思考あるいは洞察

このシリーズの更新は2ヶ月ぶりとなりましたが。変化と上達のプロセスには最も抽象的なレベルではどのような仕組みがあるのかを探る今回のシリーズ。

今回は「思考あるいは洞察」というものを考察します。

変化し上達するためには現実を知ることが不可欠なのですが、私たちはその現実から得られる情報をもとに「思考」を作り上げています。物事が変わっていく時、私たちは思考が変わったり、新たな洞察を持ったりします。

私たちは、厳密に言うと現実をそのまま知ることはできません。実際には現実から得られるいろいろな情報をもとに、現実について「こういうことなのではないだろうか」という推測あるいはモデルみたいなものを「思考」という形で作り上げ、保持しているのです。

そのため、変化や上達は「現実」が変わるというよりは、私たちの思考が変わることに伴って起きていると言えます。楽器の演奏能力が向上するその瞬間。たとえば今まで出せなかった高音が初めて出せるようになったとき。確かに今までは出来なかったことが出来るようになったのですから、現実が変わったとも言えなくはないのですが、実はあなたはずっと以前からその音を出す「能力」あるいは「インフラ」は備えていたのです。ということは、試行錯誤を経てあなたは、自らが本来備えている能力の「発見」に至ったのです。

逆に行き詰まっている時やなかなか上達が起きないときは、あなたの「思考」が現実とマッチしていないまま保持されていることを意味します。「これでいいはずだ」と思って続けている練習法や奏法が、実はあなたの能力を発揮することにはつながらない行き止まりの道かもしれないのです。

ここで強調したいとのは、不調時や行き詰まりに苦しんでいるとき、それはあなたの「能力」の問題ではなく、そのとき当たり前に採用している「思考」が原因になっているということです。言葉で説明していると微妙な違いにしか感じないですが、実際には大きなポイントです。

自分に疑いを持つのか
自分の思考を疑ってみるのか

こう表現すると、その違いは歴然とします。前者は自己不信の類いです。対して後者は、自分への信頼がベースにあった上で、自分の思考や捉え方を変えてみる勇気や柔軟性を示唆します。

私の個人的な例をひとつあげましょう。

大学時代、私は「練習すればするほどうまくなる」「自分はヘタだから上手くなるまで全てを犠牲にして苦しさや疲れを押してでも練習をしなければいけない」という「思考」を持っていました。すると、わずか3ヶ月目にして、心身ともに疲れ果て、耐え難い背中の痛みに悩まされるようになったのです。

このとき、私は大きなジレンマを感じました。

練習しないとうまくならない。
でも今は練習すると身体が痛くなって、息が出せないくらいにまでなってしまう。
練習しても、うまくならない。

完全に矛盾です。

その後、紆余曲折を経て私は「思考」を変えました。「確実に上達するような練習のやり方を模索しよう」と。すると、私は朝のフレッシュなうちの10分間だけ、身体が痛まず、むしろ気持ちよく楽器を練習する時間が作れることに気付きました。そして、その10分間だけは、言葉で表現できないのですが、自分がどんなふうに楽器を扱い、いまどんなことをやっているのかクリアに知覚し把握できるのです。そのため、変化や上達を実感できる10分間でした。

そこで私は新たな洞察を得ました。

「毎日のこの10分の練習の中にこそ上達がある。」

その後、少づつ練習時間は伸びましたが、でも短時間集中であることは今でも変わりません。上達を追い求めるうちに、それこそが上達につながる私に取っての唯一の方法であることが明らかになったのです。

この洞察を経た「新しい思考」は、「古い思考」と矛盾します。この矛盾の前に私たちは圧倒されたり怯んだりします。しかし、「身体が痛くない」「楽器が上達する」「ドツボから抜け出せる」という『現実』を発見できたのは思考が変わったからなのです。

これが変化と上達の構造を通して理解できる「思考あるいは洞察」です。では一体どうやって新たな思考や洞察を得るのか?私たちは現実について固定された思考しか持てない為に延々と悪循環を続けます。そのループを断ち切るためには、自分以外のエネルギーが必要になります。

この自分以外のエネルギーが果たす役割がサポートです。サポートの代表例が、教師・コーチをはじめとした信頼できる他者です。

詳しくは次の記事で伸べます。

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思考あるいは洞察」への1件のフィードバック

  1. 変わるための構造

    ひとが変化し成長するということには、ある決まった流れあるいは構造のようなものがあります。アレクサンダー・テクニークのレッスンで、教師はその構造を理解したうえで、受講者がどういう段階にあるかを把握しながら進めています。この構造は、「苦手だったフレーズができるようになる」という小さなレベルから、「プロの音楽家になる」という大きなレベルまで、様々な大きさや長さの「変化」を説明するモデルです。 そのモデルについて、すでに一通り書いていますが、また改めてこのテーマについて書き進めていこうと思います。 今回は、 ・バジル自身がいま辿っている「生き方」レベルでの変化 ・楽器演奏の上達を考えるときに役立つ基本的なモデル の両方を織り交ぜながら進めていきます。 変化には 1:夢 2:現実 3:思考 4:行動 5:見通し 6:結果 1(7):新たな夢 という循環構造の6つの段階と 段階を進んでいくのに必要な A:自分のエネルギー B:サポート(他者・外部)のエネルギー C:信頼というエネルギー という三つのエネルギーがあります。 これから数週間かけて、 1→A→2→3→B→4→5→C→6→1(7) という順番でそれぞれ見ていきます。 どうぞお楽しみに。

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