吹奏楽部の合奏にアレクサンダー・テクニークを取入れる

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きょうは、吹奏楽部の合奏にアレクサンダー・テクニークをどう実際に取り入れるかを解説します。吹奏楽部を想定して述べますが実際には

・吹奏楽部
・合唱部
・大人のオーケストラや吹奏楽団



のいずれにも同様に活かせます。



【どうやってアレクサンダー・テクニークを取入れるか】

・吹奏楽部の顧問の先生
・吹奏楽部の合奏やパート練習を指導する指導者の方々
・学生指揮やパートリーダーの方々

が、

『合奏をより効果的・効率的に、楽しく意義深いものにしたい』

と望おり、そのような方が実際に書いてあることを試してみていただく置いてまとめてみたいと想定しての述べます。。



【普段、いちばん意識すること】

わたしたちは楽器を演奏しようとするそのとき、

・音
・共演者/指揮者
・演奏のためのテクニカルなこと
(呼吸、運指、構え方、タンギング、アンブシュア などなど)
・楽器それ自体

のことを何か意識したり、注意を払いつつ演奏をしていますね。

楽器を操って、音楽という芸術を生み出すのは、繊細かつ高度な作業です。それを実現するために、日常生活よりは高い集中力や洗練された意識で演奏をやっています。

これらの意識や注意の内容は、「音楽をする」ことに直接関係する部分です。したがって、これらの中身や質・精度などは、自分が望んでいるような演奏をどれぐらい実現できるかに関して大きな影響力持っています。



【意識されないけれど、効果的で重要なこと】

しかし、その間にももうひとつ別の要素が、自分の望んでいるような演奏がどれくらいできるかに大きな影響力を持っています。

上述したポイント(音のこと、テクニックのこと、楽器のことなどに関する意識)が正しくかつ素晴らしく実行されていても、結果が悪くなってしまうこともあるくらい大きな影響力です。

このもうひとつの別の要素とは

『演奏や練習をしているときに、どんな「自分モード」で行っているか』

です。



【どんな自分モードで演奏するか】

これはどういうことか言いますと、いついかなるときも、自覚の有る無しに関わらず、演奏や練習をしながらわたしたちは


A:頭を背骨の方に向かって押し込んで硬め、それに連鎖して身体全体を硬くしている



B:頭が動いてそれに身体全体が連鎖して動きついてこさせている

かのどちらかをやっています。


それは結果的に

A:演奏の不調・しっくりこない・能力にブレーキがかかっている状態

B:演奏の好調・効率がよい・実力が引き出されている状態

になっています。


先述の通り、わたしたちは自覚の有る無しに関わらず、いまこの旬感も

「不調になっていく自分モード」

「実力が引き出され、いろいろうまくいきやすい自分モード」

のどちらかに向かっています。


わたしたちは普段からその両方を経験しています。

そして、不調方向に向かっていきつつある自分の状態の程度と、好調方向に向かっていきつつある自分の状態の程度との、それぞれの度合いの範囲内を「普通」と感じています。

しかし、実際には普通とかニュートラルな状態があるというよりは、瞬間ごとに好調もしくは不調のどちらかに向かっていると考えた方が現実には近いでしょう。

普段のより不調方向に進むと「不調だ、硬い」と感じる一方、普段より好調方向に進むと「好調、反応や効率がいい」と感じるわけです。



【自分の意思で実力を引き出す】

もし、自分自身の意志で、自分自身を好調方向(=頭が動いて身体全体がついてくる)に持っていきながら演奏や練習に取り組むことができれば、

・不調が長引かず
・自分の本来の実力を感じ取りながら
・確かかつ力強く成長を続ける

ことが出来るのです。

そして、これをすることを学ぶのがアレクサンダー・テクニークのレッスンの役割なのです。



【まずは『頭が動いて身体全体がついてくる』を体験してみよう】

この、不調方向と好調方向を、簡単なゲームを通じて体験してみましょう。

1:みんなで両手を上げます。
・上げ心地を確認
・上がり加減を確認

2:次に、わざと頭をグッと固定して、身体の方に押し下げます。

3:そのままもう一度両手を上げます。
・上げ心地を確認
・上がり加減を確認

4:1と3を比較します。部員のみんなでやると、お互いを目視してちがいを把握しやすいです。

5:次に、好調方向に持っていきます。頭の固定をやめて、動けるようにしてあげてください。それに付随してさきほどは固まっていた身体全体も動けるようにしてあげてください。

6:みんなで両手を上げます。
・上げ心地を確認
・上がり加減を確認



【調子が悪くなくてもさらによくできる】

これで、頭を必要以上に固定して身体全体を硬くした状態と、頭を動いて身体全体がついていくようにした状態とでは、まったく「両手を上げる」というアクションのやりやすさがちがったことが実感できたと思います。

重要なのは、ただ手を上げたときより、意図的に頭を動けるようにしてあげて身体全体をついていかせたときの方が

・両手を上げやすかった
・可動範囲が拡がった

ことです。

「いつも通り」より、頭が動いて身体全体がついていけるようにする=アレクサンダー・テクニークを使う ときの方がさらに動きや調子が良くなるのです。



【合奏の始めに】

自分の意志で頭が動いて身体全体がついていけるようにしながら演奏すると、音がとても良くなりますし、それまでかかっていたかもしれないブレーキが外れて演奏技術がより良く機能し始めます。

ですので、合奏においても、合奏をするメンバーが個々に自分の頭が動いて身体全体をついていかせながら演奏してくれるようになっていけば、部員個々の実力も、バンドが全体として持っている真の力も、どちらもより良く(ときには想像以上に!)発揮されます。

そこで、合奏の初めに、みんなで 自分の頭が動いて身体全体がついけるようにしながら音を奏でることをゲーム感覚で実践 してみましょう。


1:バンドを均等な人数3グループ(a,b,c)に分けます。

2:各グループ内で、Bb-dur の三和音の構成音三つを割り振ります(Bb, D, F)

3:グループaが、まずみんなで三和音を奏でます。

4:グループaのメンバーは頭が動いて身体全体をついていいくようにしながらもう一度三和音を奏でます。

5:グループ b, c のひとたちは、音や演奏の見た目がどう変わったかということに関して、気付いたことや見えた事、思ったことをグループaのひとたちに教えてあげます。

6:グループb, c も同じようにやります。

7:そのあと、全員で「いつも通りただ演奏する」モードと、「頭が動いて身体全体がついていくようにしながら演奏する」モードをそれぞれ一度づつやってみます。

8:先生または学生指揮の方から、その変化をみんなにフィードバックします。


難しく考えなければ、あるいはやってみる前ややっている途中に「これでいいのかな、できているのかな」という心配さえしなければ

・いつも通り
・不調方向=頭を必要以上に固定してそれに付随して身体全体を硬くする
・好調方向=頭が動いて身体全体がついていけるようにする

のそれぞれで音の質や演奏のやりやすさが全くちがうことが、簡単に分かるはずです。



【合奏で行き詰まったら】

合奏を指揮、指導していて

・同じミスが繰り返される
・はじめはよかった音程やリズムのズレが目立ち始める
・自分自身や、部員たちの雰囲気が重くなったり悪くなったりする

といった状況になってきたら、それを気合いで乗り切ろうとしたり、耐えてやり過ごそうとしたりするより建設的で効果的な方法がちゃんとあります。

まず根本的には休むことです。単なる休憩で済む場合もあれば、まその日はそれ以上詰め込むのはやめにして合奏を終わりにするといった、ことを本格的に検討しましょう。

しかしながら、身体的にも精神的にもそれほど疲労が無さそうにも関わらず行き詰まっているのであれば、そこで 好調方向=頭が動いて身体全体がついていきながら演奏する ことのリマインドが役立つ可能性があります。


〜音を出すプロセスを3分割〜

具体的には、音を出すまでの過程を3つに分けて、それぞれに好調方向で演奏することを結びつける作業 に時間を取ってみるとよいでしょう。

音を出すまでの過程は、


① 椅子に座る

・いったん椅子から立ち上がり、少しそのあたりを二、三歩動き回ります。

・椅子に戻ってきたら、座る前に、状態Bをリマインド。

・頭が動いて身体全体がついてくるようにしながら、椅子に座ります。

・自分の身体(お尻や太ももの裏、足の裏)と椅子や地面との接触が増えていきますので、それを感じておきます。


② 楽器を構える

・頭が動いて身体全体がついてくるようにしながら、楽器を構えます。

・金管楽器やフルートは、「マウスピースが口の方にやってくる〜」と意識します。

・リード楽器は、「リード(orマウスピース)が、口の中にやってくる〜」と意識します。

・打楽器は、「バチの先端が楽器に向かっていく」と意識します。

・コントラバスは、「弓の毛が、弦に向かっていく」と意識します。

・いずれの場合も、楽器と自分の身体の接触バチまたは弓と楽器の接触 がとても重要です。 指導者・指揮者の方からは「いちばん自分が吹きやすいように、奏でやすいように、いちばんしっくりくるくっ付け方をしてあげてね。そのためだったら、身体のどこをどんなふうにでも好きにうごかしていいからね」という感じで促してあげるとよいでしょう。


③ 息を吸う

・頭が動いて身体全体がついてくるようにしながら、息を吸います。

・息は、お腹には入りません。ほんとうにお腹に入れようとすると、身体全体が硬くなります。息は肺に入りますから、息を吸うとき、胸や肩がどんどん動いて欲しいのです。肩を上げないようにと頑張るのも、逆効果です。

✳︎なお、呼吸法に関しては、わたしのブログから「呼吸の誤解を大掃除〜これできょうからもっと吹きやすくなる〜」をお読みください 。



【びっくりするくらい効果あり】

上述の実験をみんなでやってみましょう。そして、頭が動いて身体全体がついてくるようにしながら、音を出しましょう

そのあと合奏に戻れば、さっきまで行き詰まっていたことがずいぶん改善していたり、何事もなかったかのようにすっきりしていたりすることがあるはずです。



【本番はシンプルに】

本番は、このような地道で細やかなことを意識して臨みたい場ではありません。

本番は、聴衆と演奏空間の存在により、演奏者も演奏作品もどちらもエネルギーが高まり特殊な状態になります。

あまりいちいち操作しようとしたり、頑張って普段通りにコントロールしようとしたりしない方がよいでしょう。

本番ならではの特殊な状態は、集中力と表現力の高まりを意味しています。


本番はこうしてみるのはいかがでしょう?

1:頭が動いて身体全体がついてくるようにしながら

2:聴衆とホールを見渡し

3:演奏する仲間と目を合わせ微笑みを交わし

4:起きるミスをすべて許し受け入れながら

5:ただただ思い切って演奏する

とってもシンプルですが、ぜひやってみてください。


また、アレクサンダーテクニークと、それを活かす対象(演奏など)の関係について少し専門的な観点から書いた文章もぜひご参照ください→こちら



【好調モードになりやすい環境・状況】

最後に、普段の合奏やパート練習のときから、頭が動いて身体全体がついていく好調モードになりやすい環境や状況がどんなものであるかを箇条書きで記しておきます。

これらの逆は、演奏者をわざわざ「不調モード」に追い込み、彼らの能力にブレーキをかけかねないものです。

ぜひ参考にして下さい。


・体調不良その他による練習の欠席に対してなるべく寛容であること。

・ミスや不出来に対しても寛容であること。誰ひとりとして、悪い結果を望んでいません。失敗がしやすい環境はチャレンジがしやすい環境であり、それは上達を促します。

・練習メニューや流れが多様でクリエイティブであること。日々の部活が変化に富んでいれば、自然と頭を使います。マンネリ化に陥らず、部員たちが興味本位で自ら工夫し、一緒に練習に取り組みやすくなります。

・アメリカの脚本家/女優、ジュリア・キャメロンの言葉。「アーティストにとって、軍隊的な訓練は危険である。短期的に見れば訓練は効果的かもしれないが、本来の性質からいって、訓練は自画自賛に基づいている。アートと創造力を高めることにつながらず、訓練そのものが目的になってしまう」


Basil Kritzer



7 thoughts on “吹奏楽部の合奏にアレクサンダー・テクニークを取入れる

  1. 多くの楽団では(特に学生団体)、こういった練習方法を取ることは、特に精神的な面で困難なものではないかと思うのですが、現状はどうなのでしょうか?

    • うぃるばさま

      実際にわたしがレッスンに伺ったり、著書をお読みになって取り入れはじめた顧問の先生方が指導れている団体では実践されていますが、どのような意味で精神的困難を感じられますか?

      • あくまで私が見たことのある楽団に限っての話ですが、いわゆる根性論的な指導や、出来た点ではなく出来ていない所ばかりを指摘するなどの指導方法、そして出来ないことに罵声まがいの言葉を浴びせるような行為が根強く残っており、そういったものを変革していくことはまだまだ時間がかかる、あるいは困難なことのように思えます。
        特に先輩-後輩、あるいは生徒-指導者の関係が厳しい学生団体では、上の立場の方々が貴方のような指導者を招いたり、著書を読んだりしない限り指導方法が変わって行くことはないでしょう(そして下の立場の方々に「上がいなくなるのを待て」というのは、やや酷な話であるように思います)。
        そしてそういった旧タイプ(語弊があるかもしれませんが、便宜上こう書きます)の指導者の殆どが、アレキサンダーテクニークのような指導方法には興味自体を示さないのではないでしょうか。
        私の見解が歪んでいるだけかもしれませんが、是非ともこれらの点についてバジル先生のご意見をうかがいたく、コメントさせていただきました。
        ご返信いただけると幸いです。

        • うぃるばさま

          なるほど、そういう意味ですね。

          まさに、仰る通りです。状況の改善が全国的に当たり前になるには、あと二十年、三十年かかると思います。

          私にできることは、根性論的指導に拠らない、部員や団員の音楽性の成長や幸福に最大の関心を持つ指導者や吹奏楽人が、彼らが理想とする音楽や指導を追求する後押しや手助けをすることです。

          私個人の力で出来ることは限られており、現在そして未来の音楽人や指導者と地道に関わり力になるしか根本的な前進はできないと感じています。

          その到達点は二十年、三十年後にあると思っています。

          • ご返信ありがとうございます。
            20、30年後ですか…
            やはり、相当な時間がかかるのですね。
            いつの日か日本全国の団体で、非常に有意義な音楽への取り組みができるようになればと思います。

            お聞きしたいのですが、こういった指導方法の広まりという点で、日本と海外(主にヨーロッパ)の間には現状どれほどの解離があるのでしょう?

            • うぃるばさま

              アングロサクソン、ゲルマン系のヨーロッパの国では根性論的発想がそもそも薄いので、そもそも根性論で生徒やこどもを苦しめるようなことが音楽以外でも全般的に少ないと思います。

              そこが大きくちがいますね。

  2. 成る程、文化の違いというのが大きく出ているわけですね。
    色々とお話を聞かせていただきありがとうございました。

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