【ロングトーンは基礎なのか?】

〜基礎の定義〜

日々レッスンしていて、楽器演奏のテクニック・技能の文脈における「基礎」という言葉の使われ方について、いろいろと考えることが多いです。

管楽器でいえば、「ロングトーン」がなんとなく「基礎の代表格」的なポジションを獲得していますが、果たして「ロングトーン」はどこまで基礎的であり必要不可欠なのか、疑問に思うことがあります。

楽器演奏における「基礎」や「基礎練習」というワードは、同じ言葉でも三つほど異なる意味で、そしてその意味を残念ながらあまり明確に区別せずに使われている傾向が強いように感じています。

ロングトーンを、基礎と位置付けるにあたっては、

①その楽器の演奏を望み通りに行っていくための「技術的基礎」
②音符やリズムといった面での最も単純なものであるという意味での「読譜または音楽的基礎」
③合奏でハーモニーやサウンドを作るための「合奏または音響的基礎」

という意味合いがあるように感じています。

②と③については、個人的には理解・納得出来る度合いが比較的高いです。しかし①については、次のように問う余地があると思います。

✳︎ 全ての楽器について、ロングトーンは同じ重要度なのか?
✳︎ ロングトーンの重要度は、楽器によって、個人の習熟度によって、あるいは個々人の身体的そのほか特性によって変わりはしないか?

たとえばわたしが演奏するホルンで言えば、多くの吹奏楽部で行われているような、かなりゆっくりとしたテンポでの8拍や16拍のロングトーンは、オーケストラ合奏の中では金管楽器ではホルンが最もやる場面が多いとおもいます。それでも、ホルンのレパートリーにおいて、最重要または最も頻繁に行うようなものではありません。

それならば、レパートリーに登場する音域や技術的要素から鑑みるに、ロングトーンは「中心的」なものではないと言うことが、ある程度できると思います。

また、ホルンの演奏技法においては、

・発音
・跳躍
・音域の拡大と移動
・音量変化(のコントロール)

といったことの方が、同じ音を同じ音量で長く伸ばすということより基礎的で、演奏技法的に基本単位を成すのではないかと、奏者および指導者として個人的には感じます。

それでもロングトーンを「基礎」と位置付けるなら、ロングトーンとは異なる技術的要素を行使することが多いレパートリーを演奏する技術を
いかにしてロングトーンから導き出すのか、ということを描き出す必要があるはずです。

さて、そこまで考えて、ロングトーンをやっているのか?ロングトーンの練習から広範な技術的要素を上達させていけている実感を得られているのか?といったことを問い直してみる価値がありそうです。

また、わたしはアメリカのプロの金管楽器奏者たちにインタビューするPodcastを愛聴しておりまして、様々なプレイヤーの練習に関する考え方にそこで接していますが、

そこで登場する「ロングトーン」の話は、

・第一に、オーケストラのレパートリーを吹きこなしていくためのアンブシュアの耐久力の獲得のための練習方法
・第二に、音程や響きをよく聴き、確立していくために便利な練習方法

として登場するような印象を受けています。

これは人により異なります。

第二の方が、より「基礎的」ロングトーンであることがわかりますが、第一の理由でやっている話の方が多く見聞きします。

自分で、「これが基礎だ」と思うことへの取り組みが、調子の安定や技術の進展に寄与しているという実感がありさえすれば、それはそのひとにとって基礎であると言ってよいのではないかと思います。

しかし、そうでないのだとすれば、ロングトーンあるいはその他「基礎である」と強調されたり、場合によっては強要されることであっても、必ずしも重要視しなくてもよいし、もっと言えばそれに取り組まないでもよい可能性が十分あると思います。

特に、何年も楽器を続けてきた方や、上を目指してたくさんの練習時間をこなしている真剣な中高生にとっては、何が自分にとって基礎であるかは、自分自身で考えたり自分自身で納得できたりしている論理に基づいて決定することをぜひ勧めたいです。

経験や思索を深めるにつれて、考えや論理を発展させて、何を基礎と定めるかは変わっていってよいのですから。

Basil Kritzer

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【ロングトーンは基礎なのか?】」への2件のフィードバック

  1. バジル先生こんにちは!いつも大変参考にさせております!

    よろしければ、記事で言及されてる「アメリカのプロの金管楽器奏者たちにインタビューするPodcast」をご紹介いただけないでしょうか?

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