『間違っている』という感じ

前の記事を読んだ方から、「感覚は使ってはいけない、という意味に取れる」という反応をもらいました。なるほど、と思って考えているうちにさらに面白い考えや説明が浮かび上がって来たので、書いてみます。

まず、「感覚は当てにならない」ということをより厳密に言うと、

その1
「感覚は相対的であり、絶対的な正しさを教えてはくれない」

その2
「特に正否の感じは、実際の正否の判断に使えないケースがある」

ということになります。

この記事では2点目に焦点を当てたいと思います。

アレクサンダー・テクニークのレッスンで、あるいは自分なりの試行錯誤でアプローチや奏法的な理解が変わって、身体の使い方が変わり、より良い音がよりラクによりシンプルに演奏出来たとします。

そのとき、レッスンで多くの人がとっさに口にしたり思ったりするのが

「えっ、こんなにラクでいいの!?」
「えー!こんなに何もせずに音を出す感じでいいの!?」
「全然アンブシュアのこと考えてないのにうまくいったけど、いいの!?」

といったような反応です。

この反応のウラで、本人は「何か間違っているんじゃないか」という感じを体験しています。これを読んでいる人の中にも、そんな体験をしていることがあるのではないでしょうか。

なんで「間違っている」と感じるか。それはいままでと異なるからです。生物は、いままでと感覚が変わると、本能的に「異常」と感じて、人間はとっさにそれに「間違っている」というラベルを貼付けるということが習慣的にとっさに起きます。

いまの現代社会では、さほど「危険」がありません。むしろ、社会に適応しているかどうかが生活を有利にしますし、教育が「正しいか悪いか」をベースに成り立ってますから、多かれ少なかれ習慣的に「正しい」か「間違っているか」で判断していて普通なのです。

小さい頃からずーっとやっていることですから、

感覚「いままでとちがう」→本能の判断「異常」→習慣的判断「間違っている」

ということがアッという間に起きます。

この体験をしている本人としては、なんとなくモヤッと不安に思ったり、漠然とおかしい/間違っている感じがします。その「間違っている感」が、往々にして「良い音・ラク・シンプル」という明らかに良くて望んでいるはずの結果を凌駕してしまうことがあるのです。

そういう意味で、「正しい感じ/間違っている感じ」は当てにならないことが頻繁にあります。

さあでは、「感覚」が間違っているのでしょうか?いえ、感覚はかなり正確で優れたものです。ほぼ100%信頼出来るフィードバック機能です。感覚がなければ歩く事も楽器を吹く事もままなりません。

試しに自分の顔の前に何かものを置きます。目を開けたまま、それを見ない、ということができますか?できませんよね。見るということは視覚という感覚です。耳元で誰かが大声を出したとします。それを聴かないことなんてできますか?できませんよね。否応なく聴覚という感覚によって聴こえることになります。

感覚はオフにはできません。ですので、「感覚を使わない」ということも不可能です。

しかし、感覚は相対的なもので、あくまで「動いていること」と「変化していること」を報告するためのものです。

対して「正しい/間違っている」を判断しているとき、判断している本人の中では相対的判断ではなく絶対的なものです。すると、あくまで相対的なものを知らせてくれている「感覚」から作られ習慣的な評価がくっつけられた「間違ってる感じ」を判断材料に使うのは、あまり当てにならないわけです。

じゃあ何を判断材料にしたらいいのでしょうか?

実は簡単です。感覚が教えてくれている客観的な情報です。

例えば、

音が良くなった=聴覚
ラクに吹けた=筋感覚
鏡で見ると姿勢やアンブシュアが良い=視覚

などなど。

いずれも、ちゃんと感覚が教えてくれています。あとは常識を使って、自分の望んでいるものに近いものを選択すればいいのです。ぼんやりとした本能的で習慣的なあまり当てにならない「間違っている気がする感じ」ではなく。

この作業、注意深く実践してみると、けっこう面白いと思います。私自身は、良い変化であればあるほど「いままでとちがう」感じが強くて、その分、間違ってる感やちょっとした怖さがあります。しかし、ラクだし、音は良くなるし、もっとシンプルに吹ける。そっちを信頼すると、変化する怖さはある種のスリルになりもします。

意外と色々なレベルで色々なことを私たちは感じています。音の出し方の変化ひとつ取っても、感情は動くし、色々な思考が生まれては流れて行きます。だからこそ、音楽を演奏すること、そして「ウマくなること」はとても豊かで身にも心にも愉快で自分全体に染み渡る素敵な経験なのだと思います。

ぜひ、試してみて下さい。

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