音色自己嫌悪の罠

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【奏法を混乱させる、音色自己嫌悪】

金管楽器奏者の多くは、自らの音色を無意識的に嫌い、否定するせいで、吹き方にずいぶん無理を与えコントロールを複雑化させています。

自分の音色への無意識的でいつしか潜行していった嫌悪や否定は、自分の鳴らしている音色に対して、常にしなくてよいはずの変な操作を加えさせ、混乱させるのです。とくに、金管楽器にとっては鳴らせる音域の開拓に著しくブレーキをかけます。

高音域も低音域も、身体がうまく響く必要があります。そうしないと、ただ音を出すことすらすごくやいづらくなってしまうのです。しかし、音色への自己嫌悪からくる余計な操作は、身体に対して響き止めのように働いてしまいます。身体が響けば響くほど、自分らしい音色になりますが、自分らしい音色ほど、嫌悪してしまうのが音色自己嫌悪に陥っている金管奏者たちにとって問題を一層難しくさせています。

【楽器別の傾向〜金管楽器〜】

各楽器別の傾向として

・トランペット奏者
自らの音色を「こもっている」「詰まっている」と感じて否定しているケースが多いです。「トランペットの音色は、明るくハッキリとしているべき」という漠然としたイメージが関係していると考えられます。

・ホルン奏者
どちらかというと、「自分の音はペラペラだ」「音が明るすぎる」「音が軽すぎる」と感じているケースが多いですが、反対に「自分の音はモコモコしている」「自分の音はつまっている」「自分の音は暗すぎる」と思っているケースもあります。前者は、「ホルンの音色は柔らかくて暖かいはず」というイメージが影響しているのかもしれません。後者は、元々が太く柔らかい音色の持ち主が、他のプレイヤーや楽器との比較で自分の音がおかしいと感じ始めるケースなどがある。

・トロンボーン奏者
トロンボーン奏者に関しては、自分の音色に対する否定の仕方は、「明るすぎる/硬すぎる」「暗すぎる/こもりすぎている」がちょうど半々くらい存在するようです。

・チューバ奏者
チューバ奏者は、音が低く、音の立ち上がりが遅いという元々の楽器の性質上、技術が未熟なうちは確かに「こもっている」「はっきりしない」ような印象があります。しかしそれは技術的な問題であり、奏者が元々持っている音色のせいではありません。にも関わらず、「自分の音はこもりすぎている」というイメージを抱き続けるケースによく接します。反対に、上手に演奏できていて音が明るくハッキリしてくると、それに対して漠然と「おかしい」と感じ始め、「自分の音は明るすぎる/硬すぎる」と感じるケースも見受けられます。

【楽器別の傾向〜木管楽器〜】

わたしが接してきたなかでは、木管楽器に関しては興味深いことに、楽器別の傾向以上に共通項が明確です。

わたしが接してきた、自分の音色のことを否定的に感じている木管の方々に共通した悩みは、

・音抜けが悪い / 音が響かない
・音が硬い
・音域、音量または日により、音色が変わってしまう

この三つが特に多いです。

木管楽器奏者の多くが、「もっと響く音」「もっと柔らかい音」を同時に望んでいます。しかし、「響いている音」は、ひとによっては輝かしく力強くなることがあります。

それは決して「硬い音」ではないのですが、「クラリネットの音は柔らかくなければいけない」という、おそらく中高生のときに抱いたイメージ(古く、洗練されていない)に引っ掛かり、無意識的に逆に響かせないようにしていることがあるのです。

音色でなく、演奏している空間に響いている音を聴きましょう。そうすれば響いている事が分かります。「響いている」という実感があると、音色を自己批判する邪念が出てきません。すると、「あ、柔らかいな」と感じることができるのです。

次に、「音色が統一されない」ということに関して。

名手の演奏を間近で聴くと、実に色々な「雑音」が聴こえます。息の音、リード自体がビリビリなる音、楽器のキーがジーッと共鳴する音。

これは、息をたくさん使って、とても能動的に音を鳴らしており、その結果、音がよく響いているからこそ聴こえるものです。

厄介なのは、この雑音を「自分の音色」と捉えてしまい、それを消そうとしはじめたときです。

まず、客席にこの雑音は聴こえません。

そして名手たちは自分の音の「雑音」を聴いていません。客席を含む自分が演奏している演奏空間において響いている音を聴いているのです。

意識が自分のすぐ近くの「雑音」を「鳴らさない事」に向けば向くほど、音が響かなくなります。

そうすると、どうなるか?

音が響いていないので、音域や音量により、音色が凸凹する感じがするのです。

木管楽器は(実は金管楽器もですが)、名手たちが演奏している際でも、よく聴いていると実は音域や音量でかなり音色が異なります。

なぜ、名手の場合はわたしたちはそれを気にしないのでしょうか?

どの音域でも音量でも、音がよく響いているからだと、わたしは考えます。響いている音は、どんな音色でもわたしたちは「美しい」と感じます。

したがって、音色の凸凹を「平坦にしよう」とする努力もまた、響きをカットする方向になってしまい、それは大変吹きづらくだけでなく、音域や音量ごとの楽器が持っている独自の多様な音色の差ばかりが耳に聴こえてしまうのです。逆効果なのですね。

名手たちの演奏をよく聴けば聴くほど、とくに生の演奏会で聴けば、その音色はちっとも平坦でなく、実に多彩で、響きの質も多様なのが分かります。

これまで「ダメだ」と思っていたことの多くが、「実はそれでよかった」「実はそれこそがよかった」ことです。

そうやって「これでいいんだ!」「こうすればいいんだ!」という「YESプラン」が見つかれば見つかるほど、あなたは自由に、上手に、自分らしく演奏できるようになっていきます。

【音色以外の要素で判断する】

この音色自己嫌悪という罠から抜け出していくためには、「音色以外の要素で総合的に判断する」ということを意識付けていく必要があります。

不思議なことですが、わたしたちはもっとも自分らしく、余分なことをせずに、良い奏法で、よく響いた音で吹いているときほど、言い知れず怖くなったり強い違和感を感じたりします。

「これは音が明るすぎる(or 暗すぎる)んじゃないか….」

「こんな簡単にできるはずがない….」

「(こんなにラクで)なにか間違った吹き方をしているんじゃないか….」

「物足りない、やった実感がない、まぐれにちがいない….」

そういう思考が頭を駆け巡り、心を支配します。

つまり、本当はうまくいっているときほど、「うまくいっている」ということに対して恐怖と違和感を感じるのです。それは、もっとも自分らしい音が鳴らせていて、それが自分の耳に聴こえてくることがきっかけになっているように思われます。

これがいかにもったいないことか、分かるでしょうか?

こんなにもわたしたちは「もっとうまくなりたい」「もっと良い奏法を身につけたい」「もっと良い音で吹きたい」と強烈に願っているのに、それが実現されつつあるときほど、違和感に呑み込まれてそのチャンスを逸してしまうのです。

したがって、聴こえてくる自分の音に対して生じる違和感と、違和感を源泉に涌き上ってくる疑念や否定の声に自分の判断を委ねずにいることが大切になります。

「こんな音色はおかしいんじゃないか?」という気持ちや違和感を感じ始めているのに気付いたら、大チャンスです。次に挙げる指標から、自分のいまの吹き方をより多面的に判断していきましょう。

① 楽器を吹くことに使っている身体的な労力感
→ おそらく、ずいぶんラクになっていませんか?

② 音を鳴らす行為に感じる煩雑さ
→ おそらく、音を鳴らすことがとてもシンプルで単純なことに感じられているのではないでしょうか?

③ 音程
→ おそらく、よくよく考えてみると、出している音が普段よりひとつひとつツボにはまった音程で鳴らせていませんか?

④ 音の反応
→ おそらく、いつもよりとても簡単に音が立ち上がってクリアな反応をしているように感じていませんか?

⑤ 音の響き
→ 音色でなく、そのとき演奏している空間から跳ね返って聴こえてくる音の響きや鳴りを訊いてみて下さい。おそらく、自分が常日頃「これはすごい良い音だ」と感じる、CDで聴くような「らしい音」が聴こえてきていませんか?

⑥ 気分・感情
→ おそらく、楽器を演奏することに対して普段感じている複雑でなかなか「楽しい」とは言いきれない重たい気持ちや感情が、すっきりとシンプルなものに変わっていませんか?

⑦ 直感・内なる声
→ おそらく、自分の中のどこかで(頭の中があーでもないこーでもないという雑音に占められる前は)「これこそ自分本来の吹き方だ!」という気がしていませんか?

そう、「こんな音色ではだめなんじゃないか….」という漠然とした不安や嫌悪感以外は、あらゆる指標が『これは良い吹き方だ!』と教えてくれているのです。

「音色自己嫌悪」は、非常にもったいなく厄介な問題です。

もしあなたが自分を「音色自己嫌悪」している気がすれば、上述した通り、音色自己嫌悪が顔をのぞかせているのが分かったときをチャンスと捉え、「他の指標」から再判断してみてください。

これが、あなたの奏法をあなたらしく、自然でシンプルで無理のない、感情的にもハッピーでいられるものへと戻していく有意義なステップになります。

Basil Kritzer

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音色自己嫌悪の罠」への10件のフィードバック

  1. こんばんは。私は現在アマチュアオーケストラで、Hrを吹いています。
    今回、ブログで書かれている、音色の明暗とは、少し違うのですが、
    Hrの音が、拡散してしまうのを、改善したいと思っています。
    フォルテの時はより顕著になる気がしますが、イメージ的には、何人かのユニゾンで、吹いているように聞こえる感じです。
    演奏録音を聴くと、他のHrの人より、音が大きくきこえている事も多いです。
    音を拡散させない為には、どんな事に気をつけたら、良いのでしょうか?

    お忙しい中恐縮ですが、お時間ができた時にでも、教えて頂けると、幸いです。

  2. いつもお世話になっております

    上記のアマチュアHrさんと似たようなことで伺いたいことがあります

    先日、練習後、最近ATを取り入れて、楽ですごく感覚がよかったので、メンバーに「音色や聴き心地はどうか」訪ねました
    こればかりは今回の記事の通り、自己評価では否定的になってしまいそうだったので…

    で、伺ったところ
    ・直管楽器のようで、ブラスロック向きな音がする
    ・元気でいいが、濃淡が少ない気がする
    ・息が細くて速いのか、少し荒く聴こえることがある
    とのことでした

    響いてたかどうかまでは聞けてませんが、自分では最近みちがえるぐらい音が変わったのではないか、と思っていたのですごくショックで、ここ最近は今回のタイトル“音色自己否定”になりがちです

    今のままの吹き方を続けるべきかどうかわからなくなりました
    また教えてください、よろしくお願いいたします

    • うーむ….

      わたしには、少なくともこうして文字で読んだ時、メンバーの方の言葉から「得るもの」は感じられません(メンバーの方、ごめんなさい!)

      というのも、「あえてあら探しをしている」ように読めるからです。

      アンケートの鉄則がありまして、顧客満足度を上げるためのサービス改善ポイントを探ることが目的なら、「ご意見」を伺うのは良いんですが、それ以外ならば「何が良かったですか?」という設問にした方が遥かに良い、というものです。

      「何が良かったか?」に関する情報を書いてもらった方が

      ・顧客のその時点での満足感は実は上がる
      ・良いサービスとは何かの具体的な実像が見つかりやすい
      ・良いことが書いてあるアンケートを読んだ方が、社員はやる気になり、サービスが向上する

      ということらしいんです。

      その話を思い出しました。

      つまり、「ぼくの音色のどういうところが良いとおもう?」と尋ねるべきだったんじゃないかなあ、と。

      するとたぶん

      ・直管楽器のようで、ブラスロック向きな音がする
      → ホルンのありふれたイメージとちがって、非常に力強い

      ・元気でいいが、濃淡が少ない気がする
      → ずっと一定して張りのある音色がキープできていてすごい

      ・息が細くて速いのか、少し荒く聴こえることがある
      → とてもスピード感があり、豪快でかっこいい

      …..これって、あのシュテファン・ドールの音色と同じに思いませんか?

      メンバーの方はきっと、ドールさんのことならばこう表現したでしょう。

      一方で、ドールさんの音色をズタボロに言う変なおじさんたちも何人か知ってます(苦笑)

      言うだけの方は、気楽なもんです (-_-)

  3. はじめまして!春から大学生になるフルート専攻の者です。
    最近、息の流れが悪いのか、吸えていないのか、息がすぐに足りなくなってしまいます。足りなくなってくると全身に力が入り、残りの息を絞り出しているような感じになります。これまでにも何度かそんな時期はあったのですが…なにが原因なんでしょうか?

    あと、最近自分の演奏に自信がもてず、本番があると緊張しすぎて曲に集中できません。この前の試験では過去最悪の演奏になってしまいました。試験官が私の演奏を聞きながら何を考えているのかとか、すごく考えてしまいます。演奏よかったよ、と誰かに言われても、嘘ばっかり!と思ってしまって、素直に受けとることができなくなってしまいました。集中力がなくなった上にひねくれてしまったのかと自分で自分が情けなくなりました。私の中で何が起こっているのでしょうか。

    • まりなさん

      息がすぐ足りなくなってくる、とのことですが、

      ・吸い方や奏法で最近変えたことや、意識し始めたことはありますか?
      ・いままでより難しい/ハードな曲をやっているということではありませんか?

      後半のご質問に関しては、このブログに直接関係する記事がいくつもありますが、それらは読みましたか?

      • 返信ありがとうございます!

        最近変えたことと言えば…だす息の量を前より少なくしました。吹きすぎてシャーリングが目立っていたのです。曲に関しては、試験のために同じ曲を3ヶ月吹き続けていて、新しい曲というわけではないです。息が足りないのはエチュードもです。

        後半の質問に関しては、先生
        のメンタルガイドブックを読ませていただき、改善できそうです!ありがとうございます!

        • まりなさん

          それでは、いったん、この記事:http://basilkritzer.jp/archives/1470.html を読んで、書いてあることを理解して演奏に活かしてみると、

          ・どう変わるか、あるいは変わらないか
          ・自分のいままでの理解とちがっていることや、疑問

          などをまたお知らせいただいていいですか?

          後半の質問に関してはこの記事もぜひ
          http://basilkritzer.jp/archives/5704.html

  4. はじめまして!来年高校生になるトランペットのものです!
    僕は友人から、音がこもってるや、子供っぽいんと言われますが、本当にむかつくほどボロクソ言われて見返したいぐらいです…
    どのような練習をしたら、オーケストラっぽく、大人っぽい音を出せるでしょうか??

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