はこのやり方で作れていたようでした。

しかし、幸いなことにもっとやりやすい方法がありました。

それは

「頭を前に傾けること」

です。

見た目としては「顎を引く」ような動きですが、実際は頭を前に軽く傾ける動きをすれば、望む角度が作れます。

強く顎を引くと、首のうしろが伸びる感じがするかもしれません。彼はそれをやっていて、呼吸に計算外の邪魔がかかっていたのです。

ですから、「角度を変える」というニーズ・必要性を満たす身体にとってもより効率的な他の方法さえ見つかれば、この癖はもう起きなくなります。必要がなくなるからです。

レッスンでは、その方法を模索しました。アンブシュアとマウスピースの角度を変えるのポイントで、呼吸に影響がないようにしたい。そのためのうってつけの方法があります。

それは

「頭を軽く前に傾ける」+「楽器を主に手首の動きで動かす」

ということです。

頭を非常に軽く前に傾ければ、顎を引こうとしたり首を後ろに引いたりせずともちゃんとアンブシュアのマウスピースに対する角度が望んでいるように変わります。繊細で優しい動きで筋肉も大して使いませんから、呼吸に影響がありません。ラクにできます。

そして、手首を動かせばとても簡単に楽器の角度を変えられますし、マウスピースのアンブシュアに対する圧力や接着の具合もかなり自由に調整できます。手を動かしていますから、やはり呼吸や胴体に影響がありません。

その二つを「癖の代わりになる新たな方法」として紹介して試してみると、このトロンボーン奏者は実にスムーズにアンブシュアが機能して簡単にクリアで豊かな音で跳躍ができました。本人も「おお!これは!」と驚くとともに喜び、手応えを掴んでいたようでした。

どんな癖でも、必ず何かをやろうとしてくれています。その癖を変えるには、

1:何をやろうとしているときに癖が現れるか観察する
2:その癖は、どんなニーズ・必要性を満たそうとしているのか分析する
3:代わりに何をすればニーズ・必要性が満たせるか考える
4:その新たな案を実行してみる

という手順を踏んでみると、いままでとは異なる展開があるかもしれません。ぜひ試してみてください。

このトロンボーン奏者とのレッスン、実は二回目にまた別の示唆に富むことがありました。それについては、こちらをご覧下さい。

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管楽器奏者の首や顎を引く癖」への2件のフィードバック

  1. アンブシュア「を」ではなくアンブシュア「が」

    先日、管楽器奏者の顎や首を引く癖について、実際にあったトロンボーン奏者とのレッスンから分かったことを書きました(内容はこちら)。きょうはその続編です。 この顎や首を引く癖がポイントとなったレッスンではもうひとつとても興味深い事柄が浮上しました。このレッスンをやっていたときはグループレッスンで、ホルンやフルートなど他の管楽器奏者も参加していたのですが、彼らの興味を惹き付けたのは実はむしろこちらでした。 それは、よく言われている「アンブシュアを引かないように」という考え方。 まずこれの考え方の私なりの解説をしますと、次のようになります。 なぜ「アンブシュアを引いてしまわないように気をつけよう」ということを多くの奏者が考えるかと言うと、それは経験的にアンブシュアを引くとなんだか吹きづらいのを知っているからです。つまりこれは経験的には事実と言えます。 しかし私はちょっと異なる角度からちょっと異なる言葉で考えています。それは、この話のポイントは本当は「望ましく吹きやすいアンブシュアの使い方は何か」にあるということです。それを考えるには、管楽器を吹くとき基本となるのは「唇を閉じるということが音を鳴らすのに必要」ということです。 金管楽器の場合 閉じた唇を息が押開ける→唇はまた閉じるということの繰り返しで振動が生まれます。実質的には「唇を閉じる」という動きをし続けているのです。アパチュアの開き具合は、息の強さと唇の閉じる力の強さのバランスで決まりますから、作業としては単純に「閉じるということをやり続けている」なのです。 リード楽器の場合 リードとリードまたはリードとマウスピースの間の開き具合を調節するのに、唇と顎の「閉じる力」を調節しています。金管楽器より顎の力の関与が大きいですが、「閉じるということをやり続けている」という点では同じです。 フルートの場合 フルートは金管と異なって両唇は開いたままです。能動的にアパシュアを作ります。しかしそのアパチュアの大きさや形を作るうえで「唇を閉じる」という動きは大事な一部です。閉じ切らないだけで、「閉じる動き=上下の唇を近づけたり、アパチュアの形や大きさを絞る唇の動き」はやっています。 というわけで、程度の差はあれど「唇を閉じる」動きは管楽器に共通します。その閉じ方に大まかにいうと二つの方法があります。 1:唇をほお骨や顎の方に貼付けるようにして、後ろや横に引っ張る…

  2. ピンバック: アンブシュア「を」ではなくアンブシュア「が」 | バジル・クリッツァーのブログ

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