感覚は当てにならない

アレクサンダー・テクニークでは「感覚は当てにならない」という表現が出てきます。これまでアレクサンダー関連書籍を読んだことがあったり、実際にアレクサンダーレッスンを体験された方は、ひょっとしたらその意味を不思議に思っていたかもしれませんね。

ある日のアレクサンダー教師養成クラスに出席していて、(もう2年前になると思います)いつものようにホルン演奏への応用をリクエストして実際に楽器を吹いているところをチェックしてもらいました。

そのレッスンのときに新たに学んだアイデアは、

「頭を動けるようにしてあげることで胸郭が動きやすくなり、そのため股関節も固定をやめて、脚の上に胴体がラクに安定しながら楽器を自分の方に持って来て音を出す」というものでした。

字にすると長くてややこしい印象がありますが、結果だけ言えば要は身体のバランスがよくなって、動くべきところが動くようになり、呼吸がもっとよく働く、ということです。

実際に身体にそういう変化があって、吹いてみました。

すると、楽器を構える段階でものすごく違和感があります。いつもとちがうからです。

でも、ラクではある。楽器もよりひょいと簡単に持ち上がる。

音を出してみると、なぜか音を出した感覚もあまりなく、吹こうとしたフレーズがただシンプルに音として出せてしまいます。出ている音は、実に明確な芯ある明るいよく響く音です。

こうなると、混乱します。

吹いている感覚は、なんかおかしい。違和感があります。さらに言えば、感覚があまりないくらい。でも出ている音はとてもいい。吹く事の労力感もない。シンプルに吹けてしまう。

こうやって字面だけ読んでいると、もちろん「音が良くてラクで簡単に吹けてしまうなら、それが良いに決まってるじゃないか」と感じるかもしれません。

確かに、客観的にはそうなんです。しかし、感覚というものは主観的です。だからその感覚に違和感があると、驚くほど結果や客観的指標を基準にし辛く感じます。本能的に抵抗があるのです。

動物は、感覚で生きます。生死が全てである動物界では、感覚の変化はすなわち異常を意味し、危険の可能性を示唆します。そのため、動物でもある人間は、結果のよしあしと無関係に感覚の変化を違和感として捉え、本能的に大きな抵抗を感じることがあるのです。

しかし、実際により良い音が、よりラクに、よりシンプルに出ているわけですから、この「違和感」あるいは「本能的な抵抗感」はかなり当てになりませんよね?それがアレクサンダー・テクニークで言う、「感覚は当てにならない」という事の意味です。

楽器をやっていると、こういう現象は多々あります。非常に繊細な作業をしていますから、繊細な感覚が必要です。感覚が繊細なので、ちょっとした感覚のちがいで、音がどうなるか分かってきます。すると、いつの間にか「感覚」で音を出そうとし始めます。

管楽器で言うと、アンブシュアの感覚を予めチェックしてから音を出してみようとするパターンです。これはうまく行っているうちは構いませんが、もっとうまくなりたい、あるいはもっと変化したいときには仇となります。

なぜなら、私自身の例のように、「うまくなる=吹き方が変わる=身体の動きが変わる」だからです。自分なりに色々試し観察した結果、吹き方が変わってもっと良い音が出たり、もっとラクに吹けたりしたとき、もし感覚を頼りに音を出していたとすれば、せっかくより良い吹き方とより良い結果を得られたのに感覚に違和感があるから不採用になってしまいます。

このレッスンのとき、違和感も強かったのですが、非常なラクさと明確さ、シンプルさと良い音が実際にあったので、その印象が強烈で違和感を超えました。

そのおかげで、初めて「感覚ではなく結果を信頼する」ということがはっきり理解できたのです。

音楽をやっている人は、実はアレクサンダー・テクニークを学ぶのに非常に有利です。なぜなら、「音」という客観的指標をいつも追い求めているからです。

求めているものが「音」ですから、その「音」が良くなるのであれば、音楽をする人はどんどん取り入れ、自分を変えて行きます。ですので、感覚より結果や客観的な指標を勇気を持って信頼するということを、経験的に知っています。最も大きな阻害要因は、おそらく二つ。「奏法論」と「ミスすることへの恐怖」です。

管楽器の世界では、「アンブシュア」が非常に気になる問題になりがちです。新たなアイデアや吹き方が見つかり、より良い音をよりラクによりシンプルに吹けたとして、もしそのとき例えば「アンブシュアを張る」ということを十分にやっていない/意識していない、という「感覚」がしたとします。

そのとき、あなたは、「音」や「吹き心地のラクさ」という『良い結果』を信頼しますか?それともやはり『いままでのなんとなく慣れてる感覚』が欲しくてもっとアンブシュアを張る感覚を作りにかかってしまいますか?

誰しもついつい、後者に戻ります。でもそれは本能的な選択であり、ごく自然なことです。私もです。

私もまだまだ試行錯誤中ですが、

「音が良くなってる」
「ラクに吹ける」
「シンプルに吹ける」

という客観的に良い結果を信頼し、その結果につながるアイデアや吹き方を地道に繰り返し選択していくうちに、思っている以上にすぐに良い変化が起きてくると思います。

ぜひ、試してみて下さい。

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