上海オーケストラアカデミー

 

2015年6月1日〜6月3日、上海オーケストラアカデミーにお招き頂いて講座を行いました。

 

上海オーケストラアカデミーは、中国の教育機関により中国国内でより高いレベルのオーケストラ演奏者を育てることを目的に、上海音楽院、上海交響楽団、ニューヨーク・フィルが連携して2013年に開設されました。

 

ニューヨークフィルハーモニックの団員を中心に、その他アジア各国、オーストラリアなどから講師を招聘して教育を行っています。

 
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現在は、フルタイムでそこで学ぶ学生が10人、パートタイムで学ぶ学生がさらに数十人いるとのこと。

 

わたしは、フルタイム生の10人を対象にした講座を2日間受け持ちました。

 
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わたしは香港生まれ日本育ちのアメリカ人、大学はドイツで学びました。実は、英語で講座を行うことは今回初めて。

 

アメリカ人家庭に育っていますから、英語はとくに会話はできるのですが、学校教育は全部日本の学校で受けているので、「講義」をきちんとできるのだろうかとドキドキしていました。

 

 

しかし、英語で教えるといっても学生はみな中国籍や台湾籍。高度な英語語彙を駆使してもむしろ彼らにとっては難しいだけでよく分からない状況でしたので、現実には平易な英語を使って、わたしの意図が伝わっていることを、その都度確認しながら進めていくことになりました。その時点で英語不安は解消(笑)

 

いつもは日本で日本語話者を相手にわたしもいちばん語彙が豊富な日本語を使って教えていますから、それに比べると今回の上海では、基本的には英語話者ではない学生たちを対象にしていたぶん、ふだんよりさらに基礎を大事にしたシンプルな内容で進めていくことになりました。

 

教える活動を始めて3年経ちますが、その間どんどん教え方はシンプルではあっても応用的になっていたので、あらためてとても基本的な授業をすることになったのは楽しさと新鮮さがありました。

 
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10人の学生たちは、学生とはいっても上海交響楽団の団員としてすでに数年間演奏しているような者が半分ほどいました。

 

オーケストラアカデミーのカリキュラムはなかなか大変なもののようで、しかも演奏の仕事と並行して履修していますから、みな「忙しい!!」と言っていました。

 

 

アカデミーの事務局の方々によれば、開設したときにはこんなにたくさん、現役のオーケストラ奏者や演奏家が応募するとは考えていなかったらしく、当初は音楽院在学者や卒業して間もない者を想定していたとのことです。

 

それが蓋を開けてみると、忙しいのを承知で現役団員が応募しており、嬉しい驚きであったとのことでした。

 
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実は、上海交響楽団にはわたしがドイツに留学していたとき、1年間クラスメイトとして共に学んだシンガポール人の友人であるホルン奏者が最近まで在籍していました。

 

その彼と数年間同僚であったホルン奏者が二人、学生として今回の講座を受講していたので、そういうつながりがあってお互い何となく縁を感じました。

 

 

今回の講座には、バイオリン、ビオラ、コントラバス、フルート、トランペット、ホルン、トロンボーンの奏者たちが参加しました。

 

そのうちの何人かとは、楽器を使って直接、マスタークラス形式でレッスンを行いました。

 

たった2日間、わずか10人のことなので、上海全体や中国全体のことはなにも分かりませんが、今回会った彼らは向上心がはっきりあって、受講態度は日本人とちがってずいぶんルーズ、リラックスしたものでしたが(笑)、自分の悩みや上達に関係しそうな話になったりすると、とたんに食いついてきて質問をくれました。また、教える側と教わる側の関係が、(良し悪し関係なく)日本よりはフラットでした。

 

こういう、いつもとはちがう感覚、刺激があったので、新鮮でした。

 

 

演奏ぶりは、日本より豪快というか、ためらいのない感じがしました。もしかしたらそのぶん、細やかなことはちょっと苦手なのかもしれません。

 

悩みや苦しみ、緊張のパターンは実はほとんど同じなのですが、それでも何か質的なちがいがあったのは興味深かったです。たぶん、それが文化のちがいであり、体の動きの質、演奏の質、課題や障害の深刻度に文化(=慣習的な考え方や人間関係のあり方)がすごく影響するのかもしれないなと感じました。

 

演奏の質は、体格とか能力より文化の方が大きく影響する可能性を感じました。演奏を行うひとの行おうとする演奏、そしてその演奏を実現する身体運動が、身体の構造とか人種のちがいよりかは、その身体運動を行っているそのひとがなにを考えものごとをどう捉えているかからの方により強く影響されているのかもしれませんね。

 

 

今回はなんとなく、シカゴ交響楽団で長くチューバ奏者を務めた故アーノルド・ジェイコブズの名言集・講義録である「ジェイコブズはかく語りき」(パイパーズ出版)を持参していました。

 

1日目の講義を終えたあと、夜にホテルでなんとはなしにそれを読んでいたのですが、ジェイコブズの考え方・提言の重要性・革新性をわたしは当たり前に知っているけれど、もしかしたら彼らはこの考え方に触れたことが無いかもしれないと思い、ジェイコブズ氏の重要な提言のエッセンスをわたしなりにまとめて伝えました。

 

 

【アーノルド・ジェイコブズ氏の重要な提言】

 

うまくいかない考え方:

 

自分が音楽を演奏するために→ 身体に着目して意識しコントロールすることで→ 音を鳴らす

 

正しい考え方:

 

自分が音楽を演奏するために→自分の内に音楽を想い(歌い・創り)→その音のイメージが身体を動かしコントロールし→音が鳴る

 

 

これは言われてみると実にその通りで、実にシンプルで、実に楽しみになってくる考え方です。

 

しかし、わたしたちはどこかで推論を間違えたり、あるいは恐怖や焦りからか、前者の誤った考え方に基づいて努力を重ねてしまいがちです。結果、うまくいかないのです。

 

日本的「非」伝統的根性論も前者を支持することになりやすいでしょう。しかしジェイコブズ氏はアメリカ人。だからアメリカでも同じ誤った考え方をしてしまいやすい。

 

おそらく人間の未熟な浅い観察と考えからはどうしても誤った考え方に帰結しがちなのではないか。そして、同じように、本当に深く考え、じっくり観察し、実験していくと、どこにいる誰でも後者の真理にたどり着くのではないか。

 

そう思って、上海の彼らにジェイコブズ氏の提言を紹介し、解説しました。

 
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結果的には彼らはジェイコブズ氏の提言にとても感銘を受けたようで、とても腑に落ちたようです。ジェイコブズ氏の著書やレクチャーCDを紹介しておきましたので、うまくいけば学校の図書館などに導入されるかもしれません!

 

アレクサンダーテクニークは、ジェイコブズ氏の提言する普遍的な真理が具現化されることを助ける力がとてもたくさんあると思っています。

 

  • 自らに音楽を奏でる欲求があることを見つけること
  • 自らの音楽を奏でる欲求を高めること
  • 自分の内に音楽を想う(歌う・創る)こと
  • その音のイメージが身体を動かしコントロールすること

 

のいずれをもより実現しやすくし、刺激し、促進するものだと思うからです。

 

 

徒然なるままに書きましたが、そんなことを感じたり考えたりした上海行きでした。

 

たぶん、また行くことになりそうです。

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