アレクサンダー・テクニークとは

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このブログをお読みの方々なら聞いたことがある「アレクサンダー・テクニーク」という言葉。

「アレクサンダー・テクニーク」というのはパフォーマンスにとても役立つセルフコントロール法のひとつで、その名前は、19世紀生まれの俳優・朗読家の フレデリック・マサイアス・アレクサンダー という人物がこの手法を構築していったことにちなんでいます。




【声を取り戻した俳優の軌跡】

アレクサンダー自身は若い頃、これからプロの俳優として活動していけそうだというそのときに、声がかすれて出せなくなってしまう、という非常に大きな問題を抱えるようになりました。

当然、医師に診てもらいました。

勧められた通りに休養をしてみたのですが、調子が良くなってきたなと思っていても、いざ台詞を話し始めると、すぐに声がかすれてきてしまうのです。

そこで彼は、医師に治してもらうことは諦めて、自ら一体何が起きているかを突き止めることを決意しました。


三面鏡を購入して、自分の声の出し方を観察を続けました。徹底して、何ヶ月も。


その結果彼は、

・台詞の発声をするときに、必要もないはずなのに「頭をグッと固定」してしまっている。
・それと同時に「身体全体が固まって」しまって、呼吸や発声がうまく働かなくなっている。

ということに気付きました。

そして、

・頭が動いて身体全体をついていかせながら発声すれば、声がちゃんと出るようになる

ことに気付き、それは練習すれば自分の意志で起こせることであることを発見しました。


発声をするときに、頭を固定して身体全体を硬くし、呼吸や発声がしにくい状態をわざわざ作ってしまうのがすっかり癖になっていましたから、声を出すときに「頭が動いて身体全体をついていかせながら声を出そう」と意識して声を出さないとすぐに元の癖に戻ってしまうことも分かってきました。

反対に、ちゃんと頭が動いて身体全体をついていかせながら発声すると、うまく発声できるようになっていきました。

当時の彼の周囲の人々はその回復ぶりに非常に驚いたようです。

しかも、回復するだけでなく、声がかすれて出なくなる問題が表面化してきた以前よりも、声の質や発声のレベルはさらに良い方向にどんどん発展していったのです。


つまり、F.M.アレクサンダーが気付いた

・頭を不必要に固定すると身体全体が硬くなってしまう

・頭が動いて身体全体をついていかせながらやりたいことをやると、それがどんなことでもより効率的にできるようになる

ということに着目して練習していけば、


-痛みや不快感という身体的な問題を乗り越える助けになる
-技術的な面で、身体が思い通りに動かせないという状況を改善する助けになる
-身体が本来できるはずの動きを解放するので、持っている能力が引き出され、非常に効果的に上達や向上ができる

ということが徐々に明らかになったのです。


周囲からすれば信じられないような回復と成長を見せたF.M.アレクサンダーの元には、同じように声が出なくて困っている人たちだけでなく、呼吸に問題を抱えるひと、姿勢に問題を抱える人、吃音に悩む人、慢性的な肩こりや腰痛に悩む人、自らの心身の能力をもっと発揮したいと考える作家や学者やアーティストたちが集まり教えを乞うようになりました。



【世界中の芸術の現場で取り入れられている】

そうしてF.M.アレクサンダーが発見したアレクサンダー・テクニークは音楽家の間でも知られるようになり、いまでは

ジュリアード音楽院
英国王立音楽大学(RCM)
ギルドホール音楽院
英国王立音楽院 (RAM)
トリニティ・カレッジ
ドレスデン・ウェーバ音楽院

etc…

といった世界の名だたる音楽大学、音楽院で教えられるようになっています。

日本では 2012年度より3年間東京藝術大学大学院の管楽器科の授業に取り入れられ、わたしがその授業を受け持っていました。2016年度からは沖縄県立芸術大学の授業にも組み込まれ、その他にも国立音楽大学、大阪音楽大学、昭和音楽大学などで講座が行われています。


特に英国王立音楽大学(RCM)では50年以上前から本格的に取り入れられ、大学の1年生に対しては必修授業として入門コースが用意され、さらに上の2学年でももっと本格的に学べるよう、カリキュラムに組み入れられています。



英国王立音楽大学学長でクラリネット奏者のコリン・ローソン氏はこう語っています。


「我が王立音楽大学においても、はじめから優れた身体の使い方を才能として持ち合わせている天才的な者はごくわずかであり、大半の学生はアレクサンダー・テクニークの提供する心身の再教育の恩恵によって非常に助けられている。

またこの数年、我が音楽大学の最も優れた卒業生たちからも、国際コンクール優勝において在学時代のアレクサンダー・テクニークの訓練から得た恩恵を非常に肯定的に伝えられている。

最高の恩恵を得ている学生たちは次のようなタイプに分けられる。

1:演奏の際に、身体的な不快がある学生。
2:演奏の際に、不安に苛まれる学生。
3:高いレベルに達しており、聴衆とのコミュニケーションをより深く実現したいと望んでいる学生。

もっと効率的に練習する方法やもっと快適に自身を持って演奏する
ことにつながる大きな洞察を得ないままでいる生徒のほうが稀なくらいだ。


フォーカル・ジストニア、手根管症候群、反復運動過多損傷を抱えた学生達の症状が、音楽大学の一流のアレクサンダー教師達のおかげで解消されていった。


毎週数時間、授業があることで学生達がアレクサンダーテクニークの必要性や可能性を自分のために感じ取ってくれているのがとても喜ばしい。


さらに、我が王立音楽大学の学生たちの中で数多くがアレクサンダーテクニーク集中プログラムを学び、さらに卒業後アレクサンダーテクニーク教師になるための道に進み、いまや未来の音楽家達を教え助けている事に大きな喜びを感じている。」



さて、このアレクサンダー・テクニークをどのようにして、吹奏楽部で演奏しているみなさまが日々の練習や演奏に取り入れていくのか?

それを実践的・実用的にお伝えするためにこの本があります。


私自身、ホルン奏者であり、管楽器の演奏に具体的かつ直接的にアレクサンダー・テクニークを応用することをいちばんの研究テーマとしています。

吹奏楽部で演奏しているみなさまが普段使い、考えているような言葉や思考方法に沿って、アレクサンダー・テクニークから得られるアイデアや練習方法、問題や悩みの解決のためのアドバイスを提供していきます。


まずはじめに、

・頭を不必要に固定すると身体全体が硬くなってしまう

・頭が動いて身体全体をついていかせながらやりたいことをやると、それがどんなことでもより効率的にできるようになる

ことを実感するためのゲームをしましょう。


というのも、この点はこの本の中に繰り返し登場するからです。



【3つの実験】

準備:
・4人一組になります。
・イスに座るひと、その後ろに立つ人、様子を観察するひと×2 の役割を決めます。


実験A:左右を見る

1:座っているひとが、顔と首を動かして右を見たり左を見たりします。

2:後ろに立っているひとが、顔がどこまで向いたかを左右両方確認してください。なおこのさい、左右差があることは自然なことです。

3:では、後ろに立っている人が、座っているひとの頭をとても軽く・優しく、指でトントントントンと触れていきます。頭は、目より上、耳より上にありますね。後頭部や額なども漏らさず触れてあげてください。あくまで軽く、チョンチョンと触るだけで十分です。

4:座っている人は、触ってもらいながら、その触られている感触を通して、「頭ってこんな上にあるんだな、頭ってこんな大きさや形をしているんだな」と、頭の実感とイメージを作っていってください。

5:頭のイメージができてきたら、その頭が動いて身体全体をついてこさせながらまた顔を右に向けてください。そして左にも向けてください。

さて、どうなりましたか?
 
−さきほどより、顔がスルッと簡単に動いたと思います。
−驚いたことに、さっきより遠くまで顔が向けられたはずです。
−気付いたら、なんだか姿勢が良くなっているかもしれません。全く無理して伸ばしていないのに!
−ひとによっては、さっきまで感じていた肩こりや首凝りがずいぶんラクになっていることもあるでしょう。
−呼吸もラクになっているはずです。


これであなたは、「頭が動いて身体全体をついてこさせながら左右を見る」ということが、自分の意志の力でできました。


6:役割を交代して、4人とも体験できるようにしましょう。


実験B:手を挙げる

1:座っているひとが、両手を上げます。

2:観察しているひとたちは、手ががどこまで上がったか、どれぐらいのスピードで上がったか、手がどんな軌道を通ったかを覚えておいてあげてください。

3:では、後ろに立っている人が、座っているひとの頭をとても軽く・優しく、指でトントントントンと触れていきます。頭は、目より上、耳より上にありますね。後頭部や額なども漏らさず触れてあげてください。あくまで軽く、チョンチョンと触るだけで十分です。

4:座っている人は、触ってもらいながら、その触られている感触を通して、「頭ってこんな上にあるんだな、頭ってこんな大きさや形をしているんだな」と、頭の実感とイメージを作っていってください。

5:頭のイメージができてきたら、頭が動いて身体全体をついてこさせながら、また両手を挙げてください。

さて、どうなりましたか?
 
−さきほどより、手が高く上がったかもしれません。
−腕が軽くなってフワッと上がった感じがするかもしれません。
−さきほどより、同じ上げ方のつもりでも素早くパッと手が挙がったかもしれません。
−ひとによっては、さっきまで感じていた肩こりや首凝りがずいぶんラクになっていることもあるでしょう。
−呼吸もラクになっているはずです。

これであなたは、「頭が動いて身体全体をついていかせながら両手を挙げる」ということが、自分の意志の力でできました。

6:役割を交代して、4人とも体験できるようにしましょう。


実験C:チューニングBbを4拍間吹いてみる

1:座っているひとが、といつも通りに、チューニングBbを4拍間吹きます。。

2:観察しているひとたちは、音色、音程、響きなどを聴いておいてください。また、演奏の姿勢も眺めておいてください。

3:では、後ろに立っている人が、座っているひとの頭をとても軽く・優しく、指でトントントントンと触れていきます。頭は、目より上、耳より上にありますね。後頭部や額なども漏らさず触れてあげてください。あくまで軽く、チョンチョンと触るだけで十分です。

4:座っている人は、触ってもらいながら、その触られている感触を通して、「頭ってこんな上にあるんだな、頭ってこんな大きさや形をしているんだな」と、頭の実感とイメージを作っていってください。

5:頭のイメージができてきたら、頭が動いて身体全体をついてこさせながら、またチューニングBbを4拍間吹いてください。

・さて、どうなりましたか?
 
−さきほどより、音が太くなったかもしれません。
−さきほどより、音が大きくなったかもしれません。
−さきほどより、音が遠くで響くようになったかもしれません。
−さきほどより、スムーズに発音が出来たかもしれません。
−さきほどより、余裕を持って最後まで伸ばせるようになったかもしれませんし、あるいは息がどんどん流れていってお腹がすごく働きだしたかもしれません。


これであなたは、「頭が動いて身体全体をついてこさせながら楽器を奏でる」ということが、自分の意志の力でできました。

6:役割を交代して、4人とも体験できるようにしましょう。




シンプルな実験ですが、効果は絶大です。
ぜひぜ試してみてください。

これで一度実感を持てれば、あなたはもう、アレクサンダー・テクニークを使えています。ひとりで吹くときも、頭を触ってもらわなくても大丈夫なのです。

必要なのは

① 奏でたい音楽、フレーズ、音を決めて
② それを心の中で歌って
③ 頭のことを思い出し
④ 頭が動いて身体全体をついてこさせながら、
⑤ 音を奏でる

ということ組みだけなのです。


高い音、低い音
大きな音、小さい音、
音程、音色
速いフレーズ、長いフレーズ


個人練習でもパート練習でも合奏でも、ぜひアレクサンダー・テクニークを使いながら取り組んでみてください。


これをパートのみんな、さらにはバンドのみんなが合奏中に一緒に使えば、みんなで奏でる音の響き、広がり、深み、輝かしさ、澄み方は、信じられないほど深まります。

ぜひ、試してみてください。


Basil Kritzer


P.S.アレクサンダーテクニークと、それを活かす対象(演奏など)の関係について少し専門的な観点から書いた文章もぜひご参照ください→こちら




6 thoughts on “アレクサンダー・テクニークとは

  1. こんにちは。
    高校二年の吹奏楽部所属サックスパートの者です。
    以前演奏後のクールダウン方法を教えて頂いて、『散歩』をしてみました。あんまり、意識せずになんとなく校舎の中を手ぶらで歩いていたんですが、呼吸が落ち着く、力が抜けていくのは勿論、合奏での反省点や、課題が整理できたり、気持ちの面でも凄く落ち着いていられるようになりました。
    ありがとうございました!

  2. こんにちは✨

    5月22日の演奏会の、バジル先生のためになる話、ありがとうございました‼

    本番でしっかり成功するように、バジル先生が教えてくださった事を実践して頑張ります✨

    本当にありがとうございました‼

    • 三股中学吹奏楽部のみなさま

      一昨日はご参加ありがとうございました!
      声を届けてもらえて嬉しいです(^^)ありがとうございます。

      Basil

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