☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の論文です。
原文→http://eastop.net/?p=476
横隔膜と腹筋群のあいだの相互作用
対になったペアとしての横隔膜と腹筋の活動は、相互に呼応して様々に変わる。つまり、息を吸っているときは、横隔膜の緊張が増して腹筋はより弛緩する。そして、息を吐いているときは逆になっているのである。
息を吸っているあいだ、横隔膜が腹腔内の内臓などを、リラックスして柔軟な腹筋群の方へ十分に外向き・下向きへ押し動かし、何らかの抵抗が出てくるまできたときには、腹腔内の内臓などは十分に圧縮されて、横隔膜がその運動の第二段階に入るときのしっかりした土台になるまでになっている。
第二段階とは、横隔膜がさらに収縮して、圧縮された内臓(腹筋群に包まれている)に向かって押し、その力を使って胸郭全体を上に持ち上げることで拡張させて始めるのだ。
片手を胸骨の上、もう一方の手をお腹の上に軽く広げて置いてみると、この二つの動きの順番・区別が分かると思う。互いに重なり合うところもあるが、まず最初にお腹が膨らみ、そのあと胸が膨らむのが分かるだろう。そういう流れになっている。こういった自己観察をすることは、胸とお腹の拡大/縮小の気付きとコントロールを、それぞれ独立して学ぶのに役立つだろう。
この観察をしてみるときは、リラックスしてまっすぐな良い姿勢の重要性を思い出してほしい。そして、頭が脊椎のいちばんうえで優しくバランスをとっていなければ、いかに胸郭の十分な拡大を得る事が難しいか、気付いてみよう。
腹腔内の内容物の圧縮が最大限になったとき、または息を吸っているあいだに横隔膜が下に降りてくる事に対し腹筋が抵抗しはじめる瞬間が、横隔膜の収縮の効果が、「お腹が外に押され、胚が下に引かれ伸びる」ことから「胸郭を持ち上げ、すべての方向に肺が膨らむ」ことに変わるポイントである。
演奏の準備にあたり、息が入ってくる時、横隔膜の下降に対しいかなる腹筋の緊張による抵抗もない方がよい。それは、吸気時にお腹が十分にふくらまないと(つまり弛緩していないと)、音やフレーズの出だしで腹筋が緊張し、「力んでいる」と認識される状態になってしまうかもしれないのである。
実は、呼吸に関する腹筋の働きの誤解が原因で、すでに腹筋が作動範囲の半分を既に収縮してしまっていて、演奏に必要な力を供給する前の時点で腹筋群が力を使い果たしてしまっていることは、よくみられることだ。このようなケースでは、不要な緊張が演奏中に生じ、この緊張は主にみぞおちのあたりに感じられ、音に震えがでることがある。
ここで重要なのは、問題の原因が、誤解と誤解からくる緊張過多である、ということなのだ。
何が起こっているのか、感覚を理解するために、実験をしてみる価値はあるだろう。
深く息をとって、お腹の膨らみはあまりさせずに、主に胸のあたりを膨らまして、大きく長く音を吹いてみよう。その際、胸は高く膨らんだ状態に保つようにする。そうすると、音の最後の方に、お腹の筋肉に張りが出てくるのが感じられるだろう。これは、肺から息を出すことを助けようとして働いているのであり、細かい不規則な音の震えが出る場合もある。もしこれが、普段からある感覚だとしたら、修正が必要である。
ピンバック: 「呼吸の出入りの、ちょっとした話」 その3 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳 | バジル・クリッツァーのブログ