「私の小さな器官」その1 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏( Pip Eastop )のエッセイです 
 原文→http://eastop.net/?p=428

My Small Organ
初掲;The Horn Magazin 1995年夏

 私のホルン演奏の在り方は、私の背中の下の方にある小さな器官によって大きな影響を受けてきた。右側の腎臓のことである。14歳の頃に、ナショナル・ユース・オーケストラの合宿で痛みが出てきたのが最初である。夜中の三時半に、背中の下の方の耐え難い痛みで目が覚めた。粗末なキャンプ用のベッドで寝ていたので、はじめはそれが原因だと思っていた。朝起きて数時間経つ頃に、痛みで真っ青な顔をした私は、救急対応員に検査してもらい、リンパ腺が腫れていると診断された。オレンジを三つと濃縮オレンジジュースをもらって飲むと、それが効いたらしく、数時間後にはオーケストラの練習に元気に戻っていた。

 残念ながら、この問題はこれで終わりではなかった。1?2ヶ月後には同じ痛みの発作に苦しみ、これは痛みが数日間に及んだ。主治医は、痛みが右の腎臓の辺りにあるとは知りながらも、尿検査の結果を見て腎臓に問題があるとは思わず、両親にもっと運動するよう告げた。それから、事態はより悪化し、年間で平均10回の発作に襲われ、痛みは5?6日間続いた。この痛みは強烈だった。何も食べられず、何かを飲むのもおぼつかず、テレビを見て痛みを忘れる事すらできなかった。こういった断続的な発作はその後15年間続いたが、医者が言っているのだから、背中の下の痛みが実際にその辺りの臓器の問題と関わっているとは思っていなかった。

 なぜこのようなことをわざわざ書くのかって?まあ、苦しい痛みに耐えていた私に同情して欲しいということもあるが、この痛みこそが、わたしのホルンの演奏法を形成する重要な研究に、間接的ではあるけれど導いてくれたからだ。

痛みのない将来

 ようやく後になって、病院で痛み止めを射ってもらうよう勧められ、そことで超音波スキャンで検査されることになった。そして、右の腎臓が閉塞を起こし膨張していることが分かった。数回の手術で治ると告げられた。15年間痛みに苦しみ、原因を見つけようとしていた私にとっては、スクリーンではっきり原因を見せてもらい、痛みのない将来展望を与えてもらったのは、とても嬉しいことであった。重大な臓器不全を告げられて、狼狽するの患者を見るのに慣れていた検査技師にとっては、私の反応は当惑させられるものだったようだ。

チベットの修道院

 痛みを解消しようとして、腎臓の問題が発見されるまでの15年間、考えられるすべての代替医療を試した。日本式のマクロビオティック食を試して自己否定の泥沼に入ったり、太極拳やヨガの苦行を探求したりもした。数人のホメオパシー治療家やカイロプラクティック、何人ものマッサージイスト、リフレクソロジー施術家、虹彩学者、数人のスピリチュアル・ヒーラー、漢方医も試した。人によっては、私はチベットの僧院で七年間修行していたように見えたかもしれない。

この、手を差し伸べてくれる人たちの大軍には、3つ共通点があった。

①みんな問題を理解していると自分で思っていて、彼らなりの正しい治療法を施してくれた。
②みんな時間と金が随分かかった。
③どの治療法も、痛みを治しはしなかったし、ほんの少しの効果すらもなかった。だから当然、私はホリスティック、代替、補完医療と呼ばれる類いのものに、低く厳しい評価をする意見を持つ事になった。今後は、酒代にお金を回すことにするつもりだ。

あるときに、私はアレクサンダーテクニークを試してみるように言われたので、これに関する本をいくつか読み、レッスンを受けに行く事にした。アレクサンダーテクニークは1対1で個人レッスン形式でなされることが多いが、私は幸運にもドン・バートンというアレクサンダーテクニークのグループレッスンの先駆者の入門レジデンスクラスに参加する事ができた。

 彼のクラスに参加して、良い効果をもたらすものにようやく出会えた気がした。ドンの発想豊かなレッスンと、私の呼吸・動き・姿勢、そして当然なことにホルン演奏への核心的な影響は、自分自身がアレクサンダーテクニークの教師になるためのトレーニングを受けるという決断につながった。それが、このテクニークを一番深く探求できそうだったからだ。現在では、アレクサンダーテクニークに関する著作は多く出版されているので、それを読んで頂くのが興味のある方にとっては一番良いが、ここでもおおまかな概要を示しておくのよいだろう。

以上、ピップ・イーストップ氏の了解を直接取って翻訳しています。
続きは、次の投稿(その2)をお読みください。

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「私の小さな器官」その1 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳」への2件のフィードバック

  1. おもしろかったです!
    他の楽器の人が読んでも面白いと思う。
    ホルンの友人や、他の楽器の友人にこれをコピーして読ませてあげてもいいかな?

  2. うなんさん

    早速コメントありがとうございます。
    是非、お友達に紹介してください。

    ニューヨークフィルのホルン奏者にも、アレクサンダーの教師がいます。その人も短い紹介文を書いていますので、こちらもいずれ訳してみます。たしか、ニューヨークフィルにはチェロ奏者にも一人アレクサンダーの教師がいて、その方は去年日本にアレクサンダーのワークショップで来られてたみたいです。その人の書いた者でもので何かないか、探してみます♪

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