高校生ホルン吹きの S さんより質問を頂きました。
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【Sさん】
こんばんは。ホルンを吹いている高校生です。
私は音を発音するとき(タンギングするとき)に力んでしまいます。
中低音は比較的に、吸った息をそのままスムーズに吐けていることが多いのですが、高音をタンギングして出すことが苦手です。
スラーだったりノータンギングだと普通に吹けるのに、タンギングありだと息を吸って吐く直前に唇や喉が固まって一瞬息を止めてしまい、その結果音が出なかったりノイズが入ったりしてしまいます。Hより上の音はいつもそうなります。特にCが苦手です。
多分、「音を当てなきゃ」という気持ちがその緊張に繋がっているのではと思いますが、例えば何も考えないで音を出そうとしたり、自分の出したい音をイメージしてから吹こうとしたりしてもどうやっても、息を吐く直前に止めてしまいます。
中学生の時はあまりこんなことありませんでした。多分、良くも悪くも何も考えないで吹いていたんだと思います。でも今は基礎練も曲もこうなってしまうので、高い音がどんどん怖くなってしまっています…
ノータンギングで音が出るならタンギングありでも出るはずなのになんでだろう…といつも練習しながら憂鬱です。
高い音を当てるときに、唇や喉が力まずに、吸った息をスムーズに吐いて音を出すにはどんな練習をすれば良いのでしょうか。アドバイスを頂けると嬉しいです。
また、バジル先生に質問なのですが、先生はホルンを練習されていて「何だか今日は調子悪いな」とか「今このまま練習しても上達につながる気がしない」と思った時どうしていますか?
私は調子が悪いと思ったらリップスラーなどをやったり時には一旦練習をやめてゆっくり休憩してから再開したりしますが、一度調子が悪いと思うと何をやってもその日は調子が戻りません。でも毎日少しずつでも上手になりたいので、調子が悪い時にどのような練習をするのが翌日以降の練習に良い影響を与えてくれるのか知りたいです。
また、調子が悪かった次の日楽器を吹く前に「昨日みたいになったらどうしよう」と不安になってそれがその日の調子にも影響してしまっています。このマイナス思考を変えたいです。アドバイスください。
【バジル】
Sさん
コメントありがとうございます。
>>ノータンギングで音が出るならタンギングありでも出るはずなのになんでだろう…といつも練習しながら憂鬱です。
実はね、ノータンギングとタンギングありでは、唇の状態がけっこうちがっていてもおかしくない思います(少なくともノータンギングとタンギングでは唇の仕事が変わってくるプレイヤーは一定数いる、と言えます)。
わたし自身がそうです。
で、同じようにノータンギングだとうまくできるけれどタンギングだとうまくできない….という傾向がかなり長期間ありました。気にならなくなってきたのは最近で、個人的には
・積極的なアンブシュアの使い方
・うまくスッと、パン!と響かせる感じ
を習得できるようになってくるにつれて気にならなくなってきたように感じています。
Sさんの場合、おそらくタンギングのときの方がしっかりアンブシュアに力を入れる必要があるのだと思います。それをやっていない/躊躇していませんか?まずは試しにアンブシュアに力を入れること、アンブシュアを運動させることを思い切ってやってみるとどうなるでしょう?
やりすぎると起きることは音が上にひっくりかえることくらいで、これはむしろ高音においては効率が良くなった/余裕がでてきた証拠で良い兆候です。臆せずやってみてください。
>>タンギングありだと息を吸って吐く直前に唇や喉が固まって一瞬息を止めてしまい、その結果音が出なかったりノイズが入ったりしてしまいます。
もしかしたら、アンブシュアの力をえいっと思い切って入れる(タンギングの一瞬前に)ことでこれらは解決されてくるかもしれません。
おそらくいま起きていることは、息の圧力の「溜め/高まり」を行わずに吹こうとしている(=そのまま吹くイメージ)ことです。でも実際にはこれでは高音ほどでやりづらくなるので、身体はちゃんとどうにしか圧力を生み出します。でもタイミングとか方向が曖昧になってしまう。それを喉の力みとして感じているのかも、と文章からは推測します。
以下の順番で観察・実験してみましょう。
① タンギングするときってベロが歯の裏や唇の裏にくっついていますよね?それをまずは確認(観察)して実感します。
② ベロは、息の流れに栓をしています。栓する力=ベロを歯の裏や唇の裏にくっついたまま、くっつけておく力をグーっと強めてください。
③ アンブシュアの力も必要そうなら躊躇なく入れて、発音(=ベロでしている栓を抜く)してください。どんな結果や感触、手応えがあるでしょう?
④ 2のときに、お腹やお腹の下の方をグーっと外から中へ、下から上へとかけてみます。ベロのグーっ、お腹のグーっ。
⑤ 発音=ベロの栓を抜きます。ただし、栓を抜くからといってベロの力やお腹の力をリラックスすべき、というわけではありません。けっこう力を入れておくとやりやすいかもしれないし、逆にどこかでリラックスするとよいことや場面もあるかもしれません。すべてを解決する正解を探すのではなくて、観察と実験、感触や手応えを大事にしましょう。
〜ここで!別の考え方もあります〜
こういう観察、分析、実験から上達が始まるのはたしかです。
でも、心配や不調感がすごく大きいときに頭を使おうとすると、客観的にやっているつもりでも随分と悲観的だったり自分に対して威圧的、強迫的になってしまったりしがちです。そういうときは何をしてもうまくいきません。
なかなか思いつかないことだけれど、よく考えて現実を見てこれまでを振り返れば多くの人が「たしかに…」と気づくことがあります。
それは、「苦手なことを練習すればするほど調子が悪くなる」ってこと。
逆に、「得意なこと、気持ち良いこと、好きなことを練習していると、調子が良くなりなぜか色々上達して苦手なこともつられて改善する」ってことでもあります。これも実践してみるといいかも。
① スラーやノータンギングをどんどん吹きます。好きなように、好きなだけ。
② いい感じ、いい気分になってきたらちょっとだけタンギングしてみる。ちょっとだけ。
③ そうすると、短時間だけれどうまくいく経験につながるかも。
もしそうなったら、それはそれで立派なタンギングの練習法です。量や時間は少ないけれど、質は最高なんです。
わたしはこの方法をホルンのみならず仕事でもいろいろ応用しています。想像以上に効き目があっていまだに驚きます。
>>バジル先生に質問なのですが、先生はホルンを練習されていて「何だか今日は調子悪いな」とか「今このまま練習しても上達につながる気がしない」と思った時どうしていますか?
もやもやしたまま練習を続けて、超不機嫌になったり超哀しくなったりします(笑)
で、その後ゆーっくり振り返り、考えます。
それこそ、なにか光が見えてくるまでじっくりゆったりゆっくりぼーっと自分のことを考えます。言葉にはならなくていいから、不機嫌や緊張が緩んできて「明日の練習はこんな感じでやってみよう!」というアイデアがでてくるまで。
そうしていると大抵、すごく良い発見やアイデアが得られて、ダメな日の前よりさらに良い感じになります。
だから、わたしにとってそういう日は辛いけれども、実は大切なきっかけの日です。ちゃんと向き合えば、ですけれどね。
>>また、調子が悪かった次の日楽器を吹く前に「昨日みたいになったらどうしよう」と不安になってそれがその日の調子にも影響してしまっています。このマイナス思考を変えたいです。
うん、わかりますよ。ぼくもけっこうドキドキします。
でも、じっくり事前に向き合ってもやもやからは頭は抜けているので、その新しい見方なり発見なりアイデアを使ってみたいという好奇心が勝っています。
わたしの場合は、ですが、もやもやの原因はなんらかの非常に巧妙でそれとは一見して気づかないけれど、実質的な「自己否定」が原因です、大抵。高望みも、ある種の自己否定です。
そういう意味では、脱もやもやのアイデアはいつもなんらかの「自己肯定」の側面を持っています。わたしの場合は。(そしてわたしがレッスンしている数多くのひとにおいてもこういう考え方がとても役立っています)
【Sさん】
お返事ありがとうございます。
いただいたアドバイスを実践してみたところ、昨日よりも高音を当てやすくなりました!まだ下にひっくり返ってしまうことも多いですが、だんだんコツをつかんできたというか、上達の手応えを感じています。
ただ、音を出す時に、息を吸ってから音が出るまでに時間がかかってしまいます…これはどうすればいいでしょうか。
バジル先生のおっしゃる通りです。好きな曲や基礎練習を吹いている時は楽しいのに、苦手なことを克服しようと練習すればするほど、上手くできなくてイライラしたり、調子が余計に悪くなってしまったりしていました。今までは練習量で解決しようとしていましたが、それよりも質の良い練習をすることのほうが上達につながるのだと改めて確認しました。
ゆっくり考えること、向き合うこと…私に足りていなかったことかもしれません。バジル先生の練習方法はとても参考になります。そんな「意味のある練習」を私もしていきたいです。
私は自己否定してしまう癖があります…友達にもネガティブだってよく言われます。どうやったら自分を肯定することができますか?
【バジル】
>>ただ、音を出す時に、息を吸ってから音が出るまでに時間がかかってしまいます…これはどうすればいいでしょうか。
さすがに直接見ないと確かなことは言えないですが、ここまでの文章を拝見していると、たぶん「息の圧力を高める/溜める」時間だと思いますよ。
その時間なしでは、とくに高い音は出せません。
先にお伝えした「ベロのぐーっ」「お腹のぐーっ」がそれです。
発音するとき、どのタイミングで発音するか決めましょう。漠然と「ただ音を出す」ということは技術を最も狂わせます。
いろんな作業をどのタイミングで行うかを身体に把握させてあげないと。
把握させてあげる方法は、音を出すタイミング、終わるタイミングを含めて=テンポやリズムも含めて音を歌う(=ソルフェージュ)ことです。
そしたら、「ベロのぐーっ」「お腹のぐーっ」が間に合って望んでいるタイミングで発音できるはず。
でも、「息を吸う」と「音を出す」の間にこれが行われるわけですから、「時間がかかる感覚」は残るはずです。
それに慣れたり速くなったり当たり前になったりしてきますから、やがて気にならなくなると思います。
>>私は自己否定してしまう癖があります…友達にもネガティブだってよく言われます。どうやったら自分を肯定することができますか?
わたしは、ですが、自己否定が演奏の邪魔になり上達を妨害しているのを理解したところから、自己否定を変えていく決心をしました。
計画的、意識的に自己肯定をします。自己肯定もまた技術であり日々練習が必要です。
よかったらぜひこの本、「徹底自己肯定楽器練習法」を読んでください。
【Sさん】
返信ありがとうございます。
今日は、吹き始めはあまり調子が良くなかったのですが、だんだん調子が良くなってきて、昨日よりもさらに高い音が当てやすくなりました!
「ベロのぐーっ」「お腹のぐーっ」がだんだんわかってきたような気がします。下ではなくて上にひっくり返ることの方が多くなってきたので、この調子で高い音をキレイに当てられるように頑張ります。
本、読んでみます!ありがとうございます。
【バジル】
上にひっくり返り始めたなら、方向性としてはバッチリです。
感覚もわかってきたようですし、たった二日でこれなら、もうこの問題は乗り越えていけるでしょう。
この調子でどんどん訓練してください。
Have fun!
Basil Kritzer