「背スジを伸ばしなさい」は禁句

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この記事では「背すじを伸ばしなさい」という指導には、あなたが思いもしなかった危険や落とし穴があるかもしれません!

・背すじを無理に伸ばすからあとで姿勢が悪くなる
・背すじも伸び・崩れにはメンタルの状態も関係している
・無理せずに自然に良い姿勢になれる方法がある



ということをお話しします。



【背すじを無理に伸ばすのは弊害が多い】

音楽指導の現場で、わたしたち指導者は

「背すじを伸ばしなさい」

と指導している場面がありますね。


しかし、これは要注意。心身両面において大きな負担になって、演奏能力も集中力も意欲もそいでしまっている可能性があります。。


大事な点は二つ。

・背すじは伸ばすものというよりは、自然と伸びるものである
・背すじを無理に伸ばすからあとで余計に崩れる

ということです。



【背すじは気合で無理に伸ばすものではない】

背すじが伸びていると、

良い姿勢に見えたり、
真面目に見えたり、
集中しているように見えたりしますね。

そういう感じがあるからこそ、わたしたち指導者は

「背すじを伸ばしなさい」

と言いたくなるのだと思います。


その直感は正しく、間違っているわけではありません。
実際に演奏者の背すじが伸びているときほど、演奏はうまく機能します。

しかし、背すじは直接的な意志力や頑張りだけでうまく伸びるものでも、また伸ばしたのをそのまま保てるものではありません。

ですから、直接的に「背すじを伸ばせ」というのは、生徒さんたちにとって無理なことを強いてしまっている結果になっていることがあります。


背すじが伸びている状態というのは、頭のてっぺんから足の裏まで、姿勢の制御や安定を担ってくれる様々なメカニズムがうまく機能しているときに生まれます。

姿勢の制御に関しては、わかっているものも、まだ未発見なものも含めてたくさんの神経や筋肉、組織が関わっています。なかにはとても深い場所にあるものもあり、基本的にはそれらを感じようとする必要はありません。

そして、これらのメカニズムの大部分は無意識の領域の作業で成り立っています。したがって、直接的な意志力や「背すじを伸ばす」という動作ではとてもコントロールしきれないのが姿勢というものなのです。

見た目だけにこだわって、無理に伸ばそうとしたり、伸びた状態を保とうとすれば、身も心も硬くなって消耗してしまいます。

つまり、指導者からすると演奏の改善や集中力のアップを願って要求した「背すじを伸ばす」ということが、それをその通りに真面目に実行しようとする生徒さんほど逆効果になって追い詰めてしまっていることがあるのです。



【指導者の言う通りにしようとするから崩れてしまう】

背すじを伸ばせ、というわたしたち指導者からの要求に応えようと努力する生徒さんたちは、身体の疲れや痛みを経験します。

そのため必然的に、耐えきれずに姿勢が崩れます。


指導者から見たら

「なんで背すじを伸ばせと言っているのに、どんどん姿勢が悪くなるんだ!」

と思ってしまうところですが、生徒たちは言われた通りに忠実にやろうとしているのです。これはお互いにとって不幸な悪循環ことですね。


このすれ違いは、演奏や指導の現場にストレスをもたらし、信頼関係を傷付ける潜在的要因になっているのではないでしょうか。

指導していて、演奏者の姿勢が気になればなるほど、実は生徒はわたしたち指導者の言う通りにやろうとしてくれているかもしれないので、そのことを頭の片隅に置いておいてください。



【背すじが「ひとりでに伸びる」方法】

それでは、どうすれば私たち誰もが望んでいる「背すじが伸び状態」を作りだせるでしょうか?

そういったことを演奏や指導の現場で取り組んでいるわたしの経験から、分かりやすい方法を紹介します。


〜姿勢がひとりでに良くなるエクササイズ〜

手順1:
まず、演奏者に姿勢をラク〜にゆったりと崩してもらいます。ほんとうに身体のがんばりを全て手放して、どんなに悪い姿勢でもいいから、いちばんラクな体勢になってもらいましょう。もたれても、うなだれてもかまいません。左右不均等でもかまいません。

手順2:
つぎに、胴体の一番下(底)にあり、脚の付け根である股関節から、身体全体をまるごと前に倒していきます。股関節はズボンの谷間が場所の目安になります。だいたいで構わないので、そのあたりから動くことをよく意識して身体を頭から椅子に触れているおしりのところまでまるごと、前に倒していきます。

手順3
胴体を倒せるだけ倒したら、肘を膝に置き、体重を預けます。ゆっくりラクに深く呼吸をし、しばし休みます。首もうなだれてかみません。こうしていると、背中が緩んで伸びてきますので、それを感じるまで待ちます。

手順4:
ラクな状態のまま、股関節から身体全体を頭から椅子に触れているおしりのところまでまるごと、ゆっくり後ろに戻していきます。後ろに戻るという意識だけで、気づけば体は起き上がります。顔が下を向いているかもしれません。それでもかまいません。

手順5:
手順1〜4を何度か繰り返します。


これをやっていると、いつの間にかひとりでに背すじは伸びています。

ただしラクなので、本人は「姿勢が崩れている」と感じるかもしれません。

・がんばっていない
・ラクである
・演奏がしやすい

見た目の形や、努力している感覚ではなく、これこそがうまくいっている感覚なので、注意して観察しましょう。


もしここに書いておいた手順がわかりにくければ、動画でも解説しているのでぜひご覧ください。






【姿勢の心理】

つぎに考えていきたいのは、心理面です。


そもそもどうして姿勢が崩れるのでしょうか?

姿勢が伸びているのは注意力が高まっているときです。

ということは、注意を払うだけの価値や興味を、いま取り組んでいることに感じられるかどうかが鍵になっています。


たとえば、木立に休む鳥。
休んでいる時は背中を丸くしてます。
背中が丸くなるのは、猫もそうですし、ごくごく自然な休息状態です。

そのとき物音がしたら、鳥や猫はどんな動きを見せるか、ご存知ですか?

頭と目と耳を音のする方にサッと向け、背すじがピンと伸びます。
物音に注意を向けることの結果として、あるいはそれに付随して起きていることで、姿勢を伸ばそうとしているわけではありません。

いつでも動ける状態になっている、と言った方がよいかもしれません。


わたしたち人間もこれに学べると思います。。

そもそも「背すじが伸びる」だけの新鮮さや必要性が感じられないからこそ、姿勢が崩れるという一面があるのではないでしょうか?

おもしろくない…
つまらない…
息がつまる…
怖い…
疲れる…

もしわたしたち指導者がそんな雰囲気や状況を作り出してしまっているなら、潜在的にはわたしたちの側から生徒さんたちの姿勢を崩れさせているようなものです。


生徒さんが

「それでは先生に失礼だから」とか
「先生の言う通りにしなきゃ」あるいは
「先生に怒鳴られるのが怖いから」など

と考えた結果、無理矢理に背すじを伸ばそうとすれば。あるいはわたしたち指導者が姿勢が崩れつつある生徒さんたちをそのことで叱ったりすれば、もともと崩れつつあるものを無理矢理ひっぱり起こして保とうとしますから、さらに消耗してあとから余計に姿勢が崩れてしまいます。


そこで心理面に着目した方法をいくつか紹介します。バラバラにでも、組み合わせても効果があります。使えそうなものから取り入れてみてください。


◎積極的におもしろい話をする
指導者が、なんでもよいので、何か笑える話やおもしろい話をします。生徒さんはそれでほぐれるし、リフレッシュや刺激になって姿勢の崩れは伸びへと転じやすくなります。

◎安全で肯定的な雰囲気を作る
指導者が真面目くさって高圧的になったり、お堅い雰囲気で怖い雰囲気やつまらない時間を作ってしまってはもったいないです。生徒さんの良いところに日常的に着目し、それを積極的に伝えましょう。

◎姿勢の自由を保障する
「ダラーっとしていいよ」「本当にラクな姿勢でいいから、ラクに吹いてね」「思い切って姿勢を崩しちゃっていいからね」と指示します。生徒さんがみずから不必要に姿勢を気にして硬くなってしまうのを予防し、それがそのまま姿勢の伸びを促します。

◎常にポジティブにコーチング
出てきている音の良さを聴き、その良いところをレッスンや合奏の間、ひっきりなしに褒め続けます。リアルタイムのポジティブなフィードバックです。生徒さんは、どんどん気持ちが乗って行きやすくなり、背すじは伸びやすくなります。

◎休憩とリフレッシュを活用する
なんとなく注意力が落ちてきたら、すかさず小休止。楽しい雑談をします。小休止の間、散歩に行ってもらったり、小休止明けには「みんな好きなように気持ちよくストレッチしてね」と促したりします。ここでもうひとつぐらい冗談や駄洒落をはさむとさらによいでしょう。指導者というものには、立場上、権力や権威があることが多いですから、適度に道化になるのは場を和ませ心を開いて信頼関係を作りやすくする面があると、わたしはよく実感しています。


このような取り組みを活用していけば、生徒たちの背すじはスーッと伸びていくことが増えるでしょう。

それでももしダラッとしていれば、それは換気や休憩を物理的に必要としているのだと思います。気合をいれるのはほどほどにして、ちゃんと休みましょうね!


Basil Kritzer



10 thoughts on “「背スジを伸ばしなさい」は禁句

  1. 何十年も前にやった野口体操によく似ています。たぶん基本は同じだと思いますが、アプローチの仕方が違うと思います。

    とにかく、「姿勢良く」とか「背筋を伸ばして」って言うのは禁句ですね。

  2. lime さん

    こんにちは。野口三千三先生も昔、芸大で教えていたんですよね!私の高校吹奏楽部の恩師が芸大出身なのですが、春からアレクサンダーを教えることを報告すると「わしも野口先生にならったぞー!」と喜んでおられました。

  3. たろうさん

    はじめまして。コメント有り難うございます。絶対100%そうなるわけではありませんが、美しい音のイメージがひとりでにラクなよい姿勢を作り上げてくれることは、往々にして起きることです!

  4. Pingback: ベルアップに関して | バジル・クリッツァーのブログ

  5. Pingback: のどや頬が膨らむ….どうしたらいいの? | バジル・クリッツァーのブログ

  6. こんばんは。毎日先生のブログを拝見させて頂き、勉強させてもらっています。先日、合奏の際にこちらの自然と背筋が伸びるエクササイズをメンバーにやってもらいました。すると、エクササイズの前の方がいい音が鳴るという意見の人が多かったです。具体的に言うとエクササイズ後の音は間延びしてしまっているという意見がありました。私は音の角がとれ、柔らかい音になったと感じたのですが、音色が悪化してしまったという意見の人の方が多かったです。私は一言一句変わらずに伝えたつもりでした。なにが悪かったのかが分かりません。どうしてこの様な事が起こってしまったのでしょうか。

    • らっきょさん

      実際みんながどうなって、どんな音になっているのか分からないので答えられませんが

      ・音は良い変化をしたが、みんなはそういう音を良い音だと認識していない
      ・そもそもこのエクササイズに興味を持っていなくて反感のようなものがあるから、悪く捉える
      ・なんらかの理由でエクササイズが効かなかった、逆効果だった

      のどれかということになるのではないでしょうか。

  7. バジルさんの教えている動画や考え方、アレクサンダーテクニークのことを知って精神的にとても解放されています。
    もう十年も前のことになりますが、練習中に息を飲むほど根詰めた練習や、演奏会の開催、人間関係などから、いつからか音楽することが身体的にも心理的にもプレッシャーになって、辛く苦しくなってしまい、すっかり離れていました。
     
    このブログやFBでの投稿、動画の公開を見つけて、とても救われる気持ちになりました。
    動画やブログを拝見しながら、少しずつリハビリしていきたいな‥と思えました。
     
    音楽を純粋に「楽しいなあ」と感じていた頃が懐かしいです。そうした気持ちに戻れたら嬉しいなと思います。
      
    バジルさん、本当にありがとうございます。出会えてよかったです。
    これからも楽しみにしています。
     

    • mieさん

      お返事遅くなってしまいましたが、音楽を愛するひとが、音楽に触れたり音楽を演奏したりすることに戻っていける助けにこのブログがなっているとしたら、
      とてもとても嬉しいです。

      これからもどうぞよろしくお願い致します。

      Basil

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