アガリはパワー

ことしもキャシー・マデンがアメリカから来日。

キャシー・マデンは、アレクサンダーテクニークをパフォーマンスに応用することに関しては、世界第一級。

1975年からアレクサンダー・テクニークにかかわりはじめ,1980年から教えてきた。ワシントン大学のプロ俳優トレーニング・プログラムにかかわりつづけること12年, 1999年からは同大学演劇学部の名誉教員に。

ホルン奏者の僕はキャシー・マデンには3回会っている。

アガリ症の僕は、アレクサンダーテクニークの教師になるための勉強の中でキャシーに会ってから、もう2回もオーケストラの前に立ってコンチェルト(協奏曲)を演奏している。

ソロである。逃げも隠れもできない。
プレッシャーで言えば、当然最高レベルのプレッシャーがかかるのだ。アガリ症の人間がやることじゃない。

それが、どちらも本番で練習以上の最も良い演奏が出来た。

それは、キャシー・マデンから学んだある重要な事のおかげだ。

本番で感じているのは「恐怖ではない」ということを理解したのだ。

大事な、あるいは難しい演奏会の本番で、音楽家は言いようのない感覚を経験することがある。

心臓が高鳴り、口が乾き、身体が震え、自分が自分でないような、いつもとは全く異なる感覚。

これが非常な「恐怖感」として感じられてしまう。

すると、アガる。コントロールが効かなくなり、失敗を重ね、自信を失い、ひどいときには演奏活動の継続さえ困難になるときもある。

しかし、キャシーが言った。
「それは恐怖感じゃないのよ。単に、アドレナリン。すなわちエネルギー。パワーなのよ」?

アドレナリンは、生物が危険に陥ったとき、闘争もしくは逃走を可能にするために分泌される。

しかしアドレナリンは、生物が興奮したときにも分泌されるのだ。

僕が感じていたのは、アドレナリンの作用なのである。
本番という特別な状況のために、身体が興奮し、アドレナリンを分泌し、注意力を日常よりはるかに高めていてくれたのだ。

そのアドレナリンの作用が、危険にさらされ恐怖を感じているときと、物質的にはよく似ていたため、いつしか僕は本番前のあの特別な感覚を「恐怖」と誤解し、避けたり押さえ込もうとしたりしていたのだ。

それが、どうにもならない緊張につながっていたのだ。

あの感覚は、本番を失敗させるためのものなんかじゃない。

むしろ本番で今まで以上のもの、観客のエネルギーを受けとって初めて生まれる自分を超える演奏を生み出すためのエネルギーだったのだ。

それを理解してから、プレッシャーが大きいほど、本番で成果が出せるようになってきた。もちろん、技術的な能力が伴っている場合ではあるが。

キャシーは、この僕の誤解を、たった数回のやり取りで読みとっていた。

そして、事実を伝えるだけで僕をこれぐらい変化させてしまったのだ。

これが、キャシー・マデンのアレクサンダー・テクニークだった。

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