生徒が力み過ぎに見えるが、どうアドバイスしたらいいのか分からない方へ

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歌や楽器のレッスン活動をしていて、プロの指導者であれ、部活で後輩にアドバイスする場面であれ、レッスンをする人が頻繁に直面する悩ましい状況が
生徒が演奏をするとき、どう見ても力んでいる。でも、どうアドバイスしたらいいか分からない
というものです。





【力んでいる、とただ指摘することは下策】

力み過ぎている生徒を目にした時に、わたしたち指導者がもっともやりがちなことが

「あなたは力み過ぎているね。だから力を抜きましょう。」

というアドバイスを与えることです。

しかし、これは残念ながらあまり役に立たないことが多いでしょう。(ただし、「もっと頑張れ」とさらに力みに追い打ちをかけるような指導よりは100倍マシです)

それは、そもそも生徒が、「自分が力んでいる」という自覚がないためです。「力んでいるんだ」という自覚がない力みは、そもそもそのひとにとって問題となっていないのではないか、というのが、アレクサンダー・テクニーク教師としてたくさんの音楽家を教えてきた私の実感です。

本人が自分の実感として「力んでいる」という自覚を持っている場合、それは「ほんとうならもっとラクに/効率的に/上手に演奏できるはずなのに、何だか力んでしまってうまくいかない」という自覚なのです。

そういう自覚があってはじめて、力みについて考える意味があります。でないと、本人としては問題や不都合を感じずに演奏しているのに、ある日指導者に「力み過ぎだ、力を抜きなさい」と言われたそのときから、実感が伴わず漠然と「力み」を気にするようになり、どこが力んでいるのかという確信もなくやみくもにどこかの力を抜こうと努力しはじめてしまうからです。

実はこれこそが、身体の全然別の箇所を力ませ、問題を増やしてしまっていることがあります。

したがって、本人から力みや緊張についての自覚的な言葉や悩み相談が聞かれない限りは、たとえ指導者としてその生徒が力んでいてそのせいでうまくいっていないように見えたとしても、「力んでいる」という指摘や、「力を抜きなさい」という指導はしない方がよいでしょう。

では、力んでいるように見える生徒を目の当たりにしたときに、一体どんな方法でその生徒がもっと本人の望んでいる通りに演奏できるようになっていく手助けができるでしょうか?

そのために役立つかもしれないアイデアをいくつか述べます。



【入れるべき力を入れないがゆえの、力み】

あるとき、クラリネットで音大を卒業され指導や演奏活動をされている方がレッスンにいらっしゃいました。

ようすを観ていると、

・クラリネットを構える途中
・息を吸う時
・さあ音を鳴らすぞという時

のいずれのタイミングでも同じように、首/肩/背中を力ませ硬くしていました。おそらく、僧帽筋などの働きだと思います。

レッスン中いろいろなことを試したのですが、なかなかこの傾向が解消されませんでした。

しかしもう一度よく観ていると、楽器に手を触れる時に、とてもそーっと触れようとしていたのに気付きました。

そこでピンときたので、尋ねてみました。

「手や指の力を抜こうとしている?」

すると彼女はこう答えました。

「もう中学生のときから当たり前のように指導されてきたことなので、絶対そうしなきゃいけないものだと思ってました。」

なるほど!そこでわたしは提案しました。

「楽器を置いて、両手を思いっきりグーにしてみてください。ぎゅーっと。そしたら、解除。はい、またぎゅーっと。はい、解除。これをあと10回繰り返します」

そのあとで

「では、いま力一杯グーしましたよね。それくらい力を使うつもりで、『楽器を力一杯掴もう、指を好きなだけガチガチにしてグイグイキーを押そう』と思いながら楽器を構えて吹いてみましょう。」

すると、なんということでしょう!

さっきまでなかなか取れなかった首、肩、背中の力みが大幅に減り、息の勢いがみるみる高まり、音がスーッと抜けていくように豊かに響き始めたのです。


このクラリネット奏者の場合、

・楽器を落とさずに持っておくのに必要な手や前腕の力
・楽器とアンブシュアの関係を安定させておくのに必要な手、前腕、上腕前側の力
・キーを動かし、トンホールを開閉するのに必要な指の力

使う事を自らに禁じた=その力を抜こうとしていた その結果、首・肩・背中の筋肉でとても非効率的で大変なやり方でなんとか楽器や楽器と身体との関係を安定させようとしていたのです。

つまり、目立っていた力み自体は

・ある力を抜こうとしていたことが原因であり
・その力を使わないならば必然的に使わざるを得ない力なので
・その力みを抜こうとしても抜けるわけが無く
・入れるべき力を罪悪感を持たずにどんどん入れることで解決する

ものだったのです。



【入れることを意識するとよい力】

こういったことが、手や指以外でもそれぞれの楽器ごとの文化や特性の中で多々あります。


①首の力

管楽器や歌の世界で、首の力を抜くことを指導されることがあります。首の力みが様々な問題につながるのは間違いなくその通りなのですが、画一的に首の力を抜くことが指導されると、ときどき首の力を抜こうとしていること自体が演奏を阻害することがあります。

管楽器や歌においては、呼吸を用いて音を生み出しています。音を奏でるときは、

・日常より多量な息を短時間で吐き出す
・日常より多量な息を吐くがそれを体外にそのまま出さず、体内で圧力を高める
・日常よりはるかに長い時間をかけて息を吐く
・日常より連続的に強く息を吸ったり吐いたりする

ようなことをやっています。

こういった強度の高い呼吸活動は身体の軸骨格(骨盤含む)において行っています。身体の中の、しかも中心と軸の部分で大きく強い動きを使っているのです。

そんな中で、安定して立ったり座っていられるようにするために、首〜背中〜腰にかけての軸周りの筋肉は、ただ立ったり座ったりしているときよりも活発に使います。

つまり、力を抜いているどころか、実質的にはもっと必要になるのです。

それなのに「首の力を抜かねばならない」と思っていると、歌唱中や演奏中において全体的な姿勢の安定に必要な力を使うことを自分自身に禁じてしまうことになってしまうことがあるのです。

身体は賢いので、首の力を抜こうとすると、ちゃんと抜いてくれます。しかし同時に、「歌を歌おう」「楽器を吹こう」ともしていますから、それも可能にしようとしてくれます。すると、身体の軸周りの筋肉を使う代わりに、腕、肩、脚などの筋肉を使うことになります。こうなってくると、全身がギューッと力んでしまうようなことになってしまうことがあるのです。

また、歌の場合は楽譜を手に持ってますし、管楽器はかなりの重量のある楽器を動かしながら支えています。これも、ただ立っていたり座っていたりするより、自覚はできないでしょうが軸の力をもっと使うことになるのです。

さらに管楽器の場合はマウスピースやリードと、アンブシュア(息を含む)との関係を調整しながら動的にしつつ安定させる必要があります。この時点で、首や軸の筋肉を、安定化のためにも微調整の動きのためにも「使う」必要があるのです。

ためしに、「首の力、いくらでも入ってヨシ!」と思いながら歌ったり吹いたりしてみてください。


②肩の力&腕の力

「肩の力を抜きなさい」という力は、もっともポピュラーなものですね。

「(心理的に)もっとリラックスしなさい」
「そこまで気張りなさんな」
「もっと気楽にいきましょう」

という意味で使われることが多いのですが、そういう使い方は私も大好きです。

一方で、もっと物理的身体的な意味で

「肩の力を抜きなさい」
「肩が力んで上がってるよ!」(指摘)
「肩を下げなさい」

と言う指導がなされることが多いです。

「肩の力を抜きなさい」はまだ、役に立つこともあるとは思うのですが、それ以外は、概して生徒にとって有害なものの言い方だと思います。


というのも、「肩が上がっている」ように見えるときは、

・たとえばボーイングなどの際、腕や手の力を抜き過ぎており、なんとかするために非効率的に肩でまかなわざるを得なくなっているとき

・肩ではなく、実際は首をすくめている状態

のいずれかまたは両方が原因のことが多いのです。


「肩を下げろ」と指導するとき、それは「肩が上がっている」のを解消または予防する意図で行っているわけですが、その指導をマジメに実践しようとする生徒ほど

「肩が上がっているように見える『力んでいる状態』」

「肩を下げようと頑張る『力み』

の2種類の力みを重ねてやってしまうことになるからです。

ただ肩が上がっているときより余計に力み、緊張し、歌唱/演奏しづらくなります。


「肩が力んでいる」or「肩が上がっている」ように見える生徒は物理的/技術的には

歌唱:息を吸い込もうとしすぎている/息が足りなくなるんじゃないかということを気にしすぎている

管楽器:同上/楽器を構える時に、腕の関節(胸骨と鎖骨の関節,肩関節,肘関節,手首)のいずれかまたは複数を固定してしまっている/プレスすることを避けるあまり、顔を楽器の方へ向かわせすぎている

弦楽器:腕の力を抜かなきゃと考え過ぎて、ボーイングやフィンガリングを能動的にちゃんと筋肉を使ってやる必要があることが分からなくなっているため、肩や首周辺の筋肉でまかなわざるを得なくなっている

鍵盤楽器:弦楽器と同じく、腕や指の力を抜こうとしていること。しかし、鍵盤を動かすのにも手を動かすのにも、筋肉を使う必要があるので肩や首でまかなっている。/呼吸と演奏の動きを一致させようとしすぎている。

といったことが原因になっている場合が多いでしょう。


ではどうすればいいのか?これまで「こうやってはならない」と思っていたことは「こうしてもいい」と思いながら、「こうでなければならない」と思っていたことは「これをやらなくてもOK」と思いながらやってみるとよいのです。

具体的には

・「ほとんど息を吸わずにいきなり歌い始めてみよう」
・「あまり吸った気がしないところで歌い始めて、長いフレーズを歌ってみよう」
・「息は、たくさん吸った気がしなくても、実は十分吸えているのかもしれない」
・「いったんしっかりプレスして吹いてみよう」
・「腕の力を積極的に使ってみよう」
・「手や指に好きなだけ力を入れてやってみよう」
・「弦と弓をしっかり・ぐいぐい・ゴシゴシこすり合わせるようにしてみよう」
・「腕の重さを利用できなくていいから、自分の力で能動的に鍵盤を動かしてみよう」

そういうアイデアを実験してみることが、問題解決の早道になる場合が多いのです。


③お腹の力

管楽器の場合に非常にあてはまり、歌唱にも使えることが非常に多いのが、

音を奏でるとき(=息を吐くとき)にお腹の力を思いっきり使おう

というアイデアです。

お腹を思いっきり動かし(凹ます/絞る方向)てみることで、むしろ上半身や喉、口の力みがスッと抜けるような感じがすることが頻繁にあります。

さらに詳しくは下記の記事をご参照ください。

息のパワーの作り方
呼吸ウォームアップ&エクササイズ
『呼吸の誤解を大掃除』


④脚の力

脚の力を抜きなさい、という指導は、他の「力を抜きなさい」系の指導より的を得ており、生徒に拠っては非常に役立ちます。

「脚をグッと踏ん張りなさい」という指導より、「脚の力を抜きなさい」と指導した方が良い場合がよっぽど多いでしょう。

ただ、「力を抜け」と指導するのは、そもそも生徒が自覚していなかったし自覚する必要もなかったことを「脚に力を入れないようにしなきゃ」と不必要に気にさせてしまう可能性があるので、「グッと踏ん張らなくても立っていられるよ/歌えるよ/吹けるよ/弾けるよ」と優しくちらっとほのめかすくらいでよいことが多いのではないかと思います。

わたしが教えるときは、演奏してもらいながら、わたしが生徒さんの身体をぐらぐら揺らしたり、ひねらせたり、ひざ裏を軽く押したりします。

そうすると、バランスをとるために脚や足を動かすことになるからです。その結果、脚/足を固定したりグッと踏ん張ったりしなくても演奏できて、むしろそのほうがよっぽど演奏しやすく音が良くなったりすることを実感とともに知ることになるからです。

脚や足を動かし、しょっちゅうポジションを変えながら演奏することの有益さを、わたしは直接レッスンするようにしています。



【やりたいことに対して必要な力を「思いっきり」使う】

こうしていくつかの例を見ていくと、

ある力みを直接的に抜こうとすると、結局別のどこかをもっと力ませることになる

ことが多いですね。堂々巡りになってしまいますよね。

これは、「悪いところを直す」という発想の限界 を示唆しているように思います。

きっと実際に役立ち、しかも演奏に取り組む過程を楽しく充実したもにさせてくれるのは、やりたいことをやるのに必要なことを、どんどんやればいい という発想です。

指導者に求められるのは、症状をぐるぐるおいかけ、悪いところをもぐらたたきのように潰して回ることではありません。それをすると、指導者も生徒も楽しくないですし、気が滅入ります。繊細な感受性を持つ人なら、それをやっているだけでどんどん自信を失い、混乱します。

必要なのは、


① やりたいこと、目指すものを明確にするために

・生徒が内在的に持っている、音楽や音への情熱・興味を引き出すこと
・その情熱や興味をさらに高めるよう、レッスンを楽しく刺激的な時間に演出すること


② やりたいこと、目指すものを実現するために必要な手段を見出すために

・一般的な意見や常識と「なんとなくされているもの」とは異なる推理を恐れないこと
・失敗というものが何ら悪いものではないという雰囲気をレッスンにおいて確立し、それをベースに大胆な実験や試行錯誤をしてみること


③ 論理的かつ常識的に考えて見出された手段を粘り強く実践するために

・権威や人間関係などがチラついても、音楽や芸術の楽しさ素晴らしさを優先する決意を繰り返しすること
・ほんの少しでも変化や上達があれば、それを盛大に祝い、必ず高く評価すること


です。

その中で、あることをするために常識的に考えれば使うことになるであろうと思われる力は、どんどん・ぐいぐい・ガシガシ使うようにしてみる ことをまずは提案します。



【力みを抜くメソッドは、実はウォーミングアップなのかもしれない】

いろいろな先生が、それぞれが工夫したり集積してきた、

実際に、生徒の力みを軽減するのにとても役立つエクササイズ

が数々あります。

これらは、「力みが取れる高い効果」が確かにあるのですが、ここまで述べてきたことから考えると、もしかしたら実際にやっていることは「力みを取る」ことでなく、歌唱や演奏において必要な動きや筋肉の活動のウォーミングアップ(準備運動)なのではないか、と思います。

つまり、正確に言えば「力みを抜いている」のではなく、「必要な力を入れる練習」をしているのです。

ひょっとしたらこの認識を持つ事で、いま教えておられる色々なエクササイズを、さらに的確に有効に教えられるようになるかもしれないと思い、追記したいと思いました。

参考になれば幸いです。

Basil Kritzer

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以下はバジルが8年在籍したアレクサンダーテクニークのスクール「BodyChance」で書いていたメルマガです。




生徒が力み過ぎに見えるが、どうアドバイスしたらいいのか分からない方へ” への4件のコメント

  1. 計2回、バジル先生の体験レッスンを受けた、アマトランペットの三宅です。

    トランペットを吹くときの上半身の力みを取ろうとして、バジル先生のレッスンを受けたり、先生の本を読んだり、「音楽家ならだれでも知っておきたい呼吸のこと/からだのこと」を参考にしています。

    以前は、「息は、上半身の腹筋から喉の前の方を通して唇から細く速く発射!」と思っており、腹筋から体の上半身(前半分)が以上に疲れ、」凝りました。息も通らず、まともな音も出ませんでした。

    今は「息は、骨盤から全腹を通して喉の奥から口の中に上向きに吹き上げる。あるいは、背中から後ろ頭を回して、後ろに飛ばす」意識で吹いています。すると前・上半身の力みは取れ、息もスムースに流れるのですが、その代り、「背中、特に首の後ろ」が大変凝ります。原因と対策があればご教授ください。宜しくお願い致します。

    • 三宅さん

      「息は、骨盤から全腹を通して喉の奥から口の中に上向きに吹き上げる。あるいは、背中から後ろ頭を回して、後ろに飛ばす」

      この一文を

      「息は、骨盤から全腹の力で口の天井の固いところまでに斜め前上方向に息を当て続ける。背中から後ろ頭を回して、後ろに飛ばすは、もう無し」

      に変えて意識してみたらどうなるでしょう。

      効果があってもなくても、ぜひレッスンに来てください!

  2. 私は力んでいます。
    それは、自分でも感じます。
    でも、なぜ力んでいるのか、どう改善すればいいのか分かりません。
    こういうことは、実際にレッスンを受ければすぐ改善方法を見つけてもらえると思うのですが、色々な事情があって受けれず、、

    なので一応、私の特徴だけ教えるので、改善方法が分かれば教えてください↓(ちなみにホルンです)
    ①マッピを唇に押し付けすぎている
    ②楽器を構えるとすぐ腕の限界がくる
    ③すぐバテる
    ➃タンギングが汚い
    ⑤音が小さいと言われてきたため、大きな音を頑張って出している
    ⑥楽器を初めて2年
    ⑦伸ばしが揺れる
    ⑧音程が高いので頑張って合わせようとしている

    • さなさん

      演奏や奏法に関するご質問は、こちらからお願い致しますm(-_-)m
      →https://basilkritzer.jp/archives/10359.html

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