表現することと、練習することが矛盾しない『練習のやり方』

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「音楽的に表現することと、技術的な訓練をすること」
「本番で演奏することと、練習室で練習をすること」
「音楽を楽しんで演奏することと、正確な技術を身につけていくこと」

….これらは音楽活動の根本的な側面でありながらも、とくにクラシック音楽や学校吹奏楽、学校合唱などでは葛藤したり対立したり、矛盾したりしがちなのが実状ではないでしょうか。

【Practice か rehearse か】

演劇の世界では、英語ではあまり「practice 練習する」という言葉を使いません。
代わりに「rehearse リハーサルする」という言葉を使います。

一方、音楽の世界では英語でも当たり前に「practice 練習」という言葉を使います。
そして、多くのひとのなかで「practice 練習」という言葉は、『ひとりでやる、演奏とは異なるもの』を意味していることが多いのです。

同じ、身体を使ったパフォーマンス芸術でも、「本番」をどう捉えるかが、その前段階(音楽なら「練習」、演劇なら「リハーサル」)において
役者と演奏者ではかなり異なっている場合が多いのかもしれません。

わたしは、わたしたち演奏者にとっても、

練習すること

演奏すること

が、ひとつの地平のうえで統一的・一体的なものになるような考え方・取り組み方を模索しています。

そして、この記事では、音楽をするひとにとって、普段の「ひとりの練習」やそれに近い意味合いでの「合奏」「合唱」の練習が、演奏すること表現することにいつでも矛盾なくつながって一体的なものになることを目指して、その実現のための考え方・やり方を提案します。

【演奏するとはどういうことなのか?】

他の記事でもよく繰り返し述べていることになりますが、この記事では「音楽を演奏する」ということを

『なんらかのストーリー、メッセージまたは意味を聴いてくれているひとと共有すること』

であると定義したいと思います。

【練習のやり方】

この定義に従うとすると、練習することとは、その

『なんらかのストーリー、メッセージまたは意味を聴いてくれているひとと共有すること』

のために行うものである、ということになります。

したがって、いかなる技術的な取り組みにも、身体技能の訓練のようなフェーズにおいても、

『なんらかのストーリー、メッセージまたは意味を聴いてくれているひとと共有する』

という行い・アクションを介在させるようにすることが、身につけた技術や訓練した技能を人前で演奏する=聴衆とストーリーを共有する際に十分に活用し発揮するうえで必要であるとわたしは考えます。

【ストーリーを語ることで技術に取り組む】

聴衆とストーリーを共有するにあたって、演奏者であるあなたは音を使って
そのストーリーを語っている・表現しています。

そうやって音で何かを語る・表現する・描写しようとしたときに、

「あんな音を奏でたい」
「こういうふうに奏でたい」

という欲求が出てきます。

そして、それを実現するために、そんな音が出せたりそんなふうに奏でることができたりするようにするために、

「それを可能にする技術」

を身に付けたくなるわけです。

そこから、技術的な取り組みが始まります。

流れとしては、

①奏でたいストーリー、または表現したい事柄や感情にマッチしたストーリーを持ち、

例:
・スターウォーズの音楽ががかっこいいから演奏したい!
・戦争の悲惨さを訴えたいから、悲しみを語る音楽を演奏したい

②そのストーリーを演奏するのに必要な技術を割り出し

例;
・トランペットで高音を強く鳴らす技術
・チェロで深い響きを生み出す技術

③そしてその技術に取り組むののふさわしい技術的課題を設定し、①と同じストーリーその課題で語る

例:
・トランペットの高音:スターウォーズのシーンを思い浮かべながら、リップスラーして高音に徐々に上がり、上の音をクレッシェンドする
・チェロの響き:終戦直後の戦場を思い浮かべながら、短調の音階をゆっくり丁寧に音をよく聴きながら弾く

というようにまとめることができます。

【技術から出発しても音楽につながる】

一方で、歌や楽器のレッスンでは、先生が生徒さんに、先を見越して
レパートリーをカバーするのに必要な技術や技能を教えることはごく普通にあることです。

また、歌や楽器と共にする人生のなかでは、演奏技術的側面や、
何か特定のテクニックに強い関心や興味を持つこともあってごく自然です。

そういったときも、そこで「ストーリーを語る」ことを介在させていれば、
演奏や表現に直接活きるような形で演奏技術や身体技能を身につけることができる、
とわたしは考えるのです。

その流れはこうなります。

①取り組みたい/取り組ませたい技術があれば、

例:
・ファルセット声域の声を美しく響かせる技術
・フラッタータンギング

②それにふさわしい技術的課題を設定し、

例:
・アルペジオの音型を出しやすい音域から半音づつ上に移調していく
・ロングトーンしながら途中からフラッターを行い、また通常のロングトーンに戻る

③その技術を実行するのにふさわしい音楽的ストーリーを用意して、音を奏でる

例:
・ファルセット声域への移行=風が下から上へと吹き抜ける、という描写をするつもりでアルペジオを上行していく
・フラッタータンギング=花畑にいたら蜂がやってきてまた飛び去っていく、という描写をするつもりでロングトーン〜フラッター〜ロングトーンをする


このようにどのような技術的課題や特殊なテクニックに取り組むときも、

『それにマッチしたストーリーを作り、それを語る』

ことを通じてその技術を身につけていくことが、いざ舞台上で演奏し表現するときに、
強い緊張を感じているようなときでも練習してきたことを「用いる」ことが格段にしやすくなるのではないでしょうか。

【教わるとき】

歌や楽器の先生から、

たとえば

「肘の角度」
「弓の運び方」
「息の吐き方」

など物理的・技術的な事柄に関して細かい指摘や指導を受けたときは、その指導内容が物理的・解剖学的に的確でさえあれば、
あとは受けた指示に取り組むときに上述したような形ででそこに適切な課題設定やストーリー設定を行い、取り組んでいきましょう。

たとえばもし、歌の先生から

「息を上に吐いて」

という指導を受けたとしたら、

声を出すために息を吐くとき、

『地面から天に向かって水の奔流が立ち昇っていく様子』

を描写するようなつもりで発声してみるとよいでしょう。

また、それをイメージしやすいように、音階やアルペジオなどの上行音型を利用するとよいでしょう。

慣れてきたら、あえて下行音型を利用するのも面白いですし、

「息は立ち昇る水の奔流、下行音型はそこから落ちていく水」

を表していると思って取り組んでみることもできます。

このように、

・音階やアルペジオ、ロングトーンなど音楽的に基礎的な音型やパターンも、
・技術的・物理的・身体的なことに関する注意点や意識も、

音楽を演奏する=ストーリーを語ることに結びつけていくことができるのです。

【教えるとき】

もしこれを読んでいる歌や楽器の先生がおられましたら、
あなたの基礎的な指導内容や技術的な指導内容を、生徒さんがより楽しく、演奏上の価値や意味を理解しやすく取り組めるようにするためにも、
ぜひ先生自身がこの練習のやり方に取り組んだり、教えてあげたりしてください。

あなたにとっても、生徒さんにとっても、
レッスンが一段と充実して楽しい時間になることは間違いありません。

Basil Kritzer

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