ホルンを専攻する学生さんから、メール相談を頂きました。
【学生】
はじめまして。私は大学で音楽を学んでいる4年生です。ホルンは中学1年生からはじめ、大学もホルンを専攻しています。(私の通う学校は音楽大学では無いため、金管楽器の先生はいらっしゃいません。)
本日は演奏について相談をさせていただきたく、ご連絡させていただきました。お忙しいところ大変恐縮ですが、ご回答いただけると幸いです。
私は大学1年生から調子の浮き沈みが激しいことに悩んでいます。その度にバジル先生のアンブシュアモーションや、メンタル面での考え方などの記事を読ませていただいております。
私は、中学生から高校生までは怖いもの知らずだったのか、演奏することに対して極度の緊張を覚えることはあまりありませんでした。しかし、大学生になってからというもの、実技試験のたびに極度に緊張し、途中で唇が振動しなくなったり、唇が乾いて途中で吹けなくなってしまうこともあります。練習では出来たことが本番ではいつも出来なくなってしまいます。普段の練習でも、毎日調子が異なり、悩んでいます。特に高音域になると苦しくなったり、唇が振動しなくなることが1番の悩みです。
以下に自分の中で分析したことを記述させていただきます。
まず、唇が振動しなくなった際にマウスピースを唇から外して見てみると、上の歯に下唇が当たっていました。(下唇を巻き込んでいるのかもしれません。)私は、噛み合わせが深く、口を閉じると上の歯が下の歯を覆うような形になっています。演奏する時は無意識に下顎を前に出して吹いているのですが、それでも上の歯の方が前に出ています。
アンブシュアモーションについての記事やYouTubeの動画をみて、自分のアンブシュアについて、透明なマウスピースを買って確認を試みました。アパチュアは下を向いているように見えました。高音域と低音域に行く時のマウスピースの動きを見ようと動画を撮ったりもしてみたのですが、あまりよく分かりませんでした。マウスピースの位置はやや下唇の占める割合が多めだと思います。
また、高音域の時にマウスピースをより密着させるというレッスンのYouTubeを拝見し、実践してみましたが、密着させるタイミングや力加減が悪かったのかかえって唇の振動を止めてしまい、音がでなくなってしまいました。
姿勢については、横から見た時に体の線が真っ直ぐになるようにすると個人的には吹きやすいように感じます。私は普段反り腰で、そのまま楽器を吹くと上半身に力が入ってしまうため、股関節を入れて反り腰をなおしてから吹いています。
最後に、唇が乾くとマウスピースに唇がくっついたり、アパチュアが開いたまま閉じれなくなって吹けなくなってしまうことについてですが、自分の中でどうすれば良いのかがまだ分かっておりません。普段から演奏前に1度唇を舐める癖があるのですが、これは良くないのでしょうか。
この前の試験では、冷房の効いた部屋+緊張で唇が乾く→楽譜上マウスピースを唇から離すタイミングがない→乾燥したまま演奏を続ける→吹けなくなる
の悪循環でボロボロになってしまいました。卒業演奏でこの曲を全曲演奏する予定なのですが、吹ききれるかがとても不安です。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。長文を失礼いたしました。もしよろしければなにかアドヴァイス等をいただけると幸いです。何卒よろしくお願いいたします。
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【バジル】
実際の演奏の様子を見ないとわからないこともいくつもあるので、まずは書いていただいたことに対してコメントできることからコメントをしてみます。
>>私は、中学生から高校生までは怖いもの知らずだったのか、演奏することに対して極度の緊張を覚えることはあまりありませんでした。
↑
中高生のときは、高音もいまより吹きやすかったのですか?
>>まず、唇が振動しなくなった際にマウスピースを唇から外して見てみると、上の歯に下唇が当たっていました。(下唇を巻き込んでいるのかもしれません。)
↑
巻き込み自体は、とくに外から見て巻き込みふうに見えるということに関してはそれ自体問題であるとか心配するようなことは一切ありません。
>>私は、噛み合わせが深く、口を閉じると上の歯が下の歯を覆うような形になっています。演奏する時は無意識に下顎を前に出して吹いているのですが、それでも上の歯の方が前に出ています。
↑
これもそんなに珍しいことではなく心配するようなことではありません。
>>アンブシュアモーションについての記事やYouTubeの動画をみて、自分のアンブシュアについて、透明なマウスピースを買って確認を試みました。アパチュアは下を向いているように見えました。高音域と低音域に行く時のマウスピースの動きを見ようと動画を撮ったりもしてみたのですが、あまりよく分かりませんでした。
↑
動画見せてくれてもいいですよ。
>>姿勢については、横から見た時に体の線が真っ直ぐになるようにすると個人的には吹きやすいように感じます。私は普段反り腰で、そのまま楽器を吹くと上半身に力が入ってしまうため、股関節を入れて反り腰をなおしてから吹いています。
↑
ただフウーっと脱力して、ちょっとダラっと座るだけでも反り腰が解除できるかもしれません。その場合、自力で骨盤を倒すよりラクな可能性があります。
>>最後に、唇が乾くとマウスピースに唇がくっついたり、アパチュアが開いたまま閉じれなくなって吹けなくなってしまうことについてですが、自分の中でどうすれば良いのかがまだ分かっておりません。普段から演奏前に1度唇を舐める癖があるのですが、これは良くないのでしょうか。
↑
舐めているひと、たくさんいます。
それを推奨するメソッドもあります。
>>この前の試験でR.シュトラウスのホルン協奏曲第1番の第1楽章を演奏したのですが冷房の効いた部屋+緊張で唇が乾く→楽譜上マウスピースを唇から離すタイミングがない→乾燥したまま演奏を続ける→吹けなくなる
の悪循環でボロボロになってしまいました。
↑
唇の乾きについては、内科か心療内科に相談したらいいと思いますよ。唾液の分泌を促す薬や、緊張を和らげる薬をもらえます。演奏家も使っているひと多いですよ。
あとは、
・その薬が効くか
・薬は効くけど演奏はうまくいかないのか
・薬が効いておかけで演奏しやすくなるのか
を確かめて、唇の乾きや緊張自体が演奏を失敗させる原因なのかそうではないのかを明らかにしたいですね。
>>卒業演奏でこの曲を第3楽章まで演奏する予定なのですが、吹ききれるかがとても不安です。
↑
吹ききれなくても死にません!
失敗しても一時の恥です。
一生懸命やれることはやってきていらっしゃるわけですから、卒業試験にすべてをかけるのではなく、『より良い演奏をしたい』という自分の想いをどうやって少しづつでも実現していくかが大切です。
ひとまず、お返事まで。
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【学生】
お忙しい中、ご返信いただき誠にありがとうございます。先生にコメントをいただいたことについて以下に記述させていただきます。
>>中高生のときは、高音もいまより吹きやすかったのですか?
↑
音域自体は現在より狭かったのですが、音自体はすんなりと出ていたように感じます。
>>巻き込み自体は、とくに外から見て巻き込みふうに見えるということに関してはそれ自体問題であるとか心配するようなことは一切ありません。
↑
巻き込みは気にせず練習をしてみました。すると、振動が無くなるのは巻き込みが原因ではなく、演奏している過程でだんだん上唇と下唇が離れていってしまっていることだと思いました。改善を試みましたがどうしても演奏している間にアパチュアが開いていき、息漏れが起こってしまいます。
>>動画見せてくれてもいいですよ。
↑
ありがとうございます。以下に添付させていただきます。お忙しいところ大変恐縮ですが、アンブシュアモーションや演奏についてアドバイスをいただければと思います。
演奏をしてみるとわやはり安定して吹くことが出来ず、音が揺れたり跳躍で引っかかってしまったりしてしまいます。また、私は音が後押しになってしまっているのですが、無意識になってしまい、どうすれば良いのかが分からない状態です。リップスラーが苦手でいつも跳躍のところで演奏が崩れてしまいます。以前YouTubeのレッスン動画でお腹を使って吹くということを見させていただき、実践してみると吹きやすくなりましたが、やはり音が上がり切れないことや、唇の振動が止まってしまい音自体が鳴らないこともあります。
>> ただフウーっと脱力して、ちょっとダラっと座るだけでも反り腰が解除できるかもしれません。その場合、自力で骨盤を倒すよりラクな可能性があります。
↑
先生のおっしゃる通りにしてみたところ、いつもより楽に吹くことが出来ました。骨盤を倒すことでかえって力が入ってしまっていました。
>>唇の乾きについては、内科か心療内科に相談したらいいと思いますよ。
↑
病院に行ってみたいと思います。
その際、上記の3点を確かめてみます。
>>吹ききれなくても死にません!
↑
確かにその通りだと思いました。先生のお言葉に凄く勇気づけられました。ありがとうございます。私はホルンを上手く吹けないことに対してのコンプレックスが強く、そのことで頭がいっぱいになってしまい、「ホルンが好きで楽しく吹きたい!」という思いを忘れてしまっていました。他の楽器の専攻生と比べてしまい、「楽器が違うのだから比べる必要は無い」と分かっているものの酷く落ち込んでしまいます。演奏も、自信のなさが現れているのだと思います。
まずは、「より良い演奏をしたい」という思いを大切にしたいと思いました。
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【バジル】
ビデオ拝見しました。
アンブシュアモーションは
高い音ほど右下
低い音ほど左上
ですね。
まずそれをわざとやってみるとどうなるか試してみて下さい。
そして、それとも関係しますが、おそらく持ち方が原因でマウスピースと下の歯や下唇の接触が薄くなっています。あるいは、顔面の真ん中よりは右側との接触が薄いのかもしれません。マウスピースのプレス。より具体的には下側and/or右側へのプレスを少しやってみると吹きやすくなる可能性がある気がします。
もしかしたら、楽器を持ち上げ過ぎているか、あるいは握り足りていなくて黒いリストバンドを手にひっかける感じでぐらつき気味で、マウスピースの下側が下唇から離れていくような感じで傾きがちなのかもしれません。
両手で楽器を持ち、握り、安定させ、上述のアンブシュアモーションやプレスを試みてみるのもやってみる価値があります。
マウスピースが当たっている位置が吹きやすいか位置より少し高め、マウスパイプの角度も高めになっている可能性も感じます。当てる位置や角度を下げてみるのも試すことのひとつとして有力候補です。
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【学生】
アンブシュアモーションをアドバイスいただいたようにやってみると、いままでよりもなめらかに跳躍を吹くことができました。ただ、動かすときにどれくらい動かしたら良いのかが少し難しく感じました。
下側and右側へのプレスを行ったところ、上下の唇が離れてアパチュアが開く現象が軽減されました。また、下顎を無理に前に突き出している感覚がなく、吹きやすくなりました。
アンブシュアモーションに従って吹く際に、低音に行くにつれて左上に楽器を動かすと、下唇にかかるプレスが減っていってしまうのですが、下唇のプレスの状態は変えずに低音に行った方が良いのでしょうか。
マウスピースを当てる位置は、少し低くし、マウスパイプの角度を下げたところ、音がまとまった感じがしました。他の人に聞いてもらっても、今までよりも良い音だと言って貰えました!また、楽器に取り付けていたバンドを外して演奏をしてみたところ、安定して楽器を持つことが出来るようになり、さらに下唇への密着がしやすくなったように感じます。支えのために使っていたバンドがかえって不安定な構え方の原因になってしまっていたことに驚きました。
先生が仰ったことを試すと音色も吹奏感もガラッと変わり、力みが減ったような感じがします。お忙しいところ、質問等に丁寧にお答えいただき、本当にありがとうございます。
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【バジル】
すぐに進展があり良かったですね!
>>アンブシュアモーションをアドバイスいただいたようにやってみると、いままでよりもなめらかに跳躍を吹くことができました。動かすときにどれくらい動かしたら良いのかが少し難しく感じました。
↑
完璧な喩えにはなりませんが、それは自転車を乗れるようになるときの『どれぐらいペダルを踏み込んだらいいか』ということに予め決まった、予想できる答えが無いのと似て、アンブシュアモーションが指し示す大まかな動きの方向を手がかりに、より具体的な方向や量を探していくものと考えると良いと思います。
>>アンブシュアモーションに従って吹く際に、低音に行くにつれて左上に楽器を動かすと、下唇にかかるプレスが減っていってしまうのですが、下唇のプレスの状態は変えずに低音に行った方が良いのでしょうか。
↑
また動画撮って見せて下さい。
>>また、楽器に取り付けていたバンドを外して演奏をしてみたところ、安定して楽器を持つことが出来るようになり、さらに下唇への密着がしやすくなったように感じます。支えのために使っていたバンドがかえって不安定な構え方の原因になってしまっていたことに驚きました。
↑
バンドは、支えたい支え方をするのがバンド無しだと痛いとか大変過ぎる場合に、支えたい支え方をサポートして可能にする役割があるのですが、支えること自体を減らしちゃってるケースはけっこう見たことあります。
***
【学生】
喩えがとてもわかりやすいです。これから、アンブシュアモーションを試しながら探してみたいと思います。
リップスラーと、協奏曲の演奏です。
Gの音がいつも、ものすごく高くなってしまいます。
アンブシュアモーションの仕方は正しいでしょうか?
ご教示いただければと思います。
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【バジル】
下降リップスラー時、調が下がるほど音程が上ずるのがわかりますか?
ご自身で動画を見てもらうと分かると思いますが、左上のアンブシュアモーションが、左上にあっているつもりが途中からわずかに結果的に右下になっているわけです。マウスパイプの角度は左上になっているのですが、マウスピースの位置がよく見ると少し下がります。
音を下げるための左上アンブシュアモーションをやるためには音が下がるにつれてもっと楽器を左方向に持っていってみましょう。マウスピースが実際に顔の左上ゾーンに来るようにするのです。
今はその動きが途中で止まり、先述したように角度は左上になっても位置は途中で右下に戻っていきます。そのためなんとか上方向へのアンブシュアモーションをしようとして顎を引くことで補っているような状況と解釈できます。
意味分かりますか?
協奏曲ですが、マウスピースのポジションが角度も位置が、最初からまだ高いですね。もっと角度も位置も下にしてみるとどうなるでしょう
***
【学生】
聴いてみると、たしかに音程が段々と上がっていると思いました。
動画を見返してみると、左上に行っているつもりがマウスピースの位置だけを見てみると先生の仰るように右下にズレていました。
>>意味分かりますか?
↑
意味はわかるのですが、実際にやってみるとなかなか上手く行かず、悪戦苦闘しております…。以前の動画に比べると下の音に行く時に意識的に左上にマウスピースを動かそうとしているのですが、
動画を見ていただけると幸いです。
>>協奏曲ですが、スマウスピースのポジションが角度も位置が、最初からまだ高いですね。もっと角度も位置も下にしてみるとどうなるでしょう。
↑
位置と角度を下に吹くことを数日間試みたのですが、自分の中でこれ以上下げると吹けないのでは無いかという気持ちが無意識に働いてしまっているのか、動画を見てみると自分が思っているほど下がっていませんでした…。
アドバイスいただけると幸いです。
***
【バジル】
音、すごい綺麗ですよ。
ホルンのレッスン受けてないんですよね??
それでこの音色は音楽性が豊かだからでしょう。
さて、低音の左上アンブシュアモーションについて。協奏曲の方とも、ポイントが重なってきました。どちらも
・胸式呼吸の支えがない
・右腕が使えていない
ことが制限になっているようです。
①持ち方
いま、構えるときに楽器を右後ろに回して胴体右後ろひねりが起きています。右腕はそのとき胴体の後ろに流れます。その結果、左腕だけで楽器を持ち上げています。
両腕で持ち上げられると、左上アンブシュアモーションも、楽器の構えもやりやすくなるでしょう。
楽器を、立奏なら左腿のあたり、座奏なら左膝の方に置く
↓
両腕ともに胴体より前にあるようにして、脱力
↓
マウスピースを見て
↓
マウスピースを見ながら楽器を持ち上げてマウスピースを口に当てる
②呼吸法
見ていると、胸式呼吸です。肩を上げて吸って、お腹を凹ませて吐く。これは良いのですが、吐くときに肩が下がってます。肩を上げたままお腹を凹ませて吐いてみましょう。これが息の支えです。
この2つで、構えはラクに、左上モーションもやりやすくなると思います。
もしこれでよくわからないところが出てくれば、オンラインレッスンに移行しましょう。
– – –
了
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Basil
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初めまして私はホルンを吹いている中学1年生のものです。お忙しいなか恐縮ですがご回答いただけると幸いです。私の学校にはホルン担当の人がいずたまにしか教えてくれる人が来てくれません。なので自分でもいろいろホルンのことを調べたりして今までホルンを吹いていたのですが最近周りの人と音程が外れていることにきずきどうしようとおもっています。その影響で合奏の時『自分の音が間違っていたらどうしよう』と思って大きな音で吹けず金管の同級生の子から『ホルンはいても意味ない』『成長してないのお前だけ』などと言われてしまい『私て吹奏楽いたらら迷惑なのかな』と思ってしまいます。どうすれば緊張せずに大きなの音で音程をはずさずに吹けますか?
カスミさん
お返事遅くなり、すみません!
同級生、ほんとウンコカス野郎ですね💢
その同級生の言うことはまったく嘘でまちがいなんです。
その嘘と間違いを真に受けて信じたところがあるから、カスミさんは緊張して吹きにくくなったのです。
これからは、同級生の嘘と間違いではなく、カスミさんにとっての「本当のこと」を見つけて意識して大事にする必要があります。