キャシー・マデン先生との学び備忘録 その1:骨盤底

この3週間、キャシー・マデン先生がシアトルより BODY CHANCE のアレクサンダー教師養成課程を教えに来日しておられます。

昨日が東京では最後の日だったのですが、この間12回、キャシー・マデン先生の授業に出席することができました。

うち6回ほどは実際にホルンを持っていて、吹き方を見てもらいました。

このキャシー・マデン先生、ほんとうに世界一のアレクサンダー教師だと思います。昨年も一昨年もホルンの吹き方を見てもらって、たくさんのとっても役立つ観察とヒントをもらえました。

今年はまた新たな観察とヒントと新しい理解を、さらに数多くもらえました。
より多くを吸収できるようになった自分を褒めてあげたいですね。

では、今年の新発見&収穫を備忘録として記したいと思います。
いまもそれぞれを消化中で、詳細に解説はまだできません。
意味の分からないこともあるでしょうが、ピンとくる内容もあると思いますので、ぜひ使ってく下さい。

1:骨盤底 

キャシー先生が教えてくれたのは、『骨盤底』の意味。

骨盤底(Tummies,Mummies, Babies ! より)
Pelvic-Floor-picture.jpg
息を吐く時に、三つの腹筋を使っています。このとき、腹筋は収縮します。収縮するということは、筋肉が短くなるということです。腹筋は肋骨と骨盤をつないでいます。

とくに分かりやすいのが腹直筋で、肋骨/胸骨の下部と恥骨をつなげているなが?い筋肉です。この腹直筋が働いて収縮し短くなると、肋骨と恥骨が引っぱり寄せられます。骨盤が前に引っ張られます。肋骨は引っぱり下げられます。腹筋エクササイズをして胴体が起こされるのはまさにこういう働きがあるからです。

楽器を吹く時、日常よりはるかに多い量と強い圧力の息を意図的に吐きます。これには、正真正銘力が必要です。それをやってくれるのが、ひとつには腹筋。だから腹筋は楽器で音を出す時収縮します。これ正常です。

しかし、そのままだと肋骨と骨盤が引き寄せられます。
すると、安定して立っていられないのです。胴体が前にカーブするでしょう。

こうすると、胴体の安定に腰や背中、脚や腕の筋肉を一生懸命使い始めます。倒れるのを防ぐので正常な働きではありますが、こうやって一生懸命倒れないように筋肉を使っていると,呼吸、しかも管楽器演奏という力とコントロールと繊細さが要求される高度な呼吸はなかなかできません。

私の場合は、息を吐くときに腹筋が使われると、重心が後ろに押され(胴体前側の腹筋が収縮し内側に入ってきますから、後ろに力が加わります)、それに対抗して脚やなんとベロ(!)も固くしていました。

ベロはとても強い筋肉の複合体で、胴体がバランスを失えば、倒れさせまいとして実際に「立っていられる」ようにまでしてくれる力を秘めています。

このようにベロが頑張っていては、当然演奏にはマイナスに作用しますね。

では強くたくさん息を吐きつつも、胴体のバランスを保ち、脚や腕、喉や舌を緊張させないでいられるか。

その役割のキーパーソンが骨盤底のいろいろな筋肉のようです。

この骨盤底の筋肉たちは、息を吐く時は腹筋の引っぱりに対抗して骨盤を安定させてくれます。

また、骨盤底の筋肉がたちが全体として内蔵を押し返し、ひては横隔膜を押し上げる力を作るので、息を吐く力のいちばん根元となるのです。

これを知って、使い方を体験させてもらってから、アンブシュアの細かなコントロールの必要を感じなくなってきました。おそらく胴体と頭が後ろに引っ張られて不安定だったが故にアンブシュアのコントロールで埋め合わせがあったのだと思います。

また、骨盤底をしっかり使うという思考を吹きながら明確にできると、実際に姿勢も安定し、それ故に脚も変にがんばらなくなってきました。

後に述べる、唇を前方向へ送るアンブシュアの使い方(共鳴とも関係する)や腕/肘などと合わせて全体的な使い方と密接に関係しますが、

力みがちなフレーズや音域のときこそ、骨盤底の力が必要だということが明確になってきました。

力むということは、それは「力みすぎ」とも限らず、むしろ力をどこから出すかが肝心なこともあるようです。

私の場合は、骨盤底が大きなキーポイントでした。

これまで数年間、頭の動きと全身の協調作用というアレクサンダー・テクニークの基本から自分の吹き方を様々に見つめ、変え、取り組んできました。

それのあるひとまとめが、今回のキャシー先生のレッスンでできました。
詳しくは今後の稿でひとつひとつ言及していきますが、まとめると以下のようになりました。

・頭の動きと自分全体の協調作用

・骨盤底の働き―息のコントロールの根元&姿勢のバランス

・息は上へ角度をつけて動き、硬口蓋に当たって結果的に前へ出て行く

・唇は、前方向へ送る。息の出て行く方向に沿い、頬骨や頭蓋骨、鼻腔や顔の組織の共鳴が活かされる。唇の支えもしっかりする。

・骨盤底が働き、息がしっかりと上へ送られていれば、喉や舌は干渉せず、アンブシュアのコントロールもよりシ
ンプルになる。

・左腕は思っているより前へ動ける。肘をもっと使える。その役目は、マウスピースを唇のセンターへ持っていくこ
と。自分が行かなくても大丈夫。

・自分全体の協調作用に対し「お願い」をすれば、これらは統合される。

・また、これらはすでにちゃんと身体地図化されているから、「お願い」をすれば、機能していないときはちゃんと 知らせてくれる。チェックしなくてよい。

・感覚は向こうからやってくる自動的システム。チェックしなくてもよい。むしろ感じることは止めようがない。うまくいっているときに感覚的フィードバックがないときもある。感覚的フィードバックは自動的システム。必要な情報は「お願い」すれば自動的に入って来ているものから浮上する。

ほんと主観的な備忘録です。このキャシーシリーズではちょっと分かりにくい稿が続くでしょうが、私のレッスンやワークショップでは使う頃には、誰にでも分かり易い形に血肉化されているはずです。

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キャシー・マデン先生との学び備忘録 その1:骨盤底」への6件のフィードバック

  1. キャシー・マデン先生との学び備忘録 ?その2:息は仕事である etc?

    キャシー・マデン先生との6回のアレクサンダー・テクニーク&ホルンレッスンで学んだことの備忘録。 2:息は仕事であること。 いつの間にか忘れていました。 管楽器では、(あるいは歌や俳優・声優など専門的技能的に「呼吸」を使う活動で)、 息を吐くということは、本当に一仕事なんです。 ときには大量の、ときには強い圧力で、 意図したとおりの継続時間で吐く。 望みどおりに音が出るように唇を後ろから動かすコントロールも必要。 息は、硬口蓋にあたって前に出ます。 (これはすなわち、「息は上に」と意識するのです。前に行くのは結果だから、前に下に吹き込もうとすると、余計な力みになります。上に送ろうとする力が必要なのです。参考記事:「空気は上へ行く」) だから息をそこまでしっかりと能動的に力を使って押し上げる必要があるんです。 前回も書きましたが、胴体の一番底である骨盤底から息を上へ押し上げる力が働いています。 (参考記事:キャシー・マデン先生との学び備忘録 ?その1:骨盤底?) むしろ、「働かせる」と言ったほうがいいのかもしれません。 私は「空気は上へ行く」と思っているうちに、使いたい力を使わず別の力みで代用しがちになっていました。 だから、 「息を力を使って能動的に上へ送る」 単純に言うと、 「骨盤の底からしっかり押し上げる」 と考えたほうが私にはよかったのが分かりました。 アレクサンダー・テクニークは、「脱力法」ではありません。 でも結果的にすっごくラクになる場合は多いです。 それは、 アレクサンダーテクニークが、管楽器演奏で使うべき力を使うための理解と方法を得るメソッドだからです。 息を吐くとき、 骨盤底を能動的に働かせ、腹筋群(詳細:『息の支えの秘密』へ)をしっかり使うと、内臓が押し戻され横隔膜が押し上げられます。 そのおかげで、肺の空気が力強く気管を流れ、口内部の上側の硬いところ「硬口蓋」にぶつかり、口の天井を沿って前へ流れ出ていく。 そのとき、喉やベロの能動的な力は、息のパワーという点では必要ありません。 (タンギングや口腔内の形状操作には能動的にベロを使います。) 最後に前へ流れ出ていく息の方向に沿って、唇自体は前方向へ互いに動き閉じ合わされます。 その3:「唇と共鳴の関係」へつづく Basil Kritzer ホルン&金管トレーナー。 BodyThinking認定コーチ Thin…

  2. キャシー 2012 「骨盤底」

    2012年版、キャシー・マデン先生との学び備忘録その5です。 骨盤底が息の仕事を担う ・骨盤底に関しては、昨年もキャシーから大変多くを学んだ。 ・第一的な吐く力として。 ・息の強い動力に拮抗して胴体を安定させてくれる「バランスロープ」として。 ・詳しくは昨年の記事参照。こちら ・今年印象的だったアイデア。息は硬口蓋に当たって前方向に進路を変え、口の外へ流れ出て行く。つまり、奏者が担当する息の「仕事」は硬口蓋まで息を送り上げること。前へ出す事、楽器に吹き込むこと自体は筋肉では何もする必要がない。口内の形状、アンブシュアが流れている息を楽器方向に「導いている」。 ・この仕事は、ほんとに骨盤底がやっている。つまり、息を硬口蓋まで角度を狙って送り上げる仕事を骨盤底がやっているのだ! ・腹筋は?腹筋は大いに働く。これはわたし推測だが、腹筋のやっていることは、骨盤底の補助と、肋骨を収縮させて肺から息を押し出す作業。 ・骨盤底は収縮すると内蔵を押し上げる。すると横隔膜が押し上げられた内蔵に押し上げられ、肺から息が出る。なので、骨盤底の仕事(収縮)こそが、息の力とコントロールの根本なのだ。 ・骨盤底に任せられればられるほど、アンブシュアや舌は音の操作に専念できる。「息の仕事」をアンブシュアや舌がしないで済めば済む程、首からアンブシュアにかけて(のども)、音の操作のために自由に動ける。 メルマガ 最近、下記のメルマガでは読者にアンケートをさせてもらったり、質問を頂いたりして交流を楽しんでいます。新たな「バジル流教則シリーズ」も始まってさらに充実。ぜひこの機会にメルマガに登録してみましょう!下の画像をクリック!

  3. ピンバック: タンギングの仕組みとタイミング | バジル・クリッツァーのブログ

  4.  バジル先生は、臍下丹田という東洋の概念を御存知ですか。私がお世話になった西の宮の若本勝義先生は、丹田の位置を特定できる方法を見つけて、そこに意識を集中することを「センタリング」と呼び、彼のボディーワークの中心概念にしています。 http://bdil.jp/modules/BDI/content0008.html に、その応用体験として、誤ってぶちこまれたアフリカの刑務所で、長さ25センチの虫三匹を「センタリング」して全部引き出すことで、足を失わずにすんだ話が書かれています。
     18日のワークショップで、私の音が格段に進歩していることを指摘されました。実は、15日に行った整体協会 http://www.seitai.org/ の活元会で、丹田に力を集中するワークを行ないました。私には、丹田の活用が、キャシー先生の骨盤底の筋肉利用と同じことのように思われます。

    • 大岩さん

      この若本先生の人生は壮絶ですね….!!
      すごい…..

      丹田は解剖学的概念では捉えられないので、キャシー先生やわたしが演奏と関連付けて教えている骨盤底のこととイコールではないでしょうが、
      アレクサンダーテクニークの中で骨盤底のことが分かってくると、もしかしたら気やチャクラが分かるひとからすると丹田の活性化につながるのかもしれません。

      なにぶんわたし自身は、そういう気や重心といった感覚にはどうも疎いというか、その角度からの理解が性に合わずなのです(>_<)

  5. ピンバック: 安定した演奏に必要な骨盤底の作用と股関節のアンロック | バジル・クリッツァーのブログ

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