演奏家の実体験から語る、アレクサンダー・テクニークとホルン演奏

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アメリカのホルン奏者、ジェームズ・ボーディン氏が “brassmusician magazine&forum” に寄稿している記事を本人の許可の下、翻訳しここに掲載します。

原文はこちら:
Alexander Technique and Horn Playing

【アレクサンダー・テクニークとホルン演奏】

アレクサンダー・テクニークは、数ある心身統合手法のうちのひとつであり、演奏家にとって大きな恩恵となりうるものである。

わたし自身が個人的アレクサンダー・テクニークのレッスンを経験していることに鑑みて、記事にするに良いテーマだと考えた。

アレクサンダー・テクニークに関する概要を述べるとともに、演奏家としてのわたし自身の経験と関連付けて述べたいと思う。

この写真の本は、マイケル・J・ゲルブによる「ボディラーニング」という本だ。

body-learning

アレクサンダー・テクニークの入門書であり、わたし自身が通っていたアパラチア州立大学のアレクサンダー・テクニークの授業で使われていた本でもある。

この授業は音楽学部の専攻生にとっては必修科目ではなかったが、実際にはあらゆる学部の学生から非常に人気のあるクラスで、わたしはこの授業に通うとともにプライベートレッスンも3年半続けて受けていた。

だからといって、わたしがアレクサンダー・テクニーク(以降、A.T.と略す)の専門家になったというわけではないのだが、その恩恵もしくは限界について話す資格はあるだろう。

アレクサンダー・テクニークとは何か、という定義は多様なものであり得る。しかしわたしは、ウェブサイト「The Complete Guide to the Alexander Technique」で述べられているものが明快でわかりやすと思う。

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「アレクサンダー・テクニークとは、毎日の日常的な身体動作の習慣を変えることを助けるものであり、身体の支え・動き・バランス・協調・ラクさを改善するシンプルで実用的なメソッドである。

A.T.は特定の活動に対して必要となる適切な量の力の使い方を教えてくれ、その結果あなたの活動全般にもっと活力をもたらしてくれる。

A.T.は治療や運動指導ではなく、思考と身体の再教育である。A.T.は、身体の不必要な緊張を解放することで新しいバランスを見つけることを助けるものである。それは座ること、横になること、立つこと、歩くこと、物を持ち上げること、ほかさまざまな活動に応用できるものである」
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この定義を読んで頂ければ、A.T.が身体のバランス・協調・動作の効率性が大切な演奏家にとって役立ちうるものであることが分かるだろう。

A.T.を教える教師のアプローチは教師ごとに異なるため、A.T.を学んだことのある音楽家の体験には多様性がある。ホルンの教師たちがそうであるように、A.T.の教師たちも人により率直なひともいれば遠回しなひともいる。厳しい教師もいれば優しい教師もいる。そしてもちろんその間のあらゆるタイプがいる。

教師によっては、グイグイ引っ張っていくひともいれば、動きに関しては繊細な導きと言葉による促しを優先するひともいる。

アパラチア州立大学でわたしが参加授業では、マスタークラス形式で週1回集まり、教師の指導のもとみんなの前で楽器を演奏したりあるいは他の動作をしたりしていた。

〜望ましくない習慣を止めるには、ただやめるよりは望ましい習慣に置き換えたほうがよっぽど簡単である〜

その授業では、指導教員であるジェーン・コンフォート・ブラウンにプライベートレッスンを申し込んで、授業のない日にもっと細かく特定のことに取り組むこともできた。

3年半の授業とプライベートレッスンで経験した多様な体験にいつも共通していたことは、「望ましくない反応を、より望ましいものに置き換えること」であった。

たとえば、椅子から立ち上がるときに首を縮め、背骨を崩して不必要な緊張を作る傾向があるとする。専門的に訓練された A.T.教師はその癖を見抜いて、「椅子から立とう」としたときのあなたの反応の仕方(訳注:反射的に現れる体の使い方)を訓練し直すことを手伝ってくれる。ただ「よし、椅子から立ち上がるときに首を縮めないようにしよう…」と考えるだけで望ましくない習慣を止めようとするより、望ましい習慣に置き換えたほうがよっぽど簡単であることは、どんな分野の指導者であっても大半の意見が一致するところである。

同様に、もしあなたが上行音型のスラーを吹き始めようとするときに、「首を縮める癖」があるとしたら、A.T.のレッスンではそれをもっと効率的で緊張の少ない反応に置き換えることを助けてくれる。

これはあくまでほんの一例であり、先述の通り、「毎日の活動や動作において体全体の使い方をできるかぎり効率的なものにし、そこからたとえばホルン演奏のようなより複雑な活動に敷衍していく」というゴールを達成するにあたってのアプローチは、A.T.教師ごと非常に異なりうる。

大学の授業のマスタークラス、そしてプライベートレッスンを振り返ると、アレクサンダー・テクニークはわたしの演奏に関しいくつか非常に良い影響を及ぼしたと言える。その多くは、レッスンを受け終えて何年も経ったいまでも繰り返し実感させられる。

ホルンの演奏をするにあたって最低限の労力でアプローチしようとするという概念は非常に重要であり、わたし自身は資格を有するA.T,教師ではないが、このアプローチを教えている全ての生徒に伝えるよう努めている。

わたしが語ることができるのはわたしの経験のみであるが、そのわたしの経験では、A.T.によって突然、奏者として上手になったわけではない。音域が拡大したわけでも、高速テクニックができるようになったわけでもない。しかし、すでにできるようになっていたことをさらに良いものにしていくことを助けてくれた。

いまでも毎日、A.T.を使っている。ホルン演奏においても、日常動作においても。演奏家には非常にお勧めである。

ジェームズ・ボーディン

筆者:ジェームズ・ボーディン
ホルン奏者・指導者。ルイジアナ州立大学モンロー校講師。国際ホルンシンポジウム、ミッドウェスト・バンド&オーケストラクリニックなどでの講演・クリニックを始めとして指導活動を幅広く行っている。シュリーブポート交響楽団団員。
ウェブサイト:
“James Boldin’s Horn World〜THOUGHTS ON TEACHING AND PLAYING THE HORN〜”

訳者:バジル・クリッツァー
香港生まれ京都育ちのアメリカ人。エッセン・ フォルクヴァング芸術大学(ドイツ)ホルン科卒業。 在学 中、極度の腰痛とあがり症に悩み、それを乗り越えるためにアレクサンダー・クテニークを始める。 こ れまで東京藝大、上海オーケストラアカデミー、大阪音大、昭和音大はじめ各地の教育機関で教えてい る。著書多数。 詳細

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