「自分で自分を教える」その1 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の論文です。
原文→http://eastop.net/?p=485

「自分で自分を教える」ことを教える

この稿では、わたしが音楽院という環境で、職業として音楽家を目指す生徒たちを教えるときの、そのアプローチについて述べていきたい。まずはじめに。音楽院での学習の環境や条件を説明してから、そのあとで演奏家が訓練する必要なる事柄や、私の教え方の概要を述べることになる。

音楽院(音楽学校)は、他の高等教育機関と異なる部分がある。それは、音楽院が学問的というよりかは、実践的な学習の場として存在する事だ。もちろん、その教育課程には、学生の学位の一部として学問的な要素もいくつかあるが、学習の焦点は主に、学生が可能な限り高い職業的なレベルまでに演奏技術を成長させていく事にある。このため、音楽院の環境では、楽器のレッスンは、最高レベルの演奏家により、1対1で教えられている。

音楽院への入学はオーディションで行われ、基準は非常に高い。それまで楽器を演奏していた教育機関の卒業者のうちのほんの僅かな数の人だけが、音楽院への入学を考慮するに値するだけ熟達しており、そのうち挑戦したひとのさらに一部少数だけが、実際に入学を果たす。一度入学を許可されたら、彼らのする訓練は、卒業したときの技術的・音楽的演奏能力が仕事をするに足りるレベルになるようにするために照準が合わされている。

しかしながら、現実には、可能性を秘めた卒業者に対して、相対的に少ない数しか、空いている音楽の仕事がない。なので、ここでさらふるいにかけられ、最も優れた者たちだけが、プロになるのである。

私自身は、ロンドンにある二つの音楽院で、ホルン専攻の大学生を教えている。彼らの学業は四年かかるもので、毎学年の終わりに、演奏上の成長を示すよう、試験を受ける事になっている。卒業に当たっては、「卒業リサイタル」を演奏する必要があり、学位を得るためには高い技術的・音楽的能力を要求される。

卒業するとき、新卒のプロ候補生は、上達を継続するための手段を持っていなければならない。激しい競争のため、勝ち残るための基準は、高いだけではなく、上がり続けているのである。これは、定評のある音楽家であっても、直面せねばならない事実である。

普通、音楽院での数年間を経た後、ホルン奏者はオーケストラに雇用されることで生計を立てることを望む。残念ながら、この段階に来たホルン奏者たちのレベルはとても高い事が多いが、それでも新卒のホルン奏者がそのような仕事を生活のために見つけられることは、かなり稀である。そのような困難を見越して、一部の奏者は大学院に進学したり、大学に守られている間に、演奏分野を専門化しようとする。また、そのようなレベルに達する事はできないと悟り、転職する人たちもいる。だが大部分は、フリーランス生活に入り、仕事のネットワークを構築して生計を立てることを目指す。そして、その多くは、高い演奏レベルを維持し損ねて、脱落していく。

ホルン奏者としてのキャリアの中で、仕事の内容や環境の多くの側面で変化があることが多い。具体的には、歯の位置が動いて、唇の技術に微妙な変更が必要とされることがある。また、楽器・マウスピースを替えたり、演奏レパートリーが変わったり、練習場所が変わったり、練習の可能な頻度や量が変わったりするかもしれない。つまり、今うまくいくことは、数年後にはあまり効率的ではなくなっているかもしれないのである。事実、何年も素晴らしい演奏をしていたホルン奏者が、自分の演奏能力が次第に崩れてきているように感じるケースが多い。これは、ホルン奏者にとっては危険な時期といえる。特に、調べて研究する手段や、演奏技術を総点検したり、再構築したりする資質を持たない場合に当てはまる。

楽器の学習にはゴールはないものだが、理想的に言うと、音楽院を卒業した時点で、生徒は教師の助けを二度と必要としなくて済む状態になっているべきである。つまり、生徒を職業演奏家の生活をやっていけるように育てることの中に、生徒自らが、自身の演奏技術とミュージシャンシップの継続的な発展・個人的な成長を続けて行くため、そして問題発見と問題解決のたまの、柔軟で自己分析的な手段を得ることが必須なのだ。この「自己教育」の為に必要なスキルは、演奏家にとって最も価値あるものだが、同時に得るのが最も難しいものの一つでもある。この困難がゆえに、私は「自己教育」はそれ自体ひとつの方法論として、音楽院の訓練期間中にできるだけ深く生徒が身につけるべきことだと信じている。

その2へつづく

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