アマチュア音楽家で、吹奏楽団に所属して演奏されている方から質問をいただきました。
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【質問者】
バジル先生、たくさんのアドバイスとヒントの詰まったブログ、毎回うなずきながら拝見しております。たくさんのコメントを読むにつれ、みなさん色々と悩みながらも音楽に向き合っておられるのだと感じております。
可能ならば先生にひとつアドバイスをいただきたくコメントいたしました。
私は中学時代を吹奏楽部に在籍して過ごしました。休日も無くとても厳しい練習でしたが、コンクールでは(個人的には好きな表現ではありませんが。)強いと言われる有名校でした。高校入学と同時に反動でやめてしまったのですが、四半世紀が過ぎ、趣味として再開しようとやっと思えるようになり、一年前からレッスンに通い始めました。
楽器を持てば吹く機会を探すもので、吹奏楽団に入団したのですが、なかなかレベルが高く(さらには自分のレベルも低く)演奏会の曲を練習していたのですがきちんと吹けることなく(表現とか解釈以前の話で、リップスラーが上手くできない・細かい音符が指がまわらずタンギングとのタイミングが合わない・高音に当てられないなど技術的な問題で譜面通りに吹けない)で本番を迎えました。
きちんと吹けない状態で本番を迎えたことが、お客様への申し訳ない気持ちでいっぱいです。楽団に入ることが自分のモチベーション維持のためにもいいだろうと思っていたのですが、自分の進歩と楽団のレベルの差を感じて苦しくなっています。
一度退団し、レッスンを続けてレベルアップしてから再入団を考えたほうがいいのしょうか?学校の部活とは違うので団とのマッチングは自己判断しなければならないのですが、どのようなことに注意して判断したらよろしいでしょうか?大のおとなが情けないですがどうかアドバイス宜しくお願いいたします。
【バジル】
いちばんのストレスが
A:お客さんに対しての申し訳ないという気持ち
B:レベルの高い仲間に対する引け目のようなもの
C:楽団との趣味的/性格的相性のずれ
のうちどれなのかによって、どうずべきかは変わってくると思います。
退団や移籍がよい選択肢になるのは、「C」の場合のみです。
A:お客さんに対しての申し訳ないという気持ち
演奏者の責任は、自分のおかれた状況の範囲内でベストの練習と準備をし、そして本番ではただ演奏することだけです。
生み出された音や音楽は、これは演奏者のものではなく、聴衆が受けとるものであり、それをどう感じるかはほんとうに聴衆ひとりひとりの内面的自由に属する領域です。
ですから、自分ではダメだったと思っていても、聴衆にはとても喜んでいるひとがいるものですし、逆もまた然りです。
なので、演奏者はステージ上では、自己評価も結果の評価などはせず(これは批評家の仕事です)、演奏をすることのみをやっていればそれで 100点満点 なのです。
むしろ、自分の演奏をステージ上で自分が評価していれば、そちらの方が責任を果たしていないとすら言えます。演奏の仕事中に批評の仕事をやり始めたわけですから。
きちんと吹けないという判断は、聴衆がしているわけではなく、ご自身がされています。
なので、それを相手に対して申し訳ない、と思うのは、実はちょっと間違った思い込みかもしれないのです。
間違った思い込みをベースに、せっかく入った楽団をやめるのは、悲しいことではないかな、と思います。
B:レベルの高い仲間に対する引け目のようなもの
楽団の仲間の方が自分より上手い。
これは素敵なことです。
そういう環境にいる方が、どんどん上手になります。
仲間があなたを受け入れてくれているならば、あなたがあなたを拒否して退団してしまっては、やはり悲しいことです。
辛い自己評価のせいで、そういうことになってしまっては、もったいないと思いますし、長い目で見た成長に関しては逆効果だと思います。
C:楽団との趣味的/性格的相性のずれ
この場合は、退団や移籍はぜひ前向きに検討するとよいと思います。
ご自身が
・もっと楽しめる場所
・もっと気がラクな場所
・もっとうまくなれそうな場所
などを探すわけですから、前向きな選択ですね。
【質問者】
お忙しいなか早速のお返事、大変感謝しております。
Aのお客様、そして演奏に対する考え方は自分の心の中にはないものでした。「完璧」な演奏を目指すあまり「現時点で100%の出来」と割り切り向き合うことができなかったように思います。『将来的にはもっと上手く演奏できるよう練習を続けるけど、今日の時点ではこれが満点!』と思えるよう気持ちを切り替えられたらと思います。
Bについては全くありませんでした。むしろ一番下手なのは自覚の上ですし周りもわかっていることです。恥ずかしいもとも思いません。歳のせいですかね。上手な人の音がたくさん聞けてラッキーだと思っていますし、色々質問もできてありがたいです。こういう環境にいたほうが引っ張り上げられるというか、つられて上達する気がします。入団を決めた理由のひとつはここにあります。ですが、周りのレベルの高さに合わせた選曲ゆえ、自分がついて行けなくなっているという事態を引き起こしているわけですが….。
Cと上記の気持ちとは交錯してしまいますね。今の場所にいれば上達は早いかもしれないけど、しばらくはついていけなくて大変ですから。その反対として「もっと気楽に吹ける場所」に行きたくなることは多々あります。「上手くなりたいなら揉まれなきゃ!」と「趣味なんだから神経すり減らしてまでやるのもなぁ!」の両方です。
長文になってしまいましたが、一番のストレス原因であるお客様への気持ちの持ちようがわかり大変助かりました。本当にありがとうございます。団の継続は二つの気持ちのどちらが大きいのかよく考えて決めたいと思います。ありがとうございました。
【バジル】
役に立てたようで何よりです。
「完璧主義は前進を阻む怠慢である」
という名言があるのですが、それがよく響く話でもあるかもしれませんね。
上手くなることは、努力や集中力はもちろん要りますが、よくない疲労や摩耗は上手くなるプロセスに含まれるものではないと、わたしは思います。
うまくなるプロセスは、楽しくて、気持ちがよくえ、エネルギーがむしろ高まるものですから (^^)
練習のやり方や、発想の中から、「摩耗」を引き起こす要素を少しづつ減らしていけるとよいかもしれないですね。
このやり取り、ブログで紹介してよいでしょうか?
【質問者】
バジル先生。
返信ありがとうございます。楽器を再開し始めた時の「時間があれば吹きたくてしょうがなかった!」という気持ちから、「楽譜通りに吹いて曲を仕上げていかなければならない!」というノルマに追われるような感覚に変わってしまったことも、今となっては冷静に分析できそうです。
やり取り、どうぞ公開していただいて構いません。私同様、ほかの読者の方のお役に立てれば幸いです。この度はどうもありがとうございました。
– – – – 後日- – – – –
【質問者】
過日、この件では迅速なアドバイスありがとうございました。本日、twtterのタイムラインに流れてきたのでその後の近況報告です。
結論から申し上げれば、団を辞めなくて本当によかったと思っています。
この質問の数日後に本番を迎えました。
短期間で技術力が向上するわけでもないので、やはり吹けない箇所もあったのは事実です。ですが、それを受け入れる事で新たな考え方が自分の中に生まれました。それは他の団員にも完璧を求めないというものでした。それまで、自分への完璧主義は他人に対しても同じでした。
社会人バンドなので、音楽に向き合える時間は人それぞれ。全員が、満足いく練習をこなしているとは限りません。今まで自分の下手さが許せないように、他人のミスも気になっていました。でも、よくよく本人と話すと出来る範囲で時間作っているんですよね。電車の中で楽譜に練習番号振ったり、夜中に楽器出して運指だけでも練習したり…。音楽、みんなやりたくてやっていることなんですよね。誰だって上達したいし、ノーミスで演奏したいわけで…。
先の演奏会では自分はもちろん、他の人にもミスはありました。でも、お客様は暖かったです。良かったところを褒めてくれ、拍手もいただけました。自分も終演後清々しい気持ちでした。出来たところを喜び、出来なかったところをこれからの課題に見据え、練習していこうと前向きな気持ちでした。実際、3ヶ月経ってみれば演奏会で出来なかったことも今は出来るようになっているんですよね。
先生のアドバイスのおかげで前向きな気持ちで日々の練習に励んでいます。今では合奏するのが楽しみですらあります。(吹けない箇所があったとしても!)
自分の実力から背伸びすることなくありのままで合奏に挑み、団員とコミュニケーションをとることで、穏やかな気持ちで演奏できるようになってきました。本当にありがとうございました。おかげさまで頑張っております!
【バジル】
団員さん、仲間に向けていた目線と自分が自分に向けていた目線の同質性に気づかれたのですね。
そして、仲間の真の努力や姿勢に気づくことで、心が自由になり、そこに暖かで素敵な音楽(=真実)が残っていた。
素敵ですね。
【質問者】
ミスを気にしない(もちろん認識して今後の練習対象にします。)ように意識していくと、自分に対しての変な緊張(ハラハラ・ビクビク)や他の人に対しての(イライラ)が無くなってきて、いい感じで集中(ワクワク)して合奏に向き合えるようになってきました。
演奏中における自分の気持ちがどちらの状態なのかで、心も身体も疲れ方が全く違います。これが体感できるようになってからは、すこしづつ気持ちをコントロールできるようになってきました。
今後さらに上達できるよう、バジル先生のレッスン受講も視野に入れておりますので宜しくお願い致します。
バジル先生。過日、この件では迅速なアドバイスありがとうございました。本日、twtterのタイムラインに流れてきたのでその後の近況報告です。
結論から申し上げれば、団を辞めなくて本当によかったと思っています。
この質問の数日後に本番を迎えました。短期間で技術力が向上するわけでもないので、やはり吹けない箇所もあったのは事実です。ですが、それを受け入れる事で新たな考え方が自分の中に生まれました。それは他の団員にも完璧を求めないというものでした。それまで、自分への完璧主義は他人に対しても同じでした。
社会人バンドなので、音楽に向き合える時間は人それぞれ。全員が、満足いく練習をこなしているとは限りません。今まで自分の下手さが許せないように、他人のミスも気になっていました。でも、よくよく本人と話すと出来る範囲で時間作っているんですよね。電車の中で楽譜に練習番号振ったり、夜中に楽器出して運指だけでも練習したり…。音楽、みんなやりたくてやっていることなんですよね。誰だって上達したいし、ノーミスで演奏したいわけで…。
先の演奏会では自分はもちろん、他の人にもミスはありました。でも、お客様は暖かったです。良かったところを褒めてくれ、拍手もいただけました。自分も終演後清々しい気持ちでした。出来たところを喜び、出来なかったところをこれからの課題に見据え、練習していこうと前向きな気持ちでした。実際、3ヶ月経ってみれば演奏会で出来なかったことも今は出来るようになっているんですよね。
先生のアドバイスのおかげで前向きな気持ちで日々の練習に励んでいます。今では合奏するのが楽しみですらあります。(吹けない箇所があったとしても!)
自分の実力から背伸びすることなくありのままで合奏に挑み、団員とコミュニケーションをとることで、穏やかな気持ちで演奏できるようになってきました。本当にありがとうございました。おかげさまで頑張っております!長文になってしまい失礼いたしました。
コメントありがとうございます。
団員さん、仲間に向けていた目線と自分が自分に向けていた目線の同質性に気づかれたのですね。
そして、仲間の真の努力や姿勢に気づくことで、心が自由になり、そこに暖かで素敵な音楽(=真実)が残っていた。
素敵ですね。
いただいたこのコメントも追記してよろしいでしょうか?
返信ありがとうございます。先生のおっしゃる通りですね!かなり素敵な表現ですが。(笑)
ミスを気にしない(もちろん認識して今後の練習対象にします。)ように意識していくと、自分に対しての変な緊張(ハラハラ・ビクビク)や他の人に対しての(イライラ)が無くなってきて、いい感じで集中(ワクワク)して合奏に向き合えるようになってきました。
演奏中における自分の気持ちがどちらの状態なのかで、心も身体も疲れ方が全く違います。これが体感できるようになってからは、すこしづつ気持ちをコントロールできるようになってきました。
今後さらに上達できるよう、バジル先生のレッスン受講も視野に入れておりますので宜しくお願い致します。
コメントの追記、公開していただいて大丈夫です。ありがとうございました。
追記をご快諾頂き、ありがとうございます。
このコメントからも、本当に素晴らしい気づきを得られ、良い変化を重ねておられるのがよく伝わってきます。
素敵ですね!