自分に優しい「音量」への取り組みかた

管楽器を演奏していて、「音量」もまた気になるテーマであり、多くのひとを悩ませるところでもあります。

日本で管楽器を演奏しているひとの多くが学校吹奏楽部でその楽器に出会うケースが非常に多いことと関係しているのだと思いますが、まずはじめに音量に関して出てくる悩みが



大きい音が出せない

というものです。

だんだん上手になってきて、体格も成長してくるとこんどは、

大きい音が汚くなってしまう

という悩みに変わります。

その後、学校を卒業してからも演奏活動を自らの意志で続けていると、精神的にもより大人になっており、いよいよ音楽のレパートリーに全般的に触れるようになっていきます。管弦楽やアンサンブルで演奏することも増えていきます。

その頃に出てくる悩みが

ピアノ(音量)で吹くのが難しい

というものです。

この三つの悩みに関して、考察を進めていきます。



【大きい音が出せない?】

先日掲載した 『金管楽器の「音域」にまつわる自己否定的意識の問題点』で指摘したことと同じなのですが、この悩みの根本には、

・より大きい音を出せた方がエラい
・大きい音が出せないのはダメ

という価値観が関係しています。

つまり、音の大小と、自己評価の高低を直結させているのです。

フィリップ・ブラス・アンサンブルなどで活躍し、世界的なホルンのソリストであり、わたしの大学時代の師でもあるフランク・ロイド先生は

「周りより大きい音が出せなくてオーケストラ奏者として行き詰まるひとは滅多にいないが、小さい音がうまくコントロールできなくてキャリアが限界に来る奏者はいっぱいいる。音量で目立とうとする必要なんて、全くないんだ。」

とよく言っていました。

大きい音の出し方を考える前に、

・ほんとうに自分はもっと大きい音を出さなきゃいけないのか?
・大きい音であればあるほど良い、というのは果たして本当だろうか?
・音楽は、音量勝負なのか?

という問いかけをしてみましょう。


それでもまだ、「大きい音が出せない」という悩みがあるのだとしたら、次に考えられる原因は

大きい音を出すために「力を使う」ことを避けている

ということです。


音の大きさは、純粋に息の量で決まります。

たとえば短い八分音符をフォルティッシモで鳴らしたいとき、わずかな時間の間に一気にたくさんの量の息を吐く必要があります。

その仕事を担当するのは、お腹の筋肉です。

大きい音を鳴らすためには、息を吐くときに、お腹の筋肉をたくさん使います。つまり、力が要るのです。大きい音は、まちがいなく「ひと仕事」であり、物理的に「ラク」にできるものではありません。


しかし、大きい音が出せないと悩むひとの相当部分が、この力を使うことを「悪い事だ」と感じていて、避けようとしてしまっています。そうすると当然、大きい音がうまく鳴らせないのです。

これは、

・「力んでいる」「力を抜きなさい」という指摘や指示をそのまま受け入れてしまっている場合
・力を使うことと、力むことを混同している場合

のどちらかもしくは両方が原因としてあります。

そもそも、「あなたは力み過ぎだ」という指摘や「もっと力を抜きなさい」という指導は、なかなか相手の役に立ちにくいにも関わらず、そういった指摘や指導がなされることが非常に多いので、混同が起きるケースが多いのでしょう。


力みは

・やろうとしていることに対して使おうとしている力が大きすぎるとき
・やろうとしていることに対して使おうとしている力が小さすぎるとき
・やろうとしていることに対して使おうとしている力の場所がベストでないとき
・やろうとしていることに対して使おうとしている力のタイミングがベストでないとき
・やろうとしていることに対して使おうとしている力の継続時間がベストでないとき
・やろうとしていることに対して使おうとしている力の方向がベストでないとき

のいずれにおいても発生します。

つまり、

力みは、「もっと良いやり方があなたには見つかるはずですよ」というサイン

なのです。

「力を抜きなさい」という指導や、「力を抜くようにする」意識は、このサインを消そうとしていると考えれば、かなりもったいないのです。それに、ほとんどの場合「使う力を減らそう」としますが、上述した通り、「力の使い過ぎ」が力みの原因であるのは、たった1/6のケースに過ぎないのです。

力の使い過ぎが原因でない「力み」に対し、力を抜ことしても、何も変わらないかむしろ力みが悪化することもあります。


大きい音を鳴らすには

・場所:お腹の力
・タイミング:息を吐くとき
・量:強く
・継続時間:音を鳴らしはじめる直前から鳴らし終えるまで
・方向:お腹を凹ませ、絞るような方向で、息を上方向へ

力を使う必要があります。


さて、大きい音が鳴らせないと悩んでいるあなたは、この中で何かずれたことをやっている可能性あるでしょうか?


・場所:お腹ではなく、首や背中、胸のを使いにかかっていませんか?

・タイミング:息を吸うときにお腹に力を入れていませんか?もしそうだとすると、十分に息を吸えませんし、吐く力も弱くなります。あるいは音を鳴らしはじめてから力を入れていませんか?もうしそうだとすると、いわゆる「後押し」になります。

・量:力を抜こうとして、大きい音を鳴らすのに「弱い力」しか使おうとしてしまっていませんか?

・継続時間:音を鳴らしている途中で、力を抜いてしまっていませんか?

・方向:息を楽器の方へ「吹き込もう」としてしまっていませんか?そうすると、力を使う方向が下向きになって胴体が力んだり、前方向になってマウスピースとプレスの接触が減って息漏れが起きたりします。


ここから導き出されるシンプルなアイデアが

「大きい音を出したいなら、思いっきり吹けば良い」

というものです。

しかし、その「思い切り」を削いでしまうまた別の要因があります。



【大きい音が汚い!?】

思い切って大きく音を吹こうとする試みを妨げるのが、

大きい音で演奏すると、音が汚くなる

という悩みです。

しかしこの悩みもまた、

汚い(or 粗い or 硬い etc…)と思っているが、ほんとうにその音は汚いだろうか?

という再考が必要な場合が多いです。

レベルの高い演奏家の音を間近で聴くと、「雑音」とも思える様々な興味深い「音」が発生しています。決して、「純粋にキレイ」な音ではないのです。


息の音
楽器のネジがジージー共鳴する音
出している音と反響している音とのぶつかりが生み出すうねり


さまざまな「音」が入り混じり、多様な感触を生み出します。


ずっと前に、しかもある特定の先輩や先生に「音が汚い」と批判されたことを、いまだに気にしてしまっていませんか?

あるいは、指揮者や先生が「団体」に向かって「一律に」言っているだけのことを、個人的に受け取りすぎていませんか?


より微妙な区別になりますが、

あなたが

「汚いと心配に思う音」

と、

「汚いと感じる音」


別物です


まずは、思いっきり音を鳴らしてください。

その後で、「汚いかも」と不安になっても、あきらかに「汚い!!!」と実感したのでなければ、その音は汚くありません。

信頼できるひとに、音を聴いてもらってフィードバックをもらうのもよいでしょう。


ただし、聴いてもらうことを頼むとき、

「音が汚くないか、聴いてくれる?」

と頼んではいけません。

そうやって頼んでしまうと、ひとは親切なのか不親切なのか、「汚い」と言ってしまうからです。

「思いっきり吹いてみるから、どんな印象か、教えて!」

と頼みましょう。これは非常に重要なポイントです。



【静かな音の難しさ】

静かな音の演奏において感じる難しさは、ある程度その通りな面があります。

静かに演奏するということは、ちょっとしたことで「音を出しそびれる」「無音になってしまう」リスクを冒していますから、大きいな音より、「ミス」の発生率はたしかに上がるのです。

しかし、静かな音を演奏することは、ミスのリスクを背負って、やはり「思い切って」演奏する必要があるのです。でないと、音を抑えよう、聴こえないようにしようとしてしまいますが、これは「音を出す」ことと「音を消す」ことを両方同時にやろうとしており、身体的な葛藤を生み出します。力んでしまうのです。

結果、失敗や緊張の危険は増大してしまうのです。


静かな音を演奏するこコツは、「思い切り」やることです。

と同時に、「力の量」という面では、基本的には大きな音より少なくてすみます。息の量がそれほどいらないからです。

したがって、静かな音は身体的には実は大きい音よりラクであることを覚えておくとよいでしょう。


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自分に優しい「音量」への取り組みかた” への2件のコメント

  1. 私はよく、音量が小さいと言われます。
    出しても、出したも小さいと言われ
    どうしていいか自分でも分かりません。
    音色は変えずに、音量が出る
    練習方法はありますか?

    • みささん

      ホルンは、音量によって音色がすごく変化するのが「良さ」の楽器ですよ!

      フォルテは荒々しさ・金属的な感じ
      メゾフォルテは太さと暖かさ
      メピアノは柔らかさ
      ピアノは密度

      たとえばそういうような印象をもたらします。

      それを変えないようにして音量を変えようとすると、まずうまくいきません。

      音量そのものの練習についてはたとえばこういうのがあります。
      https://basilkritzer.jp/archives/1468.html

      Basil

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