良い指導者の3要素〜ロイド先生との思い出〜

わたしは高校卒業後、5年間に亘りドイツのエッセン・フォルクヴァング芸術大学でホルンを専攻しました。

 

その間の学びについては、これまであまりブログに書くことはありませんでした。

 

大学時代が、環境への適応、言語、腰痛、奏法の混乱、気持ちの落ち込み、あがり症などに彩られていて(苦笑)、全然何かを達成できたように思えなかったからです。

 

ホルンの演奏に関しても、卒業して日本に戻ってきて、アレクサンダー・テクニーク教師になるための勉強を始めたころからの方がどんどん伸びていったので、大学時代は自分のなかでは「無駄」「失敗」とか「迷走」のように感じる面が強かったのです。

 

 

しかし、大学を出て7年経つのですが、いまになってだんだんとホルンの演奏面において実はあの大学時代のなかでこそ身につけた大事なものもあったことがわかってきました。

 

それは紛れもなく、エッセンで5年間師匠であったフランク・ロイド先生に習ったからこそ身についたものです。

 

 

楽器の先生が生徒をうまく育てるには、奏法面で言えば

 

1:奏法に関する深い良質な理解

2:それをうまくコミュニケートする力

3:生徒を励ましたい、伸ばしてあげたい、支えてあげたいという優しさ

 

が必要もしくは有益だと思います。

 

で、いま思うと、個人レッスンでのロイド先生は

 

1が非常に素晴らしく、2と3はイマイチでした(笑)。

 

 

ちなみに、1:奏法に関する深い良質な理解、というものは、その先生本人がどれくらい上手に演奏できるか、とイコールではありません。

 

つまりよく言われる、「名選手、名監督ならず」というのともちょっとちがうのです。1、2、3、が仮に名指導者の3要件だとすると、ロイド先生はそのうちの1つは素晴らしかったのです。

 

だから、当時ドイツでいろんなひとから、「あのひとは演奏はうまいけれど、そういう奏者は教えるのは下手だ」とコソコソ耳打ちされましたが、それもちょっとちがうんですよね。

 

 

わたしの考えでは、1、2、3のいずれもないひとが指導者に向いていないのだと思います。

 

もちろん、1、2、3が揃うのが理想です。でも欠けている面を生徒が自分で補うことができれば、あるいは別の先生から補ってもらえれば、レッスンは建設的になりうまくいくと思います。

 

だから、生徒の状況や性格によって、同じ指導者も名指導者になったり、あまり成果が出なかったりするのでしょうね。

 

 

わたしは一時、別のホルンの先生のレッスンを受けてみました。良い先生だと評判だったからです。

 

この先生は、

1:奏法に関する深い良質な理解

2:それをうまくコミュニケートする力

3:生徒を励ましたい、伸ばしてあげたい、支えてあげたいという優しさ

 

 

のうち、2、3は良かったです。でも1がダメでした。

 

だから、レッスン後はとてもやる気になり、希望を感じるのですが、教わったことを実践していると、すぐに調子が悪くなり、全然ダメでした。

 

教えるのは上手だけれど、教えている中身がダメだったのです。だからこの先生の生徒たちは、先生をかなり慕うけれどさほど伸びないなあ…という印象でした。

 

 

翻ってわが師のロイド先生の場合。

 

2と3がイマイチですから、レッスン後に落ち込むことは多かったし、先生を疑うこと、不信感を持つこともよくありました。

 

でも、1が素晴らしいので、先生から教わったことを自分なりの理解で取り組むと、確かに良い方向に向かうんですよね….

 

でも、2、3に問題があるから、「本当にこれでいいのか?」「このままやっていて大丈夫だろうか?」という不安や疑念に苛まれることしばしばでしたし、ほかの生徒にもそうなってしまうことがありました。

 

 

大学3年目から、アレクサンダー・テクニーク教師でプロのホルン奏者であるひとを二人探し出して、二人ともにレッスンを受けるようになってから、2と3を自分で補うことができるようになりました。

 

それ以降は、ロイド先生とのレッスンで嫌な想いをすることはなくなりました。

 

18歳で渡独したわけですが、2と3の要素に欠ける先生に学ぶにはナイーブすぎたのだと思います。だから人間として少し成長したところから、大丈夫になってきたのです。

 

 

良い指導者としての3要素のうちふたつがイマイチな先生に習っていても、結局最後までやめずにちゃんと師事したのはなぜでしょうか?

 

1:奏法に関する深い良質な理解

 

を先生が持っているといつも実感していたからだと思います。結局、それを求めて留学した面もあるし、またロイド先生はその理解をパーフェクトに実演できる先生でもありました。

 

たくさんたくさん、実演してくれて、また説明してくれました。

 

それが、卒業して7年経ったいまでも、全然消えないのです。むしろ、段々とより腑に落ちることが増えています。

 

心の中に、お手本がいつまでも残っています。そのお手本は、真似できるものでも目指すものでもないかもしれませんが、本当に優れた理想的な奏法なのです。

 

 

また、ロイド先生がいちばん最初に徹底的に教えてくれたことも、とても財産になっています。

 

それは、「響いている音とはどんな音か」、ということ。

 

習い始めて最初の2〜3ヶ月、レッスンでやったことは、音の響きを理解する、自分もそういう音を出せるようにする、ということだけでした。

 

 

こんなことをやってくれました。

 

 

ロイド先生「いまから同じ音を2回吹くから、どっちが響いているか当ててみろ」

 

バジル「(聴く、聴く、聴く….)」

 

ロイド先生「次は3回吹くから、当ててみろ」

 

バジル「(聴く、聴く、聴く….)」

 

ロイド先生「次は4種類の音を吹くから、響いている順に並べ変えてみろ」

 

 

….という感じで、耳をよく鍛えてもらえました。響く音という指針をしっかり作ってもらえました。

 

 

また、世界のいろいろなスタイルや奏法のそれぞれの傾向や強み、問題点なども解説してくれて、またそれが見事に実演できるんですよね。

 

だから、観察眼、分析力は非常に優れた先生だったと、わたし自身が年を重ねるごとに思います。

 

指導者と生徒の関係は、単純なものではありませんね。

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良い指導者の3要素〜ロイド先生との思い出〜」への3件のフィードバック

  1. いつもブログやSNSでお世話になっております。
    トロンボーン吹いてる者です。

    先日の質問をした件ですが、ありがとうございました!
    震えはなくなったように感じます。

    今回は別のことでご相談したいと思い、質問させてください(ペコ)。

    いわゆる「日本人によくある謙遜」についてです。

    私はあと2ヵ月後と3ヵ月後に本番があります。
    練習していて、
    ある日、ある人が
    私のことを両親に「上手い人ですよね。」と言ってくださったらしく、
    そしたら両親が
    「いやぁ~プロに比べたら下手ですよ。」
    と言ったらしく、なぜかその話を私に両親から話されました。
    「こういっといたから~」
    みたいな感じにです・・・。

    実際に、先ほど話した件の前にも
    両親が親戚に
    「練習してるんだけどさ~下手なんだよね~」
    と私の前で言われてさすがに頭にきました 笑。
    その時はケンカしてなんで言ったのか聞いたら、

    ①日本人なんだから謙遜するのが普通
    ②プロになりたいなら下手って言われてもへこたれない様に鍛えさせようと思った
    ③下手なんだよね、って言っといて実は吹ける方がいいでしょ?という考えから

    ②については謝られて「余計なお世話だったんだね…」と言われましたがやっぱりこの事を思い出すと腹が立ちます・・・。

    ①に関しては親友達で謙遜しないと文句言われるんだよ?みたいな事を言われました。ただなぜこんなに腹が立ったのかというと、本番が近くなると更に言うからです…。

    私だって本番が近いから緊張感ある時期だし、親も本番が近いからなおさら心配だから言うんだろうな、とは思いますが、ハッキリ言ってモチベーションが下がるだけです。

    謙遜するのはある意味危険だと私は思います。特に言葉の選び方など。謙遜すればいいって問題じゃないと思うんです。なんて言ったらいいかわかりませんが、、、。

    それと、なぜプロと私を比較?って思います。音大出てない人と音大出た人を比べて下手って言ってこられてもこっちは困ります・・・。私だって音大行きたかったのに…とちょっと悲しくなりました。

    私の事情で一人暮らしをポンっとできる状態ではないため、もう暫く親と一緒に暮らします。なんとかこの親の一言を「ふんっ!練習してやる(>_<)」か、「またその話か 笑。」など、あまり気に留めなくなる方法を教えて欲しいです!!

    今トラウマでステージっぽいところで練習するのも少し辛いです(泣)。

    さすがに師匠に相談できる内容ではなかったので、、、。

    教えて下さい!!(懇願)

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