肯定的・具体的に考える

みなさんは、楽器を演奏されているとき、どのような思考をしていますか?
音やイメージの世界に浸っているのでしょうか?それとも、自分の中で会話をしていますか?

そのとき、どんな言葉を使っていますか?

「創り出したい音楽・音」を自分の中で思い浮かべていますか?
それとも、「〜はしないように」「〜にはならないように」というふうに考えていますか?

今回は、楽器演奏において思考が『肯定的』で『具体的』に行われることのパワーと重要性を協調したいと思います。
それを分かりやすくするために、『否定的』な考えとはどんなものか見て行きましょう。

「否定的」に考えるのはどういうことかと言うと、それは「否定形の言葉を使う」「望まない事、起きて欲しくない事を考える」ということです。

ホルンの場合、次のような思考が具体例になります。

「次はFの音をハズさないようにしよう」
「ここは音程がズレてはいけないから気をつけよう
「このフレーズはここでバテがくる
etc….

こういうのを基本にして、何万もバリエーションがあるでしょうね。

しかし、こういう思考方式は、とても効率が悪いです。なぜか。

身体は否定形を具体的に認識しないからです。

つまり、「ハズさないように」と考えた時、思い描き考えている内容は実は「ハズしている事」で、あり身体はそちらに反応しがちです。

でももちろん、「目標にしている音」を演奏するための運動命令も出ていますから、体の中で相反する運動が起きます。相反する運動を同時に行うと、それは身体の過剰な緊張にダイレクトにつながります。

効率が悪いのです。そして、しんどいです。

実験してみましょう。

「ショッキングピンクの大きな象を考えないで下さい

これを読んで、一瞬でも何やらピンク色の象さんが思い浮かばなかった人はいますか?
否定形は具体性を欠きます。具体的な指示がありません。

ピンクの象を思い浮かべないで済む方法があります。

「真っ青の象さんを思い浮かべて下さい」

どうでしたか?
ピンクの象さんは一瞬いなくなったのではないでしょうか?

これが楽器演奏でも全く同じ事なのです。

楽器を演奏する際、「出したい音」「生み出したい音色」「望む音楽」を明確に考えましょう。
それ以外に、その結果を生み出す方法はないのです。

肯定的に明確に具体的に考えると、身体はそれを実現すべく様々な動きを用意し始めます。
生み出された動きが、望む結果に一致したかどうかは、音が聞こえれば即座に分かります。

「分かる努力」も必要ありません。音は放っておいても聞こえますから、意図が明確であれば、それと異なれば自動的に瞬間的に分かります。ですから、結果に失敗があろうが、全く気にしなくても良いのです。

意図と異なる結果は、重要な情報です。その情報は努力せずともすでに脳に届いています。
ですから、次にトライするときは、ふたたび意図を明確にすれば、それだけで良いのです。
先ほどの結果を情報を元に、身体はより意図に沿った動きのパターンを形成してくれます。

「否定形」に問題があるのは、それが望む事と望まない事の両方の動きを体に負担させ、エネルギーを浪費するからです。

否定形は抽象的です。抽象的だと、体は「考えうる様々なケース」に備えて相反する動きも同時に行い始めます。これがエネルギーの浪費と、体の緊張につながり、演奏の邪魔になるのです。

普段どのような指示を自分自身に与えているか、みてみましょう。そして、そこに否定形を発見したら、それを肯定的で具体的な指示に言い換える練習をしてみましょう。

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肯定的・具体的に考える」への7件のフィードバック

  1. はじめまして。
    コルネット吹きの初心者です。

    先日、なかなか上達しないことに落ち込んでいたところ、先生にも、
    「自分でいい音出してるなぁって意識はある?それは音を吹く人にとって大事なことだよ」と言われたことを思い出しました。
    これまで肯定的・具体的に考えることはまったくしていなかったですね。
    むしろ出来ないことをさらに意識して、強化していっていたということなんだろうな・・・。
    今のわたしにとても大事なことですね~・・
    どうもありがとうございます^^

  2. こるねこさん、はじめまして。
    閲覧とコメント、どうも有難うございます。

    ここで書いた事が、何らかの形で役に立ったのであれば、とても嬉しく思います。

    何かができるようになったり上達したりする時というのは、気付かないこともあれば気付く事もありますが、それが起きているときは魔法のような瞬間だと思うんです(大げさですが ^0^;)。

    その魔法は、肯定的にそして具体的に望む音や音楽を考えながら吹いてみる事で自然と起きてくると思います。

    そういう能力をみんな持っていると思います!
    その能力を阻害するのが、否定的な思考による緊張だと思います。

    そして、肯定的・具体的・建設的に考える事というのは、それが目的に至る手段ですから、責任を持ってやるべきことでもあると思います。「頑張る」こととは質的にかなり異なった「努力」ではありますが、自分が自分に責任を持って一貫して意図を持ち続けるという点では努力ではあると言えるかもしれません。

    ただし、世間で言われている「努力」より、もっともっと楽しく発見に満ち、成長を実感できる類の「努力」かもしれませんね!

  3. はじめまして。非常に参考になる話ありがとうございました。
    お話に関連していると思い、アメリカのコロンバス響で吹いてるJulia Roseのアドバイスをご紹介します。http://www.juliashornpage.com/FAQ/tabid/93/Default.aspx
    人前で演奏するときにあがらないようにするには?という質問に対して以下のように答えています。
    What I discovered since then is that when I performed successfully, I focused 100% of my energy on creating music and there was no room in my head for any kind of chatter or stray thoughts (for me, even POSITIVE self-statements were distracting).
    否定的な考えはもとより、肯定的な考えもまた演奏の邪魔になる、音楽だけに集中せよ、ということですね。

    昔、パイパースの記事で、アーノルドジェイコブズが「音楽を演奏するとき、reactではなくactしなさい。私は自分のベルから出てくる音にさえ興味はない。頭に浮かぶ音楽に集中している。楽器を練習するときに、呼吸とかアンブッシャのことを考すぎるのは実はとても危険なことです。」旨のことを言っていたことを思い出します。

    アレキサンダーテクニックの考え方ととても近いと思いますが、いかがでしょう?

    私は大阪豊中に住んでいるアマチュアホルン吹きですが、一度、バジルさんのレッスンを受けてみたいですね。

  4. satoshi さん

    はじめまして。コメントを下さり,ありがとうございます。

    ローズさんの書いている事は、とても興味深く、的を得た示唆に富む内容だと思います。
    まさに、楽器を吹いているとき、音楽を演奏しているときときは、音そのものを考えていて音楽の創造に没頭する必要があるわけです(僕自身は、これを実践するにはまだまだトレーニング中・・・良い緊張感のある本番時に極々たまにできるだけです・・・)。

    ローズさんの書いている通り、注意は完全にその場その瞬間の音楽に向けられており、言葉は前向きなもの(それ自体が邪魔なものとか有害なものという意味ではなく)すら入ってこないのでしょうね。これを最高度に実践するのが大演奏家なのでしょう。

    ジェイコブス氏は、レクチャーCDを高校生のときに買って聴き、僕の探求に重要な方向性を与えてくれました。
    satoshiさんの引用されている部分は、正に人間の思考の根幹であると思います。非常に優れたアレクサンダーテクニーク教師はこの部分の重要性を理解しており、指導の中心としていますが、アレクサンダーテクニークの世界でもしょっちゅう軽視される、あるいは見過ごされがちな領域でもあります。それだけ、アレクサンダーテクニークの方法論が、金管奏者にとってのアンブシュア論と同じように、テクニカルな分離した物として捉えられがちになるからだと思います。これは大いに僕も自戒したい点です。繰り返し繰り返し、これを忘れては改めてこの事実に行き当たる、ということをやって学んでいく気がします。

    アレクサンダー氏は、人間の思考と行動に自然に組み込まれている原理を発見し、体系化しました。ニュートンが重力を発見したように、そこのあるけど誰も気がつかなかった事です。

    しかし、それが人間のはたらきの設計である以上、ジェイコブス氏やその他の深く探求を進めた人たちは、それぞれの角度で同じ事実を感じ取っていたのでしょうね。

    僕は京都でレッスンしています。現在は岩倉や北大路というところで主に行っています。
    四月からは、北白川錦林で防音スタジオを構えますので、どうぞお好きなときにいらしてくださいね。

    スケジュールが合えば、出張レッスンも行っていますので、どうぞお問い合わせください。

  5. お返事ありがとうございます。
    えらそうなことを書きましたが私は下手なアマチュアで、奏法も改善する必要が多々あると思っています。
    私は40半ばで、昨年夏ごろにホルンを再開しました。恥ずかしながら初めて「フィリップファーカスのホルンの演奏技法」の柔軟練習を中心にリハビリに取り組み、はじめは不可能に思えた柔軟練習の楽譜(例の3オクターブにわたる様々なアルペジオです)が楽にできるようになるにつれ、リップトリル(らしきもの)等、昔できなかったことが突然できたりと、レベルは低いのですが、自分なりに上達の手応えを感じています。10年ほど時間が空いたので、自分の演奏の限界に対する思い込み(「こんなの吹けない」とか)を、忘れてしまったのが良かったのかとも思います。「頭に明確にイメージできるものは演奏できる。そのためにはその障害となっている思考、身体の動きを取り除く必要がある」との思いを強くしています。
    今、私が大きな課題と思っているのは早いフレーズでの跳躍(モーツアルトの5重奏曲3楽章、ベートーベンの6重奏曲の2番パートに出てくるようなやつです)と全般的なスタミナですね。いずれにせよ練習が肝心ですが、バジルさん、何か練習のヒントはありませんかね。

  6. satoshi さん

    ホルンに復帰されてから、ご自身の工夫が成果を挙げているのですね。
    何よりです。

    精神的に大人になってから楽器を学ぶ事のメリットは、学習を自らの責任で意識的にできる事ではないでしょうか。変化や向上があったときの喜びはひとしおかもしれません。

    ご質問の件ですが、二つとも僕自身、いつも考え続けている事柄です。

    まずスタミナですが、これには3点あります。
    第一点は筋肉を頻繁に弛緩させることです。何小節か休みがあるときは、身体はよく休ませてあげましょう。アンブシュアの形成に使っていた筋肉の活動をやめて筋肉が弛緩する時間を与えましょう。短い休符の間も。アンブシュアを解いてみてはどうでしょうか。こまめに実践すると、乳酸の溜まり方が緩和されてスタミナが維持しやすくなるかもしれません。
    第二点は、アンブシュアの形成それ自体にいったいどれぐらいの力をどこにどのように使う必要があるのか、探求し観察することです。ゆっくり息を出していって、自然とそれが唇において振動となっていく過程でより繊細で厳密に動きを感じ取れると思います。そのとき、発音にタンギングは用いません。
    第三点は、スタミナある筋肉というのは必ずしも強い筋肉ではないということです。スタミナのある持続的運動に向いた筋肉(筋繊維)お使う度合いが増えていくには、長期間に亘るトレーニング(長時間ではありません!!)を要すると思います。

    つぎに跳躍ですが、
    1:下の音はよく顔の筋肉を緩めること
    2:息を出し続けること
    3:音を考え続ける事
    4:感覚以上に、音の思考に頼る事。音の指令を明確にすること。

    以上四点を意識してみると良いかもしれません。

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