あるときレッスン受講者から
「本番でソロがあるとほとんどいつも失敗する」
と悩み相談を受けました。
まず確認したのは、あがり症のどのパターンに該当しているかということ。
このとに考えていたは、あがり症によって身体が深刻に緊張したり虚脱して演奏がボロボロになってしまうのには二つのパターンがあるのではないかということ。
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ひとつは
『自分の真の実力に比して、本番の出来を不当に悪く予測する』
もうひとつは
『自分の真の実力に比して本番の出来を過剰に良いものを期待する』
前者は『破滅妄想』、
後者は『完璧主義』
どちらも非現実にマインドが囚われおかしくなる。
本番に臨むにあたり、完璧な演奏を期待できる場合に完璧を目指すこと。逆に完璧を期待できないときはミスはあるであろうと思って臨む。
どちらも本番で練習以上に良い演奏につながるパワーを得られる。
実力と予測の整合性があがり症を乗り越える鍵かもしれない。
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この方の場合、話を聞いていると、『真の実力に比して本番での出来を不当に悪く予測している』パターンのみだった。ひとによっては両方のパターンを持っていることがあるので、見極めが大事。自分自身、両方のパターンであがり症を経験しているから。
さて、不当に悪い予測の中身を確認していったところ現れた思考は『自分がまた失敗して仲間に迷惑をかけ、二度といっしょに吹かせてもえなくなる』というものだった。この思考のモンスターがあがりの原因だった。
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前回失敗したときの、曲が始まる前の自分を思い出してもらった。
すると、身体が縮み、怖くなる。硬くなる。
まずい空気を感じる。
そこで『自分がまた失敗して仲間に迷惑をかけ、二度といっしょに吹かせてもえなくなる』という思考がそのとき無かったとしたら?と想像してもらった。
すると、身体がスーッと伸び、顔の血色が良くなり、呼吸がラクになった。この状態でこれから演奏が始まるとしたら?と尋ねたら「これならうまくいきそうな気持ちになれる」とのことだった。
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次のステップは、思考のモンスターの無効化。『自分がまた失敗して仲間に迷惑をかけ、二度といっしょに吹かせてもえなくなる』の反対をいろいろ考えていった。
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「自分がまた失敗して仲間に迷惑をかけるが、またいっしょに吹かせてもえる」→現実はそうなっている。仲間外れになる心配はない。
「自分がまた成功して仲間に迷惑をかけ、二度といっしょに吹かせてもえなくなる」→ うまく吹けると妬まれて仲間外れになることだってありうる。
「仲間がまた失敗して自分に迷惑をかけ、二度といっしょに吹かせあげない」→そんなことする?しない。じゃあなんで自分だけ仲間外れになるの?理屈に合わないよね?なるほど。
「自分がまた失敗して自分に迷惑をかけ、落ち込んだ自分こそが二度と自分に吹かせてあげなくなる」→ これがモンスターの正体だった。
ほんとの恐怖は自分が自分を見放すことだった。
それに気付いたとき、その方は一気に身体が解放されていった。
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そこでお伝えした。
「次からは、本番までに百万回、『この本番中に何が起きても失敗があっても自分だけは絶対自分を見放さない!』と自分自身に言ってあげて下さい。自分が自分自身の最強のサポーターでいてあげてください」
了
Basil Kritzer